京橋のフィルムセンターでは、1月6日から約1ヵ月かけて、1949年~1960年に製作された「新東宝映画」作品をニュー・プリントで特集上映しています。
それらの作品は、今回新たに収集され、いままで見ることのできなかったもので、新しくライブラリーに加えられる作品だそうです。
そうそう、特集のメイン・タイトルには「映画保存のための特別事業費によるよみがえる日本映画」とあるとおり、ナニシロ国家予算がらみの重々しい公的プロジェクトと銘打つ真摯な企画で、思わず膝を正したくなるような仰々しい取り組みですが、しかし、上映作品されるという当の作品が新東宝作品というところが、ちょっと笑っちゃうじゃないですか(当然笑ったりしてはいけませんが)。
いえいえ、なにもメジャー作品が良くて、新東宝作品などマイナー作品が悪いなんていっているわけではありません。
むしろ自分は、新東宝作品大好き人間で、しばしばチャンネルnecoなどで珍しい作品が放映されていれば、積極的に録画して見るようにしているくらいですが、もっとも、同じ時間帯で他社の未見作品などが放映されていたりすると、あっさりと宗旨替えしてしまう程度の信用のおけない大いに薄いファンではありますが。
まあとにかく、見てみなければ分からないというタテマエと、一方経験則から、だいたいは「期待」が裏切られ肩透かしを食わされるに違いないことを前提にそれなりに身構えたうえで、一作ずつ慎重に見ていきたいと考えています。
しかし、そうはいうものの、新東宝映画をこだわって見てきたおかげで分かったこともありました。
「映画とは、こういうものでなければならない」という頑なな思い込みというか、狭い固定観念(芸術的でなければならないとか、勧善懲悪でなければならないとか、深刻的でなければならないとか、道徳的でなければならないとか)から解放され、自由な立場で映画をもっと気楽に見てもいいのだ、というか、「もっと芸術的な作品を見たい」という欲求と、「もっと淫乱な映画を見たい」という欲求は、それほど隔たったものでないことが分かりました。
いまでは、それが映画を見る上でのぼくの指針です。
要は、見るこちら側の問題に過ぎないのであって、映画は、芸術的であろうと、淫乱であろうと、それらはそのままで全然構わない、その総体こそが映画という生きものであることに気づかせてくれたような気がします。
今回の上映作品は、以下のとおりですが、このなかでは、島崎雪子のデビュー作であり、また、「島崎雪子失踪事件」で話題になった千葉泰樹監督の「夜の緋牡丹」が入っていて、ぜひ見たいと思っている作品です。
ちなみに、フィルムセンターのこの「新東宝」カタログの第一面の表紙は、「夜の緋牡丹」のスチール写真が使用されており、それは、島崎雪子が真っ白い太ももをあらわに天井から逆さにブラ下がって(それだけでもズイブン変態的で異様です、とっさに衝撃的な体位なのかという妄想にとらわれました)、いままさに伊豆肇と接吻しようという扇情的・官能的な場面です。
島崎雪子のプロフィールには、「島崎雪子失踪事件」前後の事情についてこんなふうに紹介されています。
《25年、新東宝製作【山のかなたに】のフレッシュガール募集に応募し、トップで合格。【青い山脈】の原節子の役名を芸名とし、オキャンな女子軍団の1人に扮し十数名のグループの中の1人だったが存在感を示した。
藤本プロダクション専属となり、続いて【夜の緋牡丹】に出演が決まった。
当初、主役の「芸者・たい子」に抜擢されたが、突然、轟夕起子に変更になるとの報道が流れ、その後スタッフ・会社間のゴタゴタなども起こり、一連の騒動に島崎雪子は精神的なショックを受けて失踪した。
これが有名な『島崎雪子失踪事件』だが、事件は新聞の三面記事で大きく扱われ一時騒然となったものの、結局のところ藤本プロデューサーが仕組んだ新人売出作戦だったともいわれ、ほかにも共演者の伊豆肇が島崎雪子に恋をしたなどというゴシップもアエテ流したらしい。
当の島崎雪子は、騒動中、撮影所近くのアパートに潜んでいたという。
ていよく利用されたカタチとなった轟夕起子は大いに激怒したが、島崎雪子の謝罪で納まったらしい。
結局、無事「たい子役」を得た島崎雪子は、伊豆肇を相手に大いに官能的演技を披露した。》
当時ポスターに使われた宣伝惹句は、
・泥まみれの愛! ぎりぎりの欲! 屋根裏に燃えあがる熱っぽい女の体質
・男を殺す眼! 狂わせる肢体! ぎりぎりの愛欲が火と燃える!
・娼婦の肉体と少女の感情を持つダンス芸者・瞬間の刺戟を求めて男を漁る奔放女性
・泥まみれの恋情が火と燃える!!
・晩秋のエクランを飾る芸術巨篇! 日本版「情婦マノン」!!
・赤裸々になげだされた女の体臭と真実! 胸打つ情炎の大メロドラマ!
という「これ以上もうない」というくらい相当なものでした。
(1950銀座ぷろだくしょん・新東宝)監督・千葉泰樹、製作原作脚本・八田尚之、撮影・鈴木博、美術・下河原友雄、音楽・早坂文雄、制作補・島村達芳
出演・伊豆肇、島崎雪子、千明みゆき、田崎潤、月丘夢路、龍崎一郎、山本禮三郎、北澤彪、勝見庸太郎、高堂國典、澤蘭子、志村喬、小島洋々、菊地双三郎、山室耕、伊藤雄之助、冬木京太、
1950.12.08 11巻35mm 2,890m 105分 白黒
★フィルムセンター 新東宝作品上映作品
1 【流星】(1949新東宝)(監督脚本)阿部豊(原作)富田常雄(脚本)館岡謙之助(撮影)山中進(美術)進藤誠吾(音楽)服部良一(出演)山口淑子、大日方傳、山村聰、若原雅夫、野上千鶴子、千明みゆき、伊澤一郎、中村彰、鳥羽陽之助(82分・35mm・白黒)
2 【湯の町悲歌(エレジー)】(1949新東宝)(監督)野村浩將(脚本)佃血秋(撮影)横山実(美術)梶由造(音楽)古賀政男(出演)山根壽子、近江俊郎、清川荘司、田中春男、宮川玲子、千石規子(60分・35mm・白黒)
3 【恐怖のカービン銃】(1954新東宝)(監督)田口哲(監督脚本)浅野辰雄(撮影)井上莞(美術)吉山雅治(音楽)伊藤宣二(出演)天知茂、三原葉子、村山京司、加藤章、三砂亘、児玉一郎、上野綾子、有馬新二、倉橋広明、川部守一、近藤宏(45分・35mm・白黒)
4 【帰國 ダモイ】(1949新東宝)(監督)佐藤武(監修)渡邊邦男(脚本)岸松雄(撮影)山崎一雄(美術)伊藤寿一(音楽)飯田信夫(出演)井上正夫、野上千鶴子、和田信賢、堀雄二、大日方傳、莊司肇、山室耕、田中春男、山口淑子、堀越節子、泉麗子、池部良、藤田進(90分・35mm・白黒)(90分・35mm・白黒)
5 【憧れのハワイ航路】(1950新東宝)(監督)斎藤寅次郎(原作)サトウ・ハチロー(脚本)八住利雄(撮影)友成達雄(美術)加藤雅俊(音楽)上原げんと(出演)岡晴夫、美空ひばり、花菱アチャコ、キドシン、古川緑波、柴田早苗、吉川満子、清川玉枝 (78分・35mm・白黒)
6 【夜の緋牡丹】(1950銀座ぷろだくしょん)(監督)千葉泰樹(原作脚本)八田尚之(撮影)鈴木博(美術)下河原友雄(音楽)早坂文雄(出演)伊豆肇、島崎雪子、田崎潤、月丘夢路、龍崎一郎、山本禮三郎、北澤彪、勝見庸太郎、高堂國典(105分・35mm・白黒)
7 【桃の花の咲く下で】(1951新東宝)(監督脚本)清水宏(脚本)岸松雄(撮影)鈴木博(美術)鳥井塚誠一(音楽)服部良一(出演)笠置シヅ子、日守新一、柳家金語樓、花井蘭子、中川滋、大山健二、北澤彪、鳥羽陽之助、清川玉枝、伊達里子、堀越節子、江戸川蘭子、花岡菊子(73分・35mm・白黒)
8 【惜春】(1952新東宝)(監督脚本)木村惠吾(撮影)小原讓治(美術)下河原友雄(音楽)飯田三郎(出演)上原謙、山根壽子、笠置シヅ子、齊藤達雄、清水将夫、田中春男、伊藤雄之助、東野英治郎(97分・35mm・白黒)
9 【ハワイの夜】(1953新東宝・新生プロ)(監督)マキノ雅弘、松林宗惠(原作)今日出海(脚本)松浦健郎(撮影)三村明(美術)進藤誠吾(音楽)渡辺弘(出演)鶴田浩二、岸惠子、水の江滝子、御園裕子、水島道太郎、三橋達也、小杉勇、江川宇礼雄、横山運平、田中春男、滝花久子(84分・35mm・白黒)
10 【アジャパー天國】(1953新東宝)(監督)齋藤寅次郎(原作)サトウ・ハチロー(脚本)八住利雄(撮影)友成達雄(美術)加藤雅俊(音楽)服部正(出演)花菱アチャコ、伴淳三郎、古川緑波、田端義夫、堺駿二、清川虹子、南壽美子、高島忠夫、田中春男、星美智子、キドシン、トニー・谷、泉友子、柳家金語楼(84分・35mm・白黒)
11 【もぐら横丁】(1953新東宝)(監督脚本)清水宏(原作)尾崎一雄(脚本)吉村公三郎(撮影)鈴木博(美術)鳥井塚誠一(音楽)大森盛太郎(出演)佐野周二、島崎雪子、日守新一、宇野重吉、若山セツ子、森繁久彌、和田孝、片桐余四郎、千秋實、磯野秋雄、杉寛、田中春男、堀越節子、天知茂、尾崎士郎、壇一雄、丹羽文雄(93分・35mm・白黒)
12 【戰艦大和】(1953新東宝)(監督)阿部豊(原作)吉田満(脚本)八住利雄(撮影)横山実(美術)進藤誠吾(音楽)芥川也寸志(出演)藤田進、舟橋元、高田稔、佐々木孝丸、小川虎之助、見明凡太朗、伊沢一郎、片山明彦、高島忠夫、三津田健、中村伸郎、宮口精二、竜岡晋(101分・35mm・白黒)
13 【日本敗れず】(1954新東宝)(監督)阿部豊(脚本)館岡謙之助(撮影)横山実(美術)進藤誠吾(音楽)鈴木靜一(出演)早川雪洲、藤田進、山村聰、柳永二郎、齋藤達雄、小川虎之助、髙田稔、小笠原弘、舟橋元、沼田曜一、細川俊夫、丹波哲郎、宇津井健、北沢彪、安部徹、佐々木孝丸(102分・35mm・白黒)
14 【忍術児雷也】(1955新東宝)(監督)萩原遼、加藤泰(脚本)賀集院太郎(撮影)平野好美(美術)鈴木孝俊(音楽)高橋半(出演)大谷友右衞門、若山富三郎、田崎潤、瑳峨三智子、新倉美子、利根はる惠、大河内傳次郎(80分・35mm・白黒)
15 【逆襲大蛇丸】(1955新東宝)(監督)加藤泰(脚本)賀集院太郎(撮影)平野好美(美術)鈴木孝俊(音楽)高橋半(出演)大谷友右衛門、若山富三郎、田崎潤、瑳峨三智子、新倉美子、利根はる恵、大河内傳次郎(70分・35mm・白黒)
16 【番場の忠太郎】(1955新東宝)(監督)中川信夫(原作)長谷川伸(脚本)三村伸太郎(撮影)岡戸嘉外(美術)伊藤壽一(音楽)淸瀨保二(出演)山田五十鈴、若山富三郎、桂木洋子、森繁久彌、鳥羽陽之助、阿部九州男、伊澤一郎、三井弘次、滝花久子、光岡早苗、花岡菊子、坪井哲、冬木京三(86分・35mm・白黒)
17 【母の曲】(1955新東宝)(監督)小石榮一(原作)吉屋信子(脚本)笠原良三(撮影)岡戸嘉外(美術)朝生治男(音楽)飯田三郎(出演)三益愛子、安西郷子、宇津井健、田中春男、增田順二、淸川玉枝、花岡菊子、坪井哲、上原謙、木暮実千代(98分・35mm・白黒)
18 【アツカマ氏とオヤカマ氏】(1955新東宝)(監督)千葉泰樹(原作)岡部冬彦(脚本)笠原良三(撮影)西垣六郎(美術)朝生治男(音楽)三木鶏郎(出演)小林桂樹、上原謙、久保菜穂子、三原葉子、遠山幸子、花井蘭子、細川俊夫、井上大助、上田みゆき、相馬千恵子、森繁久彌、三遊亭金馬、美舟洋子、沢村昌之助、関三十郎(85分・35mm・白黒)
19 【風流交番日記】(1955新東宝)(監督)松林宗惠(原作)中村貘(脚本)須崎勝彌(撮影)西垣六郎(美術)黑澤治安(音楽)宅孝二(出演)小林桂樹、宇津井健、加東大介、多々良純、丹波哲郎、高田稔、志村喬、安西郷子、阿部寿美子、野上千鶴子、花岡菊子、千明みゆき、英百合子、御木本伸介、天知茂(91分・35mm・白黒)
20 【リングの王者 栄光の世界】(1957新東宝)(監督)石井輝男(脚本)内田弘三(撮影)鈴木博(美術)小汲明(音楽)齊藤一郎(出演)宇津井健、池内淳子、中山昭二、細川俊夫、鮎川浩、小髙まさる、若杉嘉津子、伊沢一郎、林國治、米山廣人、旗照夫、天知茂(75分・35mm・白黒)
21 【女の防波堤】(1958新東宝)(監督)小森白(原作)田中貴美子(脚本)小山一夫、村山俊郎(撮影)岡戸嘉外(美術)鳥居塚誠一(音楽)古賀政男(出演)小畑絹子、荒川さつき、筑紫あけみ、細川俊夫、三原葉子、城実穂、万里昌代、鮎川浩(87分・35mm・白黒)
22 【黒線地帯】(1960新東宝)(監督脚本)石井輝男(脚本)宮川一郎(撮影)吉田重業(美術)宮沢計次(音楽)渡辺宙明(出演)天知茂、三ツ矢歌子、三原葉子、細川俊夫、瀬戸麗子、矢代京子、魚住純子、鮎川浩、宗方祐二、大友純(80分・35mm・白黒)