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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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殺人容疑者

もうずっと以前の話になりますが、宇野重吉が主演していた「蜘蛛の街」という作品をたまたま見て、その畳み掛けるような話運びの巧みさに驚かされて、その監督が鈴木英夫という名前であることを始めて知りました。

多分、最後まで途切れることなく、その作品をつらぬいている張り詰めた緊迫感や、畳み掛けるようなダイナミックな演出が、大げさではなく、まるでヒッチコックの巧緻とナンラ引けを取るものではないという衝撃を受けたからだと思います。

ただ、そのときの不意打ちを食らった鮮烈な印象は、予備知識のない自分にとって、どこにも繋がりようのない孤立した感動として自己完結させざるを得ず、行き場のないモヤモヤだけが残ったかんじがしていました。

しかし、それからかなり経ったあるとき、不意に友人から聞いた話を思い出したのです。

以前、映画通の友人が熱く語っていたことがある伝説の「三部作」(殺人容疑者、死の追跡、彼奴を逃がすな)というのを撮った監督と、この「蜘蛛の街」の監督こそ同一人物だったのだと。

それは「蜘蛛の街」を見てからでも相当の日数が経っていたのですから、暢気といえば随分暢気な話だったと思います。

そして、ここにきて、ようやく念願の「殺人容疑者」を見ることができました、聞きしに勝る秀作でした、心の底から堪能しました。

出演者全員が、飢えた狼のような怒りと殺意とを全身からギラギラと漲らせています、欲望に駆られ、この熾烈な現実を生きるためになら何をやってもいいのだと憑かれたように殺人を重ねる犯罪者と、そして、その殺人犯を執念で追う捜査官たち(彼らとて「憑かれていた」のだと思います)の誰もが、切羽詰った戦後の極限を生きる切実な表情と存在感を煌かせていました(本当は、黒光りさせていました、と書きたいところですが)。

場面には、遠くの街路を進駐軍の兵隊が何気なく歩いている姿が普通に写り込んでいるあたりも、世情がいまだ定まっていない緊迫感をリアルに醸し出している感じがしました。

たぶん、この作品を見た多くの観客は、このギラギラ感から、黒澤明の「野良犬」やジュールス・ダッシンの「裸の町」を連想したかもしれません(あるいは、その影響下から作られたのかも)。

僕としても、そう思うことを無碍には否定しようとは思いませんが、ただ、この作品が「野良犬」と決定的に異なるところがひとつだけある、そこのところを指摘しておかないと、自分としてはその意見にモロテをあげて同調するわけにはいかないという感じです。

作品全体として黒澤明の「野良犬」は、犯人の帰還兵の青年に対して、あるいは、さらに言えば祖国日本から使い捨てにされ何もかもを失った彼の「絶望と憤り」に対して、黒澤は犯罪を弾劾する姿勢の奥に、その青年を必ずしも全否定しない切実な共感を微かに残しているように思われました。

この「野良犬」も、黒澤作品の特徴である、虫けらのようなどんなに卑小な人間でも、存在の意味と生きる真実を持っているのだ、というメッセージが込められていたのだと思います。

当時にあっては、犯人のこの人間的な掘り下げは、確かにドラマに厚みと奥行きを持たせることができた革命的な営為だったと思います。

ただ、この考えが一般化してしまい、力量のない演出者たちの乱用がはじまると、「盗人にも三分の理」みたいなヘンな話になってしまうように思えてなりません。

例えば、コンニチのテレビのサスペンス・ドラマによくある設定で、崖の端まで追い詰められた犯人が、なぜ自分がこのような犯罪を犯さなければなかったのかを、(むかしの怨念とかをムシカエシテ)言い訳のように切々と語る場面など、僕には「野良犬」から発せられたものの歪曲解釈というか、あまりに酷い拡大解釈のようにしか感じられません。

物語の最後に、自分の犯罪行為の言い訳をして自己正当化をはかる犯罪者を描くことで、犯人像を安直に人間探求してしまうことによって、最近のドラマからナニカ重要な部分が失われてしまったような気がします。(手をつないで全員が同着になるように歪められた虚偽の運動会みたいなものかもしれません)

それに引き換え「殺人容疑者」に登場する犯人は、完膚なきまでに小気味いいほど徹頭徹尾悪いヤツに描かれています。

手下が警察に目を付けられたことを知ったボスは、その手下から足のつくのを恐れ、連れ去った車の中でナイフで刺したあとに至近距離から拳銃で撃ち殺すという念の入れ方で始末します。

ボスを鬼気迫る演技で好演しているのは、若き日の丹波哲郎でした。

しかし、出演者の名前には、「丹波正三郎」と記されています。

念のために、JMDBで丹波哲郎の出演作を検索してみました。

ところが、丹波哲郎の出演作の中に「殺人容疑者」のタイトルがありません。

欠落している、大発見だ、と喜んだまではいいのですが、考えてみれば、名前が違うのだから、記されていないのは当たり前か、とすぐに思い直しました。

なんかすっかり気疲れてしまったので、改めて「丹波正三郎」で検索する意欲を失いました。

(1952電通DFプロ・新東宝)製作・大條敬三、監督・鈴木英夫、船橋比呂志(蜷川親博)、脚本・船橋比呂志、構成・長谷川公之、原作・高橋秀夫、撮影・植松永吉、山田申策、照明・廣田三郎、録音・田中啓次、音楽・齊藤一郎、協力・警視庁、科捜研
出演・石島房太郎、大町文夫、三田国夫、恩田清二郎、丹波正三郎、土屋嘉男、纓片龍雄、小林昭二、高野二郎、田中一彦、沢晃二、橋爪輝雄、中原成男、今村源平、高本勝彦、池田秀男、谷三吉、霞涼二、高橋理、ジプシー・ローズ、野村昭子、水内立子、鈴木キワ子、中村洋子
Commented by levitraagepailerry at 2013-03-19 02:08 x
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Commented by Camila at 2014-07-07 07:03 x
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by sentence2307 | 2009-02-15 18:54 | 映画 | Comments(2)