リチャード・ハリス
2004年 11月 20日
不服従の怒れる青春を鮮烈に描き、英国ニューシネマの頂点を示したといわれる「長距離ランナーの孤独」に続く翌年、そもそものこの思潮の中心的存在だったリンゼイ・アンダーソンが、新人リチャード・ハリスとレイチェル・ロバーツをむかえて撮った「孤独の報酬」は、英国の閉ざされた社会のなかで、出口のない無意味な人生に深い挫折感を抱え込みながら、ただ押し潰されていく青春像を、突き放したような絶望感と共に力強く描いた作品でした。
亭主に自殺されたことで深く傷ついた未亡人マーガレットと、彼女を心から愛する粗暴な男・元炭鉱夫のプロ・ラグビー選手メーチンとの、決して通い合うことのない無残な愛の葛藤と破綻を描いた物語です。
メーチンは、彼女の気を惹くために、金に飽かせて、ありとあらゆる贈り物をしますが、しかし、深く傷ついている自分の気持ちを一向に分かろうとしないメーチンに、マーガレットは、終始冷たく接します。
こんなに愛しているのに、なぜ自分が愛されないのか、理解できないメーチンに苛立ったマーガレットは、彼の無教養な下品さと粗暴さを非難します。
心から愛しながら、その思いが相手にそのまま伝わらないことの破局が象徴するものとは、イギリス社会の硬直した階級性の残滓にいまだこだわり、囚われ続ける人々の屈折した心情の在り様なのかもしれません。「怒りをこめて振り返れ」を思い出します。
この作品は、カンヌ映画祭で国際映画批評家協会賞を受賞するとともに、リチャード・ハリスは、同映画祭の主演男優賞を受賞しました。
そしてまた、アカデミー主演男優賞にもノミネートされ、その名を一躍世界にとどろかせてハリウッド進出のチャンスをdQみました。
しかし、それ以後、残念ながら、彼の魅力を十分に発揮できる映画にめぐり合えなかったこともまた僕たちは知っています。
「孤独の報酬」のなかで、渇え、満たされないものを必死に求め、もがけばもがく程、窮地に追い込まれていくあの主人公メーチンのように、彼もまたハリウッドのなかで自分の居場所を見出せないままに苛立ち、やがてアルコールとコカインの中毒で一時俳優活動を休止する程の失意の日々を送り、1990年 The Field の演技が評価されて、カンバックしたときは、もう既に60歳でした。
リチャード・ハリスの訃報が報ぜられた日の各紙は、一様に「ハリー・ポッター」のダンブルドア校長役の俳優が、入院先のロンドンの大学病院でホジキン病のために72歳の生涯を閉じたと書いていました。
ハリー・ポッターを元気づけるために、眼鏡越しにちょっと目配せしたり、ひょうきんな身振りで微笑んだりの茶目っ気たっぷりの演技が子供たちに大変人気があったことなどを挙げながら彼の死を悼んでいましたが、しかし、そのお座成りな論調は、来年3月から撮影が始まる「アズカバンの囚人」での校長役はいったいどうなるんだという興味の方に重きをおいて書かれた印象が勝ったものでした。
「炎のゴブレット」の発売と重なったこともあって、それも致し方ないことだったかもしれません。