人気ブログランキング | 話題のタグを見る

世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

チョコレートと兵隊

この作品は「銃後の守り」を宣伝する時局映画として作られた1938年東宝作品で、長らくアメリカに没収されていた作品として知られているものだそうです。

物語は、ある日召集令状が届いて、大陸の戦線に送られた釣り好きの印刷工・藤原釜足は、戦地にいても子供が集めていたチョコレートの包み紙を送り続けていますが、あるとき、戦地からのチョコレートの包み紙が届くと同時に、父の戦死の報ももたらされるというもので、多分、日本人研究用の教材として使われていたらしということなのですが、最近発見されて国立近代美術館フィルムセンターの収蔵フィルムの一本として加わった幻の国策映画だそうです。

この作品を観たフランク・キャプラが、

「このような映画に我々は勝てない。こんな映画は10年に1本作れるか作れないかであろう。大体役者がいない」

という意味不明のコメントが残されているそうです。

「戦意高揚映画」として優れているという意味なのか、それとも、戦意を高揚させる意図がまったく感じさせないあたりを皮肉っているのか、市井に生きる小市民の生活を淡々としたタッチで描いた佳作といえるかもしれないけれども、果たしてこの作品が子供向けに作られたのか大人向けの作品なのか、一体誰が主人公なのか、チョコレートの贈り物が届いた時点で終わりにすべき不思議な作品だという、そういう意味で述べたのか、いろいろな解釈があるそうです。

この作品で高峰秀子は印刷所の娘・田辺茂子の役を演じました。


【参考】  日中戦争(満州事変、日華事変)における著名な軍国美談
爆弾三勇士
1932年(昭和7年)の第一次上海事変において、敵の鉄条網を破壊するため3名の工兵が爆弾を持って突入して爆死したとの報道がされ、「爆弾三勇士」「肉弾三勇士」と呼ばれて熱狂的な反響を呼んだ。
遺族への多くの恤兵金が集まり、天皇からの祭粢料も賜われた。
報道から1か月ほどの間に8本の映画が作られ、明治座で舞台劇『上海の殊勲者三勇士』が演じられ、大阪毎日新聞と東京日日新聞の歌の募集では与謝野寛が1位となる。
3名の故郷の久留米と東京などで銅像も建立される。
子供の玩具や菓子の中にも、動く爆弾三勇士といったものや、爆弾キャラメル、爆弾チョコレートなどが売られ、銅像の模型が『少年倶楽部』の付録になった。
また三勇士の母達の逸話も伝えられ、賛美された。
銅像建立の際の募金には小学生10万人のものも含まれていた。
教科書には1941年の改訂で国語で採用され、唱歌教材にも「三勇士」が使われる。

空閑昇
空閑少佐は上海事変において悲壮な戦死を遂げたと報じられたが、実際には重傷を負って捕虜とされており、捕虜交換で日本側に引き渡された二日後にピストル自殺を遂げた。
このいきさつが「上海事変最大の悲劇」などと報じられ、これを題材とした映画が1932年に5本も上映された。

チョコレートと兵隊
前線にいた兵士が、慰問袋に入っていたチョコレートの包み紙を溜めて(100枚集めると板チョコ1枚と交換できた)、自宅の子供達に送ったが、その後いくばくもなく戦死した。
これが1938年(昭和13年)に新聞に掲載され、映画『チョコレートと兵隊』などが作られた。

杉本五郎
歩兵大隊長だった杉本中佐は1937年に、敵陣攻撃において戦死した。
この時は大きく取り上げられることは無かったが、死の直前まで書きつづっていた手記が翌年『大義』という題で出版されると、皇国への忠義を説く内容により、終戦までに100万部という大ベストセラーとなった。
杉本は軍神と呼ばれるようになり、山岡荘八『軍神杉本中佐』(1942年)を初め多くの伝記が出版された。

軍犬利根
満州事変における軍犬金剛・那智の2匹の活躍と死を描いた教材「犬の手柄」が1933年の国語教材、軍犬利根を育てた少女と利根の活躍を描いた「軍犬利根」が1941年の国語教材に使われた。

サヨンの鐘
1938年に台湾で日本人巡査が出征する際に、台風の中その荷物を運んだ原住民タイヤル族の少女サヨン・ハヨンが川に転落して死亡した。
1940年に台湾総督に赴任した長谷川清海軍大将がこの話を聞き、「愛国乙女サヨンの鐘」をサヨンの村に贈った。
これが全国的に報じられ、現地では高砂義勇隊募集の宣伝に利用された。
1941年には渡辺はま子の歌う「サヨンの鐘」が作られ、1943年には李香蘭主演で映画化された。

その他に日華事変で軍神あるいは模範的な軍人として扱われたものとして、戦闘機で戦死した南郷茂章少佐、「申し分ない典型的武人」として陸軍情報部によって顕彰された西住小次郎戦車長などがおり、秦賢助『軍神伝』(1942年)にまとめられている。
これらも伝記や映画で数多く取り上げられ、軍の依頼によって書かれた菊池寛『西住戦車長伝』(1939年)もある。

婦人雑誌では日中戦争開始以降、子供を戦死させた母親を讃える記事や、「軍国の母手紙集」などが掲載され、子供を戦地に送り出す母を歌った『軍国の母』(1937年)や、息子を戦死させた母が靖国神社を訪ねる『九段の母』(1939年)などがヒットした。

また従軍看護婦の記録である大嶽康子『病院船』(1939年)は文部省主推薦図書となり映画化もされ、宮川マサ子『大地に祈る』(1940年)には菊池寛が「聖戦に参加した女性の心の最もすぐれた記録」という推薦の言葉をよせている。

『主婦之友』では1938年に「婦人愛国の歌」「少年少女愛国の歌」作詞公募、『キング』では1939年に「出征兵士を送る歌」作詞公募なども行われる。


(38東宝東京) (監督)佐藤武(原作)小林勝(脚本)石川秋子(撮影)吉野馨治(美術)吉松英海(音楽)伊藤昇

(出演)藤原釜足、澤村貞子、小€€まさる、若葉きよ子、霧立のぼる、横山運平、生方賢一郎、若宮金太郎、一の瀬綾子、小西司郎、水谷史郎 (74分・35mm・白黒)


【参考文献】
★霧島昇と松原操 (ミス・コロムビア) 大全集 旅の夜風・三百六十五夜 : 生誕100年記念 : 永久保存盤 disc 4 (戦時歌謡-若鷲の歌・愛馬進軍歌-) 録音資料 霧島昇, 松原操 (ミス・コロムビア). 日本コロムビア, 2014.6 鷲の歌(2)月のデッキで(3)戦線への便り(4)婦人愛国の歌(抱いた坊やの)(5)弾雨の中から(6)チョコレートと兵隊(7)島の星月夜(8)兵隊さんよありがとう(9)愛馬進軍歌(10)元気で行こうよ(11)そうだその意
★子どもの文化研究レポート 鈴木紀子『チョコレートと兵隊』 : 戦時下映画と紙芝居の歴史研究のかなめ 堀田 穣  子どもの文化 45(2):2013.2 p.40-45
★戦時下日本映画の中の女性像--『チョコレートと兵隊』再検討 (特集 表象としての女性) 池川 玲子 歴史評論 / 歴史科学協議会 編 (708) 2009.4 p.46~60
★戦争の時代ですよ! : 若者たちと見る国策紙芝居の世界 鈴木常勝 著. 大修館書店, 2009.6 ―さあ、戦争をはじめよう!//5『拳骨軍曹』――勇敢な日本兵、卑劣な支那兵を打ちのめす!//19『チョコレートと兵隊』――優しいお父さんが戦死なさっても……//29『ガンバレコスズメ』――かわいい小雀も戦争のお手伝い
★映像文化とはなにか(14)「チョコレートと兵隊」という映画 佐藤 忠男 公評 42(9) 2005.10 p.98~105
★サトウハチロー記念館《歌謡曲・コロムビア戦前集》 録音資料 コロムビアミュージックエンタテインメント, 1993.11  原喜久恵)(2)うちの女房にゃ髭がある(高倉敏,久保幸江)(3)あゝそれなのに(神楽坂はん子)(4)チョコレートと兵隊(霧島昇)(5)青い部屋(淡谷のり子)(6)古き花園(二葉あき子)(7)夜のタンゴ(淡谷のり子)(8
★新聞集成昭和編年史 昭和13年度版 4 明治大正昭和新聞研究会 編集製作. 新聞資料出版, 1991.11
★小学五年生 20(8) 小学館, 1967-11 魔女めぐり わたしは魔女よ / 須藤輝雄 ; 菅原亘 / 154 (0079.jp2)心の花たば チョコレートと兵隊 / 倉光俊夫 ; 柳柊二 / 38 (0020.jp2)
★マレー血戦カメラ戦記 影山匡勇 著. アルス, 昭和18
★僕等の愛国競争 池田種生 著. 金鈴社, 昭和16
★戦ふ天使 横沢千秋 著. 女子文苑社, 昭和15
★映画と音楽 3(2) 雑誌 映画と音楽社, 1939-02
★革新 2(2) 革新社, 1939-02  (0116.jp2)インテリ兵士の手紙 相內俊雄君 / p219~221 (0116.jp2)「チョコレートと兵隊」の手紙 故齋藤辰次郞上等兵 / 馬杉俊男部隊長 / p109~115 (0061.jp2)從軍看護
★東宝映画 2(6) 東宝映画社, 1939-01 チョコレートと兵隊/島津保次郞 ; 五所平之助 ; 佐藤武 / p4~4 (0004.jp2)花柳章太郞氏と私・その他
★キネマ旬報 (669) 雑誌 キネマ旬報社, 1939-01 .jp2)日本映畫批評 曉の旗風 / 村上忠久 / p80~81 (0047.jp2)日本映畫批評 チョコレートと兵隊 / 村上忠久 / p81~81 (0047.jp2)日本映畫批評 唐人お吉 / 村上忠久 / p8
★新日本 (1月號) 新日本文化の会, 1939-01
★婦人倶楽部 19(14) 講談社, 1938-12
★愛国婦人 (93) 愛国婦人会, 1938-12
★子供のテキスト : ラヂオ 11(11);十一月號 日本放送協會 編. 日本放送出版協會, 1938-10
★東宝映画 1(12) 東宝映画社, 1938-10



by sentence2307 | 2004-11-28 10:28 | 高峰秀子 | Comments(0)