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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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撮影所のカラーについて

川又昂キャメラマンが、小津安二郎監督と大島渚監督との、まるで異質なふたりの映像作家のそれぞれの仕事にかかわったということに意外な感じを受けた僕の違和感は、しかし、このふたりが同じ松竹という会社に席を置いていたことを考えれば、まあ意外でもなんでもない当然にあり得べきものだったわけですね。

映画作りの方向性の違いというか思想性の違いという表層的なものだけに目を奪われるあまり、ふたりに共通しているはずの「松竹という会社のカラー」(そういうものが、あるのかどうか分りませんが。)という絵作りの根本的な方法論に注意が向けられなかったことは確かでした。

小津作品と大島作品が外見上は、いかに隔たっているように見えるにせよ、映画が矩形のスクリーンに映し出されるものである以上、画調そのものは人間の体形のようなもので、体重の軽減ぐらいでは決して変えることの出来ない根源的で宿命的な「何か」によって決定的に運命づけられているような気がして仕方がないのです。

僕たちが何気なく言い放っている「松竹映画」とか「東宝映画」とか「大映映画」という時、そこには確かに他社の撮影所にはない確固とした「カラー」が確かにあって、それこそが、その撮影所が長い時間をかけて独自につちかってきた「個性の系譜」の集大成とでも呼ぶべきものがあるような気がするのです。

それは、個々の撮影所で「絵作り」を担ってきた有名無名のキャメラマンたちが、次世代への受け渡しを繰り返しながら独自の特徴を築き上げてきた総体としての画調の系譜というような、いってみれば映像で語らねばならない映画にとっての言語の成熟とでもいうべきものかもしれません。

また、更にその中で個々のキャメラマンが、個々にルーツを持ちながら仕事をしたというダイナミズムの中で日本映画の黄金期は築かれていったのだと思います。

大船調の松竹では、「安城家の舞踏会」や「白痴」を撮った軟調派の代表的なキャメラマン生方敏夫、渋谷実監督との仕事で数々の名作を撮った長岡博之、小津監督後期の作品を撮った厚田雄春、木下恵介との仕事で名手の名を欲しいままにした楠田浩之を始めとして、松竹・小市民映画を扱うにふさわしい軟調を基調としていましたし、東宝のキャメラマンでは卓越した映画理論家で天皇と呼ばれていた宮島義勇、黒澤明の主要作品を撮った中井朝一、そして「酔いどれ天使」や「原爆の子」を撮った伊藤武夫はハイキーを得意としていました。

また、大映ではキャメラマン宮川一夫を筆頭に「瞼の母」や「国士無双」を撮った石本秀雄、「鳳城の花嫁」や「旗本退屈男」を撮った川崎新太郎など時代劇で陰影ある撮影に特徴を見せていました。
by sentence2307 | 2004-12-12 12:49 | 映画 | Comments(0)