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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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幸福の黄色いハンカチ

このところ、小津作品に親しむようになってからですが、いままでかなり好感を持っていたはずの作品が、どんどん色褪せていくような気がして仕方ありません。

実は、この「幸福の黄色いハンカチ」もそのうちのひとつです。

かつては、手放しで感動したはずのラストの無数のハンカチが青空をバックにハタメイテいるあの場面が、今となっては、どうもよそよそしく自分の中にしっくり入ってこないのです。

きっと、僕の中では、こんなふうに思ってしまっているからかもしれませんね。

つまり、まず男が無数のハンカチに出会うという独立したシチュエイションがイメージとして最初にあって、それ以外は、山田監督の才気漲るテクニックだけで見せられてしまったような心の通ってない作為的な映画に思われて仕方ないのです。

刑務所から刑期を終えて出てきた男が、自分のことをまだ受け入れてくれるか不安な気持ちを抱えたまま、あえて女の居る所に向かう、という設定が嫌悪をモヨオシます。

相手に過度に期待する愛、許しを乞いながら、その裁断を相手に委ねるというそんな卑屈な気持ちが、果たして愛と呼ぶにふさわしいのか、疑問です。

実は、この「幸福の黄色いハンカチ」について、ここのところ、いつも考えることがあります。

武田鉄矢や桃井かおりが、現在この映画をどんな気持ちで見るだろうか、と。

例えば、奇跡的にこの作品に抜擢されたことによって稀有な個性を見出され幸運な俳優生活をスタートすることのできた武田鉄矢ばかりでなく、芸風を拡げて役者として大きなターニング・ポイントを迎えることとなった桃井かおりにとっても、この「幸福の黄色いハンカチ」が、大恩ある作品であることは誰もが知っています。

ただ、キャリアを積み重ねてきた現在の彼らが、いま心穏やかに、この映画を見ることができるかどうか、僕はとても疑問なのです。

幸いなことに、と言った方がいいのでしょうか、実は、今までこの「幸福の黄色いハンカチ」について、この作品がいい映画かどうかということを、あえて聞かれたことがなかったので、僕もまた自分の考えを誰にも言う機会を持てないまま現在に至ってしまいました。

「これだけの感動作なのだから、名作に決まっている」という前提で話される「映画愛好家」たちの会話のやり取りの中で、薄笑いを浮かべYesとしか答えられない自分が正直なところ、ほとほと嫌になっています。
by sentence2307 | 2004-12-21 23:11 | 映画 | Comments(0)