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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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風と共に去りぬ

BSで、「風と共に去りぬ」を見ながら、以前、やはりBSで見たベティ・デイビスの「愛の勝利」(39,エドムンド・グールディング監督)のことをぼんやり考えていました。

不治の病に侵され、余命幾許もないことを知った娘が、医師の献身的な行為から真実の愛に目覚めるというこの女性映画は、その年、観客の涙を最も多く搾り取った作品だったそうです。

アカデミー賞作品賞にノミネートされたほか、名女優ベティ・デービスの演技も高く評価された作品でした。

ベティ・デイビスは、その時すでに「青春の抗議」(35)と「黒蘭の女」(38,ウィリアム・ワイラー監督)で、2度のアカデミー主演女優賞を獲得していました。

その力量は既に証明済みで、作品に恵まれたこともあって、ベティが3度目のオスカーを手にすることは、ほとんど当然視する周囲の雰囲気だったにもかかわらず、しかし、結果は、セルズニックが600万ドルをつぎ込んで製作した大作「風と共に去りぬ」のヴィヴィアン・リーにオスカーが与えられました。

主演女優賞だけでなく、作品賞、監督賞、助演女優賞、脚色賞、美術賞、編集賞、色彩撮影賞、特別賞など、主演男優賞以外は、主要部門を総なめにした凄まじい結果でした。

彗星のように登場した若きヒロイン・ヴィヴィアン・リーの前に霞んでしまったのは、なにもデイビスばかりではありませんでした。

スカーレット役を決めるための芝居がかったオーディションや、前評判を煽るために、金にものを言わせた露骨で強引な宣伝が、おもにヴィヴィアン・リーに対してなされただけだったことが、各賞を総なめした中でゲーブルだけが主演男優賞を逃したことで、はじめて明らかになりました。

MGMの専属スターだったゲーブルを、セルズニックが、MGMに配給を任せることを条件に借り受けながら、新人女優に対しては宣伝費を惜しまなかったMGMもセルズニック・プロも、ゲーブルに対しては冷淡だったといわれています。

結局、主演男優賞をロバート・ドーナットに持っていかれてしまいました。

オスカーを逸して、ひとり恥をかかされた形になったゲーブルは、レット・バトラー役は自分しかいないという触れ込みでわざわざ出演したのに、まるで見殺し同然のこの扱い(宣伝不足や根回しの怠慢)に、MGMとセルズニックに対し、あからさまな不快感を隠そうとしませんでした。

しかしこれとても因縁めいた話しがあって、例えば数年前に他社のコロンビアで撮った「或る夜の出来事」(34,フランク・キャプラ監督)で“たまたま”主演男優賞を獲得してしまったことと関係(MGMとの確執)があったとか、更には、前年にドーナットが「城砦」(38,キング・ビダー監督)で好演したのに賞を逸したことへの「借り」をアカデミーが返したからだという見方もあったそうです。

同業者の功績を称え合うという性格を持つアカデミー賞では、しばしば見受けられることですが、その年の優れた仕事に対してというより、前年に優れた仕事をしながら、しかし不運にも、更に優れた作品の評価の影に隠れてしまい、正当な評価を受けられなかった作品や人に対し、改めてその才能を追認する所謂「報奨のシステム」という機能が働く場合が多々あるようなのです。

ゲーブルが、たまたまその「あおり」をくってしまったことは、皮肉というしかありませんが、ベティ・デイビスにしても「青春の抗議」で初めての主演女優賞を得た時、むしろ、直接の評価の対象となったのは、その前年に出演した「痴人の愛」(34)での演技に対してで、ノミネートすらされなかったその時のアカデミーの「穴埋め」だったとも言われています。

「痴人の愛」はRKO作品、ワーナーのトップスターでもあったベティがRKOに貸し出されて主演したもので、他社のスターのハク付けに協力したくないRKOの思惑と、他社作品でヒットを飛ばされても困る抱え主ワーナーの思惑とが一致しての「ノミネートなし」の政治的判断の結果だったという経緯もあったそうです。

しかし、また一方では、「黒蘭の女」でベティが2つ目のオスカーを獲得した時、実は、同年に作品賞を獲得したフランク・キャプラ監督「我が家の楽園」のジーン・アーサーの演技が高い評価を得たにも関わらず、ノミネートさえされなかった事実も重要な周辺事情として書き添えておかない訳にはいきません。

理由は、一般的にアカデミーにおいては、コメディーでの軽い演技よりも、シリアス・ドラマでの重厚な演技の方が評価され易いという偏見が当時にもあって、ベティが「黒蘭の女」で演じたような「気性の激しい女性の愛と破綻」という演技こそ、最もアカデミー好みの典型であったということも忘れてはならないことなのですが、しかし、その翌年、同じタイプの「わがままで強情な南部女の激しい愛と破綻」を鮮烈に演じた新人女優ヴィヴィアン・リーに主演女優賞を持っていかれたことは、何とも皮肉なこととしか言いようがありません。

だから、「風と共に去りぬ」がアカデミー賞において数々の栄誉を得ることとなった1939年という年が、「実にとんでもない年」だったというのが、アメリカ映画史においてこの年を語る場合の枕詞のように使われるのも何だか頷けるような気がします。

そこでは、しばしば「豊饒」とか「成熟」という形容詞が多用され、事実アメリカ映画の巨匠たちがエネルギッシュで充実した仕事を残したひとつのピークだったという見方が評論家たちの一致した見解のようなのです。

しかし、不吉な危機感を帯びた迫り来る戦雲を背景としていたので、必ずしも手放しの楽観ばかりを意味していた訳ではありませんが、例えばピーター・ボグダノビッチは、その著書「ハリウッド・インプレッション」で、わざわざ「1939年アメリカ映画BEST 10」として、BEST作品を選出して、そのことを指摘したひとりでした。

ただ、興味深いのは、そこでは、アカデミー賞を独り占めにした「風と共に去りぬ」を評価の対象から全くはずしたところに特徴があります。

以下は、そのBEST 10の紹介です。

 ①若き日のリンカーン(ジョン・フォード)、
 ②コンドル(ハワード・ホークス)、
 ③ニノチカ(エルンスト・ルビッチ)、
 ④駅馬車(ジョン・フォード)、
 ⑤スミス氏都へ行く(フランク・キャプラ)、
 ⑥邂逅(レオ・マッケリー、後年「めぐり逢い」でリメイク)、
 ⑦モホークの太鼓(ジョン・フォード、初カラー作)、
 ⑧彼らは顔役だ!(ラォール・ウォルシュ)、
 ⑨ザ・ウーメン(ジョージ・キューカー)、
 ⑩は5本あり・ガンガ・ディン(ジョージ・スティーブンス)、ミッドナイト(ミッチェル・ライゼン)、大平原(セシル・B・デミル)、北西への道(キング・ヴィダー)、砂塵(ジョージ・マーシャル)の内から各自の好みで選んでよしとしていますが、しかしなお、ここにおいても「風と共に去りぬ」は、この5本の中にも入らないと特記しています。

しかし、この選考の基準を、単に奇を衒ったものと判断するのは早計です。(もっとも、是を非とし、非を是とする「奇を衒う」ところがなければ、評論なんて書く意味がありませんが。)

アカデミーが、あえて切り捨てて賞の対象とさえしなかった作品にも、これだけの充実した作品があったことを示したかったのだと考えた方がいいかもしれません。

やはり、アカデミー賞にノミネートされた作品群を前提にしてこそ、初めて上記のボグダノヴィッチの選択も光彩を放ち得るものと思い、彼の外した作品を以下に列挙しておきます。

こちらの方もかなり豪華なラインナップになっています。

風と共に去りぬ(ビクター・フレミング)、オズの魔法使い(ビクター・フレミング)、明日来りなば(ジョン・M・スタール)、サージェント・マッデン(ジョセフ・フォン・スタンバーグ)、嵐が丘(ウイリアム・ワイラー)、青春一座(バズビー・バークレイ、後年MGMミュージカルの振付師に)、巌窟の野獣(アルフレッド・ヒッチコック)、廿日鼠と人間(ルイス・マイルストン)、チップ先生さようなら(サム・ウッド)、愛の勝利(エドムンド・グールディング)

しかし、これを見ると映画評論という微妙で危なっかしい立場がよく分かります。

逸脱が過ぎると、どうしても寄生虫のような甘えの部分が露呈してしまいます。

この「風と共に去りぬ」、アメリカのある州では、公民権運動の影響から、この映画を人種差別映画とみなして、いまだに公的な場所では上映を禁止していると聞いたことがあります。

原書では、ニガーやダーキーというあからさまな言葉が頻繁に使われ、更にクー・クラックス・クラン(KKK)まで登場してきます。

アメリカ人がこの映画を国民的映画と思っているなら、それは単に意思の強い南部女のラブ・ロマンスとだけ見ている訳ではないという所を分かっていないと、ちょっとまずいかなという気がします。

スカーレットのコルセットを閉めているしつけの厳しい黒人の乳母マミーの役を演じたハッティ・マクダニエルは、この作品で黒人女優初のオスカー、アカデミー最優秀助演女優賞を受賞しましたが、逆に、この受賞で、皮肉にも以後ハッティにもたらされた役は乳母役に限定されたばかりでなく、多くの黒人女優たちの、何か他に演じることができるかもしれない可能性の芽をも潰す結果を作ったというシビアな評価もあります。

それでなくても、黒人女優に回ってくる役といえば乳母かメイドの役ばかり、ハッティも「風と共に去りぬ」の乳母役を獲得するまでに50本を超える映画でメイド役を演じたそうです。

白人のインタビュアーの、何故メイド役しか演じなかったのかという的外れな質問に対し、「黒人女性の仕事といえば、週給7ドルでメイドをやるか、週給70ドルでメイドの役を演じるしか他になかったからだ」と答えています。

最初のうちは黒人社会からも盛大な拍手を送られていたハッティも、1940年代後半に入るとNAACP(全国黒人地位向上協会)は、黒人のステレオタイプとされるマミーのような(黒人奴隷が白人農園主に忠誠を尽くすという)役柄を批判すると同時に、役を引き受けた俳優への批判に発展していきました(世に言うハッティ・マクダニエル排斥運動です)。

300本の映画でメイドの役だけを演じ続けた黒人女優ハッティ・マクダニエルは、他の役による演技の実力を示すことが出来ないまま1952年、57歳で亡くなりました。

そういえば、確かBSでも、以前KKK讃美のグリフィス監督「国民の創世」をやっていましたね。

あまりにもあからさまな人種差別の表明に度肝を抜かれました。

この映画が、様々な人種の子供たちが見ているテレビで放映されるなど、アメリカではちょっと考えられないことなのかも知れません。

それとも、日本があまりに無邪気で鈍感なのか、僕にはよく分かりません。

因みに僕の持っている「世界映画人名事典・男女優編」には黒人女優は一人も掲載されていませんし、また最優秀助演女優賞を取ったこのハッティ・マクダニエルでさえも掲載されていませんでした。
Commented by levitraagepailerry at 2013-03-19 12:59 x
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