世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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極道のロジック

「職場改善プロジェクト」が終わったあとの飲み会で、資料課の大橋さんと黒澤明の「一番美しく」について話したことは、この前に書いたとおりですが、実は、時間的にいえば、会話全体の、それはほんの一部のことにすぎません。

ほとんどの時間を、タイトルにあるとおり「極道のロジック」について話しました。

「なんだ、そりゃ」と思われるかもしれませんが、別に唐突でもなんでもないのです。

大橋さんの叔父さんが、千葉の方で保護司をしていらして、その同じ保護司仲間にヤクザの社会に精通した「作家」の方(仕事柄なのかどうかは分かりません)がいるのだそうです、そのことは以前にも大橋さんから幾度か聞いたことがありました。

それまで自分は全然知りませんでしたが、お名前を向谷匡史という方で、結構著作もあって、わが社の社内研修でもその人の本を使ったことがあるのだとか(大橋さんが教材の調達の係をしています)、大橋さんは話していました。

「えっ、極道とビジネス、ですか?」と、その取り合わせがあまりにも奇異に聞こえたので、思わず聞き返してしまったくらいでした。

「おかしいですか?」と、大橋さん、「そら、嵌った」みたいなドヤ顔で満面の微笑です。

営業の交渉術とかもそうでしょうが、会社で生き抜いていくためには、相手を納得させて黙らせるくらいのロジックとか雄弁さで、強烈に自己主張することは絶対に必要なことじゃないですか。

すかさず「愛嬌も必要ですヨ」という私の進言をまったく無視して大橋さんは続けます。

そういう会話術みたいなことを、どんなに言葉を飾って上品にいうことは、幾らでもできるかもしれませんが、要するに相手を圧倒して黙らせて、自分の意見を押し通すことですよね。

それくらいできなくちゃ、会社では仕事の実績をあげられないどころか、仕事そのものを得るチャンスも掴みそこなうかもしれません、過当競争に生き残るって、それくらい厳しいことですよね、そういう意味では、残念ながら私もあなたも「敗残のおちこぼれ」の窓際族で出世とは無縁でしたよね。いえいえ、これはワルギで言っているのではありませんから。

ワルギでいわれてたまるか、コノヤロー。おおきなお世話だ。

しかし、こんなことで怒る自分ではありません、職場では、若い女の子たちから、もっとひどいことを(ワルギなく)気軽に言われていますから、もう慣れましたヨ・・・(さびしー)。

私の異変に気がついた大橋さんは、しばし話を中断して「大丈夫ですか」という目顔で首を傾げて覗き込んでいます、アイドルじゃあるまいし首なんか傾げたって可愛くなんかねえや、くそジジイ、とはまさか言いませんが、「いえいえ、大丈夫です、続けてください」と自分。

たとえば、ですね。(そうそう、まだ極道とビジネスの話、続いていたんですよね)

あまり想像したくありませんが、仮に、ヤクザに道で絡まれたとしますよね。先様は、脅かして金でも巻き上げようと考えています。

早い話、クライアントを二、三発殴っておいてから威嚇して、すごんで金を出させるというのが手っ取り早い方法と思うでしょうが、彼らはそんなことはしません。

そんなことをすれば傷害罪で逮捕されてしまうし、費用対効果からいっても暴力がいかに間尺にあわないかを一番よく知っているのが「暴力団」です。

ですから、彼らは、いかに暴力を用いずに済ませるかを常に考えている。

例えば、街頭でチンピラが若者に因縁をつけたとしますね。

「コラッ、黙ってりゃさっきから人のことをジロジロ見やがって、オレの顔に何かついてんのか!」

「見てません」と答える。

と、ここで先様は、「見てるじゃねえか!」とは、返さないで、

「てめえ、オレが嘘をついているとでも言うのか!」とくる。

「いえ・・・」

「じゃ、ジロジロ見てるってことじゃねえか」

つまり、

「見た」「見てない」という次元での応酬を続ける限り、ただの水掛け論になってしまい、果ては煮詰まって「暴力」に行き着くしかない。それはまずい。

だから、ここは素早く論点を変えて

「見たと主張する俺の言葉がウソなのか」と、次元をチェンジして、違う角度から攻めにかかる。

それでなくとも怖い顔で凄んでいるヤクザに向かって

「あなたが、嘘を言っているんだ」とは言いにくいので、

つい、「ウソは、ついていません」と答えたならば、論理的にクライアントが「ジロジロ見た」ということになってしまい、結局、金を出させられる羽目になる。

すなわち、「正しいのはオレで、悪いのはお前」という構図をつくっておいて、

「オレに因縁つけやがって、この野郎!」とガンガン攻めて、「お詫び」として金品を巻き上げるというわけです。

これが、極道のロジック。

ええ

ヤミ金の取立ては、こんな感じです。

「違法金利です」と、債務者が主張したとする。

しかし、先様は、「どこが違法だ」と応じないで、すばやく「次元」をチェンジする。

「借りるとき、金利の話をしなかったか?」


「しましたが・・・」

「だったら納得ずくで借りてるんじゃねえか。てめえ、借りるだけ借りておいて、いざ返すときになってゴネるのか。無銭飲食と同じだろ!」

暴力を振るわず、「正しいのはオレで、悪いのはおまえ」というレトリックに取り込まれてしまうというのだそうです。

「はあ、はあ。そうですか。しかし、大橋さん、これと「ビジネス」と、どういう関係が?」とボケる私に、大橋さんは、さも「どこまでも分からない人だなー」という顔で、「だから、要は、押しと異次元転換というハナシってことですよ。」

などと苛立たしげに言い募るのですが、ますます、分からなくなってしまった自分でした。


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by sentence2307 | 2016-09-22 21:09 | 映画 | Comments(0)