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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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マドモアゼル

今月の初めに検査入院とやらを経験しました。

6月の定期健診で腫瘍マーカーの値が基準値を超えているといわれ、専門医の診察を受けるようにという指示の書かれた検査表に、「紹介状」も添えられていました。

まあ、ことがことだけに、いままでのように無視するわけにもいかず、さっそく近くの中規模の専門病院に予約を入れて診察を受けにいきました。

特に中規模病院を選んだ理由は、仮に検査の結果が思わしくなかった場合、その病院でそのまま「手術」→「入院」という一連の手続きができるからと考えたからです。

自分の身近にも、健診センターで「悪結果」が出て町医者に掛かり、そこで改めて一からの検査を受け直して、再び「悪結果」が出たとき、ここでは手術ができないからと、さらに手術のできる大きな病院に回され、そこでまた改めて初めから検査を受けさせられるという時間のかかる例を幾度も見てきたので、それならと、最初から一つの検査で、「手術」→「入院」とストレートに済む中規模病院を選びました。

いままで自覚症状らしきもの(それが「自覚症状」と言えるとしてですが)なかったわけではありません、ごく軽い「残尿感」とか「頻尿」とか、もっと軽い「尿漏れ」とか、そういうものなら、確かに幾つかは思い当たるものがあった気がします。

あっ、そうそう、ここのところ「ノコギリヤシ」の新聞広告なんかも、やたら目についたということも、あるいは「自覚症状」のひとつだったかもしれません。

そんなふうにして受けたMRIの検査結果では、とくに異常なものは見つからなかったのですが、さらに検体検査をやってみましょうということで、冒頭の1泊2日の「検査入院」ということにアイなった次第です。

入院手続きの際、受付の人に「これなども入院ですか」と聞いたら、目をむいて「もちろんですよ」と怒られてしまいました、なにかその人のプライドを傷つけてしまったようなことを言ってしまったのかと軽い罪悪感に襲われたのですが、あるいは、たまたま彼の腹の虫の居所が悪かっただけだったのかもしれませんが。

実は、「入院」と名の付くものは、今回がまったくの初めてで、どうにも勝手がわかりません。

もちろん不安はありますが、いくら心配したって、検査とか治療の方は自分ではどうすることもできない、まさに「俎板の鯉」状態なので、ここは腹をくくるしかないと思い定めて、むしろそれ以外のことを考えることにしました。

これまで幾人かの友人の入院を見ていると、共通しているのは、持て余す時間をどう埋めていくかにかかっているような印象を受けています。

入院手続きの際、その受付の人からテレビを契約するかと聞かれたのですが、思わず入院患者が一日中ぼんやりとテレビを見ている生気のない姿が思い浮かんできて、どうあっても「あれだけは避けたいな」とすぐに思い、それなら、パソコンを持ち込むのだって、同じようなものだと考えて両方とも取りやめました。

しかし、改めて考えてみれば、これってまさに「一日だけ自由な時間が与えられる」願ってもないチャンスなわけですよね、勤めのある自分にとって、夢のような解放された「自由時間」なわけで、そういうことなら結論はきわめて簡単です、思い悩む必要などありません。

「晴耕雨読」の生活が夢だった自分にとって、ここは、やはり読書しかありません、読みながらまどろみ、まどろみながら読む、これ以上ない、なんという「至福」だろうかと考えたとき、不意に、それならいつも通勤電車でやっていることと同じじゃね~かという思いに虚を突かれ、「青い鳥」じゃありませんが、人間って結構、どのような生活を送っていても、知らないうちにほんの少しずつ、それなりの「理想」に近づこうとしているものなのだなと考えた次第です。

こうして1日だけの入院生活は、絶え間ない読書とまどろみによって終わりました、「読書三昧」ということなら、理想的な1日だったと言うことができると思います。

そしていまは、その検査の結果を待っているという状態です。

「しかし、あのさあ、これってアンタのたった1日だけの入院生活の話でしょ、タイトルの『マドモアゼル』とは、なんの関係もないじゃないですか」

お叱りはごもっともです、ごもっともですが、しかし、こんなことで驚いちゃいけません、いままでだって自分のブログは前振りのダベリが長すぎて、横道にそれっぱなしで、主題を見失ってしまったことなんて、そりぁ数えきれないくらいありました、否定はしませんが、今回の場合に限っていえば違います、大いにね、隅々に至るまですべてが緻密な計算で張り巡らされて「主題まっしぐら」なのですから。ホントです。

なので、その話をしますね。

入院に際し、例の「絶え間ない読書とまどろみ」のための1冊を選ぶお話をすれば、きっとその辺の空気感を分かっていただけると思います。

本選びに際して、自分がまず考えたのは、いままで読んだことのない「新刊」を持参するか、あるいは、かつて読んだことのある「既読本」を持っていくかということですが、それは考えるまでもなく「既読本」です、当然じゃないですか、いまさら新たな感動など求めたって仕方ありません。

前記した「晴耕雨読」という言葉が象徴している状態は、新たな感動を得るなどという攻めの状態ではなく、むしろ乱読で読み飛ばして、いままで振り返ることもしなかったかつての「感動」のひとつひとつをもう一度静かに辿り直したい・振り返りたいという「守り」の思いしかありません。

実は、自分は学生時代にサルトルに嵌った時期がありました、著作の中では、特に「聖ジュネ」に大いに感銘を受けました、当時、世間的にも自分的にも一種の「倒錯ブーム」みたいなものがあったと思います。

ですので、今回の入院に際し、ぜひ「聖ジュネ」を読み直したいという気持ちから、例の人文書院刊のクリーム色の本を時間ギリギリまで探したのですが、どうしても見つけ出すことができません。

残念だったのですが、仕方なくサルトルの「嘔吐」を持っていくことにしました。

これも、自分に大きな影響を与えた本でした、哲学書としてではなく、風変わりな小説として。

特に、登場するタイプとしての「独学者」の人間像に強く惹かれました。

「嘔吐」の書き出しは、こんな言葉から始まっています。

≪いちばんよいことは、その日その日の出来事を書き止めておくことであろう。はっきり理解するために日記をつけること。取るに足らぬことのようでも、そのニュアンスを小さな事実を、見逃さないこと。そして特に分類してみること。どういう風に私が、この机を、通りを、人々を、刻み煙草入れを見ているかを記すべきだ。なぜなら、変わったのは、「それ」だからである。この変化の範囲の性質を、正確に決定しなければならない。≫

辛抱強く書き続けることが、なによりも大事なのだと説きながら、一方で、それが生活の、ひいては生きるための技術を説いているようにも読める、そんなふうにこの小説を「入院」している間に読みました。

実は、退院してから、溜まってしまっていた新聞を、1頁1頁目を通していた時、ジャンヌ・モローの訃報に接しました。
そこには彼女の出演作が紹介されています。

「死刑台のエレベーター」1957、「雨のしのび逢い」1960、「突然炎のごとく」1961、「ジャンヌ・モローの思春期」1979、

どれも彼女の女優人生にとって重要な作品には違いありませんが、もっとも彼女らしい作品と思っていた「マドモアゼル」1966が掲げられていないことが、自分にはなんだかとても不満でした。

入院前の慌ただしい時に、サルトルの「聖ジュネ」を堪らなく読みたくなって、探しまわったことも、なんだか啓示のように感じられてなりません。

トニー・リチャードソン監督「マドモアゼル」は、泥棒にして性倒錯者ジャン・ジュネが、シナリオに参加した異色作です。

(1966英仏)監督・トニー・リチャードソン、脚本・マルグリット・デュラス、原案・ジャン・ジュネ、製作・オスカー・リュウェンスティン、音楽・アントワーヌ・デュアメル、撮影・デイヴィッド・ワトキン、編集・ソフィー・クッサン、アントニー・ギブス、美術ジャック・ソルニエ、製作会社・ウッドフォール・フィルムズ・プロダクションズ、字幕翻訳・中沢志乃
出演・ジャンヌ・モロー(Mademoiselle)、エットレ・マンニ(Manou)、キース・スキナー(Bruno)、ウンベルト・オルシーニ(Anton)、ジェラール・ダリュー(ブーレ)、ジャーヌ・ベレッタ(Annette)、モニー・レイ(Vievotte)、ジョルジュ・ドゥーキンク(The priest)、ロジーヌ・リュゲ(Lisa)、ガブリエル・ゴバン(Police Sergeant)、
シネマ・スコープ(1:2.35)、モノクロ/シネスコ、モノラル、35mm


Commented by もにか at 2017-08-15 16:37 x
sentence2307さま:
はじめまして、「もにか」と申します。映画「姿なき一○八部隊」を調べていたらこちらのブログに辿り着きました。私は今父親が昭和31年に書いた日記帳の内容をブログにupする作業をしています。昭和の高度経済成長期の記録と家族の記録として残そうと思っています。よろしければ2004年12月22日の記事を一部引用させていただけませんでしょうか。(3月3日にこの「姿なき~」を見に行って涙が流れたと父が書いているのです)不可の場合ご連絡いただければ引用はやめます。よろしくお願いします。検査入院をなさったご様子、どうぞお大事になさって下さいませ。

ブログ→URL twitter→hanakonyfm です。
Commented by sentence2307 at 2017-08-15 20:53
もにかさん、こんばんは。
ご依頼の件、承知いたしました。
小生の拙文でよろしければ、どのようにお使いくださっても結構です。
また、お見舞いのお言葉をいたただき、恐縮です。
これからもよろしくお願いいたします。
by sentence2307 | 2017-08-13 18:52 | トニー・リチャードソン | Comments(2)