『二十四の瞳』の子役たち
2005年 11月 26日
家にいて、たっぷり時間があっても、本を読む気になかなかならないのは、やたらと別の誘惑が多からかもしれませんね。
まず、だいたいは映画を見てしまいますし、次には普段は買い込むばかりで、ろくに聞かないで溜め込んでしまったCDを片っ端から聴きまくるなんて方に優先的に時間を割いてしまうからでしょうか。
だから、読書くらいしかすることのない軟禁状態の電車通勤は、かえって本当は貴重な時間なのかもしれません。
いままでも、普通なら気後れするくらいの長い小説や取っ付きにくい難解な本など、一応読了できたというのも、あの「軟禁状態」があったからだと思います。
そんなわけで、読む本が途切れないように、いつも「次に読む本」を机の脇に置いています。
時間のない出勤前に慌ただしく適当に選んだ本がつまらなかったときなど、時間を無駄にしてしまったなあと後悔することが結構ありましたから。
しかし、この「適当に選ぶこと」で思わぬ収穫にあずかることも、たまにはあるのです。
あるとき、慌ただしい出勤前に、その辺にあった高峰秀子の執筆した文庫本を鞄に突っ込んで家を出たことがありました。
それは、「いっぴきの虫」というタイトルの、高峰秀子が親交を深めた著名人について書いた人物評みたいな著作です。
ずっと前、この本について書かれた書評を読んで以来、この本の読む気をすっかり失っていました。
いわく、「有名人との交際を自慢気に書いた鼻持ちならない本」みたいな書評です。
別に僕としては、著名人との交際を自慢気に書くことに対して偏見はありません。
別にいいじゃないかという感じです。
むしろ、下卑た嫉妬に満ちた悪意だけのそうした書評(まあ、はっきり言えば、この本は、「私はこれだけの有名人の知り合いを持っている」といった感じの単なるヨイショ的な自慢本だと言う非難でしょうか。)に嫌悪感を覚えましたし、そんなものを平然と掲載した雑誌編集者の見識も疑います。
そういうことなら、つまり罪が本にないなら、この「いっぴきの虫」を読んでもよさそうに思われるかもしれませんが、一旦ケチをつけられた本に向かう気の重さが、僕にはクリアできませんでした。
これが、いままでこの本を遠ざけていた理由です。
さて、前置きが長くなりました。
この本を読んで得た「思わぬ収穫」というのを書きますね。
電車に乗り込んで、「いっぴきの虫」を取り出してざっとページを繰ってみてみました。
いちばん面白そうな部分から読んでしまうのが僕の行き方なので、まずは「美味しいところ」から入っていきます。
数々の著名人の名前の羅列の中に「『二十四の瞳』の子役たち」というひときわ目立つタイトル(字数の多さで)がありました。面白そうです。
文庫本のページにして20ページに満たない短さですから、たとえ詰まらなくて、そのときはすぐに止める積りで読み始めました。
前半は17年振りに会った「二十四の瞳」に出演した子役たちと思い出を語り合う楽しそうな座談会です。
しかし、あれこれの懐かしい思い出話のあとで、不意に、アメリカ人夫婦の養女になって渡米したひとりの少女のことに話が及んだところで、この座談会は不意に途絶えます。
高峰秀子のこんな述懐とともに。
「あの子は日本が好きだったのよ。アメリカへ行っちゃって・・・。私、なんだか可哀想なことしちゃったみたい。」
高峰秀子のこの述懐には、映画の中で肺病を病んで物置小屋で死んでしまうコトという幸薄い役を演じた少女の像と、アメリカへ貰われていった寂しげな実在の少女の面影とが、高峰秀子の贖罪の思いの中でほとんど区別されることなく語られているからでしょうか。
母をなくし、面倒見切れなくなった少女の父親から相談を受けて、養子を探していたアメリカ人夫婦に少女を紹介した高峰秀子が、なぜ罪の意識を持ったのかというと、きっとその独り残された孤独な少女が、母親のぬくもりを自分に求めていたことが分かっていたからではないかという気がします。
高峰秀子は、こんなふうに書いています。
「ねえ、コトやん。小石先生も小さいときお母さんが死んで、新しいお母さんのところに貰われてきたのよ。
でも、そんなことは、たくさんたくさんあることなの。
自分だけがこんな悲しい目に遭うなんて思っちゃ駄目よ。
生きているお母さんをお母さんだと思って元気に暮らすのよ。
小石先生だってホラ、こんなに元気でしょ。
コトやん。もう七つだもの、分かるわね。
新しいお家へ行って、うんと勉強してアメリカへ連れてってもらって元気に暮らす?
東京にいる間は小石先生も遊びに行くし、寂しくないと思うけど・・・」
私は、自分が何を言っているのか分からなくなってきた。
涙でガラス窓がにじんで見えた。
コトやんは、じっと前を見詰めてまばたきもせずにコックリコックリとうなずいていた。
ここには、この少女の薄幸さと共鳴する高峰秀子という女優のクールさの秘密、つまり、こんなふうに他人を拒んできた彼女の生き方が、その贖罪感と共にありつづけていたことが、はからずも語り尽くされているのかも知れませんね。
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