IE9ピン留め
苦労人・永田雅一
いま「日本映画専門チャンネル」で「独立プロの監督たち」という特集を放映しているので、録画して少しずつ見ています。

ここのところ立て続けに「蜂の巣の子供たち」と「その後の蜂の巣の子供たち」、そして「夜明け前」を見てしまったので、頭の中が混乱してちょっと錯綜気味です。

時間がないので、見られるときに集中して見るしかないのですが、タイプとして1本ずつ丹念に長い時間をかけて楽しみたい方なので、続けて見るというのは、やはり避けた方がいいのかもしれません。

まあ、感想の方は少し時間を置いて、熟成させてからそのうちに書こうと思っています。

この特集「独立プロの監督たち」を少しずつ見ながら、平行して読んでいる本のことを、心覚えに少し抜書きしておこうと思います。

「独立プロの監督たち」を理解するためには、どうしても「あの時代」の基本的知識が必要になってくるのですが、なんといっても、まずは「独立プロ」の立役者・新藤兼人の著作にあたってみるのが早道といえるかもしれません。

そこで、新藤兼人の「追放者たち・映画のレッドパージ」(岩波書店)を読んでいるのですが、実はいままでこの本を敬遠していた理由というのが、この本の「堅苦しさ」の印象にありました。

その第一印象が、単なる誤解でなかったことが、今回読んでみてよく分かりました。

この本の全部がカチカチの「裁判記録」というわけではないのですが、多かれ少なかれその「カチカチ」と大差ないことが、今回の読書でよく分かりました。

会社からパージされた映画人の多くが泣き寝入りしたなかで、敢然と解雇無効仮処分申請を訴え出た勇敢な人々の記録なのですから、中途半端な揶揄など決して許されるわけもありません。

ましてや、映画会社を理不尽な理由で解雇されたことによって、その後の就職もままならなくなった人々は、そのために厳しい半生を強いられたことを思えば、なおさらですよね。

しかも、さらに生真面目な新藤兼人が、映画史上類のない汚点としてこの無謀な政治的処分を風化させないために後世に残しておくという使命感から書いた生真面目な記録なので、緊張して読もうと思っているのですが、当の本人(僕のことです)が、あまり「生真面目」とは縁が薄いほうなので、読んでいくうちに視点がどうしてもズレてしまいます。

悪を許さず、正義のために敢然と立ち上がって戦い抜く闘士よりも、ズルさや間抜けさを合わせ持った俗人の方に、より関心がいってしまうという捻くれたタイプなので、どうしても読書に「ハカ」がいきません。

そんな俗人のひとりに「永田雅一」がいます。

彼の魅力的な(?)スピーチが残されているので紹介するのですが、この「レッドパージ」、進駐軍の指令とはいえ、会社側がその時局(GHQの指令)に利用して(ワルノリ、といったほうが相応しいような気もしますが)、鬱陶しい連中を片っ端から処分したというのが本当みたいなので、多くの処分を実行しなければならなかった管理職たちは、それなりに緊張して生真面目な「通告者」の役どころをこなしたのでしょう。

管理職にして苦労人・永田雅一のスピーチは、そんな一筋縄ではいかない屈折したものがありました。そこにはこんなふうに書かれていました。

「今回のレッドパージは、会社としても永田個人としても不本意なものであるが、当局の命に基づくものであるからやむを得なかった。
該当者は優秀社員が多く、まことに遺憾であるが、いまのところ会社としていわゆる助命の方法がない。
しかし、人間のやったことであるから、ミスもあると思うので、該当者の中に不当を確信するものは、そのシロであるということをなんらかの形で証明してほしい。
そのときには、会社は再び喜んで受け入れることは勿論だが、責任の一端は会社にもあるのだから、納得のいく相当の慰藉も講ずる。永田は全員がシロであって復職することを希望する。」

この文章だけ読んだら、あるいはほろリとしてしまう人がいないとも限りませんが、要するにこのスピーチの骨子は、「早いとこ吐いて、楽になっちまいな。そしたら、会社に受け入れてやってもいいよ」と言いたいところを、実に巧みな人情味溢れる言い回しに捏造しているのです。

「指導者の器」という意味でなら、確かにそうだなという気がしました。
by sentence2307 | 2006-04-19 23:59 | 映画 | Trackback(2) | Comments(0)
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