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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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お国と五平

録画はしていたのですが、いままで見ることを臆していた成瀬作品があります。

「お国と五平」52です。

僕の持っている解説書には、この作品をこんなふうに紹介していました。

「成瀬には生活観のある時代劇を作ってみたいという抱負があったが、主役3人の愛欲心理の葛藤の表現に至らず情緒に流れた失敗作として、彼のフィルモグラフィーでは黙殺された形となった。」と。

よりにもよって、わざわざ「失敗作として黙殺された作品」をなにも慌てて見ることもないかというのが、この作品のチェックをずっと後回しにしてきたオモナ理由です。

しかし、ひとつの作品を評するのに、ミもフタもないこんな無能な言い方はないだろうと思います。

だいたい谷崎潤一郎の小説世界のなかに「生活観」を求めようとすること自体に違和感があるのであって、そこを成瀬巳喜男がどう料理するのかというあたりを楽しむのが鑑賞の醍醐味だと思っているので、むしろ僕は成瀬巳喜男の魅力、ひとことで言えば「優柔不断な男たちのぐずぐずとした煮え切らなさ」みたいなものは、お国の昔の愛人でもある仇=山村聡の友之丞に十分に表現されていたと思います。

それを、あくまで「谷崎」原作に拘って、例えば、従者としてお国に付き従う五平=大谷友右衛門 (きっと谷崎原作では女王様に付き従うマゾヒストの奴隷として「成熟」を遂げていくような描かれ方をしているのだろうと思いますが。偏見でしょうか。) が心酔しきっているお国を至上の美として捉え、またお国自身もミズカラ「女王様」として受けて立つようなふてぶてしさ・凛々しさみたいなものをこの映画に求めるとしたら、それは「失敗作」といわざるを得ないかもしれません。

しかし、これはあくまでも成瀬作品なのです。

武家の娘お国は、恋人と引き裂かれて親の命ずる相手と一緒にさせられ、その夫が昔の恋人に斬られてしまうと、やむなく敵討ちの旅にでて、その道中で従者の奉公人と深い仲になってしまう、という運命に弄ばれる女の哀しい流転に、映画にできるという手ごたえを成瀬は得たのだと思います。

親の意に従い恋人と別れる悲しみ、夫に無視される妻の孤独、孤独を癒すために愛欲に迷う女など、この映画の所々にとても魅力的な場面がありました。

しかし、如何せんこの谷崎原作の物語は、どこまでも「男が一方的に捉えた女の物語」というあたりが成瀬の誤算だったのかもしれませんね。

(1952東宝)製作・清川峰輔、宮城鎮治、原作・谷崎潤一郎、脚色・八住利雄、監督・成瀬巳喜男、撮影・山田一夫、美術・中古智、照明・岸田九一郎、録音・三上長七郎、音楽・清瀬保二、
出演・木暮実千代、大谷友右衛門、山村聡、田崎潤、三好栄子、広瀬嘉子、津路京子、柳谷寛、藤原釜足、音羽久米子、小倉繁、
by sentence2307 | 2006-05-06 11:52 | 成瀬巳喜男 | Comments(0)