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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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森の石松

多分、会社の意向でプログラム・ピクチャーをこなさなければならない監督に多い事例なのかもしれませんが、その人の生涯に撮られた作品群を見ていて、どう考えてもその人のタイプじゃない異色の作品というのに遭遇することが、ときたまあります。

僕にとって、吉村公三郎が松竹京都で撮った「森の石松」49が、ちょうどそういう作品でした。

「安城家の舞踏会」や「偽れる盛装」や「源氏物語」を撮った吉村公三郎が、ほぼ同時期に、どういうモチベーションで「森の石松」なんかを撮ることができたのか、どう考えても結びつかないのです。

それはきっと、「森の石松」という通俗的な物語が、女の情念にこだわるような作品の多い吉村公三郎には、到底相応しくないと考えていたからだと思います。

だからなおさら、その作品が、僕たちのそうした固定観念を一気に突き崩すようなひと癖もふた癖もある斬新な作品に違いなく、いつかは是非見てみたいという気持ちだけが募って僕の中で育ち続けていたのかもしれません。

そんなとき、たまたまWOWOWのプログラムを見ていたら「森の石松」というタイトルを見つけたので、なにはともあれ早速録画しておきました。

撮りためた録画を、ゆっくり見ることができるのは土日だけなので、待ちに待った土曜日の夜にようやく「森の石松」を見ることができました。

しかし、なんとそれはまったく別な作品でした。

またまた大チョンボです。

録画されていた作品は1957年製作の大映作品・勝新太郎主演の「森の石松」でした。

僕たちが講談や浪曲でよく知っている極めてオーソドックスな、そのまんまの「森の石松」です。

清水の次郎長役は黒川弥太郎、そして都鳥の吉兵衛役は小堀明男が演じています。

マキノ雅広監督が東宝で撮った「次郎長三国志」シリーズで次郎長を演じたのが小堀明男だったこととか、山中貞雄が京都太秦で撮った日活での最後の作品「森の石松」37で次郎長を演じたのが黒川弥太郎だったとか、などを思い出しながら、この作品を見ました。

わが国の三国志は、天下国家の乱れを憂いた豪傑たちの一大戦記ではありません。

わずかな縄張りと利権を奪い合い、闇討ちと奇襲を延々と繰り返すだけの、なんとも救いのない話ではあります。

しかし、大衆の絶大なる支持によって延々とヒットし続けた「次郎長三国志シリーズ」の揺るぎ無い事実を前にしては、僕の愚痴も無力化されてしまうのは当然なことかもしれません。

そして、大衆が「森の石松」の何を支持しようとしているのか、が僕の長年の疑問でした。

たとえば、安倍晋三前首相が、超めぐまれた環境のなかに生を受け、ひたすらエリート・コースを歩んだ生い立ちを経て、民衆感覚から遥かに隔たったブヨブヨの感性を培ったその最後で、まるでそれらの報いを受けるかのような、ほんのかすかな挫折と完全な失墜に終わった皮肉な物語を、はたして大衆は「森の石松物語」のように支持するかどうか。

「森の石松」という物語の魅力は、きっとその下降性と陰惨な自滅とにあり、まだ想像するしかありませんが、吉村公三郎作品の「森の石松」もそのあたりを描いているのではないかというのが期待というか、いまだ果たされていない僕の吉村作品への夢のような想像です。

(57大映京都撮影所)製作・酒井箴、企画・山崎昭郎、監督・田坂勝彦、助監督・佐藤渉、脚本・村松正温、撮影・武田千吉郎、音楽・渡辺浦人、美術・神田孝一郎、録音・奥村雅弘、照明・古谷賢次、スチール・杉山卯三郎、製作主任・黒田豊、
出演・勝新太郎、小野道子、阿井美千子、黒川弥太郎、千葉登四男、春風すみれ、小堀明男、浜世津子、ダイマル、ラケット、潮万太郎、荒木忍、寺島雄作、原聖四郎、伊達三郎、五代千太郎、東良之助、葛木香一、光岡龍三郎、南条新太郎、堀北幸夫、玉置一恵、浜田雄史、藤川準、 郷登志彦、大国八郎、武田龍、沖時男、小柳圭子、金岡磨理子、
1957.09.03 10巻 2,384m 白黒
Commented by clonecd580 at 2011-05-10 17:07 x
If parents could only realize how they bore their children!
Commented by Malinda Hernandes at 2013-04-13 01:33 x

I was able to find good information from your articles.
by sentence2307 | 2007-11-04 19:14 | 吉村公三郎 | Comments(2)