ローマの休日
2004年 11月 06日
アン王女は、そこで始めて彼が新聞記者だったことを知り驚きます。
その表情は、愛する人との再会の喜びより、不安に満ちた困惑の表情に覆われています。
この場面は、うら若い乙女が初めて恋心を抱いた相手との再会に胸をときめかせる一人の「娘」としてよりも、スキャンダルを新聞記者に逐一握られていることを恐れる「公人」としての危惧に支配されていて、彼女の恋心が戸惑いの中で微妙に動揺をみせる繊細な場面です。
ジョーの方も、その前夜に宿舎近くまで王女を見送り、何もかもを知りながら溢れる思慕の情に任せて別離のkissを交わしています。
スクープをとるか放棄するか、迷いながら二人は記者会見場で相対しています。
二人を隔てるこの絶望的なくらいの身分的な距離を見せることによって、別離の演技を更に繊細なものにしているのだと思いました。
ジョーひとりと握手を交わすために、多くの記者たちと握手し紋切り型の社交辞令を交わしながら、王女の心は総てジョーに向かっていて、少しずつ近づいてゆく際のときめきが直に伝わってくる素晴らしい場面です。
そして、いよいよジョーと握手を交わす瞬間、それが、喜びよりも、本当の別離をお互いに確認するための触れ合いでしかないことが、二人の諦念に満ちた微笑からも分かるのです。
王女と新聞記者という決定的な身分的隔たりをお互いがはっきりと認識する瞬間です。
やがて、次の記者へと挨拶に移動して行くヘップバーンの繊細な演技は、幾度見ても胸打たれます。
グレゴリー・ペックの像が、徐々に薄れ遠ざかっていく背景の中で捉えるヘップバーンの振り向くことすら許されない淋しそうに微笑む横顔は、いま終わったばかりの恋が、少しずつ距離を増しながら失われていく象徴的なすばらしいシーンでした。