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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ

「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」タイトルが長すぎて、タイトル字数制限に引っかかってしまうような、この作品は、そんな映画です。

これがデビュー作とは、ガイ・リッチーという人、ただ者ではありません。

一筋縄ではいかないなんてもんじゃない、ひと癖もふた癖もありすぎる有象無象のかなりアクの強い多彩な登場人物を軽快に捌いて、それでいてぶっちぎりの爽快な疾走感もあり、スタイリッシュで、くすぐりもちゃんと仕掛けられた、そして、なによりも心地よいブラックさ加減です。

なんか言葉にすると、タランティーノを連想させてしまうかもしれませんが、印象としては、捌きの名手タランティーノでさえ、この作品に比べたら、なにか少しもたつきを感じさせる位いでした。

あるいは、そのもたつき感は、きっと、タランティーノがカッチリとした硬派な絵作りに拘るため、神経を細部に行き渡らせようとすることからくるリバウンドのようなものかもしれません。

そんな気がしました。

登場する人物は、ギャングはギャングでも凄く生真面目で、義理人情にも厚そうな常識人ですしね。

「あんまり、かっこつけすぎるのも、なんか堅苦しくって、疲れんだよね」って感じでしょうか。

話の内容も、基本的にはモラリステックな感じがします。

人の道を外さない任侠道ってところでしょうか。

実録もの以前の、日本のやくざ映画の登場人物そのままなのが、とても微笑ましいのですが、自分を縛り付けるようなそんな行き方が、果たして長持ちするのかどうか、ちょっと心配です。

しかし、この「ロック、ストック&・・・」の方は、そういう観念的な「つくられたもの」を全然感じませんでした。

なんでもありなのです。

制約なんてまるでなしの、放し飼いの自由です。

撮り方・考え方・話の組み立て方、人物設定も多彩で、やたらアナーキーで、これは頭の中で考え組み立てただけのものではないことが、すぐに分かりました。

きっとこういう人たちがガイ・リッチーのそばに実際にいるに違いないと思えるくらいのリアリズムです。

だからひとつひとつの描写が、なんか笑っちゃいながらも、それぞれが超ド級の迫力をもち得たのだと思いました。

ポルノの帝王ハリー、このボスをカードではめようとしてズッコケルところから物語は始まります。

テレビ好きの黒人の麻薬王とかも相当変ですが、なんといってもピカイチなのは、することやること矢鱈えげつないのに、言葉遣いだけは、嫌やに厳しい取立て屋の親子の描き方のが物凄さには感心しました。

最後のほうで、取立て屋の子供の首にナイフ突き付けて脅しにかかってきたギャングを殴り倒したうえ、そいつの頭を車のドアで叩き潰していた際、死に行く者に浴びせていた罵りの言葉の内容は、子供を危険な目にあわせたなんてことじゃなくて、自分に対する言葉遣いがなっちゃいないの、どうのこうのっていう内容でした。

誠にもって恐れ入谷の鬼子母神という感じでした。

普段はクールな強面の親爺が、その時だけは狂気のように逆上していました。

「こんなサナカに、言葉遣いねえ」です。

散々撃ちまくって家は瓦礫と化し、殺し合って死体の山をこさえるこのハチャメチャ・クライム・ムービーが、ごく狭い地域のご近所同士で行われているというのも笑わせます。

計算を感じさせないこれだけの捌きの手腕は、なかなかのものと感じ入りました。
by sentence2307 | 2004-11-07 11:52 | 映画 | Comments(0)