世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


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2006年 04月 01日 ( 3 )

《参考》 新藤兼人

1912年・明治45年、広島県佐伯郡大字石内村(現・広島市佐伯区五日市町〉に生まれる。

石内村は広島市内から一山越えた農村で、豪農の家に生まれるが、父が借金の連帯保証人になったことで、14歳の頃に一家は離散。高等科に進み広島市内へ活動写真を見に通う、夜遅く提灯を下げて山を越えて帰宅した。

1933年、尾道の兄宅に居候中に見た山中貞雄の映画『盤獄の一生』に感激して映画監督を志す。

1年半のアルバイトで金を貯め、なんのあてもないまま京都へ出る。助監督への道は狭く1934年、新興キネマに入社、現像部でフィルム乾燥雑役から映画キャリアをスタートさせたのは満州国が帝制に移行した年。辛い水仕事を一年ほどしたとき撮影所の現像部で見たシナリオに「映画の秘密がある」とシナリオ修業を決意、独学で脚本術を研鑽した。

新興キネマ現像部の東京移転に同行し美術部門に潜り込む。美術助手として美術デザインを担当。仲間からは酷評されても暇を見つけてシナリオを書き続け投稿して賞を得るが、映画化はされなかった。

家が近所だった落合吉人が監督に昇進し、脚本部に推薦され『南進女性』で脚本家デビューする。

1941年京都の興亜映画に出向し、溝口健二の『元禄忠臣蔵』の建築監督として溝口健二作品に携わりながら以後溝口に師事し脚本を執筆する。

シナリオを1本書いて溝口に提出するが、「これはシナリオではありません、ストーリーです」と酷評され大きなショックを受ける。劇作集を読みあさり再出発を誓う。

1942年、情報局の国民映画脚本の公募に応募、佳作に終わる。当選は東宝の助監督、黒澤明の『静かなり』であった。

翌年『強風』が当選。これを知った溝口から連絡があり生涯ただ1度だけ祇園で御馳走にあずかる。

1944年、所属していた興亜映画が松竹大船撮影所に吸収され脚本部員として移籍。同年4月、1本も書かないうちに応召され二等兵として呉海兵団に入団。既に32歳ながら10代の若者にこき使われ、彼らの身の周りの世話をする。上官にはクズと呼ばれ、木の棒で気が遠くなる程叩かれ続けた。兵隊は叩けば叩くほど強くなると信じられていた時代だった。同期の若者は大半が前線に送られた。

1945年、宝塚海軍航空隊で終戦。宝塚歌劇団の図書館で戯曲集を全部読み終え松竹大船に復帰。

同年秋書いた『待帆荘』がマキノ正博によって映画化され1947年のキネマ旬報ベストテン4位となり初めて実力が認められた。

1946年と1949年に溝口のために『女性の勝利』と『わが恋は燃えぬ』を書く。

1947年、吉村公三郎と組んだ『安城家の舞踏会』は大ヒットしベストテン1位も獲得、この決定的な評価によってシナリオライターとしての地歩を築いた。その後は吉村とのドル箱コンビでヒットを連発。木下恵介にも『結婚』、『お嬢さん乾杯』を書く。

1949年、『森の石松』の興行的失敗や『愛妻物語』に会社首脳が「新藤のシナリオは社会性が強くて暗い」などとクレームをつけるなど初監督作品をめぐる会社との対立から、1950年に盟友・吉村監督とともに独立を決意して松竹を退社し、作家としての主体性を貫くべく独立プロダクションの先駈けとなる近代映画協会を吉村公三郎、俳優・殿山泰司らと共に旗揚げした。

1951年、『愛妻物語』で39歳にして宿願の監督デビューを果たす。以後、自作の脚本を自ら監督するスタイルが確立。主演した大映の看板スター乙羽信子がこれをきっかけに近代映画協会へ参加する。また大映に持ち込んだ『偽れる盛装』が1951年大ヒット、新藤=吉村コンビの最高傑作となった。

作家主義を貫く近代映画協会において、大手会社では実現困難な社会的テーマを掲げた企画に次々と取り組み、52年には、労組などのカンパで自主製作映画第1作「原爆の子」を発表し、原爆を描いた初の劇映画として大きな注目が集まった。

翌1953年、カンヌ国際映画祭に出品。米国がこの作品に圧力をかけ、受賞に外務省が妨害工作を試みた。また西ドイツでは反戦映画として軍当局に没収されるなど各国で物議を醸した(現在ではヨーロッパでの上映は多い)。以後劇団民藝の協力やカンパなどを得て数多くの作品を発表するも、しかし芸術性と商業性との矛盾に悩み失敗と試行錯誤を繰り返した。

1960年離島の農民一家が大地にへばりつくように生きる姿を淡々と描き出した台詞のない映画詩『裸の島』は資金が無いため、近代映画協会の解散記念にとキャスト2人・スタッフ11人で瀬戸内海ロケを敢行し1ヶ月かけて550万円で作り上げたこの作品でモスクワ国際映画祭グランプリを獲得し、一躍新藤兼人は世界の映画作家として認められることとなった。世界中に上映権を売りまった結果、世界62ヶ国で売れてそれまでの借金をすべて返済した。

その後放射能を題材とした『第五福竜丸』59など意欲的な自主製作を次々と発表し、独立プロ運動の重要な役割を果たすとともに独立プロ運動を牽引する第一人者となった。

62年「人間」、64年「鬼婆」、70年連続拳銃事件の永山則夫を題材にした「裸の十九才」、77年「竹山ひとり旅」、『さくら隊散る』、家庭内暴力に材を取った『銃殺』、死と不能をテーマにした『性の起源』、老いをテーマとした『午後の遺言状』などなど独自のテーマに基づいた多くの問題作を発表。また頼まれた仕事は断らないを信条に自作の制作と平行に日本映画の数多くの作品の脚本を手がけた。中には映画史に残る名作、話題作や評価の低い作品と色々あるが、「優れた芸術家は多作である」という観点から意欲的な活動を展開している。

評価の高い作品としては川島雄三監督『しとやかな獣』62、鈴木清順監督『けんかえれじい』66、などがある。また神山征二郎監督『ハチ公物語』87、「午後の遺言状」95、「三文役者」00、そして最新作の『ふくろう』04に至るまで、40本以上の監督作そして200本以上のシナリオを世に送り出した。また、それらの作品を語る際には、監督の生涯のパートナーだった女優・乙羽信子や、名脇役・殿山泰司といった同志たちの存在も忘れることはできない。

怪作としては江戸川乱歩の原作をミュージカル仕立てにした『黒蜥蜴』(1962年)などがある。TVドラマ、演劇作品も含めると手がけた脚本は370本にも及び、数えきれない程の賞を受賞した。「ドラマも人生も、発端・葛藤・終結の三段階で構成される」というのが持論である。現在も現役で活躍、70年の映画キャリアを誇り、世界最長老の映像作家と思われる。尚、近代映画協会は一時100近く有った独立プロのうち唯一成功し現在も作品を送り出している。

結婚は3度経験して、1994年に死去した女優の乙羽信子は3度目の妻。

長年の映画製作に対して、76年に独立プロの実績が高く評価され朝日賞を受賞し、1997年に文化功労者を、2002年に文化勲章を授与された。1996年、日本のインディペンデント映画の先駆者である新藤の業績を讃え、独立プロ58社によって組織される日本映画製作者協会に所属する現役プロデューサーのみが、その年度で最も優れた新人監督を選ぶ新藤兼人賞を新たに創設した。 

主な監督作品
1951年「愛妻物語」キネマ旬報ベストテン10位
1952年「原爆の子」チェコスロバキア国際映画祭グランプリ、英国アカデミー国連賞、メルボルン映画祭グランプリ
1953年「縮図」キネマ旬報ベストテン10位
1959年「第五福竜丸]キネマ旬報ベストテン8位
1960年「裸の島」モスクワ映画祭グランプリ、キネマ旬報ベストテン6位
1962年「人間」芸術祭文部大臣賞
1963年「母」毎日芸術賞、キネマ旬報ベストテン8位
1964年「鬼婆」
1965年「悪党」(原作:谷崎潤一郎)キネマ旬報ベストテン9位
1966年「本能」キネマ旬報ベストテン7位
1967年「性の起原」
1968年「薮の中の黒猫」
1969年「かげろう」キネマ旬報ベストテン4位、芸術祭優秀賞
1970年「裸の十九才」モスクワ映画祭金賞、キネマ旬報ベストテン10位
1974年「わが道」キネマ旬報ベストテン6位
1975年「ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」キネマ旬報ベストテン1位・監督賞
1977年「竹山ひとり旅 」 - モスクワ映画祭監督賞、キネマ旬報ベストテン2位
1981年「北斎漫画」キネマ旬報ベストテン8位
1988年「さくら隊散る」キネマ旬報ベストテン7位
1992年「墨東綺譚」キネマ旬報ベストテン9位
1996年「午後の遺言状」キネマ旬報ベストテン1位、日本アカデミー賞最優秀作品賞 他多数
1999年「生きたい」モスクワ映画祭グランプリ
2003年「ふくろう」
2003年「三文役者」キネマ旬報ベストテン6位

主な脚本作品
1946年「待ちぼうけの女」監督:マキノ正博  
1946年「女性の勝利」監督:溝口健二  
1947年「安城家の舞踏会」監督:吉村公三郎 キネマ旬報ベストテン1位
1948年「四人目の淑女」監督:渋谷実  
1948年「幸福の限界」監督:木村恵吾  
1948年「わが生涯のかがやける日」監督:吉村公三郎 キネマ旬報ベストテン5位
1949年「お嬢さん乾杯」監督:木下恵介 キネマ旬報ベストテン6位
1949年「森の石松」監督:吉村公三郎 キネマ旬報ベストテン9位
1950年「長崎の鐘」監督:大庭秀雄   
1951年「舞姫」監督:成瀬巳喜男   
1951年「上州鴉」監督:冬島泰三   
1951年「自由学校」監督:吉村公三郎  
1951年「偽れる盛装」監督:吉村公三郎 キネマ旬報ベストテン3位
1951年「源氏物語」監督:吉村公三郎  キネマ旬報ベストテン7位
1952年「西陣の姉妹」監督:吉村公三郎  
1953年「夜明け前」監督:吉村公三郎 
1953年「女ひとり大地を行く」監督:亀井文夫   
1954年「足摺岬」監督:吉村公三郎 
1955年「美女と怪龍」監督:吉村公三郎  キネマ旬報ベストテン10位
1956年「あやに愛しき」監督:宇野重吉   
1956年「赤穂浪士 天の巻・地の巻」監督:松田定次   
1957年「美徳のよろめき」監督:中平康 
1957年「うなぎとり」監督:木村荘十二 
1958年「夜の鼓」監督:今井正 
1958年「裸の太陽」監督:家城巳代治 キネマ旬報ベストテン5位
1959年「からたち日記」監督:五所平之助 
1960年「大いなる驀進」監督:関川秀雄 
1960年「がんばれ!盤獄」監督:松林宗恵 
1960年「路傍の石」監督: 久松静児
1961年「献身」監督: 田中重雄
1962年「しとやかな獣」監督:川島雄三 キネマ旬報ベストテン6位
1962年「黒蜥蜴」監督:井上梅次 
1962年「鯨神」監督: 田中徳三
1962年「斬る」監督:三隅研次  
1964年「卍(まんじ)」監督:増村保造 
1964年「傷だらけの山河」監督:山本薩夫 キネマ旬報ベストテン7位
1964年「駿河遊侠伝 賭場荒し」監督:森一生 
1966年「こころの山脈」監督:吉村公三郎 キネマ旬報ベストテン8位
1966年「座頭市海を渡る」監督:池広一夫 
1966年「けんかえれじい」監督:鈴木清順 
1966年「刺青」監督:増村保造 
1967年「華岡青洲の妻」監督:増村保造 キネマ旬報ベストテン5位
1972年「軍旗はためく下に」監督:深作欣二 キネマ旬報ベストテン2位
1972年「混血児リカ」監督:中平康 
1975年「昭和枯れすすき」監督:野村芳太郎 
1978年「事件」監督:野村芳太郎   - キネマ旬報ベストテン4位
1978年「危険な関係」監督:藤田敏八  
1979年「配達されない三通の手紙」監督:野村芳太郎 
1980年「地震列島」監督:大森健次郎 
1980年「遥かなる走路」監督:佐藤純弥 
1983年「積木くずし」監督:斎藤光正 
1983年「映画女優」監督:市川崑  - キネマ旬報ベストテン5位
1987年「ハチ公物語」監督:神山征二郎 
1992年「遠き落日」監督:神山征二郎 
1999年「おもちゃ」監督:深作欣二 
1999年「完全なる飼育」監督:和田勉 
2001年「大河の一滴」監督:神山征二郎

著書
『ある映画監督―溝口健二と日本映画』
『老人読書日記』
『女の一生―杉村春子の生涯』
『弔辞』(岩波新書)『午後の遺言状』
『三文役者の死―正伝殿山泰司』
『追放者たち』
『愛妻記』(岩波書店)
『新藤兼人の足跡』(全6巻)著作集 他多数
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by sentence2307 | 2006-04-01 16:59 | 映画 | Comments(7)
【松川事件】
戦後の典型的な冤罪事件として知られる列車妨害事件を描いたドキュメント・ドラマで、製作費4,500万円全額がカンパでまかなわれた。新藤は嘘の自白をしてしまった男の弱さを描こうとしたが、そのために製作委員会と対立し、山形雄策により修正されたという。
(61松川事件劇映画製作委員会)(監督)山本薩夫(脚本)新藤兼人、山形雄策(撮影)佐藤昌道(美術)久保一雄(音楽)林光
(出演)宇野重吉、宇津井健、永井智雄、西村晃、多々良純、千田是也、加藤嘉、永田靖、下元勉、織田政雄、沢村貞子、北林谷栄、岸旗江、高友子、岸輝子
(162分・35mm・白黒)

【青べか物語】
干潟の広がる江戸川河口の町にやってきた文士先生と、地元のアクの強い面々との聖俗まみれた交わりを描いた周五郎文学の映画化。野卑な老人に徹した東野英治郎の芝居が絶品である。派手な発色をあえて抑えた岡崎宏三のカラー撮影術にも注目。
(62東京映画)(監督)川島雄三(原作)山本周五郎(脚本)新藤兼人(撮影)岡崎宏三(美術)小島基司(音楽)池野成
(出演)森繁久弥、池内淳子、左幸子、乙羽信子、フランキー堺、山茶花究、園井啓介、東野英治郎、中村メイコ、丹阿弥谷津子、加藤武、桂小金治
(100分・35mm・カラー)

【斬る】
虚無をたたえた天才剣客(市川)の半生を、鋭利な演出で彩った異色時代劇。美術監督・内藤昭によれば、大幅にセリフを切り詰め、ト書きさえ「詩のような書き方」に徹した新藤の脚本を三隅監督は全面的に尊重したという。三隅は『愛妻物語』のセカンド助監督だった。
(62大映京都)(監督)三隅研次(原作)柴田錬三郎(脚本)新藤兼人(撮影)本多省三(美術)内藤昭(音楽)斉藤一郎
(出演)市川雷蔵、藤村志保、渚まゆみ、万里昌代、成田純一郎、丹羽又三郎、友田輝、柳永二郎、天知茂
(71分・35mm・カラー)

【人間】
59日の間海上を漂流し、人肉食いの危機に直面した漁船員たちに肉薄した野上弥生子の「海神丸」を原作に仰ぐ。新藤の主眼は「人間が獣に移行するプロセス」であり、そのため動物園に赴いて牛、熊などいろいろな動物の生態を観察したという。
野上弥生子の小説「海神丸」を新藤兼人が脚色・監督した秀作人間ドラマ。食料はおろか水までもなくなってしまった難破船という極限状態の中で次第に精神に異常を来しはじめる4人の人間たちの姿を、冷徹な視点で淡々と描写。人間の“生きる闘い”の姿の中に人間そのものを追求する意欲作。「裸の島」に続いてスタッフ・出演者は静岡県松崎町に合宿しオールロケで制作された。
(62近代映画協会)(監督脚本美術)新藤兼人(原作)野上弥生子(撮影)黒田清己(音楽)林光
(出演) 乙羽信子、殿山泰司、佐藤慶、山本圭、加地健太郎、渡辺美佐子、村山知義、観世栄夫、浜村純
(117分・35mm・白黒)

【しとやかな獣】
舞台劇のようにセリフが多く、ほとんどが団地の部屋のワンセット撮影という新藤の野心たぎる密室劇。川島雄三は、凍りつくような笑いに満ちた新藤のオリジナル・シナリオに惚れ込んだものの、登場人物が性悪ばかりという設定のため製作会社探しに苦労したという。
(62大映東京)(監督)川島雄三(原作脚本)新藤兼人(撮影)宗川信夫(美術)柴田篤二(音楽)池野成
(出演)若尾文子、伊藤雄之助、山岡久乃、高松英郎、小沢昭一、船越英二、山茶花究、ミヤコ蝶々、浜田ゆう子、川端愛光
(96分・35mm・カラー)

【母】
敗戦後間もない広島に生きる、バラック住まいの戦争寡婦(乙羽)とその母(杉村)。望まぬ結婚でできた新しい生命をどうするか、女の決意表明が描かれる。のちに頻繁に取り上げられる“性”のテーマを初めて本格的に前面に出した、新藤流の“母性”論。
(63近代映画協会)(監督脚本美術)新藤兼人(撮影)黒田清己(音楽)林光
(出演)乙羽信子、杉村春子、殿山泰司、髙橋幸治、頭師佳孝、宮口精二、佐藤慶、加藤武、武智鉄二、小川真由美、夏川かほる、本山可久子、横山靖子
(101分・35mm・白黒)

【鬼婆】
中世の戦乱期、落武者を殺しては武具を売りさばいて暮らす二人の女(乙羽・吉村)のもとに戦場帰りの男(佐藤)が現れ、女たちの生活にさざなみを立てる。新藤自らが代表作に挙げる映画の一つで、ススキの野原を捉える黒田清巳の撮影も素晴らしい。
(64近代映画協会)(監督脚本美術)新藤兼人(撮影)黒田清巳(美術)松本博史(音楽)林光
(出演)乙羽信子、吉村実子、佐藤慶、宇野重吉、殿山泰司、松本染升、加地健太郎、荒谷甫水、田中筆子
(102分・35mm・白黒)

【清作の妻】
愛する夫(田村)を戦場に送り出したくないがために、その目を釘で貫いてしまう妻(若尾)を描いた増村保造作品。日本初の反戦映画とも呼ばれた1924年の村田実作品のリメイクだが、新藤は吉田絃二郎の原作を大幅に変え、男女の情念を中心に据えた。
(65大映東京)(監督)増村保造(原作)吉田絃二郎(脚本)新藤兼人(撮影)秋野友宏(美術)下河原友雄(音楽)山内正
(出演)若尾文子、田村高廣、千葉信男、紺野ユカ、殿山泰司、早川雄三、成田三樹夫、潮万太郎、穂高のり子、杉田康
(93分・35mm・白黒)

【惡党】
原作は谷崎潤一郎の「顔世」。南北朝時代、成り上がりの権力者(小沢)が他人の妻(岸田)に惚れ、彼女を横取りしようとしつこく策略を巡らすが…。京都府亀岡市に寝殿造のオープンセットを組み、新藤組おなじみの合宿撮影を敢行した。
(65近代映画協会=東京映画)(監督脚本)新藤兼人(原作)谷崎潤一郎(撮影)黒田清巳(美術)丸茂孝(音楽)林光
(出演)岸田今日子、小沢栄太郎、乙羽信子、木村功、宇野重吉、高橋幸治、殿山泰司、加地健太郎、江角英明、川口敦子
(119分・35mm・白黒)

【刺青】
背中に女郎蜘蛛の入れ墨を彫られて芸妓となり、魔性の女へと変貌してゆく質屋の娘(若尾)の悲劇。「刺青」と「お艶殺し」をベースに、新藤はそうした初期谷崎らしいケレン味ある残酷さを活かした。宮川・西岡など大映京都撮影所の名スタッフたちの仕事にも注目。
(66大映京都)(監督)増村保造(原作)谷崎潤一郎(脚本)新藤兼人(撮影)宮川一夫(美術)西岡善信(音楽)鏑木創
(出演)若尾文子、長谷川明男、山本学、佐藤慶、須賀不二男、内田朝雄、藤原礼子、毛利菊枝
(86分・35mm・カラー)

【座頭市海を渡る】
「座頭市」シリーズの14作目で、シリーズ唯一の新藤脚本。座頭市が本州を離れて四国の礼所めぐりをする設定も、斬った男の娘(安田)の刃を甘んじて受けてしまう展開も珍しい。西部劇への敬意も感じられるアクション・シーンは池広監督らしい演出。
(66大映京都)(監督)池広一夫(原作)子母沢寛(脚本)新藤兼人(撮影)武田千吉郎(美術)西岡善信(音楽)斎藤一郎
(出演)勝新太郎、安田道代、井川比佐志、三島雅夫、山形勲、田中邦衛、五味龍太郎、千波丈太郎、東野孝彦
(82分・35mm・カラー)

【本能】
被爆のために性的不能に陥った男が、蓼科高原の自然の中で体験する新しい世界。新藤の映画を彩る二つの鍵、“原爆”と“性”が混沌と融け合っており、撮影後は「やりたいことを、やりたいようにやった」と述懐している。『人間』で見いだされた能楽界の異端児・観世栄夫の主演作。
(66近代映画協会)(監督脚本)新藤兼人(撮影)黒田清巳(音楽)林光
(出演)観世栄夫、乙羽信子、東野英治郎、殿山泰司、宇野重吉、島かおり、田中筆子、川口敦子、蓼くにえ、江角英明、大木正司、草野大悟
(103分・35mm・白黒)

【けんかえれじい】
時代は昭和の初期。日々喧嘩に明け暮れながらも、恋に目覚めてしまった硬派学生(高橋)の苦い青春を描く。コミカルなタッチの中にも詩性がきらめく、鈴木清順の代表作の一つである。やや唐突な結末は、新藤の脚本ではなく鈴木監督の意図とされる。
(66日活)(監督)鈴木清順(原作)鈴木隆(脚本)新藤兼人(撮影)萩原憲治(美術)木村威夫(音楽)山本直純
(出演)高橋英樹、浅野順子、川津祐介、宮城千賀子、加藤武、玉川伊佐男、浜村純、佐野浅夫、松尾嘉代、野呂圭介
(86分・35mm・白黒)

【華岡青洲の妻】
全身麻酔手術に挑もうとする医師・青洲(市川)のため、人体実験の被験者に志願する妻(若尾)と母(高峰)の凄絶な対立を見せる。有吉の重厚な構想力、新藤の繊細な人物造型、増村の鋭利な演出が三つ巴になって生み出された傑作。
(67大映京都)(監督)増村保造(原作)有吉佐和子(脚本)新藤兼人(撮影)小林節雄(美術)西岡善信(音楽)林光
(出演)市川雷蔵、若尾文子、伊藤雄之助、渡辺美佐子、丹阿弥谷津子、原知佐子、浪花千栄子、内藤武敏、伊達三郎、田武謙三、木村玄、南部彰三
(99分・35mm・白黒)

【薮の中の黒猫】
平安末期の争乱の頃を舞台に、虐殺された女の怨念を幻想的に描いた怪談。「今昔物語」から出発しながらも、実は、新藤家に棲みついた黒猫が着想の源になったという。『雨月物語』の影響が感じられ、新人・太地喜和子のエロティックな魅力も評判になった。
(68近代映画協会=日本映画新社)(監督脚本)新藤兼人(撮影)黒田清己(美術)丸茂孝、井川徳道(音楽)林光
(出演)中村吉右衛門、乙羽信子、佐藤慶、戸浦六宏、太地喜和子、殿山泰司、観世栄夫、江角英明、大木正司、加地健太郎
(99分・35mm・白黒)

【強虫女と弱虫男】
炭鉱の閉鎖で失業した夫(殿山)と、やむなく京都に出て「ネグリジェサロン」のホステスになった妻と娘(乙羽・山岸)をめぐるコメディ。新藤は創作ノートで、この女たちを生命感あふれる「新種のキノコ」になぞらえ、底辺の人間から立ち上がるヴァイタリティを謳いあげた。
(68近代映画協会=松竹)(監督脚本)新藤兼人(撮影)黒田清巳(美術)井川徳道(音楽)林光
(出演)乙羽信子、山岸映子、殿山泰司、観世栄夫、中村良子、草野大悟、戸浦六宏、川口敦子
(107分・35mm・白黒)

【かげろう】
バーのマダムの死体が尾道の海に浮かび、捜査を始めた刑事は20年前の殺人事件に突き当たる。瀬戸内の美しい風景の中に女の復讐劇があぶり出されてゆく。スタッフは「集団創造」の原則を固守、広島県三原市を中心に、合宿をしながら3か月にわたるロケを行った。
(69近代映画協会)(監督脚本)新藤兼人(脚本)関功(撮影)黒田清己(美術)井川徳道(音楽)林光
(出演)乙羽信子、戸浦六宏、伊丹十三、殿山泰司、富山真沙子、宇野重吉、小沢栄太郎、吉沢健、菅井一郎、山村弘三、北林谷栄
(103分・35mm・白黒)

【裸の十九才】
19歳の永山則夫による連続射殺事件(1968年)をモデルにした作品で、役名は異なるがかなり忠実な映画化である。集団就職で上京した少年が転落してゆく様を、これがデビューとなる原田大二郎が演じたが、脚本は少年の生い立ちや母親像も細かく追っている。
(70近代映画協会)(監督脚本)新藤兼人(脚本)松田昭三、関功(撮影)黒田清巳(美術)春木章(音楽)林光、小山恭弘
(出演)乙羽信子、原田大二郎、草野大悟、佐藤慶、渡辺文雄、殿山泰司、河原崎長一郎、観世栄夫、小松方正、戸浦六宏、太地喜和子
(120分・35mm・白黒)

【軍旗はためく下に】
夫(丹波)が亡くなったいきさつを知ろうと、戦争寡婦(左)は執念で夫の戦友たちを訪ね歩くが、それぞれの証言は食い違い、やがて人肉喰いの事実や卑劣な上官の存在が暴かれる。「戦後処理」の不可能性において、新藤と深作欣二が共鳴しあった迫力ある一本。
(72東宝=新星映画)(監督脚本)深作欣二(原作)結城昌治(脚本)新藤兼人、長田紀生(撮影)瀬川浩(美術)入野達弥(音楽)林光
(出演)左幸子、丹波哲郎、江原真二郎、夏八木勲、中村翫右衛門、三谷昇、中原早苗、内藤武敏、藤田弓子
(96分・35mm・カラー)

【鉄輪(かなわ)】
夫に裏切られた女が生霊となり、夫と愛人を恨んで呪いの五寸釘で祈り殺そうとする能の「鉄輪」が本作の出発点。セックスと嫉妬というテーマを全面展開しながら、古代・現代の2つのストーリーを同時に進めてゆく。頭に鉄輪をかぶった乙羽信子の演技が鬼気迫る。
(72近代映画協会)(監督脚本)新藤兼人(撮影)黒田清己(美術)春木章(音楽)林光
(出演)乙羽信子、観世栄夫、フラワーメグ、戸浦六宏、殿山泰司、原田大二郎、川口敦子、蓼くにえ、中村門
(91分・35mm・カラー)

【讃歌】
盲目の三味線師匠・春琴(渡辺)と丁稚・佐助の秘められた情愛を綴る名作「春琴抄」が原作。すでに複数の映画化作品があるが、新藤はとりわけ男のマゾヒズムを強調し、それをきめ細やかに描き出している。
(72近代映画協会=日本アート・シアター・ギルド)(監督脚本)新藤兼人(原作)谷崎潤一郎(撮影)黒田清己(美術)渡辺竹三郎(音楽)林光
(出演)渡辺督子、河原崎次郎、乙羽信子、原田大二郎、殿山泰司、戸浦六宏、草野大悟、武智鉄二、初井言栄
(112分・35mm・カラー)

【心】
漱石の名作「こころ」を、学生運動の高揚の余韻が残る1970年代に移植した作品。だが単に時代の風俗になじませたのではなく、下宿屋の娘の人物造型などには原作への新藤の挑戦が感じられる。登場人物K(=「先生」)役は、劇団四季の人気俳優だった松橋登。
(73近代映画協会=日本アート・シアター・ギルド)(監督脚本)新藤兼人(原作)夏目漱石(撮影)黒田清巳(美術)難波一甫(音楽)林光
(出演)松橋登、辻萬長、杏梨、乙羽信子、殿山泰司、荒川保男
(87分・35mm・カラー)

【わが道】
青森からの出稼ぎ男性が東京で行き倒れ、身元不明のまま医科大学の解剖実験材料にされた事件をもとに作られた告発の一篇。青森を訪問していた近代映画協会のプロデューサー能登節雄が、自伝を映画化してほしいという人物の提案を承諾して実現した。
(74「わが道」製作実行委員会=近代映画協会)(監督脚本)新藤兼人(撮影)黒田清巳(美術)大谷和正(音楽)林光
(出演)乙羽信子、殿山泰司、戸浦六宏、金井大、河原崎長一郎、佐藤慶、伊丹十三、森本レオ、堀内正美、岡田英次、渡辺文雄
(130分・35mm・カラー)

【ある映画監督の生涯 私家版】
若き日、溝口健二に強烈なインパクトを受けた新藤が、生前の溝口と仕事をした映画人に自らインタビューして作ったドキュメンタリー。裏話に終始することなく、その人間性や創作過程にも迫ろうとした執念が感じられる。
(75近代映画協会)(監督脚本)新藤兼人(撮影)三宅義行
(出演)田中絹代、依田義賢、入江たか子、永田雅一、香川京子、山田五十鈴、京マチ子、伊藤大輔、宮川一夫、増村保造ほか
(150分・35mm・カラー)

【竹山ひとり旅】
津軽三味線の不世出の名手・高橋竹山の流浪時代を、本人のインタビューと演奏を交えて描く。暗澹とした修業時代を描きながらも、主演の林隆三の演技がユーモアを与えていて重苦しさを感じさせない。泥棒役の川谷拓三が小さい役ながら存在感を見せている。
(77近代映画協会=ジャンジャン)(監督脚本)新藤兼人(撮影)黒田清巳(美術)大谷和正(音楽)林光
(出演)高橋竹山、林隆三、乙羽信子、倍賞美津子、観世栄夫、根岸明美、川谷拓三、戸浦六宏、殿山泰司、佐藤慶、島村佳江、金井大、小松方正、松田春翠
(124分・35mm・カラー)

【事件】
女性の殺人事件をめぐって繰り広げられる、大岡昇平原作の重厚な法廷サスペンス。「過剰に書く」ことを目指した新藤の脚本は、検事役・芦田伸介と弁護士役・丹波哲郎など名優の演技とあいまって、全体の半分以上を占める法廷シーンを絶えず緊張感で包む。
(78松竹)(監督)野村芳太郎(原作)大岡昇平(脚本)新藤兼人(撮影)川又昂(美術)森田郷平(音楽)芥川也寸志
(出演)丹波哲郎、芦田伸介、大竹しのぶ、永島敏行、松坂慶子、森繁久弥、佐分利信、渡瀬恒彦、乙羽信子、西村晃、山本圭、夏純子、佐野浅夫
(138分・35mm・カラー)

【絞殺】
暴力を振るいだした高校生の息子を、耐えかねて殺してしまった父親。閉塞感の漂う時代の家族像を示したが、撮影現場で物語のイメージを引き出すため、新藤はあえて「ゆるいシナリオ」にしたという。西村晃演じる俗物の父親像、乙羽信子の体当たりの演技も印象深い。
(79近代映画協会)(監督脚本)新藤兼人(撮影)三宅義行(美術)大谷和正(音楽)林光
(出演)西村晃、乙羽信子、狩場勉、岡田英次、観世栄夫、戸浦六宏、森本レオ、会田初子、殿山泰司、小松方正、草野大悟、根岸明美
(116分・35mm・カラー)

【地震列島】
学者(勝野)が警鐘を鳴らした大地震が実際に起こり、地下鉄浸水、高層ビル火災といった災害が東京を襲う。当時人気のあったアメリカの同種映画にもひけをとらないパニック映画で、『日本沈没』の特撮監督・中野昭慶による東京崩壊のスペクタクルも圧倒的。
(80東宝映画)(監督)大森健次郎(原作脚本)新藤兼人(撮影)西垣六郎(美術)阿久根巌(音楽)津島利章
(出演)勝野洋、永島敏行、多岐川裕美、松尾嘉代、松原千明、佐藤慶、佐分利信、山崎努、大滝秀治、岡田英次、三木のり平、松村達雄
(126分・35mm・カラー)

【北斎漫画】
矢代静一が「浮世絵師3部作」の一つとして発表した戯曲をもとに、絵師・葛飾北斎(緒形)と戯作者・滝沢馬琴(西田)の終生の友情、そして魔性の女(樋口)に魅入られ、春画の制作に没頭してゆく北斎の姿を描く。北斎の娘役の田中裕子は15歳から70歳までを演じた。
(81松竹)(監督脚本)新藤兼人(原作)矢代静一(撮影)丸山恵司(美術)重田重盛(音楽)林光
(出演)緒形拳、西田敏行、田中裕子、樋口可南子、フランキー堺、乙羽信子、宍戸錠、大村崑、愛川欣也、初井言榮、観世栄夫、殿山泰司
(119分・35mm・カラー)

【地平線】
家を破産から救うために「写真結婚」でアメリカに嫁いだ女性を主人公に、日本人収容所に入れられた時代も含めて、20余年にわたる日本人移民たちの苦闘を描く。炎熱の荒地を耕す夫婦の姿には、『裸の島』のイメージも重なるだろう。
(84MARUGENビル)(監督原作脚本)新藤兼人(撮影)丸山恵司(美術)大谷和正(音楽)林光
(出演)永島敏行、秋吉久美子、藤谷美和子、時任三郎、田中美佐子、川上麻衣子、乙羽信子、ハナ肇、井川比佐志、殿山泰司、西田敏行、風間杜夫、愛川欣也、戸浦六宏、初井言栄、園佳也子
(136分・35mm・カラー)

【落葉樹】
先祖から受け継いだ土地を失う父、軍人の兄、アメリカ移民となる姉、そして必死で家族を支えようとする母。こうした没落家族の肖像が、老いた作家の回想として語られてゆく。亡くなった母親への追憶の思いがこめられる新藤の私小説的な一篇。
(86丸井工文社)(監督原作脚本)新藤兼人(撮影)三宅義行(美術)重田重盛(音楽)林光
(出演)乙羽信子、財津一郎、小林桂樹、大滝秀治、梶芽衣子、初井言榮、殿山泰司、森塚敏、内藤剛志
(105分・35mm・カラー)

【ハチ公物語】
亡くなった飼い主を駅頭で待ち続けた犬「ハチ」の有名な逸話を、飾ることなく映画化した一篇。近代映画協会で新藤・吉村の両監督の助手を務めていた神山征二郎のヒット作で、のちに新藤自らがノンフィクション小説にも書き下ろしている。
(87東急グループ=三井物産=松竹グループ)(監督)神山征二郎(原作脚本)新藤兼人(撮影)姫田真佐久(美術)西岡善信(音楽)林哲司
(出演)仲代達矢、八千草薫、石野真子、柳葉敏郎、尾美としのり、殿山泰司、田村高廣、長門裕之、加藤嘉、三木のり平
(107分・35mm・カラー)

【さくら隊散る】
原爆で命を落とした移動演劇隊9人の隊員の足どりを、再現ドラマとゆかりの人々の証言からたどった記録映画で、新藤の被爆者に対する鎮魂の思いが再びこめられる。杉村春子、宇野重吉など演劇界の巨星たちが隊長・丸山定夫を回想するシーンが印象的。
(88近代映画協会=天恩山五百羅漢寺)(監督脚本)新藤兼人(原作)江津萩枝(撮影)三宅義行(美術)重田重盛
(出演)古田将士、未來貴子、川島聡互、八神康子、及川以造、竹井三恵、川道信介、水野なつみ、元松功子、北川真由美、内堀和晴
(111分・35mm・カラー)
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by sentence2307 | 2006-04-01 16:49 | 映画 | Comments(1)
フィルムセンターでは、4月4日から5月28日まで、「シナリオ作家・新藤兼人」と題して、独立プロという独自の立場から日本映画界に多大な影響を与え、そしていまなお強力な牽引力で意欲的な活動を今なお続けている新藤兼人監督を、おもにシナリオ作家の面にスポットをあてて特集します。

現在93歳、第一戦バリバリの現役でまだまだ旺盛な意欲を衰えさせない、まさに巨人という名に相応しい映画監督・新藤兼人です。

シナリオ芸術を極め、演出家としてヒューマニズムを追い求めたこの稀有な映画人の、70年以上にわたる映画人生を67本の作品をとおして俯瞰します。


【北極光】
親子二代に渡る樺太の鉄道敷設工事の労苦を描きつつ、北方開拓の重要性を説いた戦時下の作品。新藤は村上元三が書き下ろした原作シナリオを脚色したほか、萬世橋にあった鉄道博物館などを調査して時代考証も担当。厳寒の2月に実施された大がかりな樺太ロケにも参加した。
(41新興キネマ)(監督)田中重雄(製作)六車修(原作脚本)村上元三(脚本美術)新藤兼人(撮影)青島順一郎(編集)本庄益子(美術)植田種康(録音)神保幹雄(音楽)横田昌久
(出演)小柴幹治、美鳩まり、平井岐代子、原聖四郎、葛城文子、真山くみ子、新田実、黒田記代、加藤精一、岩田祐吉、淡島みどり、逢初夢子、山口勇、上田寛、若原雅夫、浦辺粂子、原不二男、鳥橋一平、植村謙二郎
(108分・35mm・白黒)

【結婚】
日本の経済状態がまだ不安定だった戦後間もない当時を背景に、経済苦のために結婚できないでいる男女と、なんとか彼らを結婚させてあげたいと奔走する娘の父親の姿を描いた松竹がもっとも得意としたメロドラマ。前年に脚本家としてデビューした新藤兼人脚本が、木下恵介のオリジナル・ストーリーを脚色。田中絹代と上原謙という松竹の名コンビで、つましく生きる庶民の悲哀を愛しむような優しさで描いている。一家の生計をひとりで支える文江(田中絹代)には結婚を約束した恋人(上原謙)がいたが、家庭の逼迫する経済事情のために結婚を断念せざるを得ない。美術は「母を恋はずや」以来「秋刀魚の味」まで、小津安二郎の全松竹作品を担当した浜田辰雄。
(47松竹大船)(監督原案)木下惠介(脚本)新藤兼人(撮影)楠田浩之(美術)浜田辰雄(音楽)木下忠司
(出演)田中絹代、上原謙、東野英治郎、東山千栄子、井川邦子、鈴木彰三、小沢栄太郎、久慈行子、村瀬幸子、岸輝子
(85分・35mm・白黒)

【安城家の舞踏會】
没落していく華族階級の物語を一夜の舞踏会に限定して描いた作品。チェーホフの「桜の園」をベースに脚本を執筆した本作は「キネマ旬報」ベストテン1位に輝き、シナリオ作家としての新藤の出世作となった。吉村監督とはじめてコンビを組んだ作品でもある。
(47松竹大船)(監督原作)吉村公三郎(脚本)新藤兼人(撮影)生方敏夫(美術)浜田辰雄(音楽)木下忠司
(出演)原節子、逢初夢子、瀧澤修、森雅之、清水将夫、神田隆、空あけみ、村田知英子、殿山泰司、津島惠子
(89分・35mm・白黒)

【四人目の淑女】
復員してきた男が音楽学校時代の女友達を訪ね歩くが、彼女らに戦前の可憐な面影はなく、戦後の荒廃した社会で物欲にとらわれた生活を送っていた…。フランス映画『舞踏会の手帖』(1937年)風の脚本構成で、新藤は同時代の日本社会をシニカルな視点で描出した。
(48松竹大船)(監督)澁谷實(脚本)新藤兼人(撮影)長岡博之(美術)濱田辰雄(音楽)服部良一
(出演)濱田百合子、三浦光子、月丘夢路、木暮實千代、森雅之、笠智衆、坪内美子、望月美惠子、殿山泰司、山路義人
(90分・35mm・白黒)

【誘惑】
病床の妻(杉村)をもちながら恩師の娘(原)に恋情を募らせてしまった中年男性(佐分利)が、二人の女性の間で苦悩するというメロドラマ。翌年の『嫉妬』とともに、新藤は中年夫婦の精神的危機をドラマティックに描いたオリジナル脚本を執筆。杉村春子の熱演が印象的。
(48松竹大船)(監督)吉村公三郎(脚本)新藤兼人(撮影)生方敏夫(美術)浜田辰雄(音楽)木下忠司
(出演)原節子、佐分利信、杉村春子、山内明、神田隆、殿山泰司、文谷千代子、西村青児
(85分・35mm・白黒)

【わが生涯のかゞやける日】
終戦後の殺伐とした時代を背景に、暴力団の用心棒(森)と、その男を父の仇だと知らずに愛してしまったキャバレーの女(山口)との激しい愛情がダイナミックな演出で表現される。戦時下に「李香蘭」を名乗っていた山口淑子が、本作で本格的な映画復帰を果たした。
(48松竹大船)(監督)吉村公三郎(脚本)新藤兼人(撮影)生方敏夫(美術)浜田辰雄(音楽)木下忠司、吉沢博
(出演)山口淑子、井上正夫、滝沢修、森雅之、清水将夫、加藤嘉、宇野重吉、村田知英子、清水一郎、三井弘次、殿山泰司、逢初夢子、山内光
(101分・35mm・白黒)

【お嬢さん乾杯】
自動車修理工の戦後成金(佐野)と旧華族の令嬢(原)という生まれも育ちも異なる二人の恋愛を描いた松竹らしい明朗喜劇で、木下恵介の軽快な演出が冴える。オリジナル脚本を執筆した新藤は、価値観が変容した戦後の社会を喜劇として巧みに再構築した。
(49松竹大船)(監督)木下惠介(脚本)新藤兼人(撮影)楠田浩之(美術)小島基司(音楽)木下忠司
(出演)佐野周二、原節子、青山杉作、藤間房子、永田靖、東山千栄子、森川まさみ、増田順二、佐田啓二、坂本武
(89分・35mm・白黒)

【喜劇 嫉妬】
妻の浮気を理不尽に疑う横暴な夫(佐分利)と、その夫からの自立を試みる妻(高峰)を描くことで、抑圧的な家父長制を辛辣に批判するメロドラマ。妻の微妙な心の変化を、夫婦間の慣習化したコミュニケーションの食い違いによって表現する演出は見事。
(49松竹大船)(監督)吉村公三郎(脚本)新藤兼人(撮影)生方敏夫(美術)森幹男(音楽)吉沢博
(出演)佐分利信、高峰三枝子、宇佐美淳、小宮令子、幾野道子、三井弘次、河村黎吉
(88分・35mm・白黒)

【森の石松】
農民生活に嫌気がさして次郎長の子分になった石松の無鉄砲な生き様を喜劇的に描いた占領期的な「侠客もの」。野心的な作品ではあったが興行的に不入りで、新藤と吉村が松竹を離れるきっかけとなった。石松の悲壮な死の場面は、ハリウッドのギャング映画『民衆の敵』(1933年)を想起させる。
(49松竹京都)(監督)吉村公三郎(脚本)新藤兼人(撮影)生方敏夫(美術)水谷浩(音楽)吉澤博
(出演)藤田進、轟夕起子、河村黎吉、志村喬、殿山泰司、笠智衆、朝霧鏡子、澤村貞子、西川壽美、飯田蝶子、三井弘次、安部徹
(97分・35mm・白黒)

【春雪】
貧しくも正しく生きる勤労者たちを、新藤と吉村の名コンビが愛情をもって描いたメロドラマ。鉄道職員の孝子(藤田) は機関士(佐野)と婚約しているが、ゆとりのない家庭のため結婚をためらっていた。ある時孝子は裕福な指揮者(龍崎)に求婚されて心が揺れる…。
(50松竹大船)(監督)吉村公三郎(脚本)新藤兼人(撮影)生方敏夫(美術)森幹男(音楽)吉澤博
(出演)藤田泰子、佐野周二、高橋貞二、志村喬、英百合子、龍崎一郎、青山杉作、東山千栄子、殿山泰司、沢村晶子
(87分・35mm・白黒)

【赤城から来た男】
『森の石松』に続いて新藤が執筆したオリジナル時代劇脚本。「忠治」という名前は出てこないが明らかに国定忠治の物語である。捕吏から逃れるため、親分の滝蔵(大河内)は子分たちを連れて赤城山を落ち延びるが、行く先々でなじみの人々から裏切られてゆく。
(50大映京都)(監督)木村惠吾(原作脚本)新藤兼人(撮影)牧田行正(美術)上里義三(音楽)飯田三郎
(出演)大河内傳次郎、山田五十鈴、星美千子、沢村貞子、東野英治郎、加東大介、加藤嘉、香川良介
(94分・35mm・白黒)

【偽れる盛装】 (102分・35mm・白黒)
男たちを手玉にとる勝ち気な芸者(京)と市役所に勤める妹(藤田)を対比させつつ、欲望が渦巻く京都の花街の世界をリアルに描く。新藤は吉村と共に宮川町の花街で入念な聞き取り調査を行って構想を練った。「キネマ旬報」ベストテン3位。1964年に『肉体の盛装』としてリメイクされた。
(51大映京都)(監督)吉村公三郎(脚本)新藤兼人(撮影)中井朝一(美術)水谷浩(音楽)伊福部昭
(出演)京マチ子、藤田泰子、村田知英子、滝花文子、柳惠美子、橘公子、小林桂樹、河津清三郎、菅井一郎、進藤英太郎、殿山泰司

【愛妻物語】
新藤の監督第1作は、自身のシナリオ修業時代の実話をベースに若干のフィクションを加えた自伝的作品。1942年、新藤は溝口健二に師事して脚本を学びながら「近代劇全集」(全43巻)を読破したが、彼を支え続けた妻の久慈孝子を翌年に急性結核で亡くしている。
(51大映京都)(監督脚本)新藤兼人(撮影)竹村康和(美術)水谷浩(音楽)木下忠司
(出演)宇野重吉、乙羽信子、大河内傳次郎、菅井一郎、滝沢修、香川良介、英百合子、清水將夫、殿山泰司
(97分・35mm・白黒)

【源氏物語】
大映創立10周年記念大作。新藤は与謝野晶子の「新訳 源氏物語」などを参照しつつ、長大な原作を約1年半の物語に脚色し、さらに「淡路」(京)という人物を新たに創造して独自性を出した。水谷浩による豪奢なセット・デザインと、カンヌ映画祭撮影賞を受賞した杉山公平の映像も見所。
(51大映京都)(監督)吉村公三郎(脚本)新藤兼人(撮影)杉山公平(美術)水谷浩(音楽)伊福部昭
(出演)長谷川一夫、大河内傳次郎、木暮實千代、水戸光子、京マチ子、乙羽信子、堀雄二、菅井一郎、進藤英太郎、小澤榮、長谷川裕見子、相馬千惠子、英百合子、東山千榮子、加東大介、殿山泰司
(123分・35mm・白黒)

【西陣の姉妹】
新藤は少年時代の実体験を元にしばしば「一家の没落」をテーマに脚本を執筆してきたが、本作もその系譜に連なる。京都の織元として名をはせた旧家の主人が借金を残して自殺。周囲の人情に支えられつつも、夫人と3人の娘はどうすることもできず、債権者は容赦なく一家の身ぐるみを剥いでゆく。
(52大映京都)(監督)吉村公三郎(脚本)新藤兼人(撮影)宮川一夫(美術)小池一美(音楽)伊福部昭
(出演)宮城野由美子、三浦光子、津村悠子、田中絹代、宇野重吉、三橋達也、菅井一郎、進藤英太郎、柳永二郎、日高澄子、東山千栄子、近衛敏明、殿山泰司
(110分・35mm・白黒)

【原爆の子】
原爆の洗礼を受けた広島の子供たちの作文集から、新藤兼人が脚色・監督した。家族でただひとり被爆を免れた女教師が、かつて保母をしていた幼稚園の生き残った園児たちの消息を訪ねて歩くという設定で、痛ましいエピソードを積み重ねてながら、荒廃した広島の町の風景が原爆の残虐さを訴えた。
(52近代映画協会=劇団民藝)(監督脚本)新藤兼人(撮影)伊藤武夫(美術)丸茂孝(音楽)伊福部昭
(出演)乙羽信子、瀧澤修、清水将夫、宇野重吉、東野英治郎、寺島雄作、殿山泰司、柳谷寛、英百合子、山内明、多々良純、細川ちか子、北林谷榮、芦田伸介、大瀧秀治
(1952.08.06 10巻 2,685m 95分・35mm・白黒)

【暴力】
無為徒食の輩どもが住む大阪の細民街を舞台に、虐げられた女(日高)が家族を守りながら力強く生きる様子が映し出される。新藤のオリジナル脚本で、当初は京マチ子主演の大映作品になる予定だったという。なお、詩人が吟詠するのは萩原朔太郎の詩集「氷島」の一節。
(52東映京都)(監督)吉村公三郎(脚本)新藤兼人(撮影)宮島義勇(美術)小池一美(音楽)伊福部昭
(出演)日髙澄子、夏川靜江、若山セツ子、菅井一郎、木村功、殿山泰司、進藤英太郎、内藤武敏、泉田行夫、松浦築枝、浪花千栄子
(86分・35mm・白黒)

【縮図】
自然主義文学者徳田秋声の未完小説を映画化したもの。芸者に売られた銀子(乙羽)の苦難の半生を描写することで、日本社会に蔓延する貧困という暗部を浮き彫りにした社会派ドラマの大作。新藤作品を支え続けた丸茂孝の美術は本作で日本映画技術賞。乙羽信子もブルーリボン主演女優賞。
(53近代映画協会)(監督脚本)新藤兼人(原作)徳田秋聲(撮影)伊藤武夫(美術)丸茂孝(音楽)伊福部昭
(出演)乙羽信子、日高澄子、山田五十鈴、山村聰、宇野重吉、山内明、沼田曜一、瀧澤修、菅井一郎、清水將夫、殿山泰司、嵯峨善兵、進藤英太郎
(131分・35mm・白黒)

【夜明け前】
島崎藤村の長篇歴史小説の映画化で、近代映画協会が独立プロの威信をかけて劇団民藝とともに製作した大作。幕末から維新にかけての動乱の時代。庄屋で国学者の青山半蔵(滝沢)が、理想に燃えつつも新時代に幻滅し、座敷牢で生涯を終えるまでの軌跡が重厚に表現されている。
(53近代映画協会=劇団民藝)(監督)吉村公三郎(原作)島崎藤村(脚本)新藤兼人(撮影)宮島義勇(美術)丸茂孝(音楽)大澤壽人
(出演)伊達信、細川ちか子、滝澤修、小夜福子、乙羽信子、山内明、清水將夫、日高澄子、高野由美、宇野重吉、原久子、北林谷栄、菅井一郎
(142分・35mm・白黒)

【足摺岬】
田宮虎彦の3つの短篇小説「菊坂」「絵本」「足摺岬」を新藤が独自に脚色。軍国主義が台頭するなかで愛と理想を押しつぶされてゆく若者たちの傷ましい青春が容赦なく描写された本作は、田宮の叙情性と新藤のリアリズムが融合した一種の社会派メロドラマに仕上がっている。
(54近代映画協会)(監督)吉村公三郎(原作)田宮虎彦(脚本)新藤兼人(撮影)宮島義勇(美術)丸茂孝(音楽)伊福部昭
(出演)木村功、津島惠子、日高澄子、殿山泰司、御橋公、森川信、赤木蘭子、信欣三、神田隆、菅井一郎、金子信雄、下元勉
(107分・35mm・白黒)

【どぶ】
社会からあぶれた人々が集まる川沿いの貧民街に、人を疑うことを知らない純真無垢な女(乙羽)が迷い込んできたことから展開する一種の風刺劇。オリジナル脚本を書いた新藤は、横須賀線の車窓から見える鶴見川沿いの集落を眺めながらアイディアをふくらませたという。
終戦直後の横浜・鶴見川のほとりの湿地帯、通称カッパ沼に建ち並ぶバラック長屋の部落を舞台に繰り広げられる人間模様をユーモラスに描く風刺ドラマ。行き倒れで住み着いた、お人好しで気の優しい女ツル(乙羽)を、沼の住民たちは街娼に仕立て、金を巻き上げようとするが・・・。
(54近代映画協会)(監督脚本)新藤兼人(脚本)棚田吾郎(撮影)伊藤武夫(美術)丸茂孝(音楽)伊福部昭
(出演)乙羽信子、宇野重吉、殿山泰司、山村聰、菅井一郎、藤原釜足、神田隆、中北千枝子、木匠マユリ、飯田蝶子、下元勉
(111分・35mm・白黒)

【狼】
新藤のオリジナル脚本。それぞれ不幸な過去を背負った5人が保険勧誘員の見習いとして働き始めるが、追いつめられてやむなく郵便車強盗を実行するまでの心の軌跡をたどった社会派サスペンス。冒頭に郵便車襲撃シーンを配置した斬新なシナリオ構成が際立っている。
出口のない状況に陥った人間たちが犯罪に手を染め破滅するまでを、緊迫感あふれるタッチで描く社会派作品。新藤兼人が自らのオリジナル脚本を監督し、妻の乙羽信子、浜村純、殿山泰司らが出演。戦争未亡人の秋子(乙羽)、元銀行員の原島(浜村)ら5人は保険会社の外務員となる。しかし厳しい契約ノルマを果たせず、追いつめられた彼らは現金輸送車を強奪する計画を立てる。首尾よく大金を奪うものの、警察の手が迫り・・・。
(55近代映画協会)(監督脚本)新藤兼人(撮影)伊藤武夫(美術)丸茂孝(音楽)伊福部昭
(出演)乙羽信子、髙杉早苗、殿山泰司、浜村純、菅井一郎、宇野重吉、小澤榮、東野英治郎、清水将夫、三島雅夫、永田靖、御橋公、信欣三
(128分・35mm・白黒)

【赤穗浪士 天の巻 地の巻】
東映創立5周年記念のオールスター大作で、数ある忠臣蔵映画のなかでも特に完成度の高い作品として知られる。新藤は大佛次郎が創造した上杉家の密偵・堀田隼人(大友)に特に焦点を当てて独自の脚色を施した。1961年に松田定次自身がリメイクしている。
(56東映京都)(監督)松田定次(原作)大佛次郎(脚本)新藤兼人(撮影)川崎新太郎(美術)角井平吉、森幹夫(音楽)深井史郎
(出演)片岡千惠蔵、市川右太衛門、中村錦之助、伏見扇太郎、東千代之介、大友柳太朗、小杉勇、月形龍之介、進藤英太郎、薄田研二、龍崎一郎、宇佐美淳
(151分・35mm・カラー)

【銀(しろがね) 心中】
『足摺岬』に続いて新藤が手がけた田宮虎彦の同名小説の映画化。戦争末期、理髪店を営む夫婦のもとに妻の従弟が弟子入りする。出征した夫の戦死を知った妻は終戦後に従弟と結ばれるが、そこへ死んだはずの夫が還ってきた…。ロケ中に殿山泰司が谷底へ転落するアクシデントが発生したという。
(56日活)(監督脚本)新藤兼人(原作)田宮虎彦(撮影)伊藤武夫(美術)丸茂孝(音楽)伊福部昭
(出演)乙羽信子、長門裕之、宇野重吉、殿山泰司、河野秋武、北林谷栄、細川ちか子、下條正巳、菅井一郎
(99分・35mm・白黒)

【殺したのは誰だ】
うだつが上がらない自動車セールスマン(菅井)を主人公にして保険金詐欺を絡めたサスペンス映画で、菅井自身が当初監督するつもりで新藤にシナリオ執筆を依頼した。新進監督・中平康の小気味よいカッティングと、姫田真佐久のパン・フォーカス撮影が印象的。前年にデビューした小林旭も出演している。
(57日活)(監督)中平康(脚本)新藤兼人(撮影)姫田真佐久(美術)松山崇(音楽)伊福部昭
(出演)菅井一郎、山根寿子、殿山泰司、小林旭、西村晃、青山恭二、渡辺美佐子、筑波久子、清水将夫、髙野由美、浜村純
(91分・35mm・白黒)

【海の野郎ども】 (81分・35mm・白黒)
新藤の監督作で唯一の石原裕次郎主演映画。港の鉄くず運びの人夫頭(石原)が、酒びたりの高級船員に反旗を翻した外国人船員たちと対立するが、やがて友情を育む。東京港のロケでは撮影用の船が貨物船に衝突され、スタッフが殉死する事故もあった。
(57日活)(監督脚本)新藤兼人(撮影)宮島義勇(美術)丸茂孝(音楽)伊福部昭
(出演)石原裕次郎、安井昌二、木室郁子、多摩桂子、ジェリー・伊藤、殿山泰司、西村晃、安部徹、織田政雄、夏川大二郎、菅井一郎

【悲しみは女だけに】
港町の飲み屋へアメリカから帰ってきた姉をめぐって、店主(小沢)一族の生活に波風が立ち始める。姉役の田中絹代のほか、娘に京マチ子、先妻に杉村春子と豪華な演技者が揃った。もとの戯曲は劇団民藝向けの「女の声」で、新藤の生い立ちを反映している。
(58大映東京)(監督脚本)新藤兼人(撮影)中川芳久(美術)丸茂孝(音楽)伊福部昭
(出演)田中絹代、小澤榮太郎、京マチ子、望月優子、杉村春子、市川和子、船越英二、乙羽信子、水戸光子、宇野重吉、見明凡太朗、殿山泰司
(105分・35mm・白黒)

【氷壁】
新藤が、大映の新鋭監督・増村保造と初めて組んだ作品。井上靖のベストセラー小説をもとにしたサスペンス・ドラマで、登山中の親友の転落死が、他殺だったのか事故だったのかが厳しく追究される。主人公の上司を演じた名脇役・山茶花究の演技も印象に残る。
(58大映東京)(監督)増村保造(原作)井上靖(脚本)新藤兼人(撮影)村井博(美術)下河原友雄(音楽)伊福部昭
(出演)菅原謙二、山本富士子、川崎敬三、野添ひとみ、上原謙、山茶花究、浦辺粂子
(96分・35mm・カラー)

【夜の鼓】
原作は近松門左衛門の姦通話の一つ「堀川波鼓(ほりかわなみのつづみ)」。下級武士(三国)が、妻(有馬)の不義の噂を確かめようとするが、やがて悲劇へなだれ込む。近代映画協会の同人だった山田典吾が興した現代ぷろの作品で、脚本は橋本忍との華やかなタッグ。
(58現代ぷろだくしょん)(監督)今井正(原作)近松門左ヱ門(脚本)新藤兼人、橋本忍(撮影)中尾駿一郎(美術)水谷浩(音楽)伊福部昭
(出演)三国連太郎、有馬稲子、森雅之、日高澄子、雪代敬子、奈良岡朋子、夏川静江、中村萬之助、金子信雄、東野英治郎、菅井一郎、加藤嘉、殿山泰司
(95分・35mm・白黒)

【不敵な男】
田舎出の娘をかどわかしては赤線に売り飛ばすチンピラ(川口)が、犠牲者の少女(野添)の復讐を受ける中で変貌してゆく。野添が川口を蹴り飛ばすシーンが印象的。増村作品としては『氷壁』より後の公開だが、こちらが先に書かれた。当初の題名は「最低の男」。
(58大映東京)(監督)増村保造(脚本)新藤兼人(撮影)村井博(美術)下河原友雄(音楽)塚原晢夫
(出演)川口浩、野添ひとみ、船越英二、川上康子、市川和子、岸田今日子、永井智雄、杉田康
(85分・35mm・白黒)

【裸の太陽】
鉄道機関士たちの友情を描き、「夏の日のスケッチみたいな映画」と新藤が述懐する爽やかな青春映画。若き仲代達矢が恋に悩む青年を好演している。監督は、新藤と同じく独立プロを中心に活躍し、社会的弱者に視線を注いできた家城巳代治。
(58東映東京)(監督)家城巳代治(原作)氷室和敏(脚本)新藤兼人(撮影)宮島義勇(美術)北川弘(音楽)芥川也寸志
(出演)江原眞二郎、丘さとみ、中原ひとみ、星美智子、仲代達矢、山形勲、高原駿雄、飯田蝶子、柳谷寛、東野英治郎
(85分・35mm・白黒)

【第五福竜丸】
1954年、太平洋ビキニ環礁の水爆実験に遭遇し、被曝した漁船員たちの事件を「記録とドラマのモンタージュ」として綴った一篇。新藤は莫大な借金を覚悟して撮影に乗り出し、俳優座や民藝などの新劇人を総動員して完成にこぎつけ、代表作の一つとなった。
(59近代映画協会=新世紀映画)(監督脚本)新藤兼人(脚本)八木保太郎(撮影)植松永吉(美術)丸茂孝(音楽)林光
(出演)宇野重吉、乙羽信子、稲葉義男、殿山泰司、永田靖、永井智雄、原保美、浜田寅彦、小沢栄太郎、千田是也、清水將夫、松本克平
(107分・35mm・白黒)

【大いなる旅路】
鉄道映画に定評のある関川秀雄が演出した、国鉄機関士とその家族の30年にわたる年代記。鉄道マンを演じる三国連太郎は機関士の実地研修を受け、事故のシーンも廃車予定の機関車を実際に転落させた。音楽の巧みな挿入も各時代の感覚を表している。
(60東映東京)(監督)関川秀雄(脚本)新藤兼人(撮影)仲沢半次郎(美術)森幹男(音楽)斉藤一郎
(出演)三国連太郎、高倉健、南廣、梅宮辰夫、中村賀津雄、小宮光江、八代万智子、星美智子、風見章子、東野英治郎、河野秋武、花沢德衞
(95分・35mm・白黒)

【裸の島】
水もない瀬戸内の離島に暮らす農民一家の、土との闘いを全篇台詞なしで演出した、新藤兼人生涯の代表作。モスクワ国際映画祭でのグランプリ受賞は、経営難の近代映画協会にとって起死回生の一打となった。国際的知名度も高まり、ロシアでは現代のA・ソクーロフ監督に至るまで本作を激賞する人があとを立たない。
瀬戸内海に浮かぶ小島に暮らす家族の姿を通して、厳しい自然と闘い共存しながら生きいく人間を描く。モスクワ映画祭グランプリ受賞ほか各国に広く紹介され、一躍、新藤兼人の名が世界に知れ渡った。セリフを一切排し、映像だけで語るという実験意欲に満ちた詩篇。黒田清己の撮影、林光による音楽が織り成す映像叙事詩。
(60近代映画協会)(監督脚本)新藤兼人(撮影)黒田清己(音楽)林光
(出演)乙羽信子、殿山泰司、田中伸二、堀本正紀
(96分・35mm・白黒)
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by sentence2307 | 2006-04-01 16:48 | 映画 | Comments(750)