世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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<   2013年 06月 ( 7 )   > この月の画像一覧

清水宏 ①

景気が少し上向いてきたかと思えば、またすぐにあやしくなるなど、わが社では、依然として「水曜日は、原則残業禁止」という御達しが総務課から出ており、定時退社がつづいています。

平日はいつも、外回りの営業から帰ってくると、夕方から退社までに翌日の決裁を受けるために報告書や見積書やらを仕上げておくところまでが通常一日の業務ですので、どうしても居残り仕事ということが慣例みたいになっています、別にサービス残業という意識はありませんし、残業代を請求するということもないので、そのへんは柔軟に見てほしいと総務課に要望したことがあるのですが、「居残りしていること」自体が問題なのだと、けんもほろろに突っぱねられてしまいました。

自分としては総務課の指示に逆らうつもりは毛頭ありませんし、水曜日はきっちり定時退社を心掛けていたのですが、しかし、若い課員からは、仕事の実態を無視して「一律に残業禁止」とはずいぶんナンセンスな話ではないかという苦情があり、その融通の利かない規則の在り方、建前だけにこだわった硬直した考え方に随分と批判があり不満を募らせていることは承知していました。

そんなある日の朝、出社すると、デスクに総務課長からの呼び出しのメモが置かれていたので、なんだろうと総務課長のもとに出向くと、開口一番苦情を言われました。

苦情の内容というのは、うちの若い課員が昨夜(当の水曜日です)居残り仕事をしていたので、総務課員が早々に退社するように促したところ、素直に従うどころか、逆に言い返してきて、ちょっとした言い争いになり一時は険悪な場面もあったとかいうことです。

ことのしだいの一部始終を見ていた目撃者もいます。

「いくら忙しくたってキミ、会社の決まりは決まりだからね。守ってもらわないと。」と総務課長からは散々な嫌味を言われました。

しかし、その課員が現在とても大きな仕事を抱えており、寸暇を惜しんで誠実に仕事に取り組んでいる現状や、忙しいのはせいぜいここ1週間だったわけでその辺は大目に見てやって欲しいと弁解しましたが、我ながらなんとも弱々しい弁護で、この契約がとれれば会社にとっても大きな利益になるんですからなどと、通り一遍の余計な言い訳まで付け足すなど、つくづく自分が情けなくなりました。

それというのも、直属の上司でありながら、管理職の自分が早々に退社してしまっていて、部下が残業していることも関知していなかった我ながらナントモ弁解の余地のないテイタラクぶりですから「まずいよ、これは」という負い目の方がはるかに勝り、部下の弁護にも強弁で立ち向かうどころではなく、もうひとつ気合が入らないのは当然の成り行きです。

総務課長にしても、はっきりと口には出しませんでしたが、言下に「キミの管理責任はどうなっているんだ」と非難を込めているのは、あきらかです。

しかし、この件は、これだけでは済みませんでした、その週の部課長会議に議題として提起されたのです。

幸い議事の流れは、どこの営業もこの「水曜日、原則残業禁止」には不満を募らせていて、すこぶる不評だったのが各課から噴出した非難であきらかになり、とうとう総務課も折れて、「原則」とうたっている部分を柔軟に運用するという方向で討議されました。

そして結論としては、仕事の繁忙期に限っては「水曜日、原則残業禁止」を、水曜日に限っては残業する際には、その課の管理職が立ち会うことに決っしました。

会議の流れとしては、自分の監督責任の追及などには向かわなかったにしても、その決議は明らかに管理職が管理しないでどーするのよという「ワタクシのこと」が前提になっているわけで、「ごもっとも様でございます」と顔から火が出る思いでその決議を拝聴した次第です。

そんなわけですので、水曜日は、晴れて残業に付き合わされる次第となりました。

いままでは居残り仕事をしたくともできなかった若い課員は、これで公明正大に仕事ができるわけですから残業大歓迎で、和やかにのんびりと余裕で報告書や見積書を作ったりしていますが、別段、緊急にしなければならない仕事があるわけでもない自分は、ただ単に居残りに付き合わなければならないという苦痛があるばかりです。

しかし、なんだかんだといっても、そこはまあ、ほんの僅かな時間のことですから、普段はできない不要な書類の整理とか廃棄でもして時間を潰そうと思いつきました。

コピーやプリントアウトに失敗した書類を、時間が出来たときにゆっくり(最終確認して)廃棄するつもりで、ビニールひもで結束し、机の傍らに積んであります。

その束をヨッコラショとばかりデスクの中央に積み上げました。

それにしても、自分の事務処理能力の未熟さ(コピーに失敗したり、タイプでミスしたものばかりです)から生じたなんとも申し訳ないような物凄い紙の量です。

とはいっても、なにもこれはワタシだけのことではないのですが、これってオフィスのIT化が進んだために生じた必要悪とでもいうのだろうな、むかしは個人がこんなに大量の紙を生み出して廃棄したなどという記憶がありません、ホントどうにかならないものかなどと思いながら一枚一枚丹念に書類に目を通しては「不要」を確認し、破棄を進めていきました。

そのとき、なにやら紙の裏に鉛筆でメモ書きしたものが時折混じっているのに気がつきました。

そうそう思い出しました、大量にコピーを失敗したときに、それをそのまま捨ててしまうのも、なんだかもったい気がしたので、メモ用紙として使おうと冊子風に綴りひもでとじて、実際に営業会議などに持ち込んでメモ用紙として使っていました。

しかし、会議とはいっても、自分はほとんど聞き役なので、実はメモをとる必要などありません、聞きっぱなし書きっぱなしの形ばかりのメモなので、たとえ何か書き込んだとしても、読み返すこともなく、そのままうっちゃっておき、そしていまこうして廃棄しているというわけなのです。

その走り書きのメモを見ていくと、会議の内容を懸命に聞き取ろうとしている緊張感に満ちた初期のものから、だんだん人間がすれてきて次第に集中力を欠き、会議とは無関係のひそかな悪戯書きが書き込まれていたりしています。

その中の一枚に「へえ~、こんなのもあったんだ」というちょっと驚きのメモがありました。

しかし、それを「いつ・どこで」書いたのかまでは、どうしても思い出すことができませんでしたが。

メモの内容は、こんな感じです。

《小津安二郎の「静謐」
溝口健二の「狂乱」
山中貞雄の「絶望」
成瀬巳喜男の「諦念」
黒澤明の「剛直」
川島雄三の「哄笑」あるいは「自嘲」
大島渚の「激昂」》

なるほどなるほど、退屈な会議の時間を耐えるために偶然考えた苦しまぎれの単なる思いつきとはいえ、それぞれの時代を象徴する巨匠たちの印象を、もっとも相応しい簡潔な言葉で言い表そうとしたこの着想には、我ながら感心しました。

小津安二郎の「静謐」、う~ん、ぴったりじゃないですか。

溝口健二の「狂乱」、これもいいですね、溝口こそ、まさにそういう印象ですものね。

山中貞雄の「絶望」、これなんか山中貞雄の「絶望」であるとともに、日本の映画史から彼を失った僕たちの絶望でもあるわけで、これ以外には有り得ないくらいですよね。

しかし、実は、それらの監督たちに続いて最後に「清水宏」の名前も書かれていたのですが、それに続くべき言葉(印象)が、ほかの監督たちのようには記されていませんでした、空白です。

そこには、「清水宏」の名前を書きながら、この監督にもっとも相応しい言葉=印象がどうしても掴み切れないままつまずき、結局身動きできないまま沈黙せざるを得なかった過去の自分の姿がありありとわかります。

清水宏監督が、どういう人生を歩んだのか、手元にあるかぎりの資料を読み、詳細を知れば知るほど、そもそも豪放磊落で簡単明瞭な人だったのか、繊細で傷つきやすい複雑微妙な人だったかさえ、ますます分からなくなってしまい、かれのその韜晦の人生は、僕たちを迷路に誘い込み、ただ戸惑いを覚えるばかりです。

そういう意味で残された膨大な作品から、なんらかの答えを導き出そうなどと思わない方がいいかもしれません。

取り敢えず、あくまでも取り敢えずですが、「空虚の人・清水宏」とでもいっておこうかなと思いました。
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by sentence2307 | 2013-06-22 15:51 | 映画 | Comments(35)

清水宏 ②

さて、その清水宏の特集が6月5日からフィルムセンターで行われていることは知っていたのですが、近くの市民図書館で遅ればせながらようやくパンフレットを入手しました。

題して「生誕110年 映画監督・清水宏」です。

解説には、こう書かれています。

《今年は、日本映画の揺籃期から戦後の黄金期まで、約35年間で164本もの映画作品を撮った監督・清水宏(1903-1966)の生誕110年にあたります。
清水は、1924年に松竹で21歳の若さで監督昇進して以降、戦前はモダンな感覚を持った新進気鋭の映画監督として、メロドラマや大作映画をはじめとする撮影所の量産体制を支えます。
同時にその一方で、人物の演出やロケーション撮影などに先進的なリアリズムを導入し、とりわけ子どもの自然な存在感を引き出す演出においては、同時代の世界の映画監督の中でも突出した才能を発揮し、その独創的な作風に注目を集めます。
 戦後は一時映画界から退き、戦災孤児たちを引き取って共同生活を送りますが、彼らと独立プロダクション「蜂の巣映画部」を設立して映画製作に復帰し、大きな社会的反響を呼びます。
その後、新東宝・東宝・大映に呼ばれて児童映画や母もの映画なども監督しました。
 撮影所全盛期の監督でもあり、いち早く撮影所を飛び出した独立映画作家でもある清水の映画世界の可能性は、いまだ汲み尽くされておらず、新しい観客による「発見」を待ち続けています。
 今回の回顧特集は、1929年の『森の鍛冶屋』から1959年の遺作『母のおもかげ』まで、現存する清水作品の上映プリントを可能な限り集めた、史上最大規模のもの(41プログラム・50作品)となります。》

そこで以下に上映作品を掲げますが、タイトルをわざわざ50音順に組み替えた労作です。

誰に頼まれたというわけではありませんし、50音順にしてどう便利なのかの説明もできませんが、睡眠時間を削って作りました。


【あ】
有りがたうさん
伊豆の村落を抜けて峠路を走る定期乗合バス。山道で出会う人々が道端に避けてくれる度に「ありがとう」と感謝のひと言をかける若い運転手は、街道の人々から“ありがとうさん”と呼ばれていた。川端康成の掌篇「有難う」を原案に、「有りがたうさん」と呼ばれるバス運転手を中心として、伊豆の山道を往還する乗合バスの乗客たちの姿をオール・ロケで撮影されたユーモアとペーソスで描いたロードムービー。町に身売りされようとする若い娘の話を軸にして、酌婦や旅役者、朝鮮人労働者といった流れ者のうらぶれた人々を点描し、極力ドラマ性を排除しながら移りゆく風景の中でとらえた清水宏監督の野心作。
(1936松竹大船)監督脚本・清水宏、原作・川端康成、撮影・青木勇、音楽・堀内敬三
出演・上原謙、桑野通子、二葉かほる、石山隆嗣、仲英之助、築地まゆみ、河村黎吉、忍節子、堺一二、山田長正、河原侃二、久原良子
(1937.2.27丸ノ内松竹劇場 76分・35mm・白黒)

【あ】
按摩と女
清水オリジナルの小品。温泉場で按摩が、東京から来た女にほのかな恋心を抱くさまを描く。社会の周縁に位置する者たちの淡い出会いと別れを好んで取り上げる清水映画の中でも、極めつけの1本。
(1938松竹大船)監督脚本・清水宏、撮影・齋藤正夫、美術・江坂実、音楽・伊藤宣二、
出演・高峰三枝子(三沢美千穂)、徳大寺伸(三沢徳市)、日守新一(三沢福市)、佐分利信(大村真太郎)、爆彈小僧(三沢研一)、坂本武、二木蓮、春日英子、京谷智恵子、油井宗信、飯島善太郎、大杉恒雄、近衛敏明、磯野秋雄
(66分・35mm・白黒)

【う】
歌女おぼえ書
清水本人の原案で、舞台女優・水谷八重子を5年ぶりに映画に迎えて撮ったメロドラマ。夫を失い借金だらけの店を遺された元旅役者の歌女(水谷八重子)が、義理の息子・庄太郎(上原謙)の学業継続のため、献身的に商いを続ける。
(1941松竹大船)監督・清水宏、脚本・長瀬喜伴、八木澤武孝、撮影・猪飼助太郎、美術・江坂實、音楽・伊藤冝二
出演・水谷八重子、上原謙、藤野秀夫、河村黎吉、富本民平、朝霧鏡子、根本淳、エム・ウクラインセフ、春日英子、武田秀郎、河原侃二、近衛敏明
(97分・35mm・白黒)

【お】
踊子 
浅草文化を愛した永井荷風の同名小説を映画化。長年同棲している浅草六区の踊子・花枝(淡島千景)と楽士の恋人・山野(船越英二)の元に、花枝の妹・千代美(京マチ子)が転がり込み、やはり踊子となる。奔放な千代美は山野、そして振付師の田村(田中春男)とも関係を持つ。前年に松竹専属からフリーとなった淡島千景を大映に迎え、京マチ子、船越英二との洗練されたアンサンブルを通して、人生の浮沈が描かれる。
(1957大映東京)監督・清水宏、原作・永井荷風、脚本・田中澄江、撮影・秋野友宏、美術・柴田篤二、音楽・斉藤一郎、
出演・淡島千景、京マチ子、船越英二、田中春男、藤田佳子、阿井美千子、町田博子、平井岐代子、酒井三郎
(96分・35mm・白黒)

【お】
小原庄助さん  
民謡で知られる「小原庄助さん」の世界を清水が翻案し、オール・ロケによる牧歌的風景の中に描いた伝説的作品。清水の盟友であり、批評家から脚本家に転進した岸松雄が初めて製作を務めた。農地改革で没落して無一文になる人のいい旧家の地主・小原庄助に起用された大河内傳次郎が、ノーメイクでロバに跨り人々の頼みを聞いて回るそのユーモラスな姿は、清水映画ならではの叙情性を生み出した。東宝争議の分裂によって成立した新東宝は、経営的必要に迫られ収益重視の作品を制作(昭和23年度20本、24年度34本)したこの時期、「いわゆるベストテンに入るような優秀作は、わずかに『生きている画像』、『忘れられた子等』、『野良犬』、『小原庄助さん』の4本にすぎなかった」(田中純一郎「日本映画発達史Ⅲ」第59節「新東宝の独立」より)とされた。
(1949新東宝)監督脚本・清水宏、脚本・岸松雄、撮影・鈴木博、美術・下河原友雄、音楽・古関裕而
出演・大河内傳次郎、風見章子、宮川玲子、清川虹子、飯田蝶子、田中春男、清川莊司、鳥羽陽之助、日守新一、鮎川浩、石川冷
(91分・35mm・白黒)

【お】

逓信省簡易保険局が、簡易保険制度の宣伝用に松竹に製作を委託した短篇。クレジットには、監督として大久保忠素の名も記されているが、当時の文献資料からは、実質清水作品とみられる。水島あやめ(脚本)と高尾光子(主演)のコンビによる「少女もの」は、当時、松竹を代表する人気ジャンルだった。
(1929松竹蒲田)監督・清水宏、大久保忠素、原作・簡易保険局、脚本・水島あやめ、撮影・杉本正次郎
出演・高尾光子、新井淳、高松榮子、水島亮太郎、三浦時江、堺一二、青山万里子、河原侃二
(35分・24fps・35mm・無声・白黒)

【か】
輝く愛
松竹文化映画部が文部省に委託されて製作した教育映画。1931年5月に無声版が完成したが劇場公開はされず、主に全国各地の公民館や小中学校の講堂などで開催された教育映画講演会で上映された。病気のため撮影途中で降板した西尾佳雄に代わり、清水が後半部分を監督した。現存プリントは、1934年以降に伴奏音楽、効果音、そして弁士の解説が付されたと推測される、いわゆる「弁士解説版」である。
(1931松竹文化映画部)監督・清水宏、西尾佳雄、脚本・松崎博臣、撮影・野村昊
出演・小藤田正一、半田日出丸、野寺正一、早見照代、小村新一郎、富士龍子
(38分・35mm・弁士解説版・白黒)

【か】
風の中の子供
児童文学者・坪田譲治の同名小説を映画化した清水の代表作。原作の新聞連載中から、松竹には清水による映画化を求めるファンの声が寄せられた。陰謀や打算に満ちた大人たちの世界に振り回されながらも、自分たちの関係を築いていく子どもたちの姿を清冽に描く。1938年のヴェネチア国際映画祭に出品された。
(1937松竹大船)監督脚本・清水宏、原作・坪田譲治、脚本・斎藤良輔、撮影・斎藤正夫、美術・江坂實、岩井三郎、音楽・伊藤宜二
出演・河村黎吉、吉川満子、葉山正雄、爆驒小僧、坂本武、岡村文子、末松孝行、長船タヅコ、突貫小僧、アメリカ小僧
(86分・35mm・白黒)

【か】
家庭日記
当時人気絶頂だった吉屋信子の新聞連載小説を映画化。松竹は長らく独占映画化を旨としてきたが、本作は例外的に東宝製作の前後篇二部作(山本薩夫監督)と競作となった。大船撮影所の第一線スターを配したメロドラマで、「子供の四季」二部作と同時並行で撮影された。小津映画で知られるキャメラマン・厚田雄春とは以後、計8作品で組むことになる。
(1938松竹大船)監督・清水宏、原作・吉屋信子、脚本・池田忠雄、撮影・斎藤正夫、厚田雄春、音楽・伊藤宣二
出演・佐分利信、高杉早苗、上原謙、桑野通子、三宅邦子、三浦光子、トーチカ小僧、大山健二、藤野秀夫、吉川満子、水島亮太郎、坂本武
(99分・35mm・白黒)

【か】
簪 かんざし
井伏鱒二の短篇を映画化。「按摩と女」同様、温泉地での男女の短い出会いを描く。囲い者の惠美(田中絹代)は、自分が落とした簪が傷病帰還兵・納村(笠智衆)の足に刺さったと聞き、再び下部温泉に来て逗留し、納村の歩行練習を手伝う。2003年の第4回東京フィルメックスにおいて、新作も含んだ上映作品の中から、見事観客賞を受賞した。山の温泉宿のひと夏のスケッチ。簪をめぐって出会う戦傷兵と娘の淡い想い。日陰に暮らす田中絹代演ずるヒロインと笠智衆演ずる武骨な青年の出会い。ふたりをめぐる人々のユーモラスな人間模様と、人情の機微、そして山あいの美しい風景と美女の哀愁を詩情豊かに描いた清水宏監督の名作。
(1941松竹大船)監督・清水宏、原作・井伏鱒二、脚本・長瀬喜伴、撮影・猪飼助太郎、美術・本木勇、音楽・淺井擧曄
出演・田中絹代、笠智衆、齋藤達雄、横山準、大塚正義、川崎弘子、日守新一、三村秀子、坂本武、河原侃二、松本行司、油井宗信、大杉恒雄
(70分・35mm・白黒)

【き】
霧の音
北条秀司が新国劇のために書き下ろした同名戯曲を映画化。昭和22年から31年までの、3年毎の仲秋の名月に、信州の山小屋で相愛の植物学者(上原謙)と女性(木暮實千代)がすれ違いをくり返す。山岳と霧に包まれた上高地でのロケ撮影が、作品全体に湿った抒情を醸成している。
(1956大映京都)監督・清水宏、原作・北條秀司、脚本・依田義賢、撮影・相坂操一、美術・神田孝一郎、音楽・伊福部昭
出演・上原謙、木暮實千代、藤田佳子、川崎敬三、柳永二郎、浦辺粂子、見明凡太朗、浪花千栄子、上田寛、坂本武、万代峯子、浜卋津子
(84分・35mm・白黒)

【き】
岐路に立ちて
1929年作品「親」同様、簡易保険局の委託による郵便年金制度の宣伝用短篇である。就職難により東京での立身出世の夢が破れ、故郷の農村に帰った主人公を、母親が取っておいた郵便年金が救う。プラネット映画資料図書館所蔵の16mmポジからの複製された。
(1930松竹蒲田)監督・清水宏、原作・簡易保険局、脚本・大久保忠素、撮影・佐々木太郎
出演・結城一朗、川崎弘子、鈴木歌子、坂本武、日守新一、木村健児、小倉繁
(55分・18fps・35mm・無声・白黒)

【き】
銀河
新聞連載小説の映画化。15巻の超大作だが、わずか20日間ほどで撮影されたという。当時28歳にしてすでに70本近く撮っていた清水は、まぎれもなく松竹の大黒柱だった。冒頭のスキー場面では、小津安二郎や成瀬巳喜男が応援監督をしている。実業家の娘・道子(八雲恵美子)には、乳姉妹の照枝(川崎弘子)がいた。あるとき道子は照枝の兄・荘一(高田稔)に乱暴されて身籠ってしまい、世間体を考えてやむなく父の秘書の長島(奈良真養)と結婚する。
(1931松竹蒲田)監督・清水宏、原作・加藤武雄、脚本・村上徳三郎、撮影・佐々木太郎、美術・脇田世根一
出演・八雲恵美子、高田稔、川崎弘子、斉藤達雄、奈良真養、毛利輝夫、日守新一、藤野秀夫、吉川満子、山縣直代、石田良吉
(188分・18fps・35mm・無声・白黒)

【き】
金環蝕
大衆娯楽雑誌「キング」所載の久米正雄の小説を、同年に映画化。親友のために従妹の恋心を拒んだ男が、上京後思いがけず彼女と再会する。人気ダンサーから松竹にスカウトされた桑野通子のデビュー作で、主人公が東京で運転手として仕える代議士の娘役を演じている。
(1934松竹蒲田)監督・清水宏、原作・久米正雄、脚本・荒田正男、撮影・佐々木太郎、美術・脇田卋根一、音楽・江口夜詩
出演・藤井貢、川崎弘子、桑野通子、金光嗣郎、山口勇、坪内美子、近衛敏明、藤野秀夫、河村黎吉、吉川満子、突貫小僧、小倉繁、久原良子
(97分・35mm・サウンド版・白黒)

【け】
京城
清水の撮った唯一の認定文化映画。都市の朝から夜までを点描する構成は1920‐30年代に世界的に流行した「都市交響楽」的なものを思わせる。噴水広場で車中から360度周回する移動撮影や、朝鮮人露天商や子どもたちへの注目に清水らしさが表れている。今後の再検証が待たれる1本。
(1940大日本文化映画製作所)監督・清水宏、撮影・厚田雄治、音楽・伊藤冝二
(24分・35mm・白黒)

【こ】
恋も忘れて
横浜市本牧を舞台にしたメロドラマであり、子ども映画の傑作でもある。チャブ屋の女・お雪(桑野通子)の生きがいは、一人息子の春雄(爆弾小僧)の成長だったが、お雪の商売故に春雄は学校で孤立してしまう。母子の家族ドラマに佐野周二の用心棒が絡む構成だが、子どもの世界は大人の世界とは別の論理を持ったものとして描かれ、清水映画を語るうえで重要な作品である。
(1937松竹大船)監督・清水宏、脚本・斎藤良輔、撮影・青木勇、美術・江坂実、音楽・伊藤宜二、小澤耀安
出演・桑野通子、佐野周二、爆弾小僧、突貫小僧、岡村文子、忍節子、雲井ツル子、水戸光子、大山健二、石山隆嗣、葉山正雄
(73分・35mm・白黒)

【こ】
子供の四季 春夏の巻/秋冬の巻 ③39
坪田譲治の同名長篇を映画化した二部作。「風の中の子供」同様、善太と三平の兄弟が主人公で、キャストも同じである。父の病死や祖父の経営する工場の内紛を経ながらも、農村の自然の中でたくましく育つ兄弟の姿を描く。台詞とアクションの反復という清水が得意とする語りの技法が、子どもたちのさまざまな遊びの場面で効果的に用いられ、ロケーション撮影が高く評価された。両作ともに洋画系でシャーリー・テンプル主演の「ハイデイ」(アラン・ドワン監督)と2本立てで公開されたのち、二部まとめて上映された。現存プリントは両作共にラストが欠落している。
(計141分)

子供の四季 春夏の巻
(1939松竹大船)監督脚本・清水宏、原作・坪田讓治、撮影・斎藤正夫、厚田雄治、美術・江坂実、音楽・伊藤宣二
出演・横山準、葉山正雄、坂本武、古谷輝夫、吉川満子、河村黎吉、岡村文子、西村青兒、日守新一、若水絹子、二木蓮
(70分・35mm・白黒)

子供の四季 秋冬の巻
(1939松竹大船)監督脚本・清水宏、原作・坪田讓治、撮影・斎藤正夫、厚田雄治、美術・江坂実、音楽・伊藤宣二
出演・横山準、葉山正雄、古谷輝夫、坂本武、西村青兒、若水絹子、日守新一、吉川満子、岡村文子、倉田勇助
(71分・35mm・白黒)

【こ】
金色夜叉 ②173
原作は尾崎紅葉の言わずと知れた未完の人気小説で、1910年代からたびたび映画化されており、本作は最初のトーキー作品となる。人物の設定も近代的に改変され、波打ち際で貫一が宮を蹴り倒す(原作の)有名な場面も、海沿いの車道で揉める2人を遠景でとらえた、清水らしいものになっている。
(1937松竹大船)監督・清水宏、原作・尾崎紅葉、脚本・源尊彦、中村能行、撮影・青木勇、美術・江坂実、音楽・伊藤宜二、
出演・夏川大二郎、川崎弘子、近衛敏明、三宅邦子、上山草人、佐分利信、笠智衆、豊田満、武田秀郎、佐野周二、大塚君代、吉川満子
(77分・35mm・白黒)

【さ】
サヨンの鐘
清水が当時の植民地・台湾で満映のスター・李香蘭を迎えて撮った国策映画。1938年に台湾で実際に起き、皇民化運動の宣伝媒体となった原住民族の少女の落水事故が基になっている。1941年には、渡辺はま子歌唱によるヒット歌謡曲となり、本作でも李香蘭の歌と共に用いられている。主要登場人物はすべて日本人俳優が演じ、現地のタイヤル族住民がエキストラとして出演。現存プリントは途中の1巻が欠落している。「土俗趣味を豊かに取り入れたが、清水演出の冗漫が祟って工業的には失敗」といわれた。
(1943満洲映画協会=松竹下加茂=台湾総督府)監督・清水宏、脚本・長瀨喜伴、牛田宏、斎藤寅四郎、撮影・猪飼助太郎、美術・江坂実、音楽・古賀政男
出演・李香蘭、近衛敏明、大山健二、若水絹子、島崎溌、中川健三、三村秀子、水原弘志、中村実
(74分・35mm・白黒)

【し】
しいのみ學園
小児マヒの児童のために養護施設を設立した山本三郎の手記を清水宏が映画化。伊豆長岡でロケが行われ、学校のセットも現地に建てられた。入園前に酷薄な仕打ちを受けてきた子どもたちへの救済として、同名主題歌が学園内で繰り返し歌われ、印象深い。
(1955新東宝)監督脚本・清水宏、原作・山本三郎、撮影・鈴木博、美術・鳥居塚誠一、音楽・齋藤一郎
出演・宇野重吉、香川京子、花井蘭子、毛利充宏、河原崎建三、岩下亮、龍崎一郎、島崎雪子、伊達信
(100分・35mm・白黒)

【し】
女醫の記
当時の挙国一致体制において流行していた農村問題を扱った映画。女子医学専門学院の2人の女医が、夏休みに50人の生徒を無医村に引き連れ、巡回診療を行う。石川県でロケが行われ、蔭樹という家を木で取り囲む風習や住民の結核への無理解が、女医と小学校教師の視点によって批判される。無医村へ巡回診療に訪れた夏木女医が、偏見や迷信に惑わされる村民たちに根気強く働きかけ、村の生活に融けこんでゆく。無医村撲滅を主張する啓蒙映画だが、女医と村人たちとの交流が丁寧に描かれ、清水らしい詩情とユーモアにあふれている。
(1941松竹大船)監督・清水宏、脚本・津路嘉郎、撮影・森田俊保、美術・本木勇、音楽・淺井擧嘩
出演・田中絹代、佐分利信、森川まさみ、市村美津子、文谷千代子、髙松榮子、横山準、仲英之助、中村實、京谷千惠子、水島亮太郎、久保田勝巳、出雲八重子、武田秀郎
(95分・35mm・白黒)

【し】
次郎物語
下村湖人の同名教養小説の第一部を中心に映画化。主人公次郎(大沢幸浩、市毛勝之)と乳母お浜(望月優子)、実母お民(花井蘭子)、義母お芳(木暮実千代)の3人の「母」との結びつきが描かれる。信州上田の別所温泉で民家を借りてロケーション撮影が行われた。昭和16年には島耕二監督で撮られた。
(1955新東宝)監督脚本・清水宏、原作・下村湖人、撮影・鈴木博、美術・鳥居塚誠一、音楽・齊藤一郎、
出演・大沢幸浩、市毛勝之、木暮実千代、花井蘭子、望月優子、竜崎一郎、池内淳子、友山幸雄、中山昭二、賀原夏子、杉寛、多勢まゆみ
(98分・35mm・白黒)

【そ】
その後の蜂の巣の子供たち
「蜂の巣の子供たち」の続篇で、当時、伊豆山麓の農場で共同生活を送っていた清水と子どもたちの暮らしぶりを映画化したもの。前作で社会的な注目を集め、報道や取材によってかき乱された実際の彼らの生活が、メタ映画的に描写されている。
(1951新東宝=蜂の巣映画部)監督脚本・清水宏、撮影・古山三郎、音楽・伊藤宣二
出演・岩本豊、若林令子、千葉義勝、久保田晋一郎、三原弘之、中村貞雄、川西清、硲由夫、平良喜代志、麥田シゲ子、大庭勝、原田三夫、谷紀男、馬場信衛、日守節子
(94分・35mm・白黒)

【た】
大學の若旦那
「若旦那」シリーズの第1作。原作の源尊彦は清水のペン・ネーム。当時、日本でも大人気だったハロルド・ロイドの「カレッジもの」の影響を受けながら、落語的な道楽者の若旦那像も巧みに織り込み、モダンかつ人情味あふれる学生スポーツ映画となっている。トーキー移行期に数多く製作された「サウンド版」で、音楽と効果音のみが付けられ、会話や説明部分はインタータイトルで示されている。
(1933松竹蒲田)監督・清水宏、原作・源尊彦、脚本・荒田正男、撮影・靑木勇、佐々木太郎、美術・脇田卋根一、
出演・藤井貢、武田春郎、三井秀男、徳大寺伸、逢初夢子、光川京子、水久保澄子、斎藤達雄、坪内美子、若水絹子、坂本武、大山健二、山口勇
(85分・35mm・サウンド版・白黒)
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by sentence2307 | 2013-06-22 15:43 | 映画 | Comments(0)

清水宏 ③

【た】
大佛さまと子供たち
「蜂の巣映画」三部作の3作目。前2作同様、映画史に類を見ない傑作とされている。奈良の寺院や仏像の観光案内をして生計を立てている浮浪児たちが、次第に奈良の美術に愛着を持っていく話を軸に、戦地から帰らない父の消息をラジオ放送で探す豊太(岩本豊)の姿を描く。戦災孤児たちの安らぎの場所として描かれる奈良の大仏はじめ、子どもたちが仏像と交感する映画のひとコマひとコマに、見捨てられた子供たちを包み込むような清水演出が胸を打つ。
(1952蜂の巣映画部・新東宝)監督脚本・清水宏、撮影・古山三郎、音楽・伊藤宣二
出演・岩本豊、硲由夫、宮内義治、久保田晋一郎、川西清、中村貞雄、日守由禧子、歌川マユミ、赤堀綾子、島田友三郎
(102分・35mm・白黒)

【ち】
勅諭下賜五十年記念 陸軍大行進
明治天皇が1882年に下した軍人勅諭の50周年記念作品として東西の松竹のスタッフ・キャストが結集した大作。原始時代から継承されてきた日本人の「軍人精神」が高らかに謳いあげられる。上映フィルムは、ロシアで発見された3巻分のサウンド版と、フィルムセンターが保管していた無声版7巻をつなぎ合わせた現時点における「最長版」だが、ラストは欠落している。
(1932松竹蒲田)監督・清水宏、佐々木康、石川和雄、松井稔、井上金太郎、渡辺哲二、原作・櫻井忠温、脚本・吉田百助、松崎博臣、撮影・小田浜太郎、佐々木太郎、杉本正次郎、栗林関、石村蘇鉄、森尾鉄郎、美術・脇田世根一
出演・林長二郎、高田浩吉、藤野秀夫、岩田祐吉、武田春郎、石山隆嗣、奈良眞養
(88分・24fps・35mm・無声[一部サウンド版]・白黒)

【と】
東京の英雄
清水のオリジナル作品。義理の母に育てられた男が成長して新聞記者となり、偽会社を興して資金集めをしている父と再会し、その不正を暴く。多くの清水作品の主役を務めた藤井貢(と三井秀男)は、この後新設された東京発声映画に参加し、本作が松竹蒲田最後の作品となった。また、主人公の弟の少年時代を演じた横山準(爆弾小僧)は本作が出演2作目で、戦前の清水映画の顔とも言うべき忘れがたい子役である。
(1935松竹蒲田)監督・清水宏、原作・源尊彦、脚本・荒田正男、撮影・野村昊、美術・脇田卋根一、音楽・早乙女光、
出演・藤井貢、吉川満子、桑野通子、三井秀男、岩田祐吉、突貫小僧、市村美津子、横山準、近衛敏明、出雲八重子、髙松栄子、水谷能子、御影公子
(64分・35mm・サウンド版・白黒)

【と】
ともだち
文化映画「京城」を当時の植民地・朝鮮で撮影中に、速成で撮影された短篇。現存プリントは音声が欠落しているが、作品の魅力は十二分に伝わり、その印象は残されたシナリオからも裏付けられる。内地から朝鮮に転校してきた少年(横山準)が、民族服を着た現地の少年(李聖春)と心を通い合わせる様子を描く。文化映画の申請がされたが却下され、劇映画として公開された。
(1940大日本文化映画製作所)監督脚本・清水宏、撮影・厚田雄治、音楽・伊藤冝二
出演・横山準、李聖春、南里金春
(13分・35mm・無声・白黒)

【と】
團栗と椎の実
清水が長篇製作の合間に暇を見て撮影した短篇子ども映画。臆病で内気な養子の少年と、その子をたくましく育てようとする父親の心温まるふれあいを描いた短編。物語は、都会育ちの気弱な男の子が、一人で木登りができたことにより腕白な子に変わるというごく単純なものだが、ロングを中心にしたみずみずしいショットと編集のゆるやかなリズムにより、清水映画の魅力が存分に発揮されている。子どもを撮るのが得意だった清水宏らしく、ここでも子役の演技は、自然で伸び伸びとした表情を見せている。また、移動撮影を使って人物を背景に溶け込ませるところなども秀逸。
(1941松竹大船)監督脚本・清水宏、撮影・森田俊保、美術・江坂實、音楽・伊藤冝二、
出演・大塚紀男、横山準、大山健二、若水絹子、大藤亮、末松孝行、古谷輝男
(29分・35mm・白黒)

【な】
泣き濡れた春の女よ
清水のトーキー第1作。北海道の炭坑町を舞台にした、流れ者たちの恋愛劇。若い酌婦役の千早晶子は、松竹下加茂撮影所で林長二郎とコンビを組み、「下加茂のお嬢さん」の愛称で親しまれており、本作が唯一の現代劇出演作品となる。実際に冬の北海道でロケーション撮影が行われた。
(1933松竹蒲田)監督・清水宏、原作・本間俊、脚本・陶山密、撮影・佐々木太郎、美術・脇田卋根一
出演・岡田嘉子、大日方傳、千早晶子、大山健二、小倉繁、石山龍児、村瀨幸子、市村美津子、富士龍子、雲井鶴子
(96分・35mm・白黒)

【な】
何故彼女等はそうなったか
四国に少女の更生施設を開設した小説家・竹田敏彦の「少女の家」を映画化。傾向映画の問題作「何が彼女をそうさせたか」(1930、鈴木重吉監督)を想起させるタイトルで、「エログロ路線」に転換しつつあった大蔵貢体制の新東宝と清水の出会いという意味でも興味深い作品である。
(1956新東宝)監督脚本・清水宏、原作・竹田敏彦、撮影・鈴木博、美術・鳥居塚誠一、音楽・齊藤一郎
出演・香川京子、中村雅子、藤木の実、三重明子、池内淳子、髙橋豊子、浪花千榮子、扇惠子、宇治みさ子、三ツ矢歌子、井波靜子、髙橋マユミ、桂京子
(81分・35mm・白黒)

【な】
七つの海 處女篇/貞操篇(計153分)  
牧逸馬の新聞連載小説を映画化した二部作。弓枝(川崎弘子)には婚約者・譲(江川宇礼雄)がいたが、八木橋家の長男で譲の従兄・武彦(岡譲二)に騙され貞操を奪われる。そのショックで父は亡くなり、姉は精神を患ってしまう。弓枝は家族を養うため譲と絶縁し、武彦と結婚するが、同時に浪費に明け暮れることで八木橋家の評判を落とし、復讐を果たす。モダンガールや野球、近代的なオフィスの建築群など、日本社会におけるモダニズムの浸透ぶりが視覚的に鮮烈な一篇。戦後に新東宝で「貞操の嵐」(1959、土居通芳監督)の題名でリメイクされた。英語字幕付での上映。

七つの海 處女篇
(1931松竹蒲田)監督・清水宏、原作・牧逸馬、脚本・野田高梧、撮影・佐々木太郎、美術・河野鷹思
出演・川崎弘子、江川宇礼雄、村瀬幸子、結城一朗、岡譲二、岩田祐吉、若水絹子、武田春郎、鈴木歌子、新井淳、伊達里子、高峰秀子、小藤田正一
(72分・20fps・35mm・無声・白黒)

七つの海 貞操篇
(1932松竹蒲田)監督・清水宏、原作・牧逸馬、脚本・野田高梧、撮影・佐々木太郎、美術・河野鷹思
出演・川崎弘子、江川宇礼雄、結城一朗、村瀬幸子、岡譲二、坂本武、新井淳、若水絹子、武田春郎、鈴木歌子、宮島健一、高松栄子、高峰秀子、小藤田正一
(81分・20fps・35mm・無声・白黒)

【な】
奈良には古き佛たち
文化財の保護を訴えた記録映画で、興福寺や東大寺の仏像・建築の特徴や由来がナレーションによって語られる。階段を腹ばいで滑り落ちる子どものショットやゆるやかな前進移動撮影など、記録映画においても清水らしさは健在。2007年に広島で発見され、プラネット映画資料図書館に寄贈された16mmプリントからの複製。
(1953蜂の巣映画部)監督・清水宏
(36分・35mm・白黒)

【に】
人情馬鹿
溝口健二に誘われ、大映と専属契約を結んだ清水の最初の作品。川口松太郎原作の大正時代の人情話を、戦後の設定にアレンジした喜劇。美人女優として活躍していた角梨枝子が、浪花千栄子や進藤英太郎といった芸達者な脇役陣に支えられて、溌剌とした魅力を発揮している。
(1956大映東京)監督脚本・清水宏、原作・川口松太郎、撮影・髙橋通夫、美術・仲美喜雄、音楽・米山正夫、
出演・角梨枝子、菅原謙二、藤田佳子、船越英二、進藤英太郎、浪花千榮子、滝花久子、根上淳、潮万太郎、三田隆、小原利之、小山内淳、ジョー・オハラ、ペギー・葉山
(70分・35mm・白黒)

【の】
信子
原作は女性版「坊っちゃん」を想定して書かれた、獅子文六の大衆小説。私立女学校の体操教師として九州から上京した信子(高峰)が、持ち前の度胸と正義感で女生徒たちの信頼を得ていく姿を描く。泥棒役の日守新一は、無声映画期から戦後の松竹以外の作品まで、清水映画に起用され続けた名脇役である。
(1940松竹大船)監督・清水宏、原作・獅子文六、脚本・長瀨喜伴、撮影・厚田雄治、美術・江坂実、音楽・伊藤冝二
出演・高峰三枝子、三浦光子、岡村文子、森川まさみ、高松栄子、飯田蝶子、三谷幸子、日守新一、松原操、大塚君代、忍節子、奈良真養、吉川満子
(90分・35mm・白黒)

【は】
蜂の巣の子供たち
大陸から復員してきた男が、下関駅で多くの浮浪児を見て、親も身寄りもない子供たちの更生をはかろうと志し、8人の浮浪児をともない山陽線を海岸沿いに、野宿をしたり、病気の子供をいたわりながら広島の知人を頼っていくという16mm撮影・オールロケで製作された清水宏の画期的な戦後第1回作品。昭和23年4月に清水監督によって設立された蜂の巣映画プロダクションで、清水監督は自費により、ひとつのセットも使用せず、山陽地方のオールロケをもって製作された。清水が引き取り、共に暮らしていた戦災孤児たちを本人役で出演させた。戦後の社会問題となった浮浪児を、いかに更生さすべきかというヒューマンな内容が、製作者の温かい視点が、公開後、社会的に大きな反響を呼び、その後2本の続篇が製作された。原爆投下の被害を受けた広島での撮影場面は、GHQによる検閲で一部カットされた。
(1948蜂の巣映画部)製作監督脚色・清水宏、撮影・古山三郎、音楽・伊藤宣二、
出演・島村俊作、夏木雅子、久保田晋一郎、岩本豊、千葉義勝、三原弘之、平良喜代志、硲由夫、中村忠雄、川西清、御庄正一、伊本紀洋史、多島元、矢口渡、植谷森太郎
(84分・35mm・白黒)

【は】
花形選手
秋季演習の学生の行軍の中に、陸上競技の花形選手・関がいた。追い越された女学生の一団が関を見つけ、湖畔の十字路で待ち受けていたが、学生隊は駆け足で走り去った。ある村にたどり着いた選手たちは、小娘を連れた門づけの美しい女に目を奪われ、関はその門づけの女を追っていく。脚本の鯨屋當兵衛は清水のペン・ネーム。軍事教練で泊りがけの行軍演習に出かける学生たちが、道すがらさまざまな人々と出会い、別れるさまを挿話的に描いたロード・ムービーだが、何度も反復される軍歌の唱和と行進は明確に戦時体制を反映しながらも、堆肥を運ぶ農民やトラックで追い越す女学生、そして子どもたちの一群と交錯するたびに、その主題(軍事教練)はいつの間にか希薄なものに転じていく。
(1937松竹大船)監督・清水宏、脚本・鯨屋當兵衛、荒田正男、撮影・猪飼助太郎、美術・江坂実、穂苅貞一、音楽・伊藤宜二、島田康
出演・佐野周二、笠智衆、日守新一、近衛敏明、大山健二、坪内美子、爆驒小僧、長船フジヨ、突貫小僧、葉山正雄
(64分・35mm・白黒)

【は】
母のおもかげ
清水の遺作で、淡島を起用した「母もの」映画。新しく迎えた母と妹との関係にとまどう多感な少年が、継母の粘り強い愛情にほだされながら、次第に成長していく様子を描く。父親が水上バスを運転する隅田川河畔がロケーション撮影によって広々ととらえられる一方、実母の形見の鳩を逃がしてしまった妹を、主人公が室内で痛めつける暴力の残酷さに慄然とさせられる。
(1959大映東京)監督・清水宏、脚本・外山凡平、撮影・石田博、美術・仲美喜雄、音楽・古関裕而、
出演・毛利充宏、淡島千景、根上淳、安本幸代、見明凡太朗、村田知榮子、南左斗子、清川玉枝、南方伸夫、入江洋佑
(89分・35mm・白黒)

【は】
母の旅路
「母を求める子ら」同様、三益主演の作品で、彼女の最後の「母もの」映画となった。物語は「母紅梅」(1949小石栄一監督)の焼き直しで、役名も同一。サーカス団の一家(佐野周二、三益愛子、仁木多鶴子)が父の都合で突然実業家に戻り、ハイソ社会に仲間入りするが上流階級の生活になじめず、サーカス芸人に戻った母親の窮地を、娘が救う。あり得ない話の連続だが、「母物」というお仕着せ企画に清水宏が職人ぶりを発揮してみせた清水初のシネスコ作品。前年に本名の柴田吾郎としてデビューした田宮二郎が、若手ブランコ乗り役で出演している。
(1958大映東京)監督・清水宏、脚本・笠原良三、撮影・秋野友宏、美術・山口煕、音楽・斉藤一郎、
出演・三益愛子、仁木多鶴子、金田一敦子、紺野ユカ、藤間紫、佐野周二、南左斗子、穂高のり子、柴田吾郎、浜口喜博、花布辰男、伊沢一郎、大山健二、伊藤直保
(92分・35mm・白黒)

【は】
母を求める子ら
10年間で30本以上の「母もの」映画に主演した三益愛子と初めて組んだ作品。養育院でさまざまな子どもたちの世話をしながら、行方不明の息子を捜す母親の姿を描く。当時朝日新聞でキャンペーン展開されていた「親探し運動」を背景にしている。
(1956大映東京)監督脚本・淸水宏、原作・沢木吉男、脚本・岸松雄、撮影・髙橋通夫、美術・仲美喜雄、音楽・斎藤一郎、
出演・三益愛子、三宅邦子、川上康子、品川隆二、大沢幸浩、広田栄二、小山栄二、浦辺粂子、八潮悠子、丸山修
(88分・35mm・白黒)

【ひ】
必勝歌
情報局が募集した愛国歌の一等当選となった「必勝歌」をもとにして、松竹京都を中心とした監督たちが分担して撮ったオムニバス映画。共同脚本の岸松雄の回想によると、当初は清水とマキノ正博が主に演出する予定だったが、後になって溝口健二が加わることになり、脚本が書き足されたという。清水の演出部分は、国民学校の生徒たちの場面や、澤村アキヲ(長門裕之)と河村黎吉の親子の挿話の部分といわれる。
(1945松竹大船・京都)監督脚本・淸水宏、監督原作・田坂具隆、監督・マキノ正博、溝口健二、大曽根辰夫、高木孝一、市川哲夫、脚本・岸松雄、撮影・竹野治夫、斎藤毅、行山光一、三木滋人、美術・堀保治、
出演・佐野周二、大矢市次郎、澤村貞子、島田照夫、小杉勇、三井秀男、齊藤達雄、高田浩吉、澤村アキヲ、河村黎吉、高峰三枝子、轟夕起子、田中絹代、上原謙、坂本武
(80分・35mm・白黒)

【ふ】
不壊の白珠
菊池寛の通俗小説を映画化したメロドラマ。俊枝(八雲恵美子)は秘かに成田(高田稔)のことを想っていたが、成田は妹・玲子(及川道子)と結婚してしまう。俊枝は成田を憎むが、成田と玲子の新婚生活も長くは続かず。水平方向の移動撮影や180度の切り返しなど、清水の大胆な空間造形に圧倒される。築地小劇場出身の及川道子のデビュー作。2005年にチェコの工房で製作当時に行われた白黒フィルムの染色を再現した復元版(英語字幕付)。
(1929松竹蒲田)監督・清水宏、原作・菊池寛、脚本・村上徳三郎、撮影・佐々木太郎、美術・水谷浩、
出演・八雲恵美子、髙田稔、及川道子、新井淳、小村新一郎、鈴木歌子、伊達里子、高尾光子
(102分・24fps・35mm・無声・染色)

【ほ】
母情
「小原庄助さん」に続いて岸と組んだ「母もの」映画。大映・三益愛子主演の「山猫令嬢」(1948、森一生監督)を嚆矢とする「母もの」映画は、父の権威が失われた戦後期を代表するジャンルの1つだが、戦後の清水映画においても盛んに採り上げられることになる。
(1950新東宝)監督脚本・清水宏、脚本・岸松雄、撮影・横山實、美術・伊藤壽一、音楽・古関裕而
出演・清川虹子、石澤健二、山田五十鈴、黒川彌太郎、德川夢声、古川綠波、浦邊粂子、飯田蝶子、清川玉枝、宮川玲子、坪内美子、小島昭治、淺田歌子
(83分・35mm・白黒)

【み】
みかへりの塔
原作は、大阪の児童福祉施設の院長が自身の経験を書きとめた手記を、小説家の豊島與志雄が読物化したもの。教師と保母を父母に見立てた各「家庭」が設置された学院の敷地内で、教化のための共同生活を送る問題児たちの姿を描く。終盤の水路開発場面には「麦秋(むぎのあき)」(1934、キング・ヴィダー監督)の影響が見られる。
(1941松竹大船)監督脚本・清水宏、原作・熊野隆治、豊島與志雄、撮影・猪飼助太郎、美術・江坂實、音楽・伊藤冝二
出演・笠智衆、三宅邦子、横山準、野村有爲子、大塚君代、忍節子、奈良眞養、大山健二、出雲八重子、近衛敏明、大藤亮、古谷輝男、大塚紀男、末松孝行
(111分・35mm・白黒)

【み】
港の日本娘
横浜を舞台にモダン都市文化を書きつづけた北林透馬の同名小説を映画化。敬虔なクリスチャンである及川道子、外人の血を引く井上雪子と江川宇礼雄と、西欧を意識させるキャストを配し、異国情緒溢れる恋愛劇を描く。被写体を正面からとらえる構図やオーバーラップによる省略技法など、清水の特徴的な文体が随所で光っている。
(1933松竹蒲田)監督・清水宏、原作・北林透馬、脚本・陶山密、撮影・佐々木太郎、美術・金須孝
出演・及川道子、井上雪子、江川宇礼雄、齋藤達雄、沢蘭子、逢初夢子、南條康雄
(78分・22fps・35mm・無声・白黒)

【も】
もぐら横丁
尾崎一雄の「もぐら横丁」ほかいくつかの私小説短篇を、吉村公三郎と共同で脚色。当時の清水にとって久々のセット撮影中心の作品。「もぐら横丁」と呼ばれる長屋界隈で、貧乏作家の緒方(佐野周二)と妻(島崎雪子)が苦しいながらも微笑ましく暮らす姿を描く。同じ長屋に暮らす大学生・伴(和田孝)は檀一雄、夫婦を気遣う女流作家・早瀬(堀越節子)は林芙美子がモデル。また、尾崎士郎、壇、丹羽文雄が特別出演しており、また、若き天知茂が、夫婦のためにアパートの部屋を明け渡す気のいい学生役で出演している。
(1953新東宝)監督脚本・清水宏、原作・尾崎一雄、脚本・吉村公三郎、撮影・鈴木博、美術・鳥井塚誠一、音楽・大森盛太郎
出演・佐野周二、島崎雪子、日守新一、宇野重吉、若山セツ子、森繁久彌、和田孝、片桐余四郎、千秋實、磯野秋雄、杉寛、田中春男、堀越節子、天知茂
(93分・35mm・白黒)

【も】
桃の花の咲く下で
ブギの女王として名を馳せていた笠置シヅ子の母もの歌謡映画。紙芝居屋の阿彌子(笠置シヅ子)は、今は新しい母と暮らす実の子・明(中川滋)の療養に付き添うことになり、温泉で束の間のふれ合いを楽しむ。あくまで明朗にふるまい、歌って語る笠置が素晴らしく、これまでの清水映画にはない母親像である。
(1951新東宝)監督脚本・清水宏、脚本・岸松雄、撮影・鈴木博、美術・鳥井塚誠一、音楽・服部良一
出演・笠置シヅ子、日守新一、花井蘭子、中川滋、北澤彪、清川玉枝、大山健二、柳家金語樓、鳥羽陽之助、伊達里子、堀越節子、江戸川蘭子、花岡菊子
(73分・35mm・白黒)

【も】
森の鍛冶屋
現存する最も古い清水作品。オリジナルは10巻だが、現存するのは短縮版(京都府京都文化博物館所蔵の16mm ポジからの複製)。ジョン・フォード監督の「村の鍛冶屋」(1922)から着想を得た、農村共同体を舞台にした家族メロドラマ。
(1929松竹蒲田)監督・清水宏、原作脚本・村上徳三郎、撮影・佐々木太郎、
出演・井上正夫、押本映治、結城一郎、田中絹代、藤野秀夫、小村新一郎、日夏百合絵、河原侃二、岡村文子、二葉かほる、野寺正一、小藤田正一、瀧口新太郎、関口小太郎
(30分・16fps・35mm・無声・白黒)
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by sentence2307 | 2013-06-22 15:40 | 映画 | Comments(1)
【ローラ Lola】
『シェルブールの雨傘』の監督が描く、甘く切ない恋の物語。
新たに2012年に制作されたデジタル修復完全版でスクリーンに登場!
港町ナントでの生活に退屈していた青年ローランは、幼なじみのローラに10年ぶりに再会する。ローランは彼女への愛に気づいて生きる希望を抱くが、キャバレーの踊り子をしているローラは7年前に街を去った恋人のミシェルを忘れられない...。
さまざまな登場人物がすれ違いながらも再び出会う巧みな構成の物語を、クラシックやミシェル・ルグランの音楽にのせて、みずみずしく軽やかな演出で描いたドゥミの長編処女作。脚本も手がけたドゥミは、アヌーク・エーメの個性と魅力の新たな一面を引き出すべく、彼女を思い浮かべながら踊り子ローラを作り出した。時に陽気で時にメランコリックなこのヒロインを、アヌーク・エーメは魅力たっぷりに演じ、見るものを虜にする。
故郷ナントを舞台にした本作でデビューしたドゥミは、2年後に『シェルブールの雨傘』でローランを再び登場させ、7年のちにローラのその後の生活を『モデル・ショップ』で描くなど、作品を超えて登場人物が行き交う世界を作り出してゆく。こうしたジャック・ドゥミの作品群の原点ともいえる『ローラ』。今回は、ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』の修復プロジェクトなどを手がけた仏・米の団体による2012年のデジタル修復完全版での上映となり、撮影のラウール・クタールが美しく捉えたナントの光が、再び、スクリーンによみがえる。
監督・ジャック・ドゥミ、撮影・ラウール・クタール、音楽・ミシェル・ルグラン、歌詞・アニエス・ヴァルダ、美術・衣装・ベルナール・エヴァン、出演:アヌーク・エーメ、マルク・ミシェル、ジャック・アルダン、アラン・スコット、エリナ・ラブールデット、アニー・デュペルー
1961年/フランス/85分/DCP/白黒/シネマスコープ/モノラル *協力:シネタマリス
★監督:ジャック・ドゥミ Jacques DEMY
1931年、フランス・ポンシャトー生まれ。ナントで少年時代を過ごし、『ブローニュの森の貴婦人たち』を見て映画作家を志す。長編デビュー作『ローラ』はジャン=リュック・ゴダールやジャン・コクトーらからも賛辞を得た。台詞が全て歌という実験的な『シェルブールの雨傘』(63)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。その後も『ロシュフォールの恋人たち』(67)や『ロバと王女』(70)などの明るく陽気な作品から、ダークな童話『ハメルンの笛吹き』(71)やストライキを描く『都会のひと部屋』(82)などシリアスな題材まで、徹底して音楽・美術にこだわった独自の映画作家である。1990年10月27日死去。
★出演:アヌーク・エーメ Anouk AIMÉE
1932年、フランス・パリ生まれ。14歳で映画デビュー。『火の接吻』(49)や『恋ざんげ』(53)などを経て、『モンパルナスの灯』(58)でモディリアニの妻役を演じる。60年代に入り、フェリーニの傑作『甘い生活』(60)や『8 1/2』(63)に出演。世界的に大ヒットしたクロード・ルルーシュの『男と女』(66)で、ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞し名実共に大スターとなる。その他、ベロッキオの「Salto nel vuoto」(カンヌ国際映画祭女優賞)や豪華キャストの中で大御所デザイナーに扮した『プレタポルテ』(95)などの出演作がある。2012年の欧州での『ローラ』デジタル完全修復版上映時には、ドゥミ一家とともに登壇。美しさだけでなく、着こなしや話し方などを含め、フランス女優の象徴的な存在であり続けている。


以下 短編

【全てを失う前にAvant que de tout perdre】2012年/フランス/30分
監督:グザヴィエ・ルグラン、出演:レア・ドリュケール、アンヌ・ブノワ、ミリヤン・シャトラン
学校をさぼって橋の下に隠れている少年。恋人との別れを惜しみ、バス停で涙にくれている少年の姉。彼らを順番に車に乗せていく母親。3人はスーパーマーケットの駐車場に到着し、急いで店内に入っていく。夫の暴力から逃げるため、子供をつれて他の土地へ逃げることを決めた彼女は、勤務先に給料の精算を頼みに来たのだ。ようやく未払い分の一部を手にしたものの、店内や周辺で彼女を待ち伏せる夫を避けて店から出ていかなくてはならないが。グザヴィエ・ルグランはこの家庭内暴力についての作品を通し、時間との闘い、社会的スリラーを描く。クレルモンフェラン国際短編映画祭で4部門を受賞した話題作。
<受賞歴>2013年 クレルモンフェラン国際短編映画祭 国内コンペティション部門 最優秀作品賞ほか 4部門受賞


【妻の手紙 Lettres de femme】2013年/フランス/15分11秒
監督・オーギュスト・ザノヴェッロ、声の出演・コンスタンタン・パッパス、アデリーヌ・モロー、ジェローム・ポヴエルズ
大戦の前線で、看護士のシモンは負傷兵の壊れた体を彼らの恋人や妻、故郷で待つ女性たちの手紙を使って「修理」していく。女性からの手紙には治療の力があるのだ。しかし、予期せぬ死に襲われても紙に書かれた言葉はまだ人を救えるのだろうか。


【からっぽの家 La Maison vide】2012年/フランス/19分
監督・マチュー・イポー、出演・フランク・ファリーズ、ミレイユ・ペリエ、フィリップ・フォコニエ
17歳のヴァンサンは、1人で夏休みを過ごしている。お金を稼ぐ為に、錠前屋の父親を手伝っている。ある日ヴァンサンは誰もいない家に空き巣に入るが...


【日本への旅:捕縄術 Portraits de voyages Japon : Hôjô Jutsu】2013年/フランス/3分
監督・バスティアン・デュボワ、声の出演・サヤカ・ヒサダ
捕縄術は人を紐で縛る日本の伝統武術。緊縛はいわゆるボンデージで、セクシーな大人の遊び。作者が日本を旅して知った、幅広い捕縄術の使用法がイラストとともに紹介される。


【オマール海老の叫び Le Cri du homard】2012年/フランス、ベルギー/30分
監督・ニコラ・ギオ、出演・クレール・トゥムルー、アントン・クズマン、タチアナ・ゴンチャロヴァ、ミグレン・ミルチェフ
ロシア出身の6歳のナタリアは両親とともにフランスに移住したばかり。チェチェンに闘いにいった兄ボリスの帰りを心待ちにしている。そして遂にその日がやってくるが、ナタリアは戸惑い、いぶかしがる。これが本当に兄のボリスなのか...?
<受賞歴>2013年 セザール賞 短編映画賞受賞、2012年 ブレストヨーロッパ短編映画祭 最優秀賞 俳優賞(クレール・トゥムルー)受賞


【移民収容 Rétention】2012年/フランス/14分32秒
監督・トマ・クルイトフ、出演・アンヌ・アズレー、ミグレン・ミルチェフ、フアッド・アウニ
フランスの移民収容所。マチルドは、そこに閉じ込められた外国人たちの権利を守るために奮闘している。ある日、ウクライナからユリがやってくる。彼の強制退去を防ぐため、マチルドの時間との闘いが始まる。


【次で最後(63年秋)Next to last (Automne 63)】2012年/フランス/5分36秒
監督・マチュー・アマルリック、ナレーション:フレデリック・ワイズマン、デヤ・ケント
アメリカテキサス州のアーリントンにあるプライベートコレクションを訪れたマチュー・アマルリックが、エドワード・ホッパーの最後から2番目の作品、開かれた窓から田舎の風景が広がる「Sun in an empty room」(1963年制作)を映し出す。 フレデリック・ワイズマンによって演じられるホッパーの声と妻のジョセフィーヌの声が流れる中、アマルリックのカメラが絵の隅々を追い、そこに隠された謎を追って行く。8人の監督、俳優、アーティストたちが、"ホッパー"をテーマにそれぞれの作品を制作するプロジェクトの内の1作。このプロジェクトには、他にヴァレリー・ムレジャンやドミニク・ブランなどが参加している。


【春 Le Printemps】2012年/フランス/15分13秒
監督・ジェローム・ブルベス 
森の奥深くの神殿。マスクをかぶった人形たちが春の祭を待ちわび、準備をしている。音楽が鳴りだす。生け贄がつながれた檻が一つ運ばれてくる。そして春を祝う祭りが始まる。
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by sentence2307 | 2013-06-09 18:28 | 映画 | Comments(54)
【黒いスーツを着た男 Trois mondes】
本年度パトリック・ドベール賞受賞、新星ラファエル・ペルソナーズ主演作日本初上陸。
犯すつもりのなかった罪を背負った美しき犯罪者と二人の女の運命を描く本格派サスペンス。本年度のフランスの最優秀男優に与えられるパトリック・ドベール賞に輝き、アラン・ドロンの再来と話題の演技派俳優ラファエル・ペルソナーズ主演作。『彼女たちの時間』の実力派カトリーヌ・コルシニ監督が描く、犯すつもりのなかった罪を背負った美しき犯罪者を巡り、目撃者の女と被害者の妻の運命が交差する本格派クライム・サスペンス。『ミステリーズ 運命のリスボン』のクロチルド・エスム、『ロルナの祈り』のアルタ・ドブロシが主人公を取り巻く2人の女性を熱演。
アランは自動車ディーラーの社長令嬢との結婚を10日後に控え人生の成功を手にする直前だったが、友人たちと騒いだ帰り道、深夜のパリの街角で男を轢いてしまう。友人たちに促され、茫然自失のまま男を置き去りにして逃走したアラン。その一部始終を、向かいのアパルトマンからジュリエットは偶然目撃する。翌日、被害者の容態が気になり病院を訪れたジュリエットは、そこで男の妻ヴェラに会う。ヴェラと夫はフランスの滞在許可証を持たないモルドヴァ人だった。そして、ジュリエットは病院の廊下で若い男の後ろ姿に目を留める。その男こそ、罪の意識に駆られて様子を確かめに来たアランだった。ジュリエットはアランを追いかけるが。
監督・カトリーヌ・コルシニ、出演・ラファエル・ペルソナーズ、クロチルド・エスム、アルタ・ドブロシ、レダ・カデブ
2012年/フランス=モルドヴァ/101分/スコープ/5.1ch 配給:セテラ・インターナショナル
<受賞歴>2012年 カンヌ国際映画祭 ある視点部門正式出品作品、2013年 パトリック・ドベール賞(将来有望な若手に贈られる賞)受賞
★監督・脚本:カトリーヌ・コルシニ Catherine CORSINI
1956年、フランス北部のドルー生まれ。18歳のときにパリに出、パリ第3大学で学ぶ。アントワーヌ・ヴィテーズが主宰する演技コースを受講して演技を学ぶが、脚本の執筆をはじめ、短編作品をいくつか制作。1988年に最初の長編『魅了されたミニマリストの破綻』を撮る。その後もテレビ用作品など撮り続け、98年カリン・ヴィヤールをヒロインに迎えて撮った『ヌーヴェル・イヴ』が、新たな女性像を提示する作品として高い評価を得る。さらに2000年の『彼女たちの時間』では、エマニュエル・ベアールを迎えカンヌ映画祭に正式招待。また2006年に『Les Ambitieux』を、さらに2009年にはクリスティン・スコット・トーマスの主演で『旅立ち』をと、これまで女性を主人公にした作品を数多く発表し、評価を高めてきた。
★出演:ラファエル・ペルソナ-ズ Raphaël PERSONNAZ
1981年、パリ生まれ。12歳のときに見た舞台劇に衝撃を受けて俳優を志し、コンセルヴァトワールとフロランの演劇学校で本格的に演技を学ぶ。16歳のころからTV用作品に顔を見せるようになり、18歳のとき、TVシリーズ「Un homme à la maison」の主役の座を射止め、一躍注目される。2000年のピエール=オリヴィエ・スコット監督の「Le Roman de Lulu」を皮切りに映画へ積極的に出演し、ジュリー・ガヴラスの『ぜんぶ、フィデルのせい』(06)などで次第に注目を集める。2010年、ベルトラン・タヴェルニエの「La Princesse de Montpensier」で主役に抜擢。その後も、アフガニスタンを舞台にした戦争ドラマ「Forces spéciales」(11)でダイアン・クルーガーと共演、本作『Trois mondes(原題)』のあとも、話題のコスチューム劇『アンナ・カレーニナ』(12)をはじめ、恋愛コメディ「La Stratégie de la poussette」(12)、ジュリー・ガイエと共演した恋愛劇「After」(12)と、主演作が目白押し。
★出演:クロチルド・エスム Clotilde HESME
1979年、フランス北部のトロワに生まれ。ふたりの姉エロディーとアンネリーズも女優として活躍中。コンセルヴァトワールでダニエル・メスギッシュとカトリーヌ・イジェルのもと演技を学び、卒業後は舞台を中心に活動。やがて、短編作品に出演するようになるが、2002年、ジェローム・ボネルの「La Chignon d'Olga」で長編劇映画デビューを飾る。その後、クリストフ・オノレの『愛のうた、パリ』(07)での演技により、セザール賞の有望若手女優賞にノミネートされ、続くオノレ作品『美しい人』(08)にも主演。さらに、ラウル・ルイス『ミステリーズ 運命のリスボン』(10)、アリックス・ドラポルトの「Angèle et Tony」(11)などで好演、念願のセザール賞有望若手女優賞にも輝く。
★出演:アルタ・ドブロシ Arta DOBROSHI
1979年、ユーゴスラヴィア(現コソヴォ)のプリシュティナに生まれ。プリシュティナ舞台芸術アカデミーに学んだのち、舞台を中心に活躍。映画には、2005年、アルバニアのクイティム・チャシュク作品「Syri magjik(Magic Eye)」に初出演したのを皮切りに、2008年に同じくアルバニア映画「Smutek paní Snajdrové(The Sadness of Mrs. Snajdrova)」に出演。同年、ダルデンヌ兄弟の『ロルナの祈り』のヒロインに抜擢されたことをきっかけに国際的な注目を集める。2011年にはジュリー・ガヴラスの「Trois fois 20 ans」に出演ののち、本作でヴェラ役を好演。


【椿姫ができるまで Traviata et nous】
名作は舞台の度に生まれ変わる。世界最高峰のオペラ歌手ナタリー・デセイの創り上げる「椿姫」の世界 2011年春、フランスのオペラ歌手ナタリー・デセイは、演出家のジャン=フランソワ・シヴァディエとともに、エクサン・プロヴァンス音楽祭で上演されるヴェルディの傑作オペラ「椿姫」の製作に臨んだ。演奏はルイ・ラングレ指揮によるロンドン交響楽団。才能豊かな2人の芸術家の感性のせめぎ合いが、時に繊細に時に流麗に、名作を新たに蘇らせる。練習の合間に茶目っ気を見せるデセイ、シヴァディエの演出の下、一つ一つのシーンを積み上げてゆく舞台の製作風景は観る者を魅了する。ステージの幕が上がる前に始まっているオペラの豊饒さを、ヴェルディ生誕200年記念の年に味わえる貴重な機会。デセイの伸びのあるソプラノで聞かせる『椿姫』の名場面も堪能できるオペラ・ファンのみならず、すべてのクラシック・ファンに贈られた貴重なドキュメンタリーである。
監督・フィリップ・ベジア、出演・ナタリー・デセイ、ジャン=フランソワ・シヴァディエ、ルイ・ラングレ
2012年/フランス/112分/ビスタ/ドルビーデジタル 配給:熱帯美術館
<受賞歴>2012年 ニューヨーク映画祭 公式招待作品
★監督:フィリップ・ベジア Philippe BÉZIAT 
アニメーション作品のアシスタントを経て、TVやラジオの制作、演出に携わる。東京オペラシティなどで来日公演を行っているフランスの指揮者・マルク・ミンコフスキのドキュメンタリーを手がけたこともある。今回の椿姫のほかに、2009年にドビュッシーのオペラ『ペレアスとメリザンド』を、2011年にストラヴィンスキーのバレエ・カンタータ『結婚』の上演するまでを映像化するなど、音楽と映画を見事に融合させた新たな映像監督として、近年フランスを中心に注目を集めている。 (フランス映画祭 執筆)
★出演:ナタリー・デセイ Natalie DESSAY
1965年、リヨン出身。コロラトゥーラソプラノの役柄を中心にキャリアをスタートさせ、いまや歌唱力と美貌を兼ね備えた世界最高のオペラ歌手の一人。元は女優だったが声楽を奨められボルドー国立音楽院やパリ・オペラ座の声楽教室で学び、ウィーン国立歌劇場でのモーツァルト国際コンクールで優勝。初めてシカゴでルチア(ドニゼッティ/『ラメンモールのルチア』)を演じた後、メトロポリタン歌劇場やパリ国立オペラ座、ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスなど、世界の蒼々たる劇場の舞台で活躍。2010年にはウィーン国立オペラ座においてフランス人で初めて"オーストリア宮廷歌手"の称号を与えられた。トリノ王立歌劇場のツアーの一環として、ヴィオレッタ役(『椿姫』)で来日公演も行っている。(フランス映画祭 執筆)
★出演:ジャン=フランソワ・シヴァディエ Jean-Francois SIVADIER
ストラスブール国立劇場高等演劇学校で学び、俳優として、ローラン・ペリー、スタニスラス・ノルデ、ジャック・ラサール、アラン・フランソン、ドミニク・ピトワゼ等の監督、演出家の元で様々な役を演じる。1996年には自身の脚本・演出による「Italienne et Orchestre」を上演。この作品はその後、オデオン座やシャトレ劇場などで200回近く上演された。2000年にはブルターニュ国立劇場の客員アーティストとなり、『フィガロの結婚』などを演出。2003年には脚本、演出を手がけた「Italienne scène et orchestre」で批評家協会のグランプリを獲得。また2005年にゲオルク・ビューヒナーの『ダントンの死』の演出で、フランスの演劇賞であるモリエール賞を受賞。その後もヨーロッパの劇場を中心に、俳優、演出家として活躍している。


【遭難者(仮)/女っ気なし(仮)Le Naufragé / Un monde sans femmes】 
シルヴァンを巡る2つの物語。フランスで注目される若手、ギヨーム・ブラック監督のデビュー作。
『遭難者』(仮)フランス北部の小さな町で、自転車がパンクしたリュック。それを見て近づいてきた地元の青年シルヴァン。シルヴァンはリュックを助けようとするが。
『女っ気なし』(仮)短篇『遭難者』(仮)と対をなす作品。夏の終わり。バカンスに来た若い母親と娘に、アパートを貸すシルヴァン。3人は海水浴や買い物をして仲良く過ごしていたが、そこに友人ジルが現れる。
フランスでロングランとなり、エリック・ロメールやジャック・ロジエを引き合いに出され高い評価を得た、新人ギヨーム・ブラック監督初の劇場公開作。
監督:ギヨーム・ブラック
『遭難者』(仮)出演:ジュリアン・リュカ、アデライード・ルルー、ヴァンサン・マケーニュ/2009年
『女っ気なし』(仮)出演:ヴァンサン・マケーニュ、ロール・カラミー、コンスタンス・ルソー/2011年
フランス/83分/ビスタ/5.1ch  配給:エタンチェ
<受賞歴>『女っ気なし』(仮)2011年 フランス批評家組合 最優秀短篇賞 受賞、2012年 AlloCiné スタッフ部門 年間ランキング第1位
★監督:ギヨーム・ブラック Guillaume BRAC
1977年生まれ。フェミス(フランス国立映画学校)卒業。
2008年、少ない資金で素早く映画を撮るため、友人と映画製作会社Année Zéroを設立。
<フィルモグラフィー>
2009:短篇『遭難者』(仮)
2011:中篇『女っ気なし』(仮)
2013:長篇第一作「Tonnerre」公開予定。
★出演:ヴァンサン・マケーニュ Vincent MACAIGNE
1978年生まれ。コンセルヴァトワール(フランス国立高等演劇学校)卒業。映画出演のほか、映画監督、舞台演出家としても活躍。主な出演作に、フィリップ・ガレル監督の『灼熱の肌』がある。


【アナタの子供 Un enfant de toi】
情熱は戦争よ、でもいつも闘っているわけじゃないわ。ジャック・ドワイヨン監督が愛娘ルーと共に作り上げた愛すべきラブコメディ
7歳の娘リナと暮らすアヤは、歯科医の恋人ヴィクトールがいるにも関わらず、3年前に別れた前夫でリナの父親のルイと時々会っている。今は若い恋人ガエルとつきあっているルイは、アヤがヴィクトールとの子供を作りたがっていると聞き、嫉妬を隠せない。一方、アヤがルイと会っていることを知ったヴィクトールも心中穏やかでない。そんな時、ルイの発案で4人は一緒に夕食をとるが、食事会は微妙な雰囲気となり、事態は一層錯綜する。恋愛のもつれを描かせれば右に出る者のいないドワイヨンだが、従来の作品に比べると軽いタッチで撮られた本作においてもその手腕は際立っている。アヤが誰を選ぶのか、登場人物たちとともに観客も最後の瞬間まで振り回されるだろう。奔放なヒロイン、アヤを演じたのはドワイヨンとジェーン・バーキンの娘ルー・ドワイヨン。ルイを演じたサミュエル・ベンシェトリは『歌え!ジャニス☆ジョプリンのように』を監督し、舞台演出や小説も手がける才人。大人の諍いの目撃者となり、物語上でも重要な役割を担うリナを演じたオルガ・ミシュタンの素晴らしい演技も見逃せない。撮影は名手レナート・ベルタと『皇帝ペンギン』のロラン・シャレ。
監督・ジャック・ドワイヨン、出演:ルー・ドワイヨン、サミュエル・ベンシェトリ、マリック・ジディ、オルガ・ミシュタン
2012年/フランス/136分/ビスタ/ドルビーDTS
<受賞歴>2012年 ローマ国際映画祭コンペティション部門 正式出品作品
★監督:ジャック・ドワイヨン Jacques DOILLON
1944年、フランス・パリ生まれ。編集助手として映画界入り。占領下のパリを描く『小さな赤いビー玉』(75)が評価され、『La Drolesse』(79)でカンヌ国際映画祭新人監督賞を受賞。ジェーン・バーキン主演の濃密なドラマ『ラ・ピラート』(84)では、カンヌ国際映画祭コンペに出品され、話題を呼ぶ。1990年には『ピストルと少年』で、ベルリン国際映画祭国際評論家連盟賞、ルイ・デリュック賞を受賞。その後も、母を突然失う4歳の少女が主人公の『ポネット』(96)でヴェネチア国際映画祭で国際評論家連盟賞および史上最年少の女優賞を受賞するなど、人間関係のドラマの機微や、子供や思春期の少年少女を描くことに高い評価を得ている名匠である。今回の『アナタの子供』(12)で主役を務めるルー・ドワイヨンは、ジェーン・バーキンとの間に生まれた愛娘。
★主演:ルー・ドワイヨン Lou DOILLON
1982年生まれ。父親は映画監督のジャック・ドワイヨン、母親は女優・歌手のジェーン・バーキン。異父姉妹に写真家ケイト・バリー、女優のシャルロット・ゲンズブールという芸能一家に育つ。1988年、母ジェーン主演の『カンフー・マスター』(監督:アニエス・ヴァルダ)で映画デビュー。その後、父ドワイヨン監督のコメディ「あまりにも大きな(小さな)愛」(98)の初主演を経て、ジャン=ピエール・アメリス監督の「デルフィーヌの場合」(99)、ドワイヨン監督の「フリーキー・ラブ!(イカれた一夜)」(01)などで個性を発揮。抜群のスタイルとユニークな美しさでジバンシィの広告をはじめ、ファッション・モデルとして人気を博すほか、2012年には自身で作詞・作曲も手がけるアルバム「Places」で歌手デビューを果たしている。


【恋のときめき乱気流 Amour & turbulences】
忘れたい男と偶然、飛行機で隣り合わせになってしまったら。『スイミングプール』で注目を浴びたリュディヴィーヌ・サニエ主演のラブコメディ。
アーティストのジュリーはニューヨークで彫刻の個展を終え、パリに帰国するために空港に向かう。ビジネスクラスにアップグレードされて喜んだのも束の間、隣の席に駆け込んできたのは3年前にひどい別れ方をした元恋人のアントワーヌだった。席を移ろうにも、あいにく機内は満席。気まずい雰囲気の中、言葉を交わし始める二人。だが、まだヨリを戻したがっているアントワーヌに対し、結婚を控えているジュリーは、できれば口も聞きたくない。アントワーヌの窮状を見かねて必死に助言する周囲の乗客たち。到着まで7時間、乱気流に巻き込まれながらも飛行機はパリへと向かう。
今年4月にフランスで公開されたばかりのロマンチックなラブ・コメディ。機内での会話の合間に出会いから別れまでのエピソードがフラッシュバックされ、二人の間に何が起こったかを徐々に観客にわからせる構成が面白い。脚本はアメリカのテレビドラマで俳優として活躍するヴィンセント・アンゲルのオリジナル。女性関係にだらしないアントワーヌを演じたニコラ・ブドスは脚色・台詞にも参加した。巧みな会話のみならず、エッフェル塔やオルセー美術館などを美しくとらえたロケ撮影も見どころだ。
監督・アレクサンドル・カスタネッティ、出演・リュディヴィーヌ・サニエ、ニコラ・ブドス、ジョナタン・コーエン、アルノー・デュクレ
2012年/フランス/96分/スコープ/ドルビーデジタル
★監督:アレクサンドル・カスタネッティ Alexandre CASTAGNETTI
子供の頃からコンセルバトワールで音楽を学び、通信関係の勉強をした後、音楽活動と平行して脚本の執筆を始める。2004年に映画「L'incruste 」を共同監督。2007年、友人のクレモン・マルシャンと共に、弾き語りのデュオ "La Chanson du dimanche(日曜の歌)"を結成。毎週土曜日に様々な場所で批評精神にあふれたユーモラスな歌を収録、それを日曜日にインターネットに投稿すると人気を博し、ニュースサイトでの紹介、数々のライブへの招聘を経て、テレビで特集が組まれるほどになる。2010年、テレビドラマ「Les Invincibles」の第1シーズンの演出および音楽を手がける。これまでのコメディの経験が生かされた『恋のときめき乱気流』(12)が、単独監督デビュー作となる。
★出演:リュディヴィーヌ・サニエ Ludivine SAGNIER
1979年、パリ郊外生まれ。子供の頃から演技を学び、9歳で映画デビュー。フランソワ・オゾンの『焼け石に水』(00)の奔放な少女役で一躍知られるようになる。同監督の『8人の女たち』で大スターにまじって最年少で出演。『スイミング・プール』(03)ではシャーロット・ランプリングと堂々と共演し、国内外の映画界の注目を集めた。オゾン作品ばかりでなく、ハリウッドに『ピーターパン』(03)で進出するほか、フランスの巨匠クロード・シャブロルの『引き裂かれた女』(07)やクロード・ミレールの『ある秘密』(07)などに出演。2013年5月、カンヌ国際映画祭のある視点部門で審査員をつとめる。フランス若手女優のなかで、もっとも次回作が気になる女優のひとりである。
★出演:ニコラ・ブドス Nicolas BEDOS
1980年生まれ。父親は俳優、コメディアン、脚本家のギイ・ブドス。若くしてテレビ番組の演出や父の舞台演目の脚本を手がける。舞台では、最優秀創作賞候補となった「Sortie de scène」(05)、メラニー・ロラン主演「Promenade de santé」(10)を執筆・演出。テレビドラマの「Ni reprise, ni échangée」(10)やジャンヌ・モロー主演「Bouquet Final」(11)では、脚本と出演を兼ねる。映画では、オムニバス『プレイヤー』(12)の脚本のほか、俳優としてルイーズ・ブルゴワン主演の「L'amour dure trois ans 」(12)やフランス映画祭2013の上映作『Populaire(原題)』(12)に出演。『恋のときめき乱気流』(12)のプレイボーイ役が映画初主演作となる。


【テレーズ・デスケルウ Thérèse Desqueyroux】
自由を模索する女の運命。『アメリ』から10年、オドレイ・トトゥがひとりの女性のダークサイドを熱演。ノーベル賞作家フランソワ・モーリアックの代表作にして、フランスのカトリック文学史上の不朽の名作と言われる同名小説の映画化。舞台は1920年代、フランス南西部のランド県。テレーズは家同士が決めた結婚により、広大な松林を所有するデスケルウ家の当主ベルナールの妻となる。このような政略結婚が当たり前だったこの時代、何の疑問も持たずに結婚したテレーズだったが、愛のない結婚生活と旧態依然とした家族制度に次第に息苦しさを感じ始める。ベルナールの妹で、幼馴染みの親友でもあるアンヌが家族の反対にも関わらず若い青年ジャンと恋に落ちたことは、テレーズの心の中に今置かれている状態から逃れたいという思いを芽生えさせる。本作が惜しくも遺作となった名匠クロード・ミレールは、思いもかけぬ方法で自らを取り巻く世界を打破しようとするヒロインの姿を一切の感傷を排して描く。当時の雰囲気を徹底的に再現した美術、あるいは牢獄のように冷たい室内空間と開放的な屋外のコントラストを効果的に表現した撮影は、台詞で説明する以上の説得力をもってヒロインの行動の意味を見る者に伝えるだろう。この難役に挑戦したオドレイ・トトゥの演技も素晴らしい。
監督・クロード・ミレール、出演・オドレイ・トトゥ、ジル・ルルーシュ、アナイス・ドゥムスティエ
2011年/フランス/110分/シネマスコープ/ドルビーステレオ
<出品歴>2012年 カンヌ国際映画祭 クロージング作品
★監督:クロード・ミレール Claude MILLER
1942年、フランス・パリ生まれ。仏高等映画学院を卒業後、マルセル・カルネ監督の助監督として映画界入り。その後、ブレッソン、ゴダール、ドゥミなど巨匠たちの助監督を経て、トリュフォーの製作主任を約10年間務める。1976年、長編デビュー作『いちばんうまい歩き方』でセザール賞で監督賞、作品賞など6部門にノミネートされる。1985年にシャルロット・ゲンズブールを主演に抜擢した『なまいきシャルロット』や、1988年にトリュフォーが遺した脚本を映画化した『小さな泥棒』で、シャルロットを一躍スターにするとともに、「トリュフォーの後継者」と言われるようになる。また、リュディヴィーヌ・サニエ主演の『リリィ』(03)など、思春期の微妙な心理を繊細なタッチで描いた作品が多い。1998年には『ニコラ』でカンヌ映画祭 審査員特別賞を受賞。その他、『死への逃避行』(83)、『伴奏者』(92)、『ある秘密』(07)などがある。2012年4月4日逝去、70歳。
★出演:オドレイ・トトゥ Audrey TAUTOU
1978年、フランス・ボーモン生まれ。幼い頃から女優を志し、1996年にテレビ番組でデビュー。その後もTVや短編映画へ出演し、1999年に『エステサロン/ヴィーナス・ビューティー』での演技が評価され、セザール賞 有望若手女優賞を受賞。そして、2001年に主演した『アメリ』が世界中で大ヒットし、リュミエール賞を受賞したほか、BAFTAやセザール賞など多数の賞にノミネートされ、一躍スター女優となる。2006年には『ダ・ヴィンチ・コード』でハリウッドに進出するなど、着実に活躍の場を広げている。その他出演作に『ロング・エンゲージメント』(04)、『ココ・アヴァン・シャネル』(09)などがある。 最新作は、ボリス・ヴィアン原作の「L' Ecumes des jours (うたかたの日々)」(12/監督:ミシェル・ゴンドリー)
★出演:ジル・ルルーシュ Gilles LELLOUCHE
1972年、フランス・カーン生まれ。演劇学校を卒業した後、2005年に出演した「Ma vie en l'air」でセザール賞 有望若手男優賞にノミネートされ、注目される。2010年にはギヨーム・カネ監督の『君のいないサマーデイズ』で、セザール賞 助演男優賞にノミネートされている。その他の出演作に『唇を閉ざせ』(06)、『アデル/ファラオと復活の秘薬』(10)、『この愛のために撃て』(10)などがある。また、俳優として活動を始めた当初から監督や脚本などの製作の活動も始め、自身が監督、脚本を担当した短編、長編作品を製作しており、『プレイヤー』(12)ではジャン・デュジャルダンとともに出演だけでなく監督としても参加している。
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by sentence2307 | 2013-06-09 18:27 | 映画 | Comments(3)
新聞記事で今年も有楽町朝日ホールやマリオンで、フランス映画祭が行われることを知りました。6月21日から24日までの4日間、全14プログラムの上映だそうですね。なにしろフランス映画の現在を時間差なしのホカホカ状態で、コテコテの最新作を見ることができるという貴重な機会なわけですから、この期間に是非できるだけ多くの作品を見たいと(毎年)思ってはいるのですが、なにしろこちらは勤めのある身なので、時間が自由になりません、いざ映画祭が始まるとなると、なにやかやと仕事ができて(たまに土曜出勤などという凄絶なこともあるので、映画祭がわざわざ土日を挟んでの開催だとしても楽観できません)、実際に見ることのできた作品が、たったの1本なんてことは、しょっちゅうでした。月末に送られてくる「wowow」のプログラムにしても、ただ録画のために印をつけておくための予定表でしかなく、自分にとっては鑑賞するためのプログラムという役割をとうに失ってしまっています。ですので、見ていない録画ばかりがどんどん溜まる一方というジリ貧な現状です。
しかし、プログラムから見たい作品を選び出し、どんな映画かと想像しながら、印をつけていくという楽しみはありますので、「2013 フランス映画祭」でもそのデンで作品の情報だけでも筆者してみました。これだけでもじっくり読み込んで、想像をめぐらして愉しむことにしようと思います。


【Dans la maison (英題)In the House】
個人授業は、いつしか息詰まる心理戦に変わる。フランソワ・オゾン監督史上、最高傑作、ついに日本解禁。
かつて作家を志していたジェルマンは、今は高校で国語の教師をしていた。凡庸な生徒たちの作文の採点に辟易していたとき、才気あふれるクロードの文章に心をつかまれる。それは、あるクラスメイトとその家族を皮肉な視点で綴ったものだが、羨望とも嫉妬ともつかない感情に満ちた文章に、ジェルマンは危険を感じ取りながらも文章の才能に魅せられ、クロードに小説の書き方を手ほどきしていく。やがて才能を開花させたクロードの書く文章は、次第にエスカレートして行く。若き作家と教師の個人授業は、いつしか息詰まる心理戦に変わっていく。
第60回サン・セバスチャン国際映画祭で最優秀作品賞と最優秀脚本賞をダブル受賞、第37回トロント国際映画祭では国際映画批評家連盟賞を受賞するなど、ますます国際的に評価が高まっているフランソワ・オゾンのスリリングな最新作。フランスを代表する名優ファブリス・ルキーニと、これが本格的なデビューながら一歩も引かないエルンスト・ウンハウワーとの手に汗握る駆け引きに、一瞬たりとも目が離せない。
監督・フランソワ・オゾン、出演・ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、エマニュエル・セニエ、ドゥニ・メノーシェ、エルンスト・ウンハウワー、バスティアン・ウゲット
2012年/フランス/105分/ビスタ/5.1ch 配給:キノフィルムズ
<受賞歴>2012年 サン・セバスチャン国際映画祭 最優秀作品賞&最優秀脚本賞、2012年 トロント国際映画祭 国際映画批評家連盟賞
★監督:フランソワ・オゾン Francois OZON
1967年フランス・パリ生まれ。1990年、国立の映画学校フェミスの監督コースに入学、次々に短編作品を発表し、『サマードレス』(96)でロカルノ国際映画祭短編セクショングランプリを受賞。1999年の『クリミナル・ラヴァーズ』がベネチア国際映画祭に正式出品され、続く『焼け石に水』(00)で、ベルリン国際映画祭 テディ2000賞を受賞。
2001年『まぼろし』がセザール賞の作品賞と監督賞にノミネートされ国際的にも高い注目を集め、翌年『8人の女たち』で、ベルリン映画祭銀熊賞を受賞。その後『スイミング・プール』(03)、『エンジェル』(07)、『しあわせの雨傘』(10)など多種多様な作品を発表し続けている。
★出演:ファブリス・ルキーニ Fabrice LUCHINI
1951年フランス・パリ生まれ。イタリア移民の一家に生まれる。美容室に勤める一方、文学や音楽に親しみ、1969年に『Tout peut arriver』で映画デビュー。続いてエリック・ロメール監督の『クレールの膝』(70)に出演。以後、同監督の常連俳優として、『聖杯伝説』(78)、『飛行士の妻』(80)、『満月の夜』(84)などに出演している。1991年には、クリスチャン・ヴァンサン監督の『恋愛小説ができるまで』(90)で、セザール賞主演男優賞にノミネート、そして1994年には、クロード・ルルーシュ監督の『Tout ça... pour ça !』で、同賞の助演男優賞に輝いた。その他の主な出演作品には『百貨店大百科』(92)、『親密すぎるうちあけ話』(04)、『PARIS(パリ)』(08)、『屋根裏部屋のマリアたち』(10)などがある。オゾン作品は『しあわせの雨傘』(10)に続き、2度目の出演となる。
★出演:エルンスト・ウンハウワー Ernst UMHAUER
1989年フランス・シェルブール生まれ。2011年、短編映画"Le Cri"で初めての役を得る。続いてドミニク・モル監督の『マンク~破戒僧~』(11)でヴァンサン・カッセルと共演。本作でフランソワ・オゾン監督にクロード役に抜擢され、リュミエール賞の新人男優賞を受賞し、セザール賞にもノミネートされる。今後の活躍が期待される若手俳優の一人である。
★出演:クリスティン・スコット・トーマス Kristin SCOTT THOMAS
1960年イギリス・コーンウォール生まれ。19歳で、演技を学ぶためにパリに移住。1986年、プリンスが監督を務めた『プリンス/アンダー・ザ・チェリー・ムーン』で映画デビュー。大ヒット作『フォー・ウェディング』(94)の演技で絶賛され、英国アカデミー賞助演女優賞を受賞。さらにアンソニー・ミンゲラ監督の『イングリッシュ・ペイシェント』(96)でアカデミー主演女優賞にノミネートされ、演技力への評価を確実なものとする。その後、『ずっとあなたを愛してる』(08)に主演し、ヨーロッパ映画賞最優秀賞女優賞他、数々の賞を受賞。また2003年には大英帝国勲章を、2005年にレジオン・ドヌール勲章を受けている。最近の主な出演作には、『ブーリン家の姉妹』(08)、『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』(09)、『サラの鍵』(10)、『砂漠でサーモン・フィッシング』(11)、『ベラミ 愛を弄ぶ男』(12)、待機中の作品に、レイフ・ファインズがメガホンをとる『The Invisible Woman』(13)、ニコラス・ウィンディング・レフン監督作、ライアン・ゴズリングと共演する『Only God Forgives』(13)などがある。
★出演:エマニュエル・セニエ Emmanuelle SEIGNER
1966年フランス・パリ生まれ。祖父は俳優のルイス・セニエ、父は写真家で母はジャーナリスト。14歳からモデルとして活躍。ヨーロッパの有名誌の表紙を飾り、シャネルのCMにも抜擢された。1985年にジャン=リュック・ゴダール監督の『ゴダールの探偵』で映画デビュー。その後ロマン・ポランスキー監督の『フランティック』(88)でハリソン・フォードを惑わす謎の美女を好演。翌年ポランスキーと結婚。以降『赤い航路』(92)や『ナインズ・ゲート』(99)とポランスキー監督作に出演し、妖艶な美貌を醸し出している。その他の作品として、オリヴィエ・ダアン監督『エディット・ピアフ~愛の賛歌~』(07)、ジュリアン・シュナーベル監督『潜水服は蝶の夢を見る』(07)、イエジー・スコリモフスキ監督『エッセンシャル・キリング』(10)などがある。


【わたしはロランスLaurence Anyways】
彼は、女になりたかった。彼は、彼女を愛したかった。弱冠23歳のグザヴィエ・ドラン監督が描く"スペシャル"な、愛の物語。
モントリオール在住の国語教師ロランスは、恋人のフレッドに「女になりたい」と打ち明ける。それを聞いたフレッドは、ロランスを激しく非難するも、彼の最大の理解者であろうと決意する。あらゆる反対を押し切り、自分たちの迷いさえもふり切って、周囲の偏見や社会の拒否反応に果敢に挑む長い年月。その先に待ち受けるものは? 弱冠23歳にしてカンヌ国際映画祭に3作品を出品し話題となったグザヴィエ・ドラン監督による、10年に渡る美しく切ない愛を描いたラブ・ストーリー。ロランス役をメルヴィル・プポー、ロランスの母をナタリー・バイが演じる。フレッド役のスザンヌ・クレマンは、2012年カンヌ国際映画祭ある視点部門で最優秀女優賞を受賞した。
監督・グザヴィエ・ドラン、出演・メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ
2012年/カナダ=フランス/168分/スタンダード/5.1ch 配給:アップリンク
<受賞歴>2012年 カンヌ国際映画祭 ある視点部門正式出品作品 最優秀女優賞受賞、2012年 トロント国際映画祭 最優秀カナダ映画賞受賞
★監督:グザヴィエ・ドラン Xavier DOLAN
1989年カナダ生まれ。6才で子役としてデビュー。2008年に処女作『マイ・マザー/青春の傷口』を制作。カンヌ映画祭監督週間部門出品、セザール賞外国映画部門ノミネートなど、高く評価を得た。その後、監督、脚本のみならず、プロデューサー、出演、編集、その他、衣装と美術の監修も務めた第二作『空想の恋』(09)はカンヌ映画祭「ある視点」部門に出品され、"非常にエキサイティングな新世代の一人"と紹介された。本作『わたしはロランス』では、再びカンヌの「ある視点」部門で上映され、その気鋭ぶりが話題を集めている。
★出演:メルヴィル・プポー Melvil POUPAUD
1972年フランス生まれ。母親がキャスティング・ディレクターだったことから、子役としてラウル・ルイス監督作品に度々出演。その後学業に専念するが15歳の時ジャック・ドワイヨン監督作『15歳の少女』にて再デビュー。セザール賞の有望若手男優賞にノミネートされる。以後、主な出演作に『愛人(ラマン)』(92)、『おせっかいな天使』(93)、『いちばん美しい年齢』(94)、『エリザ』(95)、『夏物語』(96)、『ぼくを葬る』(05)、『ブロークン・イングリッシュ』(07)などがある
★出演:スザンヌ・クレマン Suzanne CLÉMENT
1969年カナダ生まれ。
主な出演作に、TVシリーズ「Watatatow」、「Sous le signe du lion」、「Jean Duceppe」、「Cover Girl」、 「Les hauts et les bas de Sophie Paquin」、「Unité 9」、 映画作品に「The Confessional」(94)、「L'Audition」(05)、「C'est pas moi, je le jure!」(08)、「Tromper le silence」(10) などがある。グザヴィエ・ドラン監督作品への出演は『マイ・マザー/青春の傷口』(94)に続き二回目。本作ではカンヌ映画祭ある視点部門主演女優賞を受賞した。
★出演:ナタリー・バイ Nathalie BAYE
1948年フランス生まれ。代表作に、フランソワ・トリュフォー監督『映画に愛をこめて アメリカの夜』(73)、『緑色の部屋』(78)、ジャン=リュック・ゴダール監督『勝手に逃げろ/人生』(79)、『ゴダールの探偵』(85)など。近年の出演作に、クロード・シャブロル監督『悪の華』(03)、ギョーム・カネ監督『唇を閉ざせ』(06)などがある。受賞歴は 1980 年『勝手に逃げろ/人生』でセザール賞助演女優賞、1982 年『愛しきは、女/ラ・バランス』ではセザール賞主演女優賞、1999 年『ポルノグラフィックな関係』でヴェネチア国際映画祭女優賞を獲得。


【Populaire (原題)Populaire】
"ローズの夢は、パリ、ニューヨーク、そして世界をつかむことー。"50年代フランスを舞台に、タイプライター世界大会に全てをかけるヒロインを描く、カラフルなサクセス・エンターテインメント!
世界がドラマティックに変化した、1950年代末。女性たちは自由を求めて社会へ飛び出し、夢に向かって羽ばたいた。スターになれる道は色々あったが、今では想像もつかないのが、〈タイプライター早打ち大会〉。オリンピックさながらの各国代表による激戦を勝ち抜いた女王は、国民のアイドルだった。そんな時代のフランスを舞台に、早打ち以外は何ひとつ取り柄のない女の子が、世界大会を目指す姿を描くサクセス・ストーリーが完成した。敏腕コーチが伝授する、メンタルを鍛え、駆け引きに強くなるコツは、ハードな今を生き抜く私たちにも役立つアイディアでいっぱい。さらに『アパートの鍵貸します』『シェルブールの雨傘』など、当時の傑作へのオマージュに溢れ、フランスのマスコミも大絶賛、本年度セザール賞5部門にノミネートされた。ロマンティックな女の子の夢と、興奮と感動のスポ根が不思議にマリアージュ、50年代カルチャー満載のポップなエンターテインメントが誕生した!
監督・レジス・ロワンサル、出演・ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ
2012年/フランス/111分/シネマスコープ/5.1ch 配給:ギャガ
<受賞歴>2013年 セザール賞 5部門ノミネート
★監督・脚本:レジス・ロワンサル Régis ROINSARD
映画制作を学んだ後、スタッフとして制作現場全体を経験するために、撮影アシスタントやセット、音響などを務める。1998年、短編「Madame Dron」で監督デビュー。続いて短編「Simon」(01)、ジェーン・バーキン、マリアンヌ・フェイスフルらが出演するドキュメンタリービデオ「Rendez-vous avec Jane」(05)、短編「Belle, enfin possible」(05)を監督する。劇映画は全作、脚本も担当している。その他、フランスのシンガー、ジャン・ルイ・ミュラのPVも手掛ける。長編映画監督デビュー作となる本作で、セザール賞 作品賞にノミネートされ、今国内外で最も注目されている監督の一人である。
★出演:デボラ・フランソワ Déborah FRANÇOIS
1987年、ベルギー、リエージュ生まれ。2005年、ダルデンヌ兄弟監督の『ある子供』でデビュー。この作品はカンヌ国際映画祭パルムドールに輝き、フランソワもセザール賞有望若手女優賞にノミネートされ、たちまち注目される。その後、『譜めくりの女』(06)でも同賞にノミネートされ、「Le premier jour du reste de ta vie」(08)で同賞受賞を果たす。2010年には、フランス人女性監督が阪神・淡路大震災の被災者のその後を描いた『メモリーズ・コーナー』に出演し、西島秀俊、阿部寛と共演する。その他、ソフィー・マルソー主演の『レディ・エージェント 第三帝国を滅ぼした女たち』(08)、『21番目のベッド』(09)、ヴァンサン・カッセル共演の『マンク ~破壊僧~』(11)などに出演、今最も期待されている若手女優の一人。


【ウェリントン将軍~ナポレオンを倒した男~(仮) Linhas de Wellington】
世界の巨匠ラウル・ルイス監督最後のプロジェクト。超豪華キャストで贈る美しき"戦争絵巻"。
1810年、ナポレオン皇帝はマッセナ元帥にポルトガル征服を命じる。フランス軍は難なくポルトガルへの進攻に成功したが、それはウェリントン将軍の罠だった。本作はウェリントン将軍率いる、イギリス・ポルトガル連合軍が、ナポレオンを破るまでの戦いの中で巻き起こる、数々のドラマを詩情豊かに描く壮大なる大河ロマンである。本作は一昨年この世を去った、名匠ラウル・ルイスの最後のプロジェクト。シューティング前に亡くなったため、生涯のパートナー、バレリア・サルミエントがメガフォンをとり、ジョン・マルコヴィッチ、マチュー・アマルリックほか、特別出演としてカトリーヌ・ドヌーヴ、ミシェル・ピコリ、イザベル・ユペール、キアラ・マストロヤンニ、メルヴィル・プポー等、豪華キャストの出演が話題を呼んだ。新たなる出会い、切ない別れ、大切な人との死別、そして育まれる愛― さまざまな人間ドラマが、混乱の時代の中で繰り広げられる、美しき"戦争絵巻"。 監督・バレリア・サルミエント、出演・ジョン・マルコヴィッチ、マチュー・アマルリック、カトリーヌ・ドヌーヴ、ミシェル・ピコリ、イザベル・ユペール、キアラ・マストロヤンニ、メルヴィル・プポー
2012年/フランス=ポルトガル/152分/16:9/ステレオ 配給:アルシネテラン
<受賞歴>2012年 ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門 正式出品作品
★監督:バレリア・サルミエント Valeria SARMIENTO
1948年チリ、バルパライソ生まれ。チリ大学で哲学と映画製作を学ぶ。1969年にバルパライソ・カトリック教大学芸術院の映画学科教授となったラウル・ルイスと出会い、結婚。以後、「Que hance!」(70)などでルイスの助監督を務め、「Los minuteros」(72)といった短篇をルイスと共同監督し、編集も担当。1972年には短篇「Un sueño como de colores」を単独で監督。73年にはルイスと「La expropiación」の追加撮影をパリで行った後、パリに亡命。その後はルイス監督作「Dialogo de Exilados」(74)の編集を担当すると共に、夫以外の作品でも編集を担当。79年にはベルギーで「Gens de nulle part, gens de toutes parts」を監督。以後、ドキュメンタリー作家として活動すると共に、ルイス共同脚本「Notre mariage」(84)で劇映画の監督としてもデビュー。以後『アメリア・ロペス・オニール』(91)、「Elle」(95)、「ストラスブールの見知らぬ人」(98/CS放映)、「Rosa la China」(02)、「Secretos」(08)といった劇映画を、夫の作品の編集を担当しながらも監督。そして「Linhas de Wellington」(12)を完成させた。
★出演:ジョン・マルコヴィッチ John MALKOVICH
1953年、アメリカ・イリノイ州生まれ。1976年にゲイリー・シニーズと設立したステッペンウルフ・シアター・カンパニーで数々の舞台に出演、ブロードウェイでも活躍。デビュー作『プレイス・イン・ザ・ハート』(84)でアカデミー賞助演男優賞ノミネート。個性的な演技派として『シェルタリング・スカイ』(90)、『二十日鼠と人間』(92)、『ザ・シークレット・サービス』(93)や、自身が題材になった『マルコヴィッチの穴』(99)にも出演。『ゴーストワールド』(01)、『JUNO/ジュノ』(07)を送り出すなど、プロデューサーとしても活躍。
★出演:マチュー・アマルリック Mathieu AMALRIC
1965年、フランス生まれ。「Les Favoris de la lune」(84)でデビュー。『そして僕は恋をする』(96)で、セザール賞有望若手男優賞を受賞。『キングス&クイーン』(04)と『潜水服は蝶の夢を見る』(07)で、セザール賞主演男優賞を受賞。近年はアメリカ映画にも出演し、スピルバーグの『ミュンヘン』(05)の情報屋ルイや、『007 慰めの報酬』(08)の悪役ドミニク・グリーンを演じた。監督としては『Mange ta soupe』(97)でデビューし、『さすらいの女神たち』(10)で、カンヌ国際映画祭コンペティション部門にエントリーされ、監督賞を受賞した。
★出演:メルヴィル・プポー  Melvil POUPAUD
1972年、フランス・パリ生まれ。9歳の時にラウル・ルイスの『海賊の町』(83)でデビューし、『15才の少女』(88)で一躍脚光を浴び、『愛人/ラマン』(91)、『おせっかいな天使』(93)などに出演。『ファドの調べ』(94)でルイス作品に再び主演し、以降『ミステリーズ 運命のリスボン』(10)ほか計12本のルイス作品に出演。その他『いちばん美しい年令』(95)、『夏物語』(96)、『ぼくを葬る』(05)『イノセント・ライズ』(94)、『ル・ディヴォース』(03)、『ブロークン・イングリッシュ』(07)など多数出演し、現代フランス映画に欠かせない存在となる。


【母の身終い Quelques heures de printemps】
不治の病に自分の最後の日を決めようとする母親と出所したばかりの一人息子。永遠の別れに直面した母と息子の絆を静かな眼差しで描いた感動ドラマ。
48歳のアランは、長距離トラックのドライバーだったが、麻薬の密輸に加担したため服役し、出所したばかりだ。彼は母親が一人暮らす実家で人生のやり直しをしようとしている。だが几帳面な母親とは昔から折り合いの悪いアランは、なかなか希望しているような仕事につけない焦燥感もあり、事あるごとに母親とぶつかり合う。ボウリング場で知り合い一夜を過ごした女性ともちゃんとした恋愛関係を深める事ができない。しかし、ある時アランは、母親の脳腫瘍が進行しており、母親がスイスの会社と契約を交わし尊厳死を実行しようとしていることを知る・・・。そしていよいよ母親がスイスに出発する朝が来た。アランは母親の選択にどう対処するのか。息子役に個性派俳優ヴァンサン・ランドン、母親役に『人生は長く静かな河』でセザール賞助演女優賞を受賞したエレーヌ・ヴァンサン。共演に『潜水服は蝶の夢を見る』のエマニュエル・セニエ。監督に『愛されるために、ここにいる』のステファヌ・ブリゼ。お互いにきちんと向き合ったことがない、愛情表現に不器用な母と息子の絆を描いた感動ドラマ。
監督・ステファヌ・ブリゼ、出演・ヴァンサン・ランドン、エレーヌ・ヴァンサン、エマニュエル・セニエ
2012年/フランス/108分/ビスタ/ドルビーデジタル 配給:ドマ/ミモザフィルムズ
<受賞歴>2013年 セザール賞 4部門(主演男優賞・主演女優賞・監督賞・脚本賞)ノミネート
★監督・脚本:ステファヌ・ブリゼ Stéphane BRIZÉ
1966年フランス、レンヌ出身。工科大学で電子工学のディプロマ(DUT)を取得。1993年「Bleu dommage」で短篇映画の監督と脚本デビューで主演もする。これが94年のコニャック映画祭短篇グランプリを獲得。95年には役者として『パリのレストラン』と同作の撮影監督リュック・パジェスの短篇「Ada sait pas dire non」に出演。96年の短篇監督、脚本第二作目「L'oeil qui traine」で同年のヴァンドーム映画祭グランプリを受賞、翌年のレンヌ、マメール、アレスの短篇映画祭などでも賞を獲得。「L'oeil qui traine」の評価から99年長篇映画「Le bleu des villes」を監督、脚本。同年のカンヌ映画祭「監督週間」部門に選出され注目を浴びる。ドーヴィル映画祭ではミシェル・ドルラノ賞(脚本賞)を受賞。その後、中篇ドキュメント「Le bel instant」(03)、「Une vie de rêves」(05)を撮る。2005年の『愛するために、ここにいる』で、孤独に生きる初老の男が、タンゴのレッスンで知り合った女性との交流を通して輝きを取り戻すまでを繊細に紡ぎ上げ、セザール賞で3部門(主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞)にノミネートされる。
<フィルモグラフィー>
1999:Le bleu des villes (監督、脚本)

2005:愛されるために、ここにいる
(監督、脚本)
2006:Entre adultes(監督、脚本)
2009:Mademoiselle Chambom(監督、脚本) セザール賞 脚色賞受賞/インディペンデント・スピリット賞 外国映画賞ノミネート 2012:Quelques heures de printemps セザール賞監督賞、脚本賞ノミネート
★出演:ヴァンサン・ランドン Vincent LINDON
1959年フランス、オー・ド・セーヌ出身。裕福な家庭で育つ。アラン・レネの『アメリカの伯父さん』(80)に衣装のアシスタントとして参加。その後渡米。フランスに戻ってからル・マタン紙の記者として働きながら俳優を志すようになる。1983年「Le Faucon」で映画デビュー。セザール賞の主演男優賞に『女と男の危機』(92)、「Ma petite entreprise」(99)、「Ceux qui restent」(07)の演技で三度ノミネートされた。98年に俳優サンドリーヌ・キベルランと結婚し一女をもうけた。
<主なフィルモグラフィー>
1986:ハーフムーン・ストリート Half Moon Street
1988:僕と一緒に幾日か
1990:ガスパール/君と過ごした季節(とき)
1990:セ・ラ・ヴィ
1992:女と男の危機
1998:パパラッチ
1998:肉体の学校
2001:女はみんな生きている
2005:チャーリーとパパの飛行機
2008:すべて彼女のために
2009:君を想って海をゆく
★出演:エレーヌ・ヴァンサン Hélène VINCENT
1943年フランス、パリ出身。舞台女優、また舞台監督としてのキャリアが長い。
<主なフィルモグラフィー>
1988:人生は長く静かな河、セザール賞助演女優賞受賞
1988:夫たち、妻たち、恋人たち
1993:トリコロール/青の愛
1996:ベルニー
1997:ぼくのバラ色の人生
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by sentence2307 | 2013-06-09 18:24 | 映画 | Comments(574)

日本映画「性典」史

病院というのは、どうしてああいつも混んでいるのでしょうか。

先月から週に一度、午前中に有給休暇をとって耳鼻科と皮膚科に通っているのですが、受付前のかなり早い時間に入っても、まだ待合室には誰ひとりいないというのに、すでに受付箱は診察券でいっぱいになっていて、受付開始時刻になると、どこからともなく老人たちがぞろぞろと集まってきて、待合室はまるで老人たちの社交場のようになってしまいます。

もしかしたら診察を受けない老人まで、お喋りにだけ集まってきているのではないかと思うくらいの混雑ぶりです。

思うに、きっと老人の代表者が信じられないくらいの早い時間にきて、みんなの診察券をまとめて受付の箱にドサっと入れているに違いありません。

そうでなければ、こんなふうに老人たちによって病院が占拠されてしまうような状態になるわけがない。

そんな感じで、結局、いつも自分の診察が終わるのは、かろうじて昼食に掛かるか掛からないくらいのぎりぎりの時間になってしまい、やっと午後の会社に間に合うという状態です、これではとても、ふたつの科の診療を掛け持ちするなど到底望めません。

老人たちの傍若無人なお喋りもそうですが、こんな状態になっていても、なんの策も講じないで放置している病院側の対応に問題があるのは当然ですが、自分もこの理不尽な状況になかなか慣れることができなくて、当初はちょっと苛々しました。

しかし、モノは考えようで、老人たちの無邪気なリラックス振りを見ているうちに、だんだんとこんなことで苛々するのも、なんだかアホらしくなってもきました。通院とはいえ、せっかく貴重な「休暇」をとってきていることには変わりはないのですから、ここは老人たちと同じようにリラックスして過ごさなければ損だと思ったのです。

しかし、病院の待合室で出来ることといったら、ごく限られています、「読書」くらいしかありません。

そこで、病院にいく出掛けにそこらにある本を、何でもかまわず、というよりもむしろ、いままで手がでなかったような難解なものを選んでポケットにねじ込み、待ち時間にゆっくりと読むことにしました。

長い間、積ンドク本だった「葉隠」にも挑戦することができたので、この時間の活用は、自分にとっておおいに収穫でした。

しかし、ある日、朝寝坊をして仕度が遅れてしまい、あわてて家を飛び出したために、うっかり文庫本を持ってくるのを忘れてしまったことがありました。

いつもは、長い待ち時間にさらされるのを、読書によってどうにか誤魔化してきたのですから、この「時間との直面」は本当に弱りました。

カラテで来たことに一瞬恐怖心みたいなものも兆しましたが、しかし、冷静に考えれば、そんなに深刻に考えるようなことでもありません。

病院の待合室には、「日本の名著」まではありませんが、スポーツ新聞とか、ちょっと古い小説月刊誌ならいくらでも置いてありますので、選り好みをしなければ、それこそ読み物のたぐいはたくさんあり、本を携帯してくるのを失念したくらいのことで、なにも大げさに考える必要などありません。

その小説月刊誌のなかのひとつ、「小説新潮」を手に取りました。

表紙は、むかし懐かしいアグネス・ラムの若々しい写真です、定番の豊かな胸が写り込んでいないのがとても残念ですが、発行日付は2009年4月号とありました。

べつに読みたいものがあるわけではないので、まずは機械的に最初の一頁目から読み始めようと思ったところ、そこには団鬼六の小説が掲載されていました、題名は「夢のまた夢-道頓堀情歌」です。

へえ~、いつから団鬼六が「小説新潮」みたいなメジャーな月刊誌に巻頭小説を書くようになったのか、その辺の事情をまったく承知しておらず、SM雑誌で巻頭小説を書いていた頃の「団鬼六」しか知らなかったので、これには一瞬虚を突かれた感じでした。

楚々とした絶世の美人(多くは「未亡人」の設定が多かったように思います)が、悪辣な男たちから脅迫され、拉致監禁緊縛され、考えられる限りのあらゆる陰湿な方法で肉体と理性とをじわじわとイタブラレ、数々の陵辱を耐える羞恥のきわみで、意に反して身内から湧き上がる深い快感と美しい官能とに目覚めていくという定番のSM描写なのですが、その完成された見事な文章力の粘着性は耽美に輝き、他の作家の追随を許さない群を抜いたものがありました。

そこには、団鬼六よりも遥かにメジャーな、当時飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍していた官能作家たち、川上宗薫や宇野鴻一郎などチラチラと物欲しげに文壇を窺いながら自嘲気に書いていた緩いエロ小説などとは明らかに一線を画す毅然たる覚悟の、いわば本人の生き様も含めた「陰花の耽美」にこだわった高貴さを感じたものでした。

さて、病院の待合室で手にした「小説新潮」掲載の小説「夢のまた夢-道頓堀情歌」ですが、奔放で気のいい女をめぐる父子の葛藤と和解を描いた物語で、さすがSM雑誌に書きまくっていたいたようなものとは大違いの(当然ですが)、自分が抱いてきた官能小説のイメージとは随分とかけ離れた正統派の淡白な本格小説でした。

べつにそれでガッカリしたわけではありませんが、どこかで鮮烈なストーリーを「期待」していたことは事実だったので、ちょっと肩透かしを食わされた感じでしたが、ただの失望だけでなかった、ささやかな「収穫」を書き留めておかなければなりません。

この小説の最後の方にこんなクダリがありました。

「帰りは梅田に出て、若尾文子の性典映画でも見ようかとぼんやり青空に浮かぶ雲を見ている内、私はうとうとと眠りに陥った。
当時、性典ものといわれる映画が流行の兆しを見せていた。
最初は三年ばかり前から松竹映画の「乙女の性典」を皮切りに、その後、続々と一連の性典ものが誕生し、「新妻の性典」なども封切られたが、今年(昭和28年)大映がニューフェイスの若尾文子を起用して、「十代の性典」を制作するとこれが大ヒットし「続十代の性典」「続々十代の性典」と、いずれも若尾文子主演の性典ものは大ヒット作となる。
濃紺のセーラー服に襞のついたスカートという若尾文子の女学生姿に当時の私は悩殺されていた。」(「夢のまた夢-道頓堀情歌」より)

なるほどなるほど、若尾文子の「十代の性典」が大ヒットしたあとを受けて「続十代の性典」(1953佐伯幸三監督)と「続々十代の性典」(1953小石榮一監督)が制作されたことは知っていましたが、それはあくまで大映での話であって、この団鬼六の小説によると、これらの作品群が作られるずっと以前に松竹において「乙女の性典」という作品と「新妻の性典」が制作され、それが「十代の性典」の大ヒットの下地になったらしいのです、全然知りませんでした。

その日の夜、早速、家に帰ってから、松竹作品「乙女の性典」と「新妻の性典」がどういう作品なのか、ざっくりとした戸籍調べをしてみました。

★「乙女の性典」(1950松竹京都)監督・大庭秀雄、製作・石田清吉、脚本・猪俣勝人、原作・小糸のぶ、撮影・竹野治夫、美術・本木勇、音楽・伊福部昭、照明・田中憲次、考証・福岡武男、
出演・桂木洋子、飯野公子、佐田啓二、青山宏、大坂四郎、月丘夢路、佐伯秀男、森川まさみ、永田光男、沢村貞子、忍美代子、室修二、南光明、山路義人、笹川富士夫、加藤秀樹、井上晴夫、河上君江、鈴木房子、大和久乃、丸野透、加藤貫一、林喜美枝、田中謙三、静山繁男、牧千草、荒木久子、杉裕之、原純子、星野和正、山崎敏雄
1950.03.18 国際劇場 一般封切 19日 8巻 1,980m 72分 白黒

★「新妻の性典」(1950松竹京都)監督・大庭秀雄、製作・石田清吉、脚本・光畑硯郎、橋田寿賀子、原作・小糸のぶ、撮影・竹野治夫、音楽・伊福部昭
出演・佐田啓二、宇佐美淳、月丘夢路、折原啓子
1950.07.17  国際劇場  一般封切 18日 7巻 2,004m 白黒

そして、以下の大映作品へと引き継がれていくわけですね。

★「十代の性典」(1953大映東京)監督・島耕二/出演・澤村晶子、南田洋子、若尾文子
★「続十代の性典」(1953大映東京)監督・佐伯幸三/出演・南田洋子、若尾文子
★「続々十代の性典」(1953大映東京)監督・小石榮一/出演・南田洋子、澤村晶子、若尾文子
★「十代の誘惑」(1953大映東京)監督・久松静児/出演・青山京子、若尾文子、南田洋子
★「十代の秘密」(1954大映東京)監督・仲本繁夫/出演・南田洋子、木村三津子

ところで、「十代の性典」の戸籍調べをしていたときに、参考資料のひとつとして目を通したキネマ旬報刊行の「日本映画史」(世界の映画作家31)に「性典映画」が人気を博した前後の時代状況について言及した個所があって、ちょっと気になったので、少し長くなりますが筆写してみます。

見出しは「観客の増大とジャンルの展開」の項中、188頁~190頁にかけてです。

《戦後の接吻映画を経て、この期には性典ものが台頭した。
ストリップの勃興は1950年に小プロの製作による「裸の天使」などのストリップ映画や性啓蒙映画を出現させた。
それ以前に「肉体の門」1948(マキノ正博)が登場していたことを忘れてはならない。
田村泰次郎の小説はすでに劇化されていたベストセラーだった。
娼婦は特定の男に恋してはならないという掟を破り、ある娼婦がリンチを受ける。
しかし彼女はその苦しみの中で恋によって知った事故の肉体の喜びを離すまいとする。
田村の肉体小説のイデオロギーは、おそらく坂口安吾の「堕落論」と一致するだろう。
坂口は敗戦直後の混乱の中で、穣来の道徳の衣を脱ぎ、赤裸な人間の姿を突き詰めることが人間復活の第一であるとし、堕落の煉獄を経てからの天国の上昇を説いていたのである。
ついで成瀬巳喜男が田村原作の「不良少女」1949を東横映画で発表した。
不良少女が女友達から金策を頼まれ義兄に彼女を世話する約束で金を出させることにする。
女友達は危機から脱するが、彼女の方は男友達がやくざに借りた借金のために男友達にだまされ、やくざのものにされてしまう。
これらの田村文学の映画はのちの石原文学の太陽族映画の重要な先駆作品となっている。
しかし、日本映画はその後、田村文学映画系の堕落論イデオロギーの映画を展開せず、性典ものという思春期映画を開始した。
成瀬も翌年の東宝での「白い野獣」で罪の女の更正施設を舞台に性病の恐怖と道徳復活を説いている。
この種の性道徳啓蒙が性典ものの煽情性の背骨となっている。
50年の小糸のぶ原作、大庭秀雄監督の「乙女の性典」は、佐田啓二の主人公が婦人警官と協力して、性知識の無知ゆえにあやまちを犯した女学生を救い、女学校で性教育を行うというもの。
佐田がやくざに刺されて輸血のとき、彼女を慕っていた有閑令嬢の血液が純潔でないために婦人警官が輸血し、純潔のふたりが結ばれる。
同年の大映の「二十歳前後」(吉村廉)は富士山麓で出会った大学生と女学生が自然の中で互いに求め合うが、若すぎて「純潔」であったために結局ふたりは冷たい湖水に飛び込み、情熱の危機を脱するというもの。
若い性への純潔・禁欲主義がこの映画にも見られた。
1952年にイタリア映画「明日では遅すぎる」(レオニード・モギー)が若い性の悲劇津を描き、興行的成功を収めると、性典ものの復活が始まった。
同年六月の松竹作品「娘はかく抗議する」(原作・小糸のぶ、監督・川島雄三)と新東宝の「若き日のあやまち」(のむら浩将)、そして翌年の大映の「十代の性典」とその続編、続々編、松竹の「乙女の診察室」(佐々木啓祐)、「乙女のめざめ」(萩山輝男)など、ブームとなった。
「十代の性典」は四人の女学生の性の嵐を純血主義で描いている。
幼いとき、暴力で汚されて恋する資格を諦めている役の沢村晶子、彼女を慕う無邪気な若尾文子、生理的変調から財布を盗み、のちに身を売る南田洋子、純潔を信ぜず享楽主義の津村悠子。
沢村は知り合った若者の目に獣的な衝動を見て逃げ、湖水に身を投げる。
享楽主義は罰せられて子宮外妊娠で床に伏す。
このように性典ものは性に対して徹底的な純血主義的な懲罰の鞭をふるいながら、若い性のチラリズムを提供していた。
「明日では遅すぎる」がそうした懲罰の無理解への抗議を持っていたことは、ここでは問題になっていない。》

つまり、ここに書かれていることは、「性典もの」映画のヒット以降の流れは、観客の卑猥な興味におもねり、最後は常識的な純血主義で無難にまとめるような、売らんかなの商業主義と因果応報(懲罰)で「性」を扱っているだけで、そこには無理解な懲罰への抗議などいささかもない、という非難のように読めました。

この1950年代の章の執筆者は、目次によると山本喜久男という人と長崎一という人が執筆にあたっているとのことですが、観客の興味を卑猥と決め付け、商業映画において「性」を商売にするとは「けしからん」という筆者の思い描く映画とは、いったいどのような情景なのだろうかと考えたとき、観客からは完全にそっぽを向かれながらも、コテコテつまらない一人よがりの芸術映画を、「いまどきの観客はバカだ」と意地で上映し続けているようなさびしい情景しか思い浮かびませんでした。

観客をなんだと思ってるんだ、それに、だいたい、そんな映画がいいわけないじゃないですか。

山本喜久男だか長崎一のどちらが書いたのかは分かりません、こんな愚かなことをぬけぬけと書くなんて「お前らバカか」と私なら言いたい。
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by sentence2307 | 2013-06-03 22:25 | 映画 | Comments(0)