小津安二郎「和製喧嘩友達」 ①
2004年 11月 28日
そのフィルムは、家庭用に販売された短縮版ということで状態はかなり悪く傷だらけだったということでしたが、それにしてもまるで夢のような話で、こんな奇跡みたいなことが実際に起こるのかと最初はとても信じられませんでした。
東京国立近代美術館フィルムセンターと松竹が、デジタル復元の作業に着手したと報じられたのは、まだ記憶に新しいところですよね。
この作品は、小津作品で現存する最も古い作品「学生ロマンス 若き日」1929に続く作品で、小津監督の第9作目にあたります。
発見されたそのフィルムが9.5mmという特殊なものだったために、当初、国内の修復会社が、拡大映写しながら35mmフィルムに写し取る光学的な方法で修復して1999年に一度ブローアップ版が公開された経緯がありました。
しかし、2万を超えるコマに無数に残る傷や汚れを手作業で修正するという作業は難しく、十分な修復ができなかったという状態でした。
今回上映されるものは、専用の技術を持つオランダ・アムステルダムのハーゲフィルム映画保存社に依頼・復元したものを、日本の現像所IMAGICAが補修を施したデジタル復元版とのことで、オランダ・ハーゲフィルム映画保存社は、前回伊藤大輔監督の、やはりそれまでは幻の時代劇映画といわれていた同じ9.5mm版の「斬人斬馬剣」をデジタル修復した実績があります(奇しくも、この「和製喧嘩友達」は、1929年7月5日、浅草帝国館と横浜常設館で伊藤大輔監督・市川右太衛門主演の「一殺多生剣」の添えものとして封切られたそうです)。
作業的には、映像を一旦デジタルデータに変換して修正して35mmに焼き付ける方法で、かなりの段階まで修復することに成功しています。
またフィルムの傷をコンピューター・プログラムによって自動的に修復するのでコストの大幅な節減にも繋がりました。
この経験がそのまま今回の小津作品への修復に生かされて、さらにコンピューター処理ではカバーできない傷を国内の修復業者が手作業で処理するという作業で精度を高めながら、技術委譲も視野に収めた仕事が行われました。