小津安二郎「和製喧嘩友達」 ④
2004年 11月 28日
小津監督のアレンジということからいえば、例えば、鍋の蓋で卵を割るショットが、更にあとでもう1度繰り返される時には、まったく別の意味に変化していくというようなスピード感るカッテイッングの妙に現れています。
また、朝御飯作り、交通事故、ヒロインの登場と黒塗りから白塗へのヒロインの変身、恋のさや当て、そして失恋とが、ロケとセットを巧みに織り混ぜながら小道具を生かした流麗なカッティングで構成されいきます。
例えば、トラック、これが小道具といえるかどうか分りませんが、娘との出会いの道具として使われたトラックが、最後は別れの道具に変化していきます。
なんか、このトラック、「学生ロマンス 若き日」でオープニング・ショットとクロージング・ショットで使われた小道具「貸間あり」の札の役割と似ていると思いませんか。
これが小津監督初期の映画作りのカタチだったのかもしれませんね。
猛烈なスピードで走る列車をトラックが追いかけ、そして追いついて列車と並んで走る。
トラックに気づいた娘が窓から手を振る。
列車からトラックを見るショットとトラックから列車を見るショットが交互につながれる。
列車とトラックは共に踏み切りへと近づき、遮断機によってトラックは止められ、列車はそのまま走り去っていくというこの一連のパンに継ぐパンを繰り返すスピード感溢れるあの場面は、きっとロイドやキートンからの影響というだけで十分に説明がつくのでしようが、しかし、それにしても、後年の円熟期にある小津監督の固定したキャメラからやや仰角で人物を静謐の中で捉えるという小津話法に慣れきってしまっている僕たちの目から見ると、その目まぐるしさには本当に驚かされてしまいます。
残念ながら青年と姉のエピソードなど欠落している部分のあるという短縮版ですが、この時期の小津映画の力量を十分にうかがい知ることの出来る軽快でスマートな貴重な作品といえるでしょう。
この作品に出演している浪花友子は、蒲田ナンセンスで活躍した女優で、小津作品には、この作品の他に「引越し夫婦」で渡辺篤の相手役に抜擢され認められ、「一人息子」の笠智衆演じる大久保先生の妻といったシリアスな役でも確か出演していましたよね。
(1929松竹蒲田)監督・小津安二郎、原作脚色・野田高梧、撮影・茂原英雄、
出演・渡辺篤、浪花友子、吉谷久雄、結城一朗、若葉信子、高松栄子、大国一郎、
(14分・35mm・白黒・無声・パテベビー短縮版・デジタル復元版)