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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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小津安二郎「その夜の妻」 ④

さて、岡田時彦に話を戻しましょう。

大正14年秋に日活に入社し、溝口健二の「紙人形春の囁き」26、「日本橋」29や、阿部豊の名作「足にさはった女」26(のちに、市川崑と増村保造によって再映画化されています)、「彼を繞る5人の女」27、「人形の家」27などに、酒井米子、梅村蓉子、岡田嘉子、夏川静江らと組んで人気を高めるとともに、入江たか子とも「母いづこ」28、「激流」28、「近代クレオパトラ」28、「からたちの花」29で共演し、中野英治、島耕二とともに近代的な二枚目像を確立したといわれています。

既に失われた作品が多く、資料によってしかその演技の素晴らしさを活字によってしか感じ取ることができませんが、「紙人形春の囁き」における退廃美に彩られた妖しい悲劇の中に示されたひたむきな演技とか、「足にさわった女」の文学青年役の好演によって一躍人気スターの階段を駆け上がったとか、「日本橋」において溝口健二に「うまい」といわせたとか、彼の名優ぶりを語り伝えるエピソードは数限りなくあります。

昭和4年に松竹蒲田に移り、栗島すみ子と組んだ「明眸禍」29・「お嬢さん」30、及川道子と組んだ「恋愛第1課」29・「抱擁」30、そして小津監督作品では八雲恵美子と組んだ「その夜の妻」30と「東京の合唱」31、川崎弘子と組んだ「淑女と髯」31、井上雪子と組んだ「美人哀愁」31(日本映画データベースには「美人と哀愁」となっていますが、全集では「美人哀愁」となっているので、そちらの方を採りました。)がありました。

同じ下町育ちで同年齢だった小津監督とは肝胆相照らす仲であり、鈴木伝明・高田稔と並んで、ともに蒲田が誇る三羽烏といわれました。

やがて不二映画を経て、昭和8年に新興キネマに入社した岡田時彦は、溝口健二の「滝の白糸」33、「祇園祭」33に出演し絶賛されましたが、惜しくも村田実の「青春街」33が最後の出演作となりました。

また、この作品で評判をとったのは、誰よりもまず刑事役を演じた山本冬郷だったと、井上和男編「小津安二郎全集・上卷」の作品解題にあります。

病気の子供のために何もかも投げ出そうとする哀れな男と必死になって家族を守ろうとするその妻、それらのなにもかも総てをじっと見守る刑事のクールな中にもしみじみとした哀感を出していてとてもいい感じですよね。

解題には、
「この映画でバタ臭い演技を見せ印象に残る刑事役は山本冬郷である。ハリウッドで1918年、早川雪洲主演映画の端役でデビューし、その後1925年まで、セシル・B・デミル監督、グロリア・スワンソン主演映画での召使役、ロン・チェニー主演映画での皇太子役、その他中国人役など、下積みの経験を数多く積んで帰国、この頃は松竹蒲田にいた」
とありました。
by sentence2307 | 2004-12-07 23:30 | 小津安二郎 | Comments(0)