人気ブログランキング | 話題のタグを見る

世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

裁かるるジャンヌ ⑥

ドライヤーのどの作品にも一貫して描かれている「信仰」のテーマは、特に「裁かるるジャンヌ」においては顕著に現れています。

しかも、この作品では、迫り来る処刑を前にしたジャンヌが、必死になって神に救いを求め続けますが、しかし神は、ジャンヌばかりでなく、狡猾な審問官や、また、権力の不正な裁定に怒りを露わにする群衆にさえも、何ひとつ啓示らきしものを顕わすことなく、まるで神への「信仰」は最初から叶えられるはずのない、むしろ無残に裏切られるのが至極当然であるかのような、神の不在を証かし立てる辛辣なドライヤーの印象を強く感じずにはいられないドライヤー作品中もっとも先鋭な作品です。

そしてこの映画のクライマックスに「信仰」のテーマが大きく浮き彫りにされています。

審問官は、ジャンヌに火刑による死を宣し、ペニタント服を着た彼女が刑場に引き出されて、やがて壮絶な処刑が執行されるというこの一連の厳しいショットのひとつひとつが、映画史に刻印された至宝です。

眼前に迫る死の恐怖に十字架を抱きしめて怯えるジャンヌは一杯の末期の水を恵まれ、塔の上には不吉にざわめいて喧しく飛ぶ鳩たちが群れ、差し迫った不吉な死の影に怯える母親と赤ん坊や悲しみに泣き崩折れる老婆のショットに続くうず高く積み上げられた薪の描写は、ジャンヌが抱いている死の恐怖と同質の苦痛を、僕たちもまた深刻な緊迫感のなかで不安と動揺をもって見ないわけにはいきません。

飛び立つ鳩、投げ入れられる火、そして移動ショットで捉えられる騒擾の中の群集。

「イエス」の名を呼び続けながら苦悶に歪むジャンヌの悲痛な表情と流れる涙、それを見つめる群集の激昂。

画面にはスポークン・タイトルで「やつらは、聖女を殺した!」という群集の怒りの絶叫が刻印されます。

ここで見せられる畳み掛ける迫力に満ちたショットの連続は、ドライヤー自身の怒りの生の声をそのまま映像として完璧に表現し得ている迫真のシーンです。

やがて塔の上のイギリス軍は、騒ぎ出す群集に向かって槍を投げつけます。

無差別の殺戮に狂奔する軍隊と怒り狂う群集との血なまぐさい激突と並んで、火の中の十字架が交互に映し出されたあと、猛然と燃え盛る火煙の中でジャンヌのシルエットのかすかな身じろぎが静かに止まる瞬間を映し出します。

神は何ひとつ奇跡を顕わすことなく、ジャンヌは、炎の中で息絶えていきました。
by sentence2307 | 2004-12-15 22:29 | カール・ドライヤー | Comments(0)