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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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闘魚

戦時下で製作本数が激減した当時、東宝に監督志望で入社した池部良が、結局希望した助監督になれないまま、仕方なく文芸部にいたところ、島津保次郎監督に見出され、抜擢されて出演したといういわくつきのデビュー作「闘魚」1941です。

大いに期待して見たのですが、どうも話のまとまりがなく、これはいったいなんなんだろう、と訝しく思っていたら、この作品が厚生省の後援で製作された結核撲滅の国策映画だと知って、その迷走の理由が分かりました。

この映画の主人公は、いまは戦場にいっている婚約者・俊記(灰田勝彦が演じています)の帰りを待っている笙子(里見藍子が演じています)です。

格式を重んじる俊記の実家からは、俊記のいないあいだの彼女に対して、息子の婚約者としてふさわしい節度ある行動を求めてきて、折に触れ細々としたことをうるさく干渉してきます。

格式ばかりを重んじてこちらの事情など一向に理解しようとしない彼らに対し、少し愚れた弟の清(池部良が演じています)と、再婚した頼りない父親を持つ笙子は、厳格な婚約者の実家に対してなにかと肩身の狭い思いをしなければならず、やがて弟・清が結核にかかり多額の治療費を要することなども打ち明けることができないまま、次第に窮地に立たされていきます。

弟が愚れた理由というのも、再婚した父親が後妻に遠慮して前妻の子供に素っ気無くあたり、ナイガシロにしたために、清が家に居づらくなって家に寄り付かなくなったことなどが分かってきます。

また、婚約者・俊記には、相思相愛の芸者(学生時代に笙子と同級生だったらしく、桜町公子が実に妖艶に演じています)がいたことも判明します。

この物語は、見当違いの厳格さ(その厳格さを押し通すことによって、眼前の事態が壊滅的なダメージを受けると察しながらも、なお「厳格さ」を押し通す不可解)と、決断のできない優柔不断さ(「親」を採るか「婚約者」を採るかと迫られた男は、転勤を希望して選択を回避してしまう卑怯さ)とによって、ストーリーが縦横に入り乱れて滞ります。

笙子にしても、不実を犯した優柔不断な婚約者に対して、それでも、できれば婚約破棄をされたくない・したくないと最後まで縋るように語り掛けたすえに、男から単身転勤を決意した旨を打ち明けられ、結果的には笙子は手痛い拒絶に直面しなければなりません。

この映画の登場人物たちの現状認識の甘さと見通しの稚拙さのために、ここに描かれようとした人間関係のすべてが停滞し壊されていくだけのこの物語に、自分のように不可解さを感じてしまうのは、至極当然のことだろうと思います。

これが「いったいなんなんだ」と訝しく思った所以です。

このややこしい物語の中に、さらに無理やり「結核の正しい治療」が割り込んでくる(清を堂々と説諭する警察官や正しい結核治療の現状を力説する医師)ことで、その「公明正大」な向日性の世界観が、ますますストーリーに違和を生じさせ、混乱させ、訳の分からないものにしてしまったのだと思います。

しかし、この国策映画が、懸命になって結核撲滅を高らかに謳いあげていながら、正しい治療を受けることによって病が癒え、健康を取り戻した青年たちは、ようやくお国のために立派にご奉公できる肉体を取り戻し、ふたたび死ぬために戦場をめざすという自己矛盾を孕んだストーリー自体の破綻に気がつき、その時点でこの映画の在り方が空中分解してしまったのだと思います。

なんてったって「征かぬ身は いくぞ援護へ まっしぐら」なのですから、銃後でノンキに結核なんかにかかずらわっている場合ではなかったのでしょうね。

(1941東宝・東京撮影所)製作=東宝映画(東京撮影所) 製作・田村道美、演出・島津保次郎、製作主任・関川秀雄、脚本・山形雄策、原作・丹羽文雄、撮影・友成達雄、音楽・伊藤昇、演奏・P.C.L.管弦楽団、美術・戸塚正夫、録音・下永尚、照明・平岡岩治、編集・岩下広一、現像・西川悦二、後援・厚生省、
出演・高田稔 、志村アヤコ、里見藍子 、池部良 、灰田勝彦 、桜町公子 、山根寿子 、月田一郎 、花井蘭子 、若原春江 、丸山定夫 、清川玉枝 、真木順 、恩田清二郎、 北沢彪 、嵯峨善兵 、三木利夫 、小島洋々 、一の瀬綾子 、小高たかし 、御橋公 、鳥羽陽之助、清川荘司 、藤輪欣司 、大崎時一郎 、生方賢一郎 、伊藤智子 、一の宮敦子 、林喜美子
1941.07.15 日本劇場 15巻 3,401m 124分 白黒
Commented by clonecd549 at 2011-05-10 17:07 x
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Commented by cVrJZNL at 2011-09-01 12:50 x
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Commented by RHJKeoVW at 2011-09-01 19:25 x
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Commented by viagra at 2011-09-06 14:49 x
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Commented by ゴダールが嫌いだ。 at 2014-03-29 18:31 x
 映画の冒頭。銀座四丁目。空襲前の和光と中央通りにカメラが設置され、レンズが360°回転し。ぼく達はそこに、戦災によって失われた崩壊前の美しくも貴重な銀座を、情景として視ることになります。また築地警察に行く道すがら戦前の昭和通りとグリーンベルトと三輪自動車や、緑の中を歩く数人の女性がまるで女神のように登場し、それは映画を超え、僕はそこに一瞬「楽園」を「楽園」と言うものをかいま見ます。それは映画のストーリーをはなれ存在と時間、現実と非現実の割れ目に存在する楽園願望と言う「美」に僕を魅惑します。ぼくはその美しさにめまいし。感動するのであります。
by sentence2307 | 2011-01-09 12:05 | 映画 | Comments(7)