仁義の墓場
2005年 01月 05日
封切り当時、この映画の評価は二分しました。
主人公・石川力夫は、戦後暴力団史上最も凶悪・凶暴といわれた実在した男です。
当時のヤクザ映画に相当好意的だった批評家でさえ、盃も掟も平気で踏み躙るポン中のこんな「はずれ外道」が、どうして映画の主人公になれるんだ、と戸惑い疑問視したくらいです。
組織に歯向かい、親分には斬りつけ、恩ある兄貴分をさえ射殺し、どこまでも献身的な愛人(強姦によって無理矢理自分の女にしました。)は芸者屋へ売り飛ばした挙句に肺病で死なせてしまう、仁義も糞もない、近づく者すべてに牙をむいて斬りかかり、そして自分もまたひたすら自滅へと疾駆するという、あの「仁義なき戦い」シリーズの興行的成功の後ろ盾がなければ、無謀ともいえるこの企画がとてもじゃないが通るとは思えないような壮絶にして陰惨、何とも救いのない全編殺気だった映画なのです。
しかし、前述の否定的な意見を表明した人たちでさえ、この途轍もない無法者、抑え切れない憤りを炸裂させ、房の壁に「大笑い30年の馬鹿騒ぎ」と書き残し、刑務所の屋上から投身自殺した石川力夫に、ある行動の純粋さを見、打たれたことを否定はしませんでした。
あるいは、また「東映実録映画の極北にして異端の最高峰」と絶賛した批評家もいました。
しかし、なによりも、俳優・渡哲也が、狂気を孕んだ生涯最高の演技を見せたことは忘れることができません。
死んだ愛人の遺骨を齧りながら歩くシーンの演技には、正直鳥肌がたちました。
そういえば、原作は「無頼シリーズ」の同じ藤田五郎でしたね。