世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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空気の無くなる日 ②

前回の当ブログで、小学校の屋外上映会で見たらしいことを薄っすら覚えている程度で、しかし、それすらいかにも頼りなく、別に忘却したとしても一向に構わないなどと失礼なことを述べた伊東壽惠男監督作品「空気の無くなる日」ですが、しかし、見て以来この作品を意識の外へ徐々に追いやってしまった理由なら、たぶん、明確に説明できます。

限られた自分の蔵書にある「日本映画史」関連の本には、この作品がまったく取り上げられていなかったからでしょう。

このブログに「映画収集狂」などと、ワイラーとゴダール好きを伺わせるような、もったいぶったタイトルをつけたのは、実は自分の「日本映画史」に対する好みを表現したかったことと、それをつきつめれば、自分がいままで見てきたすべての映画をひとつひとつ検証したいという欲求があって「日本映画史」を渉猟させ、ブログ「映画収集狂」を維持させようとしているチカラになっているのかもしれません。

そんな感じで日常的に「日本映画史」を眺めている自分にとって、まずは「日本映画史」に「掲載されている」といることが、まずは最小限の前提となっていて、その手掛かりがない情報希少作品となれば、次第に自分の意識から欠落し、たとえ忘却したとしても仕方なく、ひいては、なんら差し支えないのだと自棄的・自虐的な暴言を吐きたくなってしまう「想定外作品」となり、まさか60周年記念事業上映されるような作品とは、思ってもいなかった」というレベルの意識を形成に堕しても、それは当然の結果だったのと思います。

そいうときにフィルムセンターの60周年記念パンフレットの記事の中に「空気の無くなる日」のタイトルをみつけ、途切れていた記憶が一挙にナダレ込んできました。

もっとも、記憶といっても、ただ単に、ひとりの男が空気をパンパンに入れた自転車のチューブを首にぐるぐる巻きにしているという奇妙奇天烈な映像だけなのですが、それが子供心にはとても不気味に見え、さらに、地球から空気がなくなるのかというなんとも恐ろしい危機感が恐怖となって深く心に刻み込まれたのだと思います、かつて溺れかけた子供にとっては、空気が吸えなくなるというのは、実感が伴うリアルな切迫感がありました。

あっ、だんだん思い出してきました、流れ星が地球にニアミスするそのときには地球の空気が一瞬薄れるので、その無空気状態の時間帯をしのぐために金持ちが自転車のチューブを買い占めたため、貧しい人たちは裸首(そんな言い方する?)で「そのとき」を迎えるのですが、しかし、ついに何事も起こらず、チューブを首にぐるぐる巻きにした滑稽な姿の金持ちが、笑いものになるというストーリーだったか、漠然とですが、遠い記憶からよみがえってきました。

そして、フィルムセンターのパンフレットには、「ハレー彗星の接近で地球の空気が無くなるという噂から、村中が大騒ぎになる。岩倉政治による児童文学の映画化で、現在では特撮技術を駆使したSF映画の先駆としても再評価されている。『世界の児童画』展の開催にあわせて1954年9月の『月例映写会』で上映した」と紹介されています。

なるほど、なるほど。

つまり、ここには「岩倉政治という作家の児童文学の映画化」と「現在では特撮技術を駆使したSF映画の先駆」とされる作品であるという、ふたつの貴重な情報が記載されているというわけですね。

さっそく、家に帰って、まず佐藤忠男の「日本映画史」の索引を検索して掲載頁をチェックしました。

ナンダいまごろ、今日のいままで肝心なものを見てなかったのかと笑われてしまうかもしれませんが、掲載場所が「ニュース映画と教育映画」の項なのですよ、ここだけすっ飛ばして読んでいたとしても一向におかしくありませんから、と山一証券の社長みたいな半泣き顔で弁解させてください。

しかし、これのどこが「教育映画」なのでしょうか、という疑問がわいてきます。

「いくら金があるからって、買占めは、だめですよ」ということか、それを子供のうちから吹き込むってわけ? 

佐藤忠男のこの作品についてのコメントは、たったの3行。

いわく「1949年、日本映画社、製作石本統吉、演出伊東壽惠男。これは俳優座の出演による短編劇映画であるが、教育映画として扱われた。ハレー彗星の出現で地上に空気がなくなると心配された明治時代の出来事を風刺的に描きながら科学的知識を与える。」

なるほど、なるほど。

これって、明治時代に実際にあった出来事らしいじゃないですか。

しかも、民衆の噂に踊らされる浅はかな姿を批判的に描いているというわけですね。

1910年、ハレー彗星の接近が間近に迫った時、欧米各国ではこの世の終焉が訪れるという噂が飛び交いパニックとなったといわれています。

フランスの天文学者で作家のカミーユ・フラマリオンの説を信じて、彗星がもたらす有毒なガスを防ぐためのマスクや携帯用酸素吸入器かが売れたといわれています。

日本では、同年5月19日の『大阪朝日新聞』が「フレンマリオン氏」の説として、彗星が接近する7月28日に5分間だけ地球上から空気がなくなり「彗星の尾の内に含まれる水素が、地球の空気中に存在する酸素と化合すれば、人類は皆窒息して死滅する」と報じました。

この噂について、最初は、だれも信じなかったものの、校長や県庁の役人が、いち早く・しかもひそかに準備しているらしいとのまことしやかな噂が広まり、学校はじめ村中がパニックになります。

まず、子どもたちに5分間呼吸しない訓練をします。

しかし、それが無理とわかると、自転車のチューブや氷袋に空気をためておいて、彗星の接近時の5分間に吸うという方法が考え出されました。

しかし、多くの人々が求めようとすれば当然需要が集まり、1円20銭だった氷袋が一気に何百倍にも高騰して、貧乏な農家が多いこの村では、地主の子ども以外の生徒はだれひとりチューブや氷袋が買えなくなってしまいます。

そうそう、民衆の噂に踊らされる浅はかな姿といえば、ありましたよね、宇宙人襲来をあまりにもリアルに描いたために、全米を震撼させ社会恐慌を惹起させたオーソン・ウェルズのラジオドラマ「火星人来襲」、風評・流言蜚語というか、噂というものの持つ恐ろしさを語るときには必ず持ち出されるエピソードでした。

さて、自分が所持している資料といっても、めぼしいものなどなにもないので、仕方なくインターネット検索を試みました。

まずはウィキペディア、そこにはこんなふうに記載されていました。

「この映画では特撮の比重が大きく、東宝のスタッフのほか、うしおそうじがイントロ部分の特撮を担当した(別のサイトでは「鷺巣富雄」との記載がありました)。
また、渡辺善夫が「合成作画」(マットペイント)を手掛けたが、渡辺善夫は「作画合成」(部分的な合成)だけでなく、画面すべてを画で表現する「全画」という技法を日本で初めて使用し、成功を収めている。
限定された公開方法であったにも関わらず、思い出として語る人は少なくなく、評論家の筈見有弘は、そうした口コミに押され、フィルム試写まで行ったうえで1977年刊のムック「映画宝庫6・SF少年の夢」(芳賀書店)に長文のリポートを執筆している。
映画は、文部省選定作品となり、1950年に発足した映画配給会社「共同映画」の配給網にのって、学校や公民館での移動巡回映画会などで上映された。
劇場での公開は、日本映画社教育映画部が解体され、日本映画新社へと再編された後の1954年となった。」

なるほど、それで、製作年と公開年に時間差があったというわけですね。

それにしても、この文中にある「評論家の筈見有弘は、そうした口コミに押され、フィルム試写まで行ったうえで1977年刊のムック『映画宝庫6・SF少年の夢』(芳賀書店)に長文のリポートを執筆している」との記載があります。

う~ん、購買意欲をかきたてるようなこの言い様、ずいぶんじゃないですか、気になって仕方ありませんヨ。

ここまでネットで書かれてしまっては、もはやプレミア価格がついてしまって入手困難なのではないかと危惧しつつ、猛烈に読みたいという気持ちも抑えられないまま、しかし、諦めも半分という不安な面持ちを抱えて「1977年刊、映画宝庫6・SF少年の夢」を求め、いそいそと神保町の映画専門の古書店に出掛けました。

出掛けばなのこれだけの気負いが、まるでスカされるように、きわめてあっさりと、しかも適正な価格で「1977年刊、映画宝庫6・SF少年の夢」を入手することができました。

なんというラッキー。

しかもSF映画満載で、こりゃなかなか読みでがありそうな充実の1冊です。

さっそく家に戻って問題の部分を開きました。

ありました、これですね。

なになに「幻の日本SF映画『空気の無くなる日』を追って・筈見有弘」ですか。

本文12Q明朝体2段組、全部で7頁というなかなかの論考です。

構成は「①追跡の発端、②採録『空気の無くなる日』、③追跡の結果」というもの。

②は、おそらく「あらすじ」ということでしょうか。

ここはゆっくり時間をかけて熟読することにしました。

冒頭の「終戦直後、田園調布小学校に通っていた時代・・・」という書き出しには、思わずムッときました。

とにかく自分が、場末の青線地帯で自堕落な娼婦や自暴自棄の酔漢たちなど・うらぶれた大人たちを目の当たりにしながら多感な幼少年期を過ごしてきた身なので、この「格差」を見せつけるような部分には腹立たしく閉口させられるものがありましたが、思い出の作品を追想するという姿勢には、自分も同じ「郷愁」があり、まあ、それに免じて許してやるかみたいな気持で、読み進むことにしました。

①には、映画「空気の無くなる日」のフィルムの所在(本文には「大阪の日映という16ミリの業者が持っていた」と記載されていますが、製作会社が日本映画社なのですから、それほどの大発見というわけではないかも)の発見と、関係者の好意によって東京まで移送され、さらには破格の待遇で映画会社の試写室で鑑賞したという経緯が記されています。

う~ん、なんなんだ、これは。

この論考のいわんとしていることは、「とどのつまり」筆者は書斎に座っていて電話1本するだけ、フィルム探査と試写のお膳立ては、すべて「関係者がさせていただきました」ということではないですか。

これじゃ、企画にそったお仕事をこなしただけで、こういう人には、どんなにすばらしい素材を与えても、ワクワクドキドキのルポルタージュなんて、とてもじゃないが書けないだろうな、という気がします。

わずかでも「映画愛」というものがあるのなら、自分の足で歩いて、汗かいて探せよ、です。

しかし、まあワタクシの低俗な出自が災いし、その恥ずべき妬みと反感から、貴重な論考のエッセンスを見誤り、ほんの2頁そこらでこれだけの反発を示して正確な認識を損なうというようなことは、決してあってはなりません。

いけません・いけません。

ここは大同小異の素直な気持ちで読み進めなければ、ね。

さて、②のあらすじは、はしょるとして、③の「追跡の結果」に読み進みました。

その「追跡の結果」の項を簡単に要約すると、筈見が念のために「日本映画監督全集」を調べると、かなり思い入れの強い野田真吉の執筆した「伊東壽惠男」の項目があり、伊東氏が、いまなお存命(当時)で長崎にいることを知ります。

さっそく筈見は幾つかの質問を添えた手紙を送り、丁寧な返信を得ています。

当時、「未知との遭遇」や「スター・ウォーズ」で盛り上がっていた世相を受けて、伊東氏が、筈見の問いかけに対してその手紙のなかで、こう答えています。

「SFのSの面、サイエンスが現実的なジェットや核兵器があまり使われすぎ、もっと空想的なものが使われないものかと感じます。
子供というものは本来、幻想的な着想をするもので、あまり現実的な手段で話を進めなくてもよいのではないか、との感想です。
子供用に限らず、SFは闘争的、暴力的、破滅的なものが多すぎ、もっとロマンティックで心の和らぐものが欲しいと思います」

僕に、二度と思い出したくない窒息の恐怖を改めて思い起こさせた映画「空気の無くなる日」が、はたして「ロマンティックで心の和らぐ」ような映画だったかはともかく、監督・伊東壽惠男氏の「最近のSFの隆盛」についての幾分消極的な感慨に対して、この論考の執筆者・筈見が、どのように反応したかということに非常な興味をそそられます。

つまり、問われているのは、興行支援をハンバ義務付けられている映画批評家=現実肯定業(興行の失敗を支持する否定批評は、とりもなおさず自己存在の否定につながります)にとって、「最近のSFの隆盛」は、闘争的、暴力的、破滅的で実にけしからんという意見に同調できるか、という問題でもあります。

「日本映画監督全集」において「伊東壽惠男」の項を執筆した野田真吉は、その末尾で書いています。

「米ソ冷戦のさなか、アメリカ占領軍の検閲をかわしてつくられた同作品(空気の無くなる日)はハレー彗星の地球衝突の日の迫る極限状況を寓話化しながら、うらはらに彼が原爆記録映画製作で深刻に体験した核戦争の破滅的実態と将来する核戦争が人類絶滅戦争となる先見、危機意識をもとにし、核戦争反対の平和運動をめぐる安易な政治的党派化や生き残りのはかない術策への警告を暗に風刺批判した戦後映画の秀作である。」との絶賛を掲げて、しかし、この野田の手放しの絶賛に対して、筈見は言下に「大げさすぎる」ときっぱり否定しています。

野田真吉が「伊東壽惠男論」を書いた時点、筈見有弘が「幻の日本SF映画『空気の無くなる日』を追って」を書いた時点、そして僕がこのふたつの論考を読んだ時点は、それぞれの隔たりがあり、その逃れ得ない囚われの「時代色」という限界を精密に認識しておかないと、とんでもない「否定合戦」を招くことを、この一節は教えてくれているのかな、と感じました。

(1949日本映画社)配給・共同映画株式会社、製作・日本映画新社、製作・石本統吉、原作・岩倉政治(「空気がなくなる日」より)、監督・伊東壽惠男、助監督・吉田庄太郎、菅家陳彦、撮影・大小島嘉一、撮影助手・藤田正美、録音・酒井栄三、録音助手・片山幹男、照明・日野正男、音楽・武田俊一、美術・田邊達、進行・水上喜三治、特撮・東宝合成課(合成・向山宏)、鷺巣富雄(イントロ部分)、渡辺善夫(合成作画)
出演・深見泰三、河崎竪男、佐々木浩一、大町文夫、榊田啓二、高野二郎、島田敬一、花沢徳衛、平山均、河合健児、望月伸光、大塚秀雄、日方一夫、北島多恵子、田中筆子、馬野都留子、原緋紗子、戸田春子、一色勝代、登山春子、児童劇団「銀河座」
(51分・35mm・白黒 公開1954年)
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