世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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曽根崎心中

「大地の子守歌」と、この「曽根崎心中」は、増村作品を通して見ても特別な思い入れがこめられた作品だと思います。

両作品ともに共通しているのは総ての演技者が、そのひとつひとつのセリフを精魂こめて徹頭徹尾絶叫し通していることだと思います。

善良な実直さが、やがて徳兵衛を破滅へと追い込む偏屈な伯父九兵衛も、狡猾な継母も、そして徳兵衛の金を詐取する悪辣な九平次さえも、ともすれば単純で希薄な彼らの直情的性格を、しかし増村保造は絶叫させ通すことによって、この現実を精一杯生きる者達の真摯さを何の衒いもなく証かし立てさせています。

もし生きるために他人を騙し、おとしめ、辱め、完膚なきまでに叩きのめすしか他に術がないなら、その詐術や狡猾や暴力は正しい・・・生きることが、もし不可避的に悪を伴わざるを得ないものなら、その悪は正しい。

増村が描き続けてきたリアリズムにおいて一貫していたこの「道徳観」が、この作品に登場する脇役たちを通俗的な勧善懲悪の檻の中から解き放ち、生き生きとした生命力を吹き込み得たのだと思いますし、だからこそ、お初徳兵衛の凄惨な心中が、全力で闘い抜いて到達した「生」の一部のような死であったからこそ、哀れさどころか、むしろ気高さをさえ感じさせられることができたのだと思いました。

それは、生き場を失った惨めな恋人同士の肩寄せあった哀れな心中が、一般的には、ほのぼのとした独特の愛の連帯感を内に帯びるに違いないであろうという僕たちの陳腐な先入観を厳しく拒んで、どこまでも一人ぼっちのままの、それはあたかも偶然ひとつの場所でそれぞれ自立して死んでいった「二つの自殺」ようにも思えたのでした。

幸せや不幸になることが、絶えず他人のお陰でしか成り立ち得ないようなこの社会の仕組みの中で、しかしそのようにして生き長らえることには耐えられず、身分社会の掟に追い立てられ、やがて、怒りを込めたそれぞれ孤立した二つの憤死のようにしか思えなかった僕にとって、血みどろの赤い海の中で相対死して果てるこの恋人たちの凄惨な敗北の最期を、あえて刻明に描いた増村保造の意図を見たように思いました。

彼らは、壮絶ではあっても、哀れではありません。

しかし、哀れではないにしても、そのあまりの無力さは、やはり無残でしかありません。

それは彼らが、社会的制裁の前でされるがままの圧力に屈し、心中にまで追い込まれていったことと無縁ではありません。

世間の人々の、生きるためには躊躇なく繰り出される傲慢や我執、狡猾や悪辣など、自らのあらゆる作法を用いて社会に敢然と立ち向かっていったのと比べると、お初徳兵衛は、ただ社会の道徳秩序への善良な従順さゆえに敗退し、破滅していったことは明らかです。

もし、このラストに一片の美しさを見るとすれば、生きることが悪なら悪は正しいと言い切れずに死んでいった弱々しい人間への増村保造の憤りだったのかもしれません。 

(1978行動社・木村プロ・ATG)企画・藤井浩明 木村元保 西村隆平、監督・増村保造、助監督・近藤明男、監督助手・上村正樹 高橋安信、脚本・白坂依志夫 増村保造、原作・近松門左衛門、撮影・小林節雄、撮影助手・竹沢信行 横山吉文 寺山勝信 志満義之、音楽・宇崎竜童、演奏・ダウンタウン・ブギウギ・バンド、レコード・東芝EMI株式会社 エキスプレスレーベル、美術・間野重雄、装飾・神田明良、美術助手・丸山裕司 藤田徹、録音・太田六敏 宮下光威、効果・秋山実、録音助手・田中順夫 小保方稔、照明・佐藤勝彦、照明助手・出縄幹光 出口武 保坂芳美、編集・中静達治、編集助手・南とめ 渋谷英子、時代考証・林美一、衣裳・万木利昭、題字・鹿毛千琴、記録・村山慶子、技髪・おかもと美粧、製作担当・本間信行、製作助手・篠崎英雄 工藤裕弘、声名・[真言宗智山派智山青年連合会] 上村正剛 上村正樹 山口正純 江連俊裕 酒井照実 清水秀隆 佐々木明正 直林一敏、製作協力・櫂の会 東洋現像所 日本照明 高津装飾 京都衣裳 大映映画撮影所 真言宗智山派光照山実正寺 オフィスカネダ ダウンタウン・ブギウギ・オフィス 映像現代
出演・梶芽衣子(天満屋お初)、宇崎竜童(平野屋徳兵衛)、井川比佐志(平野屋久右衛門)、左幸子(お才)、橋本功 (油屋九平次)、木村元(天満屋吉兵衛)、灰地順(碇屋勘兵衛)、目黒幸子(おみね)、青木和代(お玉)、大西加代子(お千代)、渡部真美子(おきぬ)、野崎明美(おもん)、千葉裕子(おかよ)、大島久美子(お春)、加藤茂雄(本家の主人)、伊庭隆 (丁稚長蔵)、山本廉(手代市兵衛)、伊藤正博(町衆A)、麻生亮(町衆B)、弾忠司(駕籠の衆A)、飯塚和也(駕籠の衆B)
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by sentence2307 | 2013-04-10 22:29 | 増村保造 | Comments(0)