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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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海を渡る祭礼

「宮本武蔵」の連作で意気軒昂だった稲垣浩監督が、5年ぶりに三村伸太郎のオリジナル脚本に正対した意欲作で、小津の「戸田家の兄妹」が第1位に選ばれた昭和16年度の日本映画雑誌協会映画賞で第8位となった作品です。

稲垣浩としては、同じ年に「江戸最後の日」も第5位にランクされました。

ある港町におうた(市川春代)という美人の女中がいる朝乃屋という旅館に、年に一度の祭のかき入れ時、芸人や香具師たちがやって来て泊まります。

おうたは居合い抜きの浪人・小布施羊太郎(戸上城太郎)に心惹かれますが、祭の前日、境内での地割が決まったとき、突然やって来た馬芸の一団が強引に縄張りをしたことから事態が紛糾し始めます。

しかも、おうたの美貌に目をつけた馬芸の親分の虎鉄が、羊太郎の身柄を渡さないと祭をつぶすと脅しをかけてきたことで、一度は無法一味を懲らしめた羊太郎が、皆のために自ら犠牲になって呼び出しに応えるかたちで連れ去られ、再びその姿を現すことはなかったというストーリー展開の中に、港町の祭礼を荒らす無頼な馬芸の無頼漢たちや、彼らに立ち向かう浪人、そして、その浪人を慕う宿の女中のほか、ガマの油売り、猿回し、祭文語りやら鼠捕りまで市井に生きる貧しい庶民が連帯する人間模様を巧みな話術と躍動するような描写で活き活きと描かれていました。

しかし、残念ながらロシアから返還されたフィルムでは欠落している部分、公開時全長92分の25%弱しかないこのフィルムからでも、遠方から近づいてくる馬の群れや、宿の屋根瓦の上で廻る風力計、浜辺に躍る神輿などのカットを見ただけでも、これが傑出した作品であることを十分にうかがわせます。

戦争の影を感じずにはおられない作品全体を覆う三村伸太郎の脚本のペシニズムは、稲垣浩の叙情性に満ちた演出とともに、鳴滝組のメンバーとして、国策の声が喧しくなったこの頃においても、鳴滝組の才気を十分に伝えている作品に仕上がっています。

いわゆる「グランド・ホテル形式」で、特にこれという主演者がいるわけではありませんが、志村喬、上田吉二郎、そして「出世太閤記」と「海援隊」、およびこの作品が彼女の女優としてのピークだったという評価もある市川春代などの熱演とともに、居合い抜きのニヒルな浪人を演じた戸上城太郎が新人として注目されました。

戸上城太郎は、やや訛りが強くセリフに難があると言われながらも、戦後も長く稲垣作品に重用されたことはよく知られています。

監督の稲垣浩も「宮本武蔵」4部作の合間に手掛けたとは言え、この「海を渡る祭礼」は、既に傑作時代劇のなかに列せられている作品です。

(1941日活京都) 監督・稲垣浩、脚本・三村伸太郎、撮影・石本秀雄、音楽・西梧郎、録音・佐々木稔郎
出演・市川春代、月宮乙女、戸上城太郎、香川良介、志村喬、上田吉二郎、深水藤子、大倉千代子、衣笠淳子、滝のぼる、市川小文治、遠山満、尾上華丈、団徳麿、村田宏寿、石川秀道、瀬戸一司、仁札功太郎、春日清、浮田勝三郎、市川左正、岬玄太郎、大崎史郎、志茂山剛、楠英三郎、小林三夫、小池柳星
1941.05.04 富士館 9巻 2,527m 92分 白黒 (現存部分24分・35mm)
Commented by clonecd582 at 2011-05-10 17:07 x
Не that would have eggs must endure the cackling of hens.
by sentence2307 | 2007-01-16 21:39 | 稲垣浩 | Comments(1)