世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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大地のうた

もう随分むかしの話になりますが、この「大地のうた」を見たとき、映画の中で、雨が降るという場面を初めて見たような、そんな強烈な印象を持ちました。

雨が降る場面なら、それまでだって、映画のなかでそれこそ数え切れないくらいあったはずなのに、そうした記憶のすべてを全否定されてしまうような、それは強烈な印象だったのだと思います。

不意に襲い掛かるように驟雨が突然やってきて、大地を一瞬にして潤したかと思うと、またたくまに過ぎ去っていく、そのような雄大な大自然の営みによって旱魃と潤いが繰り返される広大な荒野の広がりを前にして、そのまえに佇む人間の儚さみたいなものを思い知らされ、その「思い知らされた」象徴として、大自然に息づく生き物としての「雨」を、そのとき初めて見たのだと感じたのかもしれません。

しかも、そういう光景をつぶさに捉えた視点が、貧しいひとりの少年のものだったことも、きっと不思議な感銘を与えたのだと思います。

ですので、映画「大地のうた」は、僕が初めて出会った「映像詩」なのだと思います。

この作品は、ボンドパッダエの自伝的小説をサタジット・レイ監督が映画化したものです。

舞台は1920年頃のインドのベンガル地方の片田舎、貧困に苦しむ家族の物語てすが、そうした貧しさのなかから、輝くような自然が主人公の少年オプーの澄んだ優しい目で捉えられています。

詩人でもあり教養人でもある父は僧侶階級ですが、今は地主の書記になって、わずかな生活の糧を得ています。

その生活費を稼ぐことには不器用な貧しい下級官吏の父ハリと、先祖が残してくれた果樹園も借金のかたに取られてしまうような苦しい経済の家庭を守る母のもとで、オプー少年は可愛がられて育っています。

父は、せいぜい宗教儀式で僅かな金を稼ぐだけで、そのため母はいつも満たされず、いらいらしている状態です。

「子供に1日2度の食事を与え、年に2枚のサリーがあれば」という母のささやかな望みも叶わないまま、親戚の老婆がころがりこみ生活は更に苦しくなり、諍いが絶えない状態になっています。

そんなある日、「金の入る仕事を見つけた」と父は出稼ぎにいったものの、あてにしていた仕事にありつけずに、5ヶ月も音信不通となってしまいます。

残された家族は食い繋いでいくために物を売って食料を買い飢えをしのぎます。

しかし、こうした貧しい生活のなかでも、オプーと姉のドゥルガは無邪気に草原を駆け回り、屈託なく遊び回っています。

貧しさに息詰まるような大人の世界から遠く離れて、子供たちの澄んだ視線が捉える自然の奇跡のような美しいシーンが、この作品の卓越した伝説のような評価を実感させてくれます。

姉ドゥルガと弟オプーが、すすきの生い茂る野原を歩き通して、遠くまで汽車を見に行くシーン、電柱に耳を押し着け振動音で列車の迫り来る響きを察知し、やがてすすきの穂に写される圧倒的な影の奔流と轟音で目の前を擦過する列車に、驚きと憧れで呆然と見送る姉弟のショットとか、池の蓮の葉に蜻蛉が羽を休め、やがて水面にポツンとひとつ水滴が落ちてつくる小さな波紋が池面を乱し、やがて幕を引くように一瞬に雨が降りかかるシーンには目を見張りました。

激しい雨に姉のドゥルガがずぶぬれになって木陰に立ちつくす不吉なショットが、この不運な家族の困難にみちた行く末を暗示していたのだと思います。

それにしても轟音とともに擦過する列車を、驚きと憧れとともに呆然と見送る姉弟の眼差しの、聖性を帯びたとでも形容したくなる数々のシーンが深く心に刻み込まれました。

このあと姉ドゥルガは風邪をこじらせて肺炎になり、嵐の夜に母に看取られて死んでいきます。

その一夜が明けた不気味な静けさと、出稼ぎに行っていた父親の数カ月ぶりの帰郷、そして母の慟哭。

愛する家族を失った一家は、残った息子オプーを連れて住み慣れたこの村を離れ、都会ベナレスへと旅立つところでこの作品は終わります。

伝説のように人々の記憶に残る素晴らしいラストシーン、主を失った廃屋に蛇が棲みつくあの場面に、永劫を見定めた東洋の、「希望」と同じ意味の「諦念」という、生き変わり死に変わる人生の儚さの意味を感じ取ったのは、きっと僕だけではなかったと思います。

サタジット・レイは、「自転車泥棒」を見たときに、この題材をどう描けばよいかが分かったといわれています。

西欧の手法によって導かれるようにして描かれたこのインドの寒村に生きる貧しい一家の物語、さらにその少年の目を通して輝くような美しい自然を背景に貧しさと夢を描き出したこのつつましいアジアの人間ドラマが、逆に西欧の映画人に強い衝撃を与えたことに感動します。

インド年間最優秀作品賞やカンヌ国際映祭ヒューマンドキュメント賞などを受賞した詩情ゆたかなこの不朽の映像詩をデビュー作として持つ監督サタジット・レイは、1992年に他界しましたが、それよりずっと以前、僕たちがこの作品を見た頃は、確かこの監督は、「サタジット・ライ」と日本では紹介されていたように記憶しています。

黒澤監督がこの作品を見たあと、もう他の映画が見られなくなったと伝えられていると聞いたことがあります。

(55バハラティア・ナーティア・サング)監督脚本サタジット・レイ、原作ビブティブション・ボンドパッタエ、撮影シュブロト・ミットロ、美術バンシ・チャンドラグプタ、音楽ラヴィ・シャンカール
出演シュビル・バナルジー、カヌ・バナルジー、コルナ・バナルジー、チェニバラ・デビィ、ウマ・ダス・グプタ
125分、35mm、白黒、ベンガル語
 
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Commented by Acotunoaiei at 2011-09-28 04:03 x
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by sentence2307 | 2007-10-06 21:39 | インド映画 | Comments(1)