世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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2018年 01月 28日 ( 1 )

伊豆の娘たち

数年前、「神保町シアター」で、特別企画として終戦直後に封切りされた作品ばかりを集めて上映するという企画がありました。

実に素晴らしい企画で、その貴重な機会を逃さないように無理やり仕事を算段して出来るだけ見に行こうと焦りまくっていたことを最近しばしば思い出すことがあります、残念ながら「日参」とまではいきませんでしたが。

あれから少し時間がたってしまい、だいぶ記憶も薄れてきたのですが、おりに触れて、そのときの苦労や、そこで見た幾つかの作品のことを懐かしく思い出しています。

しかし、いまとなっては、その作品を「神保町シアター」で見たのだったか、「フィルムセンター」で見たのか、いや、それとも、もっとべつの映画館で見たのだったか、記憶が錯綜してだんだんあやしくなってきました。

しかし、なんだってそんなことが気になるのかといえば、自分にとって「むかし見た映画」(記憶の中にあっては、昨日も10年前もみんな「むかし」です)というのが、ただ単に「作品」それ自体の記憶というのではなくて、その作品を見た場所というのが、記憶の重要な属性になっているからだと思います。

作品自体を覚えてさえいれば、それだけで十分じゃないかと言われてしまいそうですが、自分にとって「映画の記憶」とは、それを見た映画館と一体のものとして格納されています。

小津監督や溝口監督の諸作品は、すべて銀座の並木座で見ましたし、大島渚作品「少年」や吉田喜重作品「戒厳令」など、当時の時代の先端を行く尖鋭で重厚な作品は、ことごとく池袋の文芸地下で出会いました。ロベール・アンリコの「冒険者たち」の底抜けの悲しい明るさや、ゼフレッリの「ロミオとジュリエット」の宿命的な死の輝きと美しさに圧倒されたのは、神楽坂の「佳作座」でした。「keiko」や「不良少年」「絞首刑」を寒々しい場末の映画館で見ていなければ、こんなにも映像に打ちのめさ、その衝撃を衝撃として感受できなかったかもしれません。

映画を求めて東京の薄汚い繁華街の闇をさまよった先の映画館の思い出がなければ(さらには、「誰と見たか」とか、その時の「気分=失恋とかね」が再現できなければ)、きっと「映画の記憶」をこんなにも燦然と輝かせることも、自分のものにすることも叶わなかったに違いありません。

思い出していくうちに、たまらなくなって「神保町シアター」のホームページからその企画を検索して確認したくなりました。
ありました、ありました。

「◆戦後70年特別企画 1945-1946年の映画」、これですね。具体的には、1945年8月15日から1946年末までの間に封切られた映画、とあります。

なるほど、なるほど。

上映作品は、以下の通りです。

1.『歌へ!太陽』 昭和20年 白黒 監督:阿部豊 出演:榎本健一、轟夕起子、灰田勝彦、川田義雄、竹久千惠子
2.『グランドショウ1946年』 昭和21年 白黒 監督:マキノ正博 出演:高峰三枝子、森川信、水ノ江瀧子、杉狂児、三浦光子
3.『そよかぜ』 昭和20年 白黒 監督:佐々木康 出演:並木路子、上原謙、佐野周二、齋藤達雄、若水絹子
4.『はたちの青春』 昭和21年 白黒 監督:佐々木康 出演:河村黎吉、幾野道子、大坂志郎、高橋豊子、坂本武
5.『わが恋せし乙女』 昭和21年 白黒 監督:木下惠介 出演:原保美、井川邦子、増田順二、東山千栄子、勝見庸太郎 *16mm上映
6.『伊豆の娘たち』 昭和20年 白黒 監督:五所平之助 出演:三浦光子、佐分利信、河村黎吉、桑野通子、四元百々生、飯田蝶子、笠智衆
7.『お光の縁談』 昭和21年 白黒 監督:池田忠雄、中村登 出演:水戸光子、佐野周二、河村黎吉、坂本武、久慈行子
8.『大曾根家の朝』 昭和21年 白黒 監督:木下惠介 出演:杉村春子、三浦光子、小沢栄太郎、賀原夏子、長尾敏之助 *16mm上映
9.『国定忠治』 昭和21年 白黒 監督:松田定次 出演:阪東妻三郎、羅門光三郎、尾上菊太郎、飯塚敏子、香川良介
10.『狐の呉れた赤ん坊』 昭和20年 白黒 監督:丸根賛太郎 出演:阪東妻三郎、阿部九州男、橘公子、羅門光三郎、寺島貢、谷譲二
11.『東京五人男』 昭和20年 白黒 監督:齊藤寅次郎 出演:古川緑波、横山エンタツ、花菱アチャコ、石田一松、柳家權太樓
12.『へうたんから出た駒』 昭和21年 白黒 監督:千葉泰樹 出演:見明凡太郎、潮万太郎、岩田芳枝、浦辺粂子、逢初夢子
13.『或る夜の殿様』 昭和21年 白黒 監督:衣笠貞之助 出演:長谷川一夫、山田五十鈴、高峰秀子、飯田蝶子、吉川満子、志村喬、大河内傳次郎
14.『歌麿をめぐる五人の女』 昭和21年 白黒 監督:溝口健二 出演:坂東簑助、坂東好太郎、髙松錦之助、田中絹代、川崎弘子
15.『浦島太郎の後裔』 昭和21年 白黒 監督:成瀨巳喜男 出演:藤田進、高峰秀子、中村伸郎、山根壽子、管井一郎
16.『人生とんぼ返り』 昭和21年 白黒 監督:今井正 出演:榎本健一、入江たか子、清水将夫、河野糸子、江見渉

◆巨匠たちが描いた戦争の傷跡
終戦間もない時期に公開された巨匠たちの戦争の傷跡を色濃く映し出した作品
17.『長屋紳士録』 昭和22年 白黒 監督:小津安二郎 出演:飯田蝶子、青木放屁、河村黎吉、吉川満子、坂本武、笠智衆、殿山泰司
18.『風の中の牝鶏』 昭和23年 白黒 監督:小津安二郎 出演:田中絹代、佐野周二、村田知英子、笠智衆、坂本武
19.『夜の女たち』 昭和23年 白黒 監督:溝口健二 出演:田中絹代、高杉早苗、角田富江、浦辺粂子、毛利菊江
20.『蜂の巣の子供たち』 昭和23年 白黒 監督:清水宏 出演:島村俊作、夏木雅子、久保田晋一郎、岩本豊、三原弘之

そして、解説には、こうあります。
《戦争で焼失した映画館は全国で500館を数え、一方、空襲を免れ残った映画館は、終戦の日から一週間だけ休館し、営業を再開したといいます。その後、焼け跡にはバラックの映画館まで出現し、マッカーサーが日本に降り立ったまさに1945年8月30日同日、終戦後初の封切作品『伊豆の娘たち』(1945.08.30 松竹大船 五所平之助)『花婿太閤記』(1945.08.30 大映京都 丸根賛太郎)の二本が公開されたのです。
終戦直後、映画会社や映画館の人々の情熱によって届けられた映画は、戦災の中で生き抜こうとする人々の希望の光になったと、信じてやみません。今回は、日本が復興に向けて歩み出した1945年8月15日から翌年末までにGHQの厳しい検閲を通過し公開された、知られざる映画たちを回顧します。》

解説を読んでいくうちに、「伊豆の娘たち」の長女・静子(映画の中では「静江」ですが)の揺れる娘心を健気で繊細に演じた三浦光子の演技(清潔感と妖艶さが矛盾なくひとつのものであること)に衝撃を受けたことを鮮明に思い出しました。

脇を固める役者もこれまた実に素晴らしく、河村黎吉や桑野通子や東野英治郎や飯田蝶子らが、畳みかけるように生き生きと掛け合いを演じていくシーンは、まるで心地よい映画の波動にいつまでも身を委ねていられるような快感さえ感じられました。

いろいろな解説書のいたるところで、かならずといっていいほど「戦時中にもかかわらず」という文言を見かけますが、そんな思い込みが無意味に思われるほど、この映画には独自の映画的な固有のリズムがあって、「戦時色」などという末梢的な粗さがしなど排除してしまう力強さと気高ささえ感じることができました。

(1945松竹大船撮影所)演出・五所平之助、脚本・池田忠雄、武井韶平、撮影・生方敏夫、西川享
配役・河村黎吉(杉山文吉)、三浦光子(長女・静子)、四元百々生(次女・たみ子)、桑野通子(叔母・きん)、佐分利信(宮内清)、東野英治郎(村上徳次郎)、飯田蝶子(しげ)、笠智衆(織田部長)、忍節子(夫人)、柴田トシ子(娘雪子)、坂本武(宗徳寺の和尚)、出雲八重子(おたけ婆さん)、
1945.08.30 紅系 8巻 2,018m 74分 白黒



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by sentence2307 | 2018-01-28 09:54 | 映画 | Comments(0)