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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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カテゴリ:ロバート・ロッセン( 1 )

ロバート・ロッセンの「オール・ザ・キングスメン」を予備知識なしに鑑賞するのは、なかなか難しいかもしれません。

とにかく目の前に立ちはだかっているのは、「アカデミー作品賞受賞」、「非米活動調査委員会から赤狩りの餌食にされた監督」、そして「転向声明」という栄誉と痛手の両極端に振れた広がりのなかで迷妄するキーワードなのですから、それだけでもこの作品は一層の複雑さを備えながら錯綜の袋小路に追い込まれた作品とみて当然だと思います。

たとえば、このキーワードをただ並列させて、ぼんやりと眺めているだけでも、アカデミー作品賞を受賞した「オール・ザ・キングスメン」が、「赤狩り」のターゲットにされたに違いないと素直に印象されます。

しかし本当に、非米活動調査委員会が恐れるほどの思想性が、この作品に描かれているのかという疑問を、僕は以前から持っていました。

この作品には、抵抗勢力も含め、あらゆる党派からの献金を受けながら、そのための見返りを与えるようなことは一切しないと公言して大企業から多額の献金を引き出して選挙に勝利し、一方では貧しい民衆の不満を煽って支持を集め、それを強力な後ろ盾として議会を抑え込み、大胆な公共工事を推し進めていく地方政治家ウィリー・スタークの辣腕ぶりが描かれています。

しかし、その強引さのために次第に家族や部下から敬遠され、やがて部下の公金横領と息子の起こした交通事故の隠蔽とが暴かれることによって窮地に追い込まれていくというこの作品に、「アメリカ民主主義の暗部を暴いた衝撃の名作」といったようなキャッチ・コピーが考え出されたであろう背景には、やはり「アカデミー作品賞」と「赤狩りのターゲット」という絶妙なバランスを保っているキーワードが重要な役割を果たしているからだと思います。

もしこの作品に、非米活動調査委員会が恐れるほどの要素が存在するとすれば、たぶん「貧しい民衆の不満を煽って支持を集め、それを強力な後ろ盾として」という部分でしょうか。

しかし、この作品で描かれている「貧しい民衆」は、ジョン・フォードが「怒りの葡萄」で描いたほどには、虐げられた者たちの権力への敵意の意思が見えてくるわけではありません。

狡猾な政治家の前では、どうにでも扇動され利用されるだけの「固まりとしての愚衆」程度の描かれ方しかされてはいないと思います。

ここに描かれているのは、あらゆる汚い手を使ってでものし上がろうとする政治家への蔑視と、利権を食い物にする取り巻き=政治ゴロへの嫌悪、行政システムの衰弱と腐敗の告発、そして権力者にいいように操られるばかりの民衆の愚かさへ不信感への嘲笑をあらわにしただけの、それらのものに対する孤立した「進歩的な知識人」の愚痴のごときものが延々と描かれているだけです。

民衆への不信と絶望が描かれているこの映画のどこに、国家を転覆させ、この社会を否定するものが潜んでいると非米活動調査委員会が考えたのか、そして恐れたのか、結局僕には分からないまま、もう一度最初から見直すことにしました。

そして、冒頭のタイトル・バックでウィリー・スタークが激しい身振りで、それはまるでヒトラーなみの激しさで民衆に語りかけている後姿を延々と映し出しているシーンを見ていて、非米活動調査委員会が恐れていたものに初めて気がつきました。

そこには貧しい民衆に向かって金持ち=資本家=敵を、単純で激烈な言葉で糾弾し煽る「貧乏人の味方ウィリー・スターク」の誇張された姿が描かれていました。

非米活動調査委員会が必死になって敵対視し、告発しようとしていた共産主義もファシズムも、本当は対立しているものでもなんでもなく、ヒトラーばりに演説する誇張されたスタークの姿が示唆しているごとく、それらの「危険思想」は、結局のところ民主主義の中から生み出されてくるものとして、あるいは民主主義そのものでさえあると描いていることそのものを彼らは最も恐れたのではないかと。

正義を実現するためには、とにかく選挙に勝たなくてはなんの意味もない、善こそは悪から生まれるのだときっぱりと言い切るスタークの言葉が、政治思想やテクニックとはなんの関わりもない、「悪」こそは、この世界を生きるために必要な道具であることを示唆しているのかもしれませんね。

(49アメリカ)監督製作脚本・ロバート・ロッセン、原作・ロバート・ベン・ウォーレン(ピューリッツァー賞)、撮影バーネット・ガフィ、音楽・モリス・W・ストロフ
出演・ブロデリック・クロフォード、マーセデス・マッケンブリッジ、ジョアン・ドルー、アン・シーモア、ジョン・デレク、ジョン・アイアランド、シェパード・ストラドウィック
by sentence2307 | 2007-01-16 21:49 | ロバート・ロッセン | Comments(0)