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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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カテゴリ:山本弘之( 1 )

第五列の恐怖

今では、すっかり死語になってしまいましたが、「第五列」とは、いわゆるスバイのことですね。

敵国やその軍隊にまぎれこみ軍事機密を盗み、あるいは、謀略によってデマや風聞を故意に流し、あるいは事件を起こして敵軍の後方を攪乱する戦略のことで、それによって味方の軍事行動を助ける組織や人のことを指して言いました。

「陸軍中野学校」で市川雷蔵が演じた椎名次郎もそうですよね。

この作品では、轟夕起子演じる女スパイが、航空機会社に社員に成りすまして潜入し、技師森本(伊沢一郎)の開発している新型エンジンの報告書を入手しようとします。

その背後には、貿易商の仮面をかぶったペインタース(高田弘)のスパイ組織があり、しかし一方では、寺田中尉(永田靖)らの諜報機関が、その壊滅を狙いながら情報戦を展開しています。

報告書の強奪に失敗したスパイ一味は、最後の手段として新型エンジンの秘密を発表する席上に時限爆弾をしかけますが・・・という、よくあるスパイ映画のストーリーです。

この轟夕起子演ずる女スパイのコードネームを「Y-27号」といいますが、「Y-27号」とは、どこがで聞いたような番号だな、と考えていたら、思い出しました。

ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督「間諜X27」でディートリッヒ演ずる女スパイのコードネームが、まさにX-27号でしたよね。なるほど、なるほど。

僕は、はたして当時の日本映画に「分野としてのスパイ映画」を娯楽として成り立たせ得るような欧米に匹敵する成熟した大衆的な土壌があったのかと疑問に思い続けていたので、この命名といい、シュチエイションといい、欧米作品を全面的に拝借した手掛かりを得て、なんとなく納得した気になりました。

また、この映画が憲兵隊司令部から特別な表彰を受けたということからも察せられるように、あるいは、作られた1942年の戦局が厳しく切迫した状況にあったことを加味しても、軍部が苛立ちをつのらせて大衆に大きな影響力を持つ防諜映画に眼をつけ、「肝いり」したと考えたほうが、あるいは自然かもしれません。

この作品、当時はあからさまな酷評もありましたが、国民の防諜観念を向上させたとして憲兵司令官より感謝状も授与されたということと、映画統制によって新会社大映に統合される前の、日活多摩川撮影所名義の最終作としても記憶されるべき貴重な作品と言えます。

この作品を撮った山本弘之監督は、続く「あなたは狙われている」(1943)や憲兵司令部の後援の「重慶から來た男」(1943)など、憲兵隊の後ろ盾で国策的防諜映画を撮ったことが、戦後になって映画作家としての仕事を続けていくうえでかなり厳しい状況を招来したのでしょうか、フィルモグラフィによると戦後に撮った作品は「蜘蛛男」1958のただ1本の記録しか残されていませんが、彼の忘れてはならない仕事にカラー作品の試作に挑んだことを上げなくてはならないでしょう。

年譜には、
「47年6月、フジカラーの試作品『キャバレーの花籠』(大映)を自作の脚本で監督。
撮影・横田達之、本間成幹、照明・伊藤幸夫、美術・木村威夫、主演・三条美紀、花布辰男で、1500フィートの作品でした。
試写のときには、歓声が上がった程の成功で、日本初の色彩映画といわれています。
松竹の『カルメン故郷に帰る』よりも先立つこと実に4年も前の仕事であったことは記憶にとどめるだけの価値ある仕事であることは間違いありません。」
と書かれています。

このカラー試作の仕事は、1947年・第1回日本映画技術賞によって評価されていますが、記録には、大映技術研究所と藤沢信の名があるばかりです。

(1942日活多摩川)監督・山本弘之、原作脚本・北村勉、撮影・内納滸、糸田頼一、美術・仲美喜雄、音楽・飯田景應、
出演・轟夕起子、中田弘二、永田靖、見明凡太郎、伊澤一郎、國分ミサヲ、村田宏壽、潮萬太郎、水島道太郎、小宮一晃、北龍二、笠原恒彦、三井智恵、吉井莞象、斎藤紫香、高田弘、菊地良一、井上敏正、富士木弘、渥美君子、若原初子、町田博子、文野朋子、江原良子、小林桂樹
(70分・35mm・白黒・不完全)
by sentence2307 | 2007-01-21 15:02 | 山本弘之 | Comments(1643)