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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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カテゴリ:呉念眞( 1 )

多桑/父さん

この映画の監督・呉念眞は、名作「悲情城市」や「戯夢人生」などの脚本を手がけた人で、これは候孝賢が製作をつとめた監督第一作です。

見初めから驚きました。すごい映画です。

金が入れば女郎屋へ女を買いに行く炭鉱夫の父。カモフラージュに幼い息子を連れて行きます。

粗暴で教養もなく、自分の思うようにならなければ妻も息子も半殺しの目に合わせること位いなんとも思っていません。

身勝手で愚劣な男です。

でも、どんな目に合わされようと、憎もうと、この絶対的な父が一瞬垣間見せる哀れさに総てを許してしまう息子、肉親の愛を求めることに何の衒いも躊躇いもない率直さに、哀れさとともに羨望さえも感じます。

「父も苦しんでいるんだ」という息子の思いが伝わってきます。

ただひとつ、父は、自分が日本統治下で日本人としての教育を受けたこと・そこいらの台湾人とは違うんだという誇りがあります。

彼は、妻や息子に自分を日本語で“父さん”と呼ぶことを強要しています。

父親の晩年が描かれるその頃の台湾では、日本に対しての反感が一般的な雰囲気として描かれています。

父親は、高度経済成長を遂げていく台湾の上げ底の貧弱さを罵り、かつての統治国・日本を讃えることで戦後の繁栄の中で富み栄えた台湾で一人置き去りにされた屈辱に耐え、やがて病を得たのち、失意のうちに自殺します。

父が、あんなに愛していた日本へ、遺骨を持って息子はひとり向かいます。

父親に寄せるこの息子の深い愛の姿は、小津安二郎の「父ありき」を思わせる程の哀切な叙情に満ちていました。

日本に憧れ、皇居と富士山を見ることを夢見つつ、遂に果たせぬまま死んでいった父親の無惨な生涯を通して、台湾のひとつの戦後史が見事に描かれた傑作です。
by sentence2307 | 2006-05-27 14:31 | 呉念眞 | Comments(5)