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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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カテゴリ:鈴木英夫( 2 )

黒い画集・寒流

黒沢作品「悪い奴ほどよく眠る」が、松本清張の原作だと言われたら抵抗なく信じると思います。

それくらい雰囲気的には、なんか似ている感じがします。

巨大な権力にひとり立ち向かっていきながら、結局押し潰されてしまうというあたりなんか、共通するものがありますよね。

たまたま、「日本映画専門チャンネル」で放映していた鈴木英夫監督61年東宝作品「黒い画集・寒流」を見ながら、ふとそんな気がしました。

「黒い画集」シリーズの完成度から言えば、やはり、堀川弘通監督の「あるサラリーマンの証言」を挙げねばならないかもしれませんが、この「寒流」も捨てがたいものがあります。

新珠三千代の熱演です。

この「寒流」は、彼女の代表作といわれている小林正樹監督の「人間の条件」と製作年度がダブっているので、もっともアブラののっていた時期の女優・新珠三千代を見ることができます。

僕としては、もう少し若い時期の、川島雄三監督の「洲崎パラダイス赤信号」で蔦枝を演じていた彼女もとても好きです。

新珠三千代の魅力は、品のよさと女らしい情感(あの楚々とした喋り方!)に溢れ、そして凛とした芯の強さ(時には、悪魔のような女も)を不自然でなく同時に演じることのできた素晴らしい女優さんでした。

惜しい女優さんが、どんどん亡くなられて、とても淋しい感じがします。

さて、こう書いてきて、一時期、盛んに作られた松本清張の小説の映画化、最近はあまり聞かなくなりました。

それにしてもどのくらい映画化されているのか、ちょっと調べてみました。

顔(57大曽根辰保)、張り込み(58野村芳太郎)、眼の壁(58大庭秀雄)、共犯者(58田中重雄)、影なき声(58鈴木清順)、点と線(58小林恒夫)、かげろう絵図(59衣笠貞之助)、危険な女(59若杉光夫)、黒い画集・あるサラリーマンの証言(60堀川弘通)、波の塔(60中村登)、黒い樹海(60原田治夫)、ゼロの焦点(61野村芳太郎)、黒い画集・ある遭難(61杉江敏男)、黄色い風土(61石井輝男)、黒い画集・寒流(61鈴木英夫)、考える葉(62佐藤肇)、無宿人別長(63井上和男)、風の視線(63川頭義郎)、花実のない森(65富本壮吉)、霧の旗(65山田洋次)、けものみち(65須川栄三)、愛のきずな(69坪島孝)、影の車(70野村芳太郎)、内海の輪(71斎藤耕一)、黒の奔流(72渡辺祐介)、砂の器(74野村芳太郎)、告訴せず(75堀川弘通)、球形の荒野(75貞永方久)、霧の旗(77西河克己)、鬼畜(78野村芳太郎)、わるいやつら(80野村芳太郎)、疑惑(82野村芳太郎)、天城越え(83三村晴彦)、迷走地図(83野村芳太郎)、彩り河(84三村晴彦)の35作だそうです。
by sentence2307 | 2007-04-28 22:42 | 鈴木英夫 | Comments(4)

蜘蛛の街

失業中の善良な男が、仕事欲しさに凶悪な事件に巻き込まれてしまうという小市民の恐怖を描いたサスペンス映画です。

近年、マニアの間では物凄い人気があると聞いている鈴木英夫の作品を「意識して」見たのは、今回が初めてでした。

この鈴木英夫作品は、かのヒッチコックとの比較論まで読んだことがあるので、とにかく物凄く期待して見ました。

息もつかせぬテンポの良さは、確かに優れたものがあると思いましたが、しかし、ヒッチコックを持ち出すというのは、ちょっといき過ぎのような気もしないではありません。

ショッキングなシーンの釣瓶打ちとか、意想外などんでん返しで見る者を驚かすような映画とは少し違う、むしろ正統的な人物描写の緻密さがこの映画の緊張感を高め、サスペンスに厚みを持たせていると感じました。

団地に住んでいるこの男には、妻と子供がいます。

男は失業中で、職を失ったことをまだ妻に話すことができない。

気安く打ち明けられないほど夫婦仲が冷え込んでいるからかというと、むしろ逆で、お互いを愛称で呼び合っているほどの打ち解けた間柄であることがすぐに分かり、夫婦のこの繊細な心理の食い違いを描くことによって、微妙な夫婦の関係を巧みに描き出していると思いました。

朝、定時に家を出て職探しに歩き回っている男は、サンドイッチマンの職を見つけて、ようやくわが家に生活費を持ち帰ることができるのですが、看板をぶら下げて街を歩いているサンドイッチマンの姿をバスの車掌をしている義妹に見られてしまい、妻もようやく夫の苦境を知ります。

しかし、妻はそのことを夫に直接問いただすことまではできません。

またしても情報提供者たる妹が、夫婦の仲に入って話の切っ掛けを作ってあげる役を買ってでる始末です。

この夫婦の不思議な「他人行儀さ」ぶりを、現代に生きる僕たちが、夫婦のこうしたお互いのことを遠慮がちに思い遣る節度を優しさと理解できるかどうかなど、この映画を味わううえで興味深い問題かもしれませんね。

しかし、僕が面白いとおもったのは、この映画の中心になっている替え玉のそっくりさんを現場近くに歩かせ、時間的なアリバイを作ったうえで本物の方を自殺に見せかけて殺してしまうというシチュエーションです。

これは明らかにこの映画が公開される前年の昭和24年の7月に起きたあの下山事件でしょう。

失踪後轢断地点付近で見られたといわれた「下山総裁の死の彷徨」から着想されたものですよね。

映画に厚みを持たせたといえば、あるいはこちらの方かもしれません。

(50大映・東京撮影所)製作・三浦信夫、監督・鈴木英夫、脚本・高岩肇、原作・倉田勇、撮影・渡辺公夫、音楽・伊福部昭、美術・木村威夫、録音・長谷川光雄、
出演 宇野重吉中北千枝子 伊沢一郎 根上淳 千石規子 目黒幸子
1950.06.03 9巻 2,102m 77分 白黒
by sentence2307 | 2006-04-05 23:58 | 鈴木英夫 | Comments(0)