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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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カテゴリ:三隅研次( 1 )

かつて、ある友人が、三島由紀夫の小説について、こんなふうに語った言葉が、いつまでも耳から離れないでいます。

「三島の小説は、絢爛たる数々の形容詞を堪能することはできても、内容的には空疎なものばかりだ」と。

しかし、はたして小説というものの魅力が、「実用的」な内容にだけあると断定するのはちょっと難しい問題かもしれません。

僕としては、「スタイル」とか「文体」とか、様々な楽しみ方があってもいいかなという立場でいたいと思いますし、また、三島由紀夫の小説が「まったく空疎だ」と一言で片付けられてしまうとするなら、ひとこと弁明したい誘惑にも駆られます。

しかし、だからといって、自分がそれほどの「三島ファン」というわけでもないので、マニアックな論理展開など期待されても出来るはずがないのですが、まあ太宰治も川端康成も高橋和巳もそれなりの主張があって決して「空疎」ではなかったという程度のことならナニカ言えそうな気がします。

実は、僕も一時期、三島由紀夫の小説に嵌まりました。

皮肉と逆説と虚勢の、奇を衒った多面的な含みのある言葉を縦横に弄ぶ知的遊戯の醍醐味を存分に堪能させてもらい、その小説の読後感ではどの作品にも「もの凄いことを言っている」という充実感を持ったものでした。

そういう意味では、小説の映画化に際して、よく聞くあの「小説を読んだ後で、その映画化された作品を見て失望した」という感想を、僕もまた多くの三島作品の映画化で実感してきたような気がします。

しかし、その「三島体験」から既にかなりの時間が経過したいま、当時の「実感」は僕のなかでは徐々に変質し逆の意味を持ち始めているかもしれません。

あれほどまでに夥しい言葉群を費やし、絢爛たる形容詞で飾り立てた世界が、内実は「この程度の主張でしかなかったのか」という苦い失望です。

映画は残酷なまでに細部にわたる物語の「筋」を緻密に辿り、良くも悪しくもあらゆる夾雑物を映し出し、白日の下に曝け出さずにはおかない写実の芸術です。

どんなに優れた文学作品でも、それを見るに耐える名画に転化するためには、どうしても映像の文法が必要になってきます。

そういう意味では三隅研次の「剣」は、比較的三島由紀夫の「主張」が素直に見えている作品のような気がします。

大学の剣道部の主将・国分が、合宿で部員たちが犯した規律違反を、統率力不足の自分の責任だと絶望して自殺するというこの物語に対する幾つかのコメントを読んで、ある共通している感想に気がつきました。

自分に厳しいのは勝手だが、他人にも同じ厳しさを求めるこのストイックな時代錯誤の考え方が、もし三島の美学であるなら到底理解しがたい、というものでした。

その感想には、暗に、ひとりで燃えて自衛隊に決起を呼びかけ、総スカンを食らって自決した「あのこと」とぴったりと符合するものが潜んでいます。

この映画で描かれた「信じていた部員に裏切られて自殺する主将」という象徴的な部分だけ摘出すれば、どのように好意的に見ても、随分と当て付けがましいグロテスクな物語にすぎません。

だから、映画の最後で登場人物たちは寄り集まって、主将の不可解な死を理解しようと必死に話し合います。

「俺には統率者の資格がない。強く正しい者になるか、自殺するか、ふたつにひとつだ」と、部長は国分が最後に残した言葉を読み上げます。

そして「国分は生きることに負けたんじゃないね。自殺することで、彼の正しさと強さを永遠のものにしたんだよ。」と国分の死を弁護します。

また、同期の賀川の「あいつは永遠に俺の勝てない相手になってしまった」という説明的な言葉を受けて、再び部長がこんなふうに結論づけています。

「誰も国分を理解できなかったんだよ。国分は単純で素朴な願いで生きていただけだ。」

純粋であることを許さない俗世間の嫉妬が、国分を自殺にまで追い詰めた状況を「国分は生きることに負けたんじゃないね。自殺することで、彼の正しさと強さを永遠のものにしたんだよ。」と捻じ曲げる観念のアクロバットを、活字をたどることでなら理解できても、より客観化された映像のなかで理解できるかどうかは、すこぶる疑問です。

このような種類の小説的な言葉が語られる時、文学の世界でなら「崇高な死」で有り得たものも、映像の中では、「あてつけ自殺」の言い訳的な説明以外の何物でもないという気がしました。

(64大映・京都撮影所)企画・藤井浩明 財前定生、監督・三隅研次、助監督・友枝稔議、脚本・舟橋和郎、原作・三島由紀夫、撮影・牧浦地志、音楽・池野成、美術・内藤昭、録音・奥村雅弘、照明・山下礼二郎、編集・菅沼完二、スチール・藤岡輝夫
出演・市川雷蔵、藤由紀子、川津祐介、長谷川明男、河野秋武、紺野ユカ、小桜純子、稲葉義男、角梨枝子、矢島陽太郎、高見国一、風間圭二郎、木村玄、舟木洋一、堀川真智子、橘公子、新宮信子、水原浩一
1964.03.14 8巻 2,596m 94分 白黒 大映スコープ
by sentence2307 | 2007-02-11 19:03 | 三隅研次 | Comments(1)