人気ブログランキング |

世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

カテゴリ:中原俊( 1 )

カラフル

生前の悪行のために地獄堕ち一歩手前のところで、もし、地上で自分の犯した悪事を思い出し、そして反省すれば、輪廻のサイクルに復帰できるという「霊の僕」が、自殺未遂を起こした少年マコトの体に乗り移るところから、この物語は始まりました。

この作品もそうなのですが、死者が現世に舞い戻って人間の世界を覚めた目で客観的に観察する、というタイプの映画を見るにつけ、ヴェンダースの「ベルリン天使の詩」が世界の映画作家に与えた影響の大きさを感じないわけにはいきません。

中原俊監督、森田芳光脚本のこの「カラフル」、確かに「ベルリン天使の詩」の設定を拝借した作品ですが、その繊細さにはちょっと驚かされました。

人間、誰しもいまの自分にうんざりしていて、できることなら、どうにかして自分を変えたい。

自分は、もっと快活な人間で、同じ生きるならもっとハツラツとして生きていきたいと願っていても、しかし、現実におけるイメチェンは、そう簡単にはいきませんよね。

固定観念で自分を見ている世間も、そう易々とイメチェンを許してくれないでしょうし。

叩かれ続けて、いじけまくり、うじうじ・おどおどと生きてきたその長い時間によって「お前は、こういう人間だ」という世間の決め付けを撥ね返すだけのパワーがないから、結局、息苦しさを感じながらも、むしろそのことに甘え掛かって、世間に通りのいい「そういうイイコの自分」でいることの気楽さに安住しているということもあるかもしれません。

しかし、いつかは、そのニセモノの自分でいることの無理に耐え切れずに、息切れし、そしてこの映画の主人公マコトのように追い詰められ、自己欺瞞のツケを自殺することで払わせられることとなるのでしょうか。

この作品の物語の骨組みは、自殺→自分を「殺す」→悪事の発見という到達点に、「マコトは、自分だ」という発見が重なるダイナミズムにあるのだろうと思いますが、ラストのその「思い出した!」という瞬間には、それほどの感動は伴ってはいませんでした。

自殺を「殺人の一種」と捉え、それを悪事と認識し反省する、という図式は、あまりに理詰め過ぎて人を感動させるだけの唐突感には、どうしても欠けますし、言葉と観念のお遊び的な陳腐さの面が強すぎるように思います。

むしろ、見知らぬ少年マコトに乗り移った霊が、「こいつ、なんていじけた奴なんだ」とことごとく呆れ返り、憐れみ、蔑み、しかしそれが本当は自分自身だったと悟る瞬間に、現実にねじ伏せられた自分が自身で命を断たなければならなかった悔しさと哀しみと憤りのすべてが集約されていく胸が詰まるような遣り切れなさの方に、数段すぐれたインパクトがありました。

この映画、確かにヴェンダース作品ほどの重々しさはありませんでしたが、軽妙であることで伝わる哀しみ切なさというものもあるという思いが強く心に響く作品でした。

(99)監督・中原俊、製作・酒井治盛、製作総指揮・齋藤暁、プロデューサー・高橋康夫、萩原貫司、アソシエイトプロデューサー・倉田喜久雄、伊藤浩之、吉岡和彦、原作・森絵都、脚色・森田芳光、撮影・藤澤順一、音楽・池辺晋一郎、美術・稲垣尚夫、編集・冨田功、録音・北村峰晴、スクリプター・牧野千恵子、スチール・出山泰子、助監督・武正晴、照明・井上幸男
(配役)田中聖、阿川佐和子、滝田栄、曽我廼家文童、真柄佳奈子、駒勇明日香、景山悠希、斉藤新之介、柳葉敏郎、筧利夫、江藤潤、鈴木砂羽、深水三章、林家こぶ平、梶原阿貴、春木みさよ、YOROZU、新井誠
by sentence2307 | 2007-04-14 23:56 | 中原俊 | Comments(682)