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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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カテゴリ:マキノ正博( 1 )

鴛鴦歌合戦

久しぶりの連休です。

こんなときには、普段ではなかなか見ることが出来ないような映画を、ゆったりとした気分で鑑賞したいものですよね。

その「普段なかなか見ることが出来ない映画」というのは、例えば、見始めるために相当な決心と気合と労力が必要な重たくて超難解な大作とか、あるいは、評判のいいことは十分に分かっていても、なかなか見る機会がなくて日延べにしていた気になるカルトムービーとか、です。

見ようと挑戦しながら、気力と時間の折り合いがつかずに挫折した「ルートヴィッヒ」が前者なら、後者に当たる作品は「鴛鴦歌合戦」です。

わずか7日間で撮られたと伝えられているこの戦前の純国産オペレッタ作品のずば抜けた評判は、かなり前から聞いていました。

その異様な賞賛が、あまりにも無条件な高評価に思えて小心者の僕は逆に気持ち的に身構えてしまい、この作品を一度敬遠してしまった自分にとって、改めて作品を見るための取っ掛かりを見つける作業は、少し面倒くさい思い直しの時間が必要でした。

しかし、この「鴛鴦歌合戦」を実際に見てみると、その面白さ、テンポのよさ、奇抜さに、自分もまた完全に「トリコ」になってしまいました。

どうしてこんなにも、この映画が観客の気持ちを掴むことができるのか、その秘密の方を考えてしまいました(素直に楽しめばそれでいいと思うのですが、我ながら本当に厄介な性向だと思います)。

ストーリーは、ごく単純、麗しき3人の娘(市川春代、深水藤子、服部富子)が、貧乏浪人・片岡千恵蔵をめぐって「恋の鞘当て」をするというミュージカル仕立ての物語です、むしろ単純なのが却ってよかったのかもしれません。

それに役者のキャラもいいし、歌もいい。

歌はうまいが演技がぎこちないディック・ミネや服部富子もいいのですが、志村喬の歌のうまさ(驚きました)はともかく、演技はキュートでも歌が物凄く「音痴」な市川春代の歌声には一遍に魅せられてしまいました。

それで多くの人たちの絶賛の意味が一挙に解明しました。

鍛え抜かれ、そして一分の隙もなく洗練された欧米のオペラ歌手が演じる(吹き替えをしてまでも)完璧にこだわる完成されたミュージカル映画を前にしては、絶対に有り得るはずもない我が「鴛鴦歌合戦」です。

「日本のミュージカル」は、これでいいんだ、と思わせる不思議な力強さに満ち満ちています。

この映画を見ているうちに、自分が、いつの間にか学芸会で演じている家族を100%贔屓目で応援する身内の「目」になってしまっていることに気づかされます。

もはや巧拙など判断できないような「ウチワの人間」の感性にすっかりなりきってしまっていたのだと思います。

観客の「痛い所」をこんなふうに巧妙に突く「鴛鴦歌合戦」という映画です、手も足もでるわけありません。

お春が、一万両もする文久の茶碗を叩き割って、粉々になったその破片で礼三郎の愛を一挙に獲得したように、市川春代は、よそよそしい「美声」などではなく、身内の家族だけが愛することのできるその価値ある「音痴」によって、観客の気持ちを一挙に鷲掴みにしてしまった作品だったのだと思います。

(39日活・京都撮影所)(監督)マキノ正博(脚本)江戸川浩二(撮影)宮川一夫(美術)長谷川繁吉(音楽指導・作編曲)大久保徳二郎(オペレッタ構成・作詞)島田磐也(助監督)羽田守久(助撮影)牧浦地志(設計)角井嘉一郎(装置)長谷川繁吉(録音)石原貞光(照明)松本源蔵(編集)宮本信夫(剣道)足立伶二郎
(出演)片岡千恵蔵、香川良介、志村喬、ディック・ミネ、服部富子、市川春代、深水藤子、遠山満、尾上華丈、石川秀道、楠榮三郎、近松竜太郎、福井松之助、富士咲美、大崎史郎、小林三夫、藤村平三郎、武林大八郎、嵐寿之助、阪東薪太郎、石丸三平、河瀬昇二郎、
1939.12.14 富士館 7巻 69分 白黒 スタンダード・サイズ
by sentence2307 | 2007-05-04 21:47 | マキノ正博 | Comments(3)