人気ブログランキング |

世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

カテゴリ:家城巳代治( 1 )

異母兄弟

家城巳代治監督に対する「これだ」というイメージが、僕のなかでは、いまだ掴めていません。

いくつかの解説書を読んでいるうちに、監督のイメージをなんとなく「弱者を温かくみつめる眼差しのヒューマニズム」とか「感傷的で、叙情的な監督」とか「誠実さと善意を描いた映画作家」という言葉がキイワードとなって記憶に残り、「こんな感じか」というイメージはできていますが、実際に家城監督の代表作といわれている「雲ながるる果てに」や「姉妹」や「みんなわが子」などを観て、確かに「弱者を温かくみつめる眼差しのヒューマニズム」は、きっと「そう」なのでしょうけれども、同じような他の監督作品と明確に区別できるものがあるのかどうか、確信が持てなかったというのが本当のところでした。

それはつまり、鮮烈で明確なイメージを定着させることのできるシーン、イメージを裏付けるだけの強烈で明確な核になる手掛かり(思想性でも個人的な感情みたいなものでもいいのですが)を見出せなかったのだと思います。

逆に、印象に残らないという頼りなさ、線の細さばかりが気になって仕方ない作品ばかりに出会ってきたのかもしれません。

僕は、むかしからある「映画事典」を座右に置いて、映画を見ています。

何十年も使っているので、もうボロボロなのですが、用途としては「見る前の参考」ということよりも、今まで感動した作品の項を折に触れ眺め直しては、感動の思い出に浸るということが多いのかもしれません。

そういう僕の愉しみの時間を阻むものが、飛び飛びにある「まだ見ていない作品」の存在です。

どうしても最初の頁から眺めていくので、五十音に配列されている関係上、「あ行」近辺にある未見の作品には、そのたびに、ある戸惑いを持って相対さなければなりません。(その作品の解説にスチール写真でも添えられていた日には最悪です。)

そういう作品のなかに家城巳代治監督の「異母兄弟」がありました。

その頁を開くたびに、刀に打粉をしている三国連太郎演じる当主に、女中(そう書いてあるので、あえて・・・)あがりの妻・田中絹代が、畏まって平伏しているスチール写真が「まだ見てないのか」というふうに威圧してきます。

そんなことを、もう何千回と続けてきましたのでした。

そんなとき、この「異母兄弟」に関して僕の身にふたつの事件が起こりました。

ひとつは、たまたまCSでこの作品を見た友人から感想を聞くことができたこと、そして、彼からその録画テープを借りて積年の思いを果たせたことでした。

「軍人の夫に虐げられ、それを耐える妻の異様な陰鬱さには言葉を失うほどの嫌悪を感じた。なぜ彼女は、あのとき『こんな家、出て行こう』と泣きながら訴えた子供の助言に従わなかったのか。耐えることが彼女にとってとても大きな問題であって、どうしても譲れない女の意地だったとしても、彼女が絶えたことが、子供たちに与えた犠牲の大きさに、はたして見合うだけのものだったのかどうか。」

友人はすこぶる疑問だというニュアンスをこめて感想を話してくれました。

強姦され、意に反して子供まで生まされ、妻とは名ばかり、実質的には態のいい女中のまま何十年も彼女を虐げてきたものが「家」を守る家父長制度だったとしたら、「こんな家、出て行こう」と訴えた子供の言葉にも背いて彼女が必死になって意地でも縋り付いたものも同じ「家」だったのだと思います。

友人が「どうしても理解できない」と言った妻の考え方の根には、加虐・被虐の違いはあれ軍人の夫と同じような「家」に対する認識(それは友人の理解でも遂に届かなかった当時の日本人の価値観です)があったからだと思います。

しかし、この映画の素晴らしさは、その大人たちの認識と行為のグロテスクさを、子供の目をとおして見抜いていることだと思いました。

そのひとつの具体的な表れのシーンは、時計が11時を打つと、枕を抱えて夜のお勤めに通う無様な母親の姿をとおして、「家」に仕える大人たちの愚劣さの本質を、子供の視線を通してしっかりと捉えていることだと思いました。

もうこれからは、映画事典の「い」の項をなんの蟠りもなく堂々と開くことができると思います。

(57独立映画)監督・家城巳代治、製作・伊藤武郎、栄田清一郎、原作・田宮虎彦、脚本・依田義賢、寺田信義、撮影・宮島義勇、美術・平川透徹、音楽・芥川也寸志、録音・加藤一郎、照明・浅見良二、編集・沼崎梅子
出演・三國連太郎、豊島八重子、田中絹代、西田昭市、浪江孝次、遠藤征行、近藤宏、春日井宏住、大友良雄、南原伸二、森下義秀、中村賀津雄、菅野彰雄、高千穂ひづる、飯田蝶子、島田屯、永井智雄、富田仲次郎、太田恭二、打越昭八、水村靖、宮坂昌介、水谷勇、降旗昭司、伊藤享治、中村智、陶隆、志賀夏江、徳間みどり、相沢治夫
上映時間110分 1957.06.25 12巻 3,027m 白黒
by sentence2307 | 2007-08-26 18:03 | 家城巳代治 | Comments(0)