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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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カテゴリ:若松孝二( 2 )

胎児が密猟する時

ここのところ忙しくて、じっくりと新聞や雑誌を見る時間がなくて、ようやくのんびりできるこの日曜日に古い新聞を引っ張り出して、ページをペラペラめくっていたら、社会面の片隅に若松孝二監督急死の記事をみつけてびっくりしました。

まさに寝耳に水です。

記事によると、新宿の道路を横断中にタクシーにはねられ、搬送先の病院で息を引き取ったと書いてありました。

突然のことで、なにがなんだか分からないまま、しばらくは脱力感におそわれ、体に力がはいりませんでした。

ここのところようやく時代の風が若松孝二に向かって吹き始めて盛り上がりを見せていたというのに、その矢先の急死です。

残念というよりも、悔しさがこみ上げてきました。

なんと自動車事故とは。

本人も悔いの残る死に方だったと悔しかったに違いない、と思えば思うほど、やり場のない怒りの感情がこみ上げてきました。

若松なら、もっと違った死に方もあっただろうに。

いままで多くの監督の訃報に接してきたのに、こんな感情が湧きあがってくるのは初めてです、なんだか自分でも意外でした。

もう何十年も前の話、「なにか」を求めるなんて生き方さえも馬鹿馬鹿しくなり、行き場を失って新宿や道玄坂をさまよっていた頃、たまたま迷い込んだピンク映画館で「胎児が密猟する時」に出会いました。

それが若松孝二という字面からしてなにやらいかがわしい印象を受けた「名前」の最初の出会いでした。

多くのピンク映画が、濡れ場の絡みの場面になると、それまでのモノクロ画面だったものが、突然カラー場面になるというピンクの典型的な映画とは明らかに姿勢の異なる、むしろ、そういう観客の期待をことごとく裏切るような悪意に満ちた挑発的な映画だと思いました。

男女の絡みを期待した観客は、その期待をことごとく裏切られ、失望し、映画が終了するまで、「ふて寝」をするしかないような状況に追い込まれています。

つまり、「意識的な映画」だったのだと思います。

そこで、若松監督の訃報をネットで検索していたら、たまたまあの「胎児が密猟する時」の幾つかの感想に遭遇しました。

長いものは紹介できませんが、象徴的なふたつのコメントがありました。

ひとつは「イカレ野郎がマンションの一室に監禁した女をひたすら鞭でぶっ叩く映画」、実際にこの作品を見た人の苛立ちが如実に感じられるとても素直な感想だと思いました。

おそらく彼は「胎児が密猟する時」という作品に、ピンク映画にふさわしいなにか「もっと凄いもの」を期待していたに違いありません。

しかし、彼の期待していた「もっと凄いもの」は、残念ながらこの映画には描かれていなかったからこそ、もうちょっとでキレそうな苛立ちをささやかなコメントに込めて、腹立ちまぎれにネットで公開したに違いありません。

そしてもうひとつのコメントの方は、「登場人物は男と女の二人のみ。一見完全にエロ映画そのものの密室劇ですが、不思議に高尚な文芸映画みたいな感じがするのは、へんに演じ手の達者な芝居と演出によるものであろう。」というものです。

最初からこの作品を取るに足らない「エロ映画」にすぎないと決め付けるなら、「文芸映画」であろうとなんであろうと、まともな映画なわけがない、「なんだエロ映画ごときが偉そうに。まともなツラすんな」とでもいうような、こちらのコメントも抑えがたい苛立ちと鬱憤をぶつけている印象です。

きっと、このコメント氏たちが期待した性的で扇情的な「もっと凄いもの」は、この「胎児が密猟する時」からは得られなかったように、おそらくどの若松監督作品からも、期待できないかもしれません。

このコメント氏たちは、かつて、道玄坂のピンク映画館の暗闇で諦めの吐息を軽いて不貞寝しなければならなかった観客たちと同じように、「胎児が密猟する時」を理解することは難しいでしょう。

人間不信におちいり、深い孤独感のなかで生き場も、生きる目的も失って新宿や道玄坂をさまよったすえに、たまたま迷い込んだピンク映画館でこの作品と出会うという状況下のなかでしか、丸木戸定男の深い孤独と孤立感、そしてやり場のない怒りと敵意と暴力への止どめようのない衝動とを理解することは、ちょっと難しいのかもしれません。

(1966若松プロ)企画制作監督・若松孝二、助監督・足立正生、脚本・大谷義明(足立正生)、撮影・伊東英男、撮影助手・倉田宏、沖田健、音楽・大谷義明、美術・加藤衛、照明・磯貝一、照明助手・高山清治、末吉忠二、編集・宮田二三夫、記録・栗田邦夫、スチール・小泉嘉正、制作主任・宍倉源司、制作進行・今井洋、効果・福島効果グループ、録音現像・目黒スタジオ、ナレーション・大谷義明
出演・志摩みはる、山谷初男
1966.07 72分 白黒 シネスコープ
by sentence2307 | 2012-10-21 20:48 | 若松孝二 | Comments(144)

天使の恍惚

それほど素晴らしい出来とも思えない若松孝二作品「天使の恍惚」が, 作られてから30年以上も経過してしまった現在,この映画が描くようにテロが「お伽話し」では済まなくなった情況のなかでも、それほどの困難も伴うことなく、一般人も結構頻繁に鑑賞することが出来るのは,この作品が「ATG」という特異な条件によって作られたことと,それに加えて「日本映画専門チャンネル」で「ATGアーカイブ」という企画があり、結構定期的にATG作品をオン・エアーしていることと無関係ではないような気がします。

そういう幸運な条件がなければ,必ずしも繰り返し見るに耐え得るような先見性や映画的な価値(長い時間の経過にも淘汰されることのない自立した作品性)を有しているとは決して思えないこの作品の「厚遇」の在り方に,ちょっと複雑な思いを抱いています。

極めて「政治的なメッセージ」を持ったこの映画が,もし作られた当時の本来の「政治性」を現下の日本でも有効に反映させる姿勢で臨めば,現実的なテロルにいつ遭遇するかもしれない逼迫している現状からすると,きっとこんなふうに普通に目にすることは困難だったかもしれません。

政治的でない部分で守られ続けているこのきわめて過激な政治的メッセージを有したスキャンダラスな映画は,「表現の自由」と「公開の自由」を保障・許容した寛容な社会において,こんな具合に「垂れ流し」的に冗長に上映され続けることによって、むしろ逆に本来の毒を失い,「不出来で滑稽な晒しもの」として、却って大衆から失笑をかう存在にまで貶められている印象さえ受け、結局それは「反面教師」であることさえ無様に失った作品でしかなくなってしまったような感じさえしました。

まるで、高名な大女優が、有り余る金に飽かして、世間知らずの息子を勝手し放題・放蕩し放題に甘やかし、放任した結果、取り返しのつかないまでに増長させ、やがて薬物に手を染め中毒になり、ついには司法の裁きを受け獄に下るというあの芸能スキャンダルを彷彿とさせるものがあります。

この映画が、映画中で語られる有名な言葉
「問題は,水準なんかで語るべきではなかった,力量の標準なんてなんの意味もなかったのよ。
本気で孤立できるヤツ,自分の体だけで闘えるヤツ,孤立を恐怖して何が出来る。
孤立した精鋭が世界を変える,世界をつくる。
市民なんか何時まで経っても市民でしかない。
大衆なんか何時まで経っても大衆でしかないじゃないか。
孤立した精鋭が世界をつくるんだ。」

これは、警察へのテロを続けていた彼らの反権力闘争が、やがて大衆からの支持を得られないと分かった混迷と絶望のなかから、ついには大衆に向けて爆弾を投擲し、銃口を向け、あるいは大量の爆薬を密かに体に撒きつけて炸裂させるために幸福そうな人ごみのなかに何食わぬ顔で紛れ込む、という錯乱を正当化する論拠となった神経症的な「笑えない」言葉だと思います。

そして,支持はおろか対峙すべき明確な問題をさえ日本の中で見出すことができなかった彼らは,浅間山荘やテリアビブへと追い詰められていったのだと思います。

皮肉なことにピンク映画の尻尾を断ち切れずにずるずると引きずっていたこの作品が、「性」と「革命」という退路を確保して、あるいはそれが、この作品を「延命」に導いたのかもしれません。

あるいは、「エロ」よりも「政治」の方が高尚だという偏見も一役かったのかもしれません・・・。

(1972若松プロダクション・日本ATG)企画・制作・若松孝二 葛井欣士郎、監督・若松孝二、助監督・沖島勲、脚本・主題歌・作詞・出口出(足立正生)、撮影・伊東英男、撮影助手・川島義和・ 和光晴生・高間賢治・橘満、音楽・山下洋輔トリオ、作曲・秋山ミチヲ、録音・杉崎喬、効果・秋山実、照明・磯貝一、照明助手・前田基男、福井通夫、編集・出口出(田中始)、製作主任・岩淵進、製作進行・山田力、効果・福島効果グループ、スチール:中平卓馬、現像・東映化学
出演・吉沢健、横山リエ、秋山ミチヲ、荒砂ゆき、山下洋輔トリオ(山下洋輔、森山威男、中村誠一)、足立正生、本田竜彦、大泉友雄、三枝博之、小山田昭一、小野川公三郎、和島真介、岩淵進、布川徹郎、渡辺亜人、古旗吾郎、神野ジーナ、大橋真理、ゲーリー・ドーレン、ダーロー・エヴァンス、松島真一、柴田秀勝、吉田潔、
1972.03.11 90分 パート・カラー
by sentence2307 | 2008-05-04 18:33 | 若松孝二 | Comments(629)