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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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カテゴリ:井上梅次( 1 )

死の十字路

「父親たちの星条旗」についてぼんやり考えていたら、いつの間にか「若き獅子たち」の連想に辿り着いていました。

もう何年も思い出すことのなかったあのエドワード・ドミトリクの名前もとっさに思い出すことができたなんて、われながらちょっと驚きです。

かつて世界二極化の冷戦時代にあって愛国思想を試されながらハリウッドの多くの映画人たちは、業界で微妙なバランスをとりながら踏み絵的な映画を作ったのだと思いますが、ドミトリクもそのうちのひとりだったかもしれません。

そうした時代と権力に踊らされたこれらの人々の哀しく無様な醜態のなにもかもを、決して王道を歩んできたわけではない傍流俳優だったクリント・イーストウッドは、しっかりと見てきたはずで、だからこそハリウッドにおいて名を成した現在においても、映画作りの原点を「B級」映画に見据えているのだと思います。

それなら、この「父親たちの星条旗」もB級映画なのかと問い詰められれば、残念ながら、「そうだ」と主張するほどの自信はありませんが、少なくともこの作品に込められた精神は、あらゆるメジャー的なものからは一線を画し、浮ついた華やかさからは、はっきりと背を向けて作られていると感じられます。

さて、ドミトリクを思い出したとき、実は、同時に思い浮かんだ名作「十字砲火」1947を素通りして、迷走した思いは日活作品「死の十字路」に落ち着きました。

その理由は、単に「最近観た」というだけの、タイトルが似通っていたというそれだけのことだったのですが、しかし意外にも、これがなかなかに見応えのある作品でした。

それに、この作品が江戸川乱歩の結構有名な探偵小説であることも初めて知りました(「推理ミステリー」という言い方は清張以後で、それまでは「探偵小説」というのだと聞いたことがあります)。

不倫の隠れ家に踏み込んできた逆上した妻を、はずみで殺してしまった男が、犯行を隠そうと必死に足掻きながら次第に追い詰められていくというストーリー展開を持つこの映画、主演が三國連太郎と新珠三千代ということから、観ていくうちにこの傑出した名優たちが後に演技を開花させた作品、「飢餓海峡」と「女の中にいる他人」を彷彿とさせないわけにはいきません(このシチュエーションから、多くの人が同じ連想を持ったらしいことを、あとになってネットで知りました)。

しかし、あれらの作品と、この「死の十字路」という作品が決定的に異なる部分は、描写の深度というかシリアスさの度合いにあると思います。

そして、もし観客が、深刻であるのなら芸術作品で、軽妙だったらB級作品にすぎないという偏見に囚われていなければ、この作品は、もっと自由な気持ちで鑑賞を楽しめる作品だと思います。

死体処理に右往左往しているうちに、いつの間にかもうひとつ死体が増えており、しかし、いまは自分が殺した死体の隠蔽処理に懸命になって動揺しまくっている男が、その不条理に驚くのはほんの一瞬、それならそれでと、目の前のもうひとつの現実をすべて受け入れ、あれこれ迷うこともなく二体纏めて処理してしまおうという破滅に転がり落ちていく負の疾走感の心地よさのなかで、事件に関わるすべてのものを死に至らしめるこの作品の爽快感は、「死体」を弄ぶ密かな嗜好を秘めたヒッチコック作品「ハリーの災難」1956の気品に匹敵するのではないかとさえ思いました。

これらの描き方は、あきらかに、「飢餓海峡」や「女の中にいる他人」とは、別の次元で語られなければならない映画であり演技だという気がします。

それに、芦川いずみの兄・大坂志郎を殴り倒し、死の直接的な原因をつくったフィアンセ・三島耕の罪はいったいどうなるのだという気掛りが残ってしまうあたりも、いかにもB級映画らしい手落ちさ加減でとても素敵です。

一切の罪を、死んだ三國連太郎に押し付けて、口をぬぐってまんまと芦川いずみと結婚しようとしているフィアンセ・三島耕こそ、腹の中で舌を出しているに違いないとんでもない「ワル」に見えてきました。

(1956日活)監督・井上梅次、製作・柳川武夫、原作・江戸川乱歩、脚色・渡辺剣次、撮影・伊藤武夫、音楽・佐藤勝、美術・中村公彦、録音・福島信雅、照明・吉田協佐、編集・鈴木晄
出演・三國連太郎、新珠三千代、山岡久乃、芦川いずみ、大坂志郎、澤村国太郎、三島耕、藤代鮎子、多摩桂子、安部徹、永島明、小林重四郎、澤村國太郎、山田禅二、東谷暎子、福田トヨ、鈴村益代、小柴隆、峰三平、山村邦子、星野昌子、三島謙、光沢でんすけ、美川洋一郎、鴨田喜由、
1956.03.14 10巻 2,751m 白黒
by sentence2307 | 2008-08-25 10:21 | 井上梅次 | Comments(133)