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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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カテゴリ:五社英雄( 1 )

人斬り

誰もが同じことをいうと思うのですが、岡田以蔵のイメージといえば、やはりショーケンの演技が強烈すぎて、勝新の以蔵を受け入れるのに少し苦労したということはあります。

というのも、印象として、なんとなく、ショーケンの以蔵があって、勝新の以蔵が続いてあるような気がしていたので、この時系列の錯覚は、やはりあの以蔵を演じたショーケンの演技が、いかに傑出していたかということの証しなのだと思います。

検索で改めて確かめました。

なるほどなるほど、NHKの大河ドラマ「勝海舟」でショーケンが以蔵を演じたのが1974年ですか、へえ~、それにしても、あれからもう39年も経つんですよね、いや、これは驚きです。物凄いショックです。

しかも、この「人斬り」のあとにショーケンの以蔵が演じられたのだとすれば、現在においても賞賛に値する演技の革新といわなければならないでしょう。

あの「以蔵」を見たとき、あまりに孤独すぎる青年が誰かに褒められたくて、それに役に立つことが嬉しくて、夢中になって人を斬るという孤独で悲しい論理が無理なく素直に受け入れることができました。

若さの切なさと狂気が一人の人間の中に矛盾なく同居していることが心から納得できました。

以蔵が勝海舟に「わしゃあ、先生が好きじゃきに」と告げる痛切な場面も忘れることができません。

自分の中には、「灰とダイヤモンド」の青年テロリストと同じ比重で現在も記憶されつづけています。

愚直さがいつの間にか、政治的に利用され、そのことに気がつき、その報復として怒りをもって同士を密告するという「史実」は、政治状況に翻弄される人間を将棋の駒のように動かして想定した、あくまでも仮定の物語でしかないように思えてしかたありません。

確かに「そう」なのかもしれませんが、人間には「心」がある、ということをショーケンの以蔵は、教えてくれたような気がします。

そんなふうなことを考えながら、この映画を見ているうちに、後半部分で面白い場面に遭遇しました。

武市半平太の命令によって姉小路公知を斬ったあと、武市の人斬り犬として生きるしかないことを思い知った以蔵は失望し、酒に溺れ鬱々と寝込んでいた女郎屋で、京都市中見廻組役人の浪人狩りによって捕縛され、六角牢投獄される場面です。

以蔵は、いまに土佐藩の仲間が迎えに来てくれるはずと待っています。

そこに現れたのが、意外にも仲代達矢演じる武市半平太。

「先生」と呼びかける以蔵に答えもせずに、ただじっと見ている。

田中邦衛演じる牢番の役人が
「この者が岡田以蔵であるのかないのか、はっきりとお答え願おう」
といいます。

半平太
「ほう、拙者の顔や名前まで。偽物としては芝居のうまい奴だな」

牢番の役人は重ねて言います。
「武市半平太どのにお伺いする。この者は、かまえて・・・」
と言い掛けるところを遮って

「違う! 岡田以蔵ではない。岡田以蔵の名前を騙る偽物だ。このような者は、土佐藩にはおらん。岡田以蔵は天下に名の聞こえた剣客。正体もなく酔い潰れ、あまつさえ遊廓へなど登楼、そのうえ司直の者と争い易々と捕えられる、そのような不心得者ではないわ。このような者、武市半平太、これまでに会ったことも見たこともない。土佐の岡田以蔵の名前を騙る偽物だ。」

このように武市半平太に拒否され見捨てられたことによって、岡田以蔵の運命は、一気に破滅に向かって突き進むことになるのですが、仲代達矢が勝新太郎を「偽物!」と罵倒するこの場面から、一挙に黒澤明の「影武者」をめぐる一連の騒動を思い出してしまい、ちょっと複雑な思いに駆られました。

ひとことであの「影武者」騒動を言いつくしてしまうとすれば、なにをやってもぱっとせず、次第に日本国内の居場所がなくなりかけていた黒澤明が、当時、滅法元気のいい勝新を起用して「影武者」を企画します。

世界の黒澤から声が掛ったので勝新も大喜び。

初顔合わせは、双方映画の話で盛り上がって意気投合、やがて資金繰りを海外に仰いでようやく撮影に漕ぎ着けたというとき、自分の演技をビデオで確認したいという勝新に、黒澤明は「監督は、ひとりいれば十分だ」と怒って決裂します。

しかし、撮影期間延長を認めない海外投資家から契約履行の遵守を強硬に迫られ、日本でなら我儘を言えた黒澤明も、結局、勝新の説得に時間が割けず、やむなく仲代達矢に依頼したというわけ。

しかし、仲代達矢も当時勝新と親交があり、黒澤側の申し入れを再三断ったものの、仲代としても黒澤明には恩があり、むげに断り続けることもできず、やむなく引き受けざるを得なかったという経緯が「勝新太郎自伝・偶然完全」に詳細に書かれています。

その本の第7章のタイトルは、「仲代とは終わったな」でした。

1979年7月、「影武者」の代役に決まった仲代達矢が黒澤明とともに記者会見に臨んだときの彼の顔は、引き攣った泣き笑いのようになっていました。

映画「人斬り」でならともかく、この記者会見の場面においてなら、こんどは逆に勝新太郎の方が仲代達矢に向かって「偽物!」とでも罵倒するところでしょうか。

(1969勝プロ・フジテレビ、大映)製作・村上七郎、法亢堯次、監督・五社英雄、脚本・橋本忍、原作参考・司馬遼太郎「人斬り以蔵」、撮影・森田富士郎、音楽・佐藤勝、美術・西岡善信、編集・菅沼完二、谷口登司夫、照明・美間博、録音・大角正夫、スチール・小山田幸生、助監督・土井茂
出演・勝新太郎(岡田以蔵)、仲代達矢(武市半平太)、三島由紀夫(田中新兵衛)、石原裕次郎(坂本竜馬)、倍賞美津子(おみの)、新条多久美(姉小路綾姫)、仲谷昇(姉小路公知)、下元勉(松田治之助)、山本圭(皆川一郎)、伊藤孝雄(天野透)、賀原夏子(おたき)、田中邦衛(六角牢の役人)、山内明(勝海舟)、清水彰(井上佐一郎)、郡司良平(平松外記)、東大二郎(両替屋の番頭)、宮本曠二郎(渡辺金三郎)、伊吹総太朗(本間精一郎)、藤森達雄(北崎進)、黒木現(工藤)、中谷一郎(京都所司代与力)、伊達岳志(京都市中見廻組役人)、青木義朗(横川帯刀)、波多野憲(久坂玄瑞)、福山錬(宮部鼎蔵)、新田昌玄(伊知地三左衛門)、萩本欽一(牢名主)、坂上二郎(熊髭)、辰巳柳太郎(吉田東洋)
by sentence2307 | 2013-01-27 17:53 | 五社英雄 | Comments(63)