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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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カテゴリ:ベント・ハーメル( 1 )

去年の暮れに国立映画アーカイブでスウェーデン映画特集上映があって、そのことをブログに書いて以来、なんだか最近、自分的には北欧映画づいているのかもしれないなと思い始めています。

たまたまかもしれませんが、前回ブログに書いた「365日のシンプルライフ」2013という作品もフィンランド映画でしたし、「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」2017や「女神の見えざる手」2016に主演したジェシカ・チャスティン(どちらの作品も同一人物が演じたとは思えない素晴らしい演技でした)などは明らかに北欧系の美女ですよね。

また、自分が大好きな「gifted/ギフテッド」2017に主演した天才子役マッケナ・グレイスにも北欧系美女の雰囲気を感じましたし。作品自体も自分のタイプとしてこうした「天才もの」映画が大好きなので、この「gifted/ギフテッド」も1週のうちに2度も立て続けに見てしまった映画でした。同じ映画を週に2度見るなんて異例なことで、実に久しぶりの出来事でした。

そうそう、つい一昨日見たばかりのアレキサンダー・ペイン監督の「ダウンサイズ」2017にも、後半に出てくるコロニーのシーンにはノルウェーの美しいフィヨルドの風景が映し出されていて、その美しさには思わず目を見張りました。

「北欧か、実にいいよなあ」って感じです。

でもこれは、夢みたいな憧れにすぎず、たぶん北欧旅行なんか自分には到底実現不可能な話だと思うので、せめて旅行会社の案内チラシを眺めるくらいで気を紛らわしている始末です、その観光チラシには、代表的な5つのフィヨルドとして、ガイランゲルフィヨルド、ノールフィヨルド、ソグネフィヨルド、ハダンゲルフィヨルド、そしてリーセフィヨルドが紹介されています。

さらに解説には、2005年にガイランゲルフィヨルドと、ソグネフィヨルドの支流、ネーロイフィヨルドが世界遺産に登録されたと記されていました。

手元にある「世界遺産事典」の「西ノルウェーのフィヨルド ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド」の項に、こんな説明がありました。

≪西ノルウェーのフィヨルド、ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルドは、ノルウェーの西部、海岸線が複雑に入り組んだ美しいフィヨルド地帯。フィヨルドとは、陸地の奥深く入り込み、両岸が急傾斜し、横断面が一般にU字形をなす入江で、氷河谷が沈水したものである。ガイランゲルフィヨルドは、オーレスンの東にあるS字形をしたフィヨルドで、ノルウェーの文学者ビョーンスティヤーネ・ビョーンソンが「ガイランゲルに牧師はいらない。フィヨルドが神の言葉を語るから」と言ったことで有名なフィヨルドでノルウェー四大フィヨルド(ソグネフィヨルド、ガイランゲルフィヨルド、リーセフィヨルド、ハダンゲルフィヨルド)のひとつである。ネーロイフィヨルドは、ベルゲンの北にある全長205km、世界最長・最深のフィヨルドであるソグネフィヨルドの最深部アウランフィヨルドとともに枝分かれした細い先端部分にあるヨーロッパでもっとも狭いフィヨルドである≫

なるほどね、このまま読みふけっていると、ますます「北欧行きたい」が募って遣り切れなくなるので、ここでちょっと話を映画「gifted/ギフテッド」に戻しますね。

自分が「天才もの」映画にたまらない魅力を感じるのは、例えば「gifted/ギフテッド」でいえば、こんな場面です。

孫メアリー(マッケナ・グレイス)が数学にずば抜けた能力を持っていることを知った祖母(リンゼイ・ダンカン)は彼女を大学に連れていき、旧知の教授の前でその能力を証明しようという場面、メアリーは黒板に書かれた膨大な数式の問題を前にして、ずっと考えていますが、ついに「解けない」と大人たちに伝えます。

帰り道で、祖母は「いくらなんでも子供にあんな難しい問題を出すなんてね」と、がっかりしているに違いないメアリーを思いやって慰めます。

しかし、メアリーは、こう言います「問題が間違っているんだもの、答えられないよ」と。

その言葉を聞いて驚いた祖母は、取って返して、もう一度、メアリーを黒板の前に立たせます。メアリーは、問題の誤記をひとつひとつ修正してから、その問題をなんなく解いてしまいます。

その天才ぶりを目の当たりにした教授は、メアリーに問います、「なんでさっき、問題に誤記があることを言わなかったのか」と。

メアリーは答えます、「目上の者の誤りを正して不快な思いをさせるな、そんな生意気なことをしたら、世間に受け入れてもらえないぞ、と同居している叔父のフランクからいつも言われている」と。

思えば、映画「アマデウス」も、俗世間のなかでは天才が天才として生きていくことの困難を描いた映画でしたよね。モーツァルトは、天性の無邪気さで俗世のなかで生きていこうとしますが、その「無邪気さ」は徹底的に世間から利用され、その「才能」までも食いつぶされて破滅に追い込まれる。しかも、それは、モーツァルトの天才(努力しないでも、出来てしまえること)を見抜き理解したただひとりの人物、凡庸なる同業者サリエリの嫉妬と怯えによって仕掛けられた罠にはめられたという皮肉な映画でした。

映画「gifted/ギフテッド」においては、「世間知」を欠落させた天才ゆえの不幸(自殺したメアリーの母親)が、このストーリーの前提となっていて、そういうイキサツで姉を失った弟フランクは、姪のメアリーにだけはそんな人生を送らせたくないと考えています。

しかし、この映画を見ていると、俗世に晒して傑出した才能をむざむざ埋もれさせたくないと歯噛みする祖母の気持ちも、なんだか理解できるような気がします、メアリー自身、年相応の幼稚な学校の授業に無理やり押し込められ、うんざりして机に突っ伏している場面だってありましたし。自分にもこの「机に突っ伏す」という記憶なら、あるにはあります、まあ自分の場合は、授業についていけなかったので、なんかこの・・・。

天才が俗世に埋もれてしまう悲惨を描いたのが「アマデウス」だとしたら、「gifted/ギフテッド」は、凡人とした俗世に生きる気楽さを奪われて「特別な人間」として常に結果を求められる極限状態に身を晒すことを強要され、心身ともにボロボロになることが、「それって人間としてどうなのよ」と疑問を投げかけた作品なのだなと理解したのですが、そうそう、「天才もの」映画といえば自分の好きな作品がもう1本ありました。

ガス・ヴァン・サント監督、マット・デイモン主演の「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」です。この作品は、逆に、世俗にまみれ悪環境に埋もれている「天才」をすくい上げるという作品でした、こう考えていくと、天才といってもいろいろだなあと思います。とにかく、いずれにしても自分にとっては、はるか遠い無縁の世界(なにしろ当方は、何十年も机に突っ伏しつづけていて、いまだに顔をあげるタイミングさえつかめていません)のことなので、夢物語を楽しむ以上の実感は湧いてきません(結論って、それだけかい!)。

ここまできて自分が何について書いているのか、だんだん分からなくなってきましたので、最初に立ちかえって読み返してみました、なるほどね、「北欧、実にいいよなあ」あたりから、どんどんズレまくっているじゃないですか、そうだ、そうだ、この小文のタイトルは≪「卵の番人」の謎は「キッチン・ストーリー」で解け!≫なんでしたよね、ちょっと修正させてください。

ベント・ハーメル監督「卵の番人」1995は、年老いた兄弟の物語で、ストーリーはひとことで言えてしまうシンプルなもの(老いた兄弟のもとに兄の隠し子がやってきて平穏な生活が乱され、弟がひっそりと家を出ていく)なのに、いかにも北欧の監督作品らしい、幾分悲し気な、ゆったりとした時間の流れる映像に身を任せ浸り溶け込んで、時間などすっかり忘れてじっくり見入ってしまう魅力的な映画です。

途中から老兄弟の生活に加わる兄の隠し子というのが、ベルイマンの「第七の封印」で悪魔を演じていたあの俳優ではないかと錯覚してしまうくらいの険しい表情のつるっぱげの不気味な巨人、それでなくとも夜中に目をギラギラ見開いて奇声を発するというこの薄気味悪いキャラクターが、この映画の理解を一層困難なものにしていて、さらに加えて、ベント・ハーメル監督の一切説明的な説明をしないという撮り方もあり、映画を見たあとでも、実際には各人の中ではまだ「映画」は完結しておらず、尾を引いていて、その後もあれこれと考えることを強いる奇妙な作品ということができるかもしれません。

その最大の不可解さは、ラストシーンで弟・モーが夜中にひっそりと家を出ていくその理由というのが「なぜなんだ」「分からない」といったネット上での感想の氾濫とさまざまな憶測がアップされていることから見ても分かります。

あえて言えば、兄のファーが隠し子コンラードの入浴の世話をしているスキを狙って、コンラードの部屋に忍び入り、卵の蒐集箱の卵をいじりまわしたり、メモを読み漁ったり(その気配をコンラードもリアルタイムで察知しているかのような微妙な目つきを捉えた不気味な描写もあります)、そのあとで兄ファーから「コンラードの物を触ったろう! コンラードが動揺しているぞ」と弟モーが厳しく非難されるという場面が、あるいはこのラストの謎を解く唯一ヒントなりうるシーンかもしれません。

つまり、弟としてみれば、いままで兄から曲がりなりにも払われていた「敬意」が、この瞬間に崩れ消滅したと感じ、弟は家を出ることになったのだという見解です。家を出ていく弟モーを窓からじっとうかがうコンラードの気配も、その線でドラマに奥行きを持たせたものと解釈することもできます。

などと考えていたとき、引き続いて同じベント・ハーメル監督の「キッチン・ストーリー」2002を見ました。

この作品の解説にはこうありました。

≪1950年代にスウェーデンで実際に行われたという「独身男性の台所での行動パターン調査」をヒントに、調査員と調査対象者となった2人の中年男性の交流をユーモラスに綴ったコメディ≫なのだそうです。

つまり、独身老人の家におのおの調査員が配属され、台所における調査対象者の一日の動線を調査しようという奇妙なものなのですが、部屋の隅に頭が天井に届くくらいの背の高い椅子に腰かけて一日中無言で被験者をじっと見続けるというのも、設定からしてとにかく笑わせます。

最初は、気難しい被検者の老人は心を開かず無視無言の態度をとっていますが、調査員が無断で塩を借りたことから徐々に打ち解けあって親交を深めるというストーリーで、あまりに近づきすぎて、誕生祝の飲酒が規則違反だと上司から咎められ、調査員が失職してしまうというストーリーです。上司に密告したのが、それまで被検者の老人と親交のあった友人グランドで、酒盛りの翌朝早く上司を同乗させ、上司に現場を急襲させています。

このシーンを見ながら、あの設題≪「卵の番人」の謎は「キッチン・ストーリー」で解け!≫の回答もまた、やっぱ「嫉妬だ」という気がしました。

そう思いながらも、しかし、この映画でやはり見逃してはならないのは、ノルウェーにとっての、スウェーデンという国の位置づけなのではないのかな、という思いがありました。

極東の島国でのんきに暮らす日本人には、ノルウェーにとっての、スウェーデンという国の位置づけ(歴史的にも)というのが、いまひとつ分からないのですが、この映画からは、ノルウェーにとってのスウェーデンは、なんだか偉そうにしているような煙たい違和感のある国という印象がありますよね、右側通行とか左側通行とか。もしかしたら、国境を接する近しい国だけにそれなりのイザコザもあったでしょうから、そこには微妙な違和感もあって、その分、鬱陶しく感じる部分もあるのかもしれませんね。そんな気がしました。


★卵の番人
(1995ノルウェー)監督・ベント・ハーメル、脚本・ベント・ハーメル、製作・フィン・イェンドルム、撮影・エリック・ポッペ、美術・ジャック・ヴァン・ドンバーグ、編集・スタッフィ・グドマンソン、衣装デザイン・ライラ・ホルム、
出演・スベレ・ハンセン、ヒエル・ストルモーン、レーフ・アンドレ、トロンド・ホヴィック、レイフ・マルンバーグ、アルフ・コンラッド・オルセン、ウルフ・ベンガール

★キッチン・ストーリー
(2002ノルウェー・スウェーデン)監督・ベント・ハーメル、脚本・ベント・ハーメル、ヨルゲン・ベリマルク、製作・ベント・ハーメル、ヨルゲン・ベリマルク、撮影・フィリップ・オガールド、音楽・ハンス・マティーセン
出演・ヨアキム・カルメイヤー、トーマス・ノールシュトローム、ビョルン・フロベリー、リーネ・ブリュノルフソン、スブレエ・アンケル・オウズダル、レーフ・アンドレ



by sentence2307 | 2019-01-04 12:15 | ベント・ハーメル | Comments(0)