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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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カテゴリ:稲垣浩( 5 )

戦国無頼

この映画についての感想のなかに、こんなコメントがありました。

もし、この作品を、脚本の共同執筆者・黒澤明が監督していたら、後世に残る傑作になったのではないか、というのです。

結構僕自身も、その手の妄想をあれこれ楽しむ方なので、この着眼は、物凄く面白いと思いました。

しかし、問題は、そうした妄想を抱くに至らせた動機の方にあるかもしれません。

この作品が、見る者の期待を十分に満たしていれば、その堂々とした存在感が、観客にそのような妄想を抱かせることなど、きっと許さなかったに違いない。

この作品を見て、「これを黒澤明が監督していたら・・・」という逸脱した感想を生じさせた背景には、本来この作品が持たねばならなかった風格を遂に持ち得なかったからだったと思います。

では、その「観客が期待した風格」とは、どういうものだったのかといえば、稲垣浩の繊細なリリシズムと、黒澤明的な豪快なダイナミズムであり、しかし、実際のところは両者の特質を共に生かし切れず、却って殺し合ってしまったという惨憺たる結果に終わったからではないでしょうか。

この印象は、黒澤明が脚本を提供して、他の監督が演出するというケースに共通して言えるように思います。

そして、その印象は、この映画が封切られた当時においても一般的な評価だったらしく、田中純一郎著「日本映画発達史Ⅳ」の「第65節 東宝の黒澤、巨弾連発」には、「戦国無頼」の評価の箇所に
「戦国時代の三人三様の武士を中心とする大作だが、山口のミスキャストが目立つ。興行はヒット。」
と記されていて、この物語において「三人三様の武士」を横糸で結び合わせる役柄を担った重要なキー・ウーマン・おりょう(山口淑子が演じています)の解釈と扱いに関する両巨匠の認識の差が、そのまま作品の出来に反映してしまったのではないかという趣旨に読み取れます。

スクリーンに映し出される山口淑子の美しさに魅了されながらも、彼女の奇妙なイントネーションが気になりました、黒澤明なら、そんな余計なことでストーリーを辿っている観客の印象の流れを途切らせるような、そうした「支障」は絶対に許さなかっただろうなと感じました。

しかし、逆に言えば、その奇妙なイントネーションとぎこちない所作は、三船敏郎演じる疾風之介を一途に慕う「おりょう=山口淑子」の娘心を、かえって観客に強烈に印象づけたともいえます。

人を慕い、恋焦がれ、一緒になりたいと願う娘の切実な気持が、その男の前で、イントネーションを無様に乱し、恥じらいから所作を一層ぎこちなくさせることの方が、むしろ納得しやすい。

恋する男の前で揺れ惑う繊細な娘心の活写に演出の思いを致すのか、それとも戦乱の世の中に翻弄され斃れていった男たちの生と死の虚しさを豪快に描くべきだったのか、稲垣浩と黒澤明という大いに異なるふたりの映像作家の特質が、まさにぶつかり合った部分が、あの奇妙なラストシーンに象徴されたのかもしれません。

おりょうが、疾風之介の加乃への思いを知り、ふたりのために崖から身を投げ、自ら死をもって身を引くという悲惨な結末に、ある唐突さをどうしても感じてしまうのは、疾風之介がただボケーと突っ立っているだけで、加乃とおりょうの間で戸惑う葛藤が描かれていないからかもしれません。

おりょうの気持ちをどうしても受け止めることができない疾風之介の加乃への思いが十分に描き切れていなければ、おりょうの自殺は、単なる失恋したヒステリー女のあて付け自殺みたいでしかなく、しかも、この惨憺たる不徹底さは、あえて言うまでもなく、この両巨匠の特質とは遥かに隔たったものでしかないことを思うと残念でなりません。

(1952東宝)監督脚本・稲垣浩、製作・田中友幸、原作・井上靖、脚本・黒澤明、撮影・飯村正、音楽・団伊玖磨、美術・北猛夫、録音・亀山正二、照明・西川鶴三、編集・宮本信太郎
出演:三船敏郎、市川段四郎、三國連太郎、山口淑子、浅茅しのぶ、香川良介、東野英治郎、志村喬、小杉義男、青山杉作、三好栄子、香川良介、高堂国典、上田吉二郎、田武謙三、谷晃、小宮一晃、杉寛、堀内永三郎、長浜藤夫、広瀬嘉子、北川好子
1952.05.22 14巻 3,692m 135分 白黒
by sentence2307 | 2008-07-13 11:17 | 稲垣浩 | Comments(790)

海を渡る祭礼

「宮本武蔵」の連作で意気軒昂だった稲垣浩監督が、5年ぶりに三村伸太郎のオリジナル脚本に正対した意欲作で、小津の「戸田家の兄妹」が第1位に選ばれた昭和16年度の日本映画雑誌協会映画賞で第8位となった作品です。

稲垣浩としては、同じ年に「江戸最後の日」も第5位にランクされました。

ある港町におうた(市川春代)という美人の女中がいる朝乃屋という旅館に、年に一度の祭のかき入れ時、芸人や香具師たちがやって来て泊まります。

おうたは居合い抜きの浪人・小布施羊太郎(戸上城太郎)に心惹かれますが、祭の前日、境内での地割が決まったとき、突然やって来た馬芸の一団が強引に縄張りをしたことから事態が紛糾し始めます。

しかも、おうたの美貌に目をつけた馬芸の親分の虎鉄が、羊太郎の身柄を渡さないと祭をつぶすと脅しをかけてきたことで、一度は無法一味を懲らしめた羊太郎が、皆のために自ら犠牲になって呼び出しに応えるかたちで連れ去られ、再びその姿を現すことはなかったというストーリー展開の中に、港町の祭礼を荒らす無頼な馬芸の無頼漢たちや、彼らに立ち向かう浪人、そして、その浪人を慕う宿の女中のほか、ガマの油売り、猿回し、祭文語りやら鼠捕りまで市井に生きる貧しい庶民が連帯する人間模様を巧みな話術と躍動するような描写で活き活きと描かれていました。

しかし、残念ながらロシアから返還されたフィルムでは欠落している部分、公開時全長92分の25%弱しかないこのフィルムからでも、遠方から近づいてくる馬の群れや、宿の屋根瓦の上で廻る風力計、浜辺に躍る神輿などのカットを見ただけでも、これが傑出した作品であることを十分にうかがわせます。

戦争の影を感じずにはおられない作品全体を覆う三村伸太郎の脚本のペシニズムは、稲垣浩の叙情性に満ちた演出とともに、鳴滝組のメンバーとして、国策の声が喧しくなったこの頃においても、鳴滝組の才気を十分に伝えている作品に仕上がっています。

いわゆる「グランド・ホテル形式」で、特にこれという主演者がいるわけではありませんが、志村喬、上田吉二郎、そして「出世太閤記」と「海援隊」、およびこの作品が彼女の女優としてのピークだったという評価もある市川春代などの熱演とともに、居合い抜きのニヒルな浪人を演じた戸上城太郎が新人として注目されました。

戸上城太郎は、やや訛りが強くセリフに難があると言われながらも、戦後も長く稲垣作品に重用されたことはよく知られています。

監督の稲垣浩も「宮本武蔵」4部作の合間に手掛けたとは言え、この「海を渡る祭礼」は、既に傑作時代劇のなかに列せられている作品です。

(1941日活京都) 監督・稲垣浩、脚本・三村伸太郎、撮影・石本秀雄、音楽・西梧郎、録音・佐々木稔郎
出演・市川春代、月宮乙女、戸上城太郎、香川良介、志村喬、上田吉二郎、深水藤子、大倉千代子、衣笠淳子、滝のぼる、市川小文治、遠山満、尾上華丈、団徳麿、村田宏寿、石川秀道、瀬戸一司、仁札功太郎、春日清、浮田勝三郎、市川左正、岬玄太郎、大崎史郎、志茂山剛、楠英三郎、小林三夫、小池柳星
1941.05.04 富士館 9巻 2,527m 92分 白黒 (現存部分24分・35mm)
by sentence2307 | 2007-01-16 21:39 | 稲垣浩 | Comments(1)
【血煙高田馬場(決闘高田の馬場)】[再公開版]
だらしない浪人暮らしの安兵衛が、不良侍たちにからまれた叔父(香川)の助太刀で決闘に臨むことに…。阪妻が高田馬場へと駆けつける、疾走の表現が素晴らしい。マキノ監督の躍動性と稲垣の伸び伸びとした演出が合体した痛快な一本。
(37日活京都) (監督)稲垣浩、(共同監督)マキノ正博(原作脚本)牧陶三(撮影)三井六三郎、石本秀雄(音楽)高橋半
(出演)阪東妻三郎、市川百々之助、原駒子、伊庭駿三郎、志村喬、大倉千代子、香川良介、小松みどり、市川正二郎、藤川三之祐、瀬川路三郎
(51分・35mm・白黒)

【忠臣蔵 花の巻 雪の巻】 
幾度となく映画化されてきた赤穂浪士の仇討譚のうち、これは東宝創立30周年を記念した大作で、年間興収第8位のヒットとなった(製作の背景には、前年に松本幸四郎一派が松竹から東宝に移籍、長谷川一夫を主体とした東宝歌舞伎に参加するようになり、現代劇が主流の東宝に時代劇のできる俳優が揃ったこともある)。「当選者には家一軒!」とされる配役当ての懸賞募集が行なわれるなど、社をあげての事前宣伝の末、発表された主役大石の役はトップスター三船敏郎ではなく、幸四郎その人であった等、今に伝えられる挿話、伝説も少なくない(三船は黒澤作品『天国と地獄』に忙しく、俵星玄藩役に廻った)。四十七士に関する綿密な考証に基づく脚本作り、贅を尽くし時間をかけた美術と撮影によって、それまでにないリアルな忠臣蔵となった。原節子の引退作でもある。
(62東宝) (監督)稲垣浩、(脚本)八住利雄(撮影)山田一夫(美術)伊藤熹朔、植田寛(音楽)伊福部昭
(出演)松本幸四郎、三船敏郎、加山雄三、三橋達也、宝田明、夏木陽介、佐藤允、髙島忠夫、河津清三郎、志村喬、市川中車、加東大介、小林桂樹、池部良、原節子、司葉子、団令子、星由里子、白川由美、水野久美、浜美枝、田村奈己、藤山陽子、池内淳子、淡路恵子、小泉博、森繁久弥、草笛光子、新珠三千代、フランキー堺、三木のり平、柳家金語楼
(117分と90分・35mm・カラー)

【どぶろくの辰】
新宿ムーランルージュの中江良夫の同名戯曲は、作者自身の脚色で1949年に田坂具隆の戦後復帰第1作として映画化された。この再映画化作品では八住と井手の脚色によって、道路工事の飯場を舞台に、荒くれ男の武骨な恋と友情、心意気が描かれている。
(62東宝)(監督)稲垣浩、(原作)中江良夫(脚本)井手雅人、八住利雄(撮影)山田一夫(美術)植田寛(音楽)石井歓
(出演)三船敏郎、三橋達也、淡島千景、池内淳子、有島一郎、田崎潤、土屋嘉男、田島義文、香川良介、中北千枝子、中島そのみ、小杉義男、野村浩三、堺左千夫、山本廉、大木正司、谷晃、清川荘司
(115分・35mm・カラー)

【手をつなぐ子等】
時代劇に名声を確立した稲垣は、一方で子どもたちの世界を愛情深く描いた一連の秀作を残した。伊丹万作の遺稿を採り上げた本作は、一人の障害児教育の現場を扱ったもので、いじめの問題も生々しく描かれる一方、結末の相撲大会のシーンは爽やかな印象を残す。
(48大映京都) (監督)稲垣浩、(原作)田村一二(脚本)伊丹万作(撮影)宮川一夫(美術)角井平吉(音楽)大木正夫
(出演)笠智衆、初山たかし、香川良介、杉村春子、徳川夢聲、泉田行夫、村田宏壽、島村イツマ、宮田二郎、常盤操子、伊達三郎、葉山富之輔、牧龍介、小田切ふみ子
(86分・35mm・白黒)

【東海水滸伝】
前線慰問用に作られた伊藤大輔との共同作品。終戦の直前(1945年7月)に公開されたが、製作本数が制限されたこの時期、監督だけでなく撮影陣やスターもかえって豪華な顔ぶれになった。阪妻が清水次郎長、千恵蔵が森の石松に扮するおなじみの物語。
(45大映京都) (監督)稲垣浩、(共同監督)伊藤大輔(脚本)八尋不二(撮影)石本秀雄、宮川一夫(美術)角井平吉(音楽)西梧郎
(出演)阪東妻三郎、片岡千恵蔵、市川右太衛門、逢初夢子、花柳小菊、市川春代、遠山満、寺島貢、深水藤子、香川良介、原聖四郎、光岡龍三郎、島田照夫、水野浩、藤原鶏太
(77分・35mm・白黒)

【独眼龍政宗】
石坂洋次郎の「小さな独裁者」をもとに、戦国末期の奥州に現れた剛毅な武将、伊達政宗の若き日を描いた壮大な戦国絵巻。設立間もない大映の第5作目で、大群衆と騎馬隊が織りなす荒々しい戦闘シーンが見所になっている。
(42大映京都) (監督)稲垣浩、(原作)石坂洋次郎(脚本)稲垣浩(撮影)石本秀雄(音楽)西梧郎
(出演)片岡千恵蔵、月形龍之介、高山徳右衛門、市川春代、戸上城太郎、水島道太郎、国分みさを、常盤操子、荒木忍、香川良介、尾上華丈、上田吉二郎、東良之助、光岡龍三郎、原聖四郎、遠山満、大国一公
(83分・35mm・白黒)

【日本誕生】
「東宝映画1000本製作記念映画」と銘打たれたこの作品は、名プロテューサー森岩雄が「週刊新潮」を通じて企画を求めたものと言われる。日本の神話に題材を得た映画で、その年の興行成績で2位の『隠し砦の三悪人』の約2倍の数字を示す1位となった。
(59東宝) (監督)稲垣浩、(脚本)八住利雄、菊島隆三(撮影)山田一夫(美術)伊藤熹朔、植田寛(音楽)伊福部昭(特技監督)円谷英二
(出演)三船敏郎、鶴田浩二、原節子、司葉子、水野久美、上原美佐、香川京子、田中絹代、乙羽信子、杉村春子、久保明、宝田明、小林桂樹、加東大介、三木のり平、有島一郎、柳家金語楼、榎本健一、朝汐太郎、中村鴈治郎、東野英治郎、平田昭彦、志村喬
(124分・35mm・カラー)

【秘剣】
同名の短篇小説を映画化したこの作品は、完成された剣聖と未完の天才との剣を交えぬ戦いを通じて、武士社会を生きる若者の苦悩と情熱を描いた異色の時代劇。武蔵と若者による二者二様の畳切りや、ラストの若き二剣士の苦悩の対決などが圧巻である。
(63東宝) (監督)稲垣浩、(原作)五味康祐(脚本)木村武、稲垣浩(撮影)山田一夫(美術)植田寛(音楽)石井歓
(出演)市川染五郎、長門裕之、月形龍之介、池内淳子、中川ゆき、田村奈己、清水将夫、香川良介、左卜全、三井弘次、中谷一郎、児玉清、山本廉、藤田進、田崎潤、田島義文、土屋嘉男、伊吹徹、天本英世
(108分・35mm・白黒)

【風林火山】 
映画産業の衰退で時代劇が作りにくい時期に、稲垣が永年熱望していた原作の映画化を実現した超大作。武田軍の名参謀、山本勘助の波乱万丈の人生を描いた本作は、三船プロにとって前年の石原プロとの共作『黒部の太陽』による大成功に続くもので、3大スター出演の豪華版となった。
(69三船プロ) (監督)稲垣浩、(原作)井上靖(脚本)橋本忍、国弘威雄(撮影)山田一夫(美術)植田寛(音楽)佐藤勝
(出演)三船敏郎、佐久間良子、中村錦之助、石原裕次郎、中村賀津雄、中村梅之助、田村正和、中村勘九郎、緒形拳、大空真弓、春川ますみ、久我美子、中村翫右衛門、月形龍之介、志村喬、南原宏治、平田昭彦、土屋嘉男、香川良介、清水将夫、戸上城太郎
(165分・35mm・カラー)

【風雲千両船】
戦時下で『白蘭の歌』『支那の夜』の大ヒットを放った長谷川一夫・李香蘭(=山口淑子)コンビが、戦後初共演を果たした東宝の20周年記念映画。かつて大砲の砲手だった花火屋・黛三五郎(大谷)が、華僑の手放した船の争奪戦に巻き込まれる青春冒険譚。
(52東宝) (監督)稲垣浩、(原作)村上元三(脚本)三村伸太郎(撮影)安本淳(美術)北猛夫(音楽)深井史郎
(出演)大谷友右衛門、長谷川一夫、山口淑子、市川段四郎、二本柳寛、加東大介、大日方伝、山根寿子、東野英治郎、志村喬、木匠マユリ、小杉義男、小川虎之助、澤村國太郎、澤村貞子、汐見洋
(93分・35mm・白黒)

【ふんどし医者】
御典医になるはずだった蘭医が、ある宿場町で貧しい人のために働くこととなったが、彼に共鳴して結婚した女は無類のバクチ好き…。幕末から明治への新時代を背景に、医者夫婦と庶民の葛藤を微笑ましく描いた作品だが、大スター原節子の役柄に注目。
(60東宝) (監督)稲垣浩、(原作)中野実(脚本)菊島隆三(撮影)山田一夫(美術)中古智(音楽)団伊玖磨
(出演)森繁久弥、原節子、江利チエミ、夏木陽介、志村喬、山村聰、中谷一郎、田島義文、髙原駿雄、八波むと志、田村まゆみ、中北千枝子、十朱久雄、清水元、小杉義男、菅井きん
(116分・35mm・白黒)

【待ち伏せ】
前作の『風林火山』で興行的成功を収めた三船プロが、出演した3大スターに勝新太郎を迎えて製作した娯楽時代劇。ベテラン脚本家チームが徳川幕府の御家潰しの題材を各スターの特性に配慮しつつまとめたもので、65歳の時に発表した稲垣の遺作である。
(70三船プロ) (監督)稲垣浩、(脚)藤木弓(稲垣浩)、小国英雄、高岩肇、宮川一郎(撮影)山田一夫(美術)植田寛(音楽)佐藤勝
(出演)三船敏郎、石原裕次郎、浅丘ルリ子、勝新太郎、中村錦之助、市川中車、有島一郎、北川美佳、土屋嘉男、戸上城太郎、中北千枝子、山崎竜之介、久野征四郎、荒木保夫、田中浩、木村博人
(118分・35mm・カラー)

【宮本武藏 第三部 劍心一路】[不完全]
「宮本武蔵」3部作のうち、小次郎(月形)との巌流島の決闘を含む第3作(第1・2作は現存せず)。日活は、武蔵を慕う娘の役に宝塚歌劇の研究生を抜擢したが、その宮城千賀子という芸名は、彼女を引き抜いた際に身を隠した地(宮城県千賀村)にちなんだという説もある。
(40日活京都) (監督)稲垣浩、(原作)吉川英治(脚本)稲垣浩、槇本宏(撮影)宮川一夫(音楽)西梧郎
(出演)片岡千恵蔵、宮城千賀子、月形龍之介、尾上菊太郎、澤村國太郎、原健作、薄田研二、大倉千代子
(68分・35mm・白黒)

【宮本武藏 一乘寺決鬪】
修業時代の武蔵に照準を当てた先の3部作に続いて、稲垣は本作で、剣術への自信にあふれた青年武蔵が、京都・吉岡剣法の門弟に対して数度にわたる決闘に臨む様を描いた。結末の、一乗寺下り松での吉岡一派の数十人を向こうに回した対決シーンが素晴らしい。
(42日活京都) (監督)稲垣浩、(原作)吉川英治(脚本)稲垣浩(撮影)石本秀雄(美術)角井平吉(音楽)西悟郎
(出演)片岡千惠藏、市川春代、月宮乙女、宮城千賀子、藤川三之祐、香川良介、尾上華丈、志村喬、河部五郎、大國一公、遠山満、上田吉二郎、東明二郎
(88分・35mm・白黒)

☆「宮本武蔵」シリーズ
戦時下の朝日新聞に連載された原作は、剣の道を究める青年武蔵の修業を通じて、文武両道に秀でるための精神修養の大切さを問うたもので、吉川文学の頂点を極めたのみならず「国民文学」としてもてはやされた。幾度となく映画化されてきたが、稲垣自身も1940年に『宮本武蔵』3部作、1942年に『一乘寺決鬪』を発表しており、これが3回目となる。三船の武蔵に相対する小次郎には、当時の二枚目スター鶴田浩二が起用され(第2部)、東宝初出演となった『男性No.1』に続いて三船との共演を果たした。お通役には、これまでも宝塚歌劇出身の新人(轟夕起子、宮城千賀子など)が起用されたが、今回も宝塚出身で入社間もない八千草が抜擢され、一躍スターの座を占めた。稲垣初のカラー作品で、その第1部は米アカデミー外国語映画賞受賞の快挙を遂げた。

①【宮本武蔵】
(54東宝) (監督)稲垣浩、(原作)吉川英治(脚本)北條秀司、若尾德平、稲垣浩(撮影)安本淳(美術)伊藤熹朔、園眞(音楽)團伊玖磨
(出演)三船敏郎、尾上九朗右衛門、三國連太郎、八千草薫、水戸光子、岡田茉莉子、三好榮子、平田昭彦、阿部九州男、小杉義男、加東大介、小澤榮、上山草人、谷晃、如月寛多
(93分・35mm・カラー)

②【續宮本武蔵 一乘寺の決斗】
(55東宝) (監督)稲垣浩、(原作)吉川英治(脚本)北條秀司、若尾德平、稲垣浩(撮影)安本淳(美術)伊藤熹朔、園眞(音楽)團伊玖磨
(出演)三船敏郎、鶴田浩二、岡田茉莉子、八千草薫、木暮実千代、水戸光子、平田昭彦、加東大介、尾上九朗右衛門、堺左千夫、藤木悠、北川町子、三好榮子、東野英治郎、飯田健人
(103分・35mm・カラー)

③【宮本武蔵 完結篇 決鬪巖流島】
(56東宝) (監督)稲垣浩、(原作)吉川英治(脚本)北條秀司、若尾德平、稲垣浩(撮影)山田一夫(美術)伊藤熹朔、植田寛(音楽)團伊玖磨
(出演)鶴田浩二、三船敏郎、八千草薫、瑳峨三智子、岡田茉莉子、志村喬、千秋実、佐々木孝丸、加東大介、田中春男、上田吉二郎、富田仲次郎、髙堂國典、沢村宗之助
(104分・35mm・カラー)

【無法松の一生】
手のつけられない乱暴者の車夫・松五郎が、良家の夫人の優しさに触れて改心し、一家に献身的に尽くす様を阪東妻三郎が屈指の名演で飾った映画史上の名作。お堀に落ちて松五郎に助けられる少年を演じた澤村アキオは、現在の俳優長門裕之。戦後再公開版。
(43大映京都) (監督)稲垣浩、(原作)岩下俊作(脚本)伊丹万作(撮影)宮川一夫(美術)角井平吉(音楽)西梧郎
(出演)阪東妻三郎、月形龍之介、永田靖、園井惠子、川村禾門、澤村アキオ、杉狂兒、山口勇、葛木香一、尾上華丈、小宮一晃、香川良介、小林叶江
(78分・35mm・白黒)

【無法松の一生】
阪妻主演の戦中作『無法松の一生』が、検閲によって未亡人への思慕の念を打ち明ける場面がカットされたため、伊丹万作の名脚本を完全に残そうと三船と高峰コンビによるカラー、シネマスコープ・サイズで再映画化された。ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得した。
(58東宝) (監督)稲垣浩、(原作)岩下俊作(脚本)稲垣浩、伊丹万作(撮影)山田一夫(美術)植田寛(音楽)団伊玖磨
(出演)三船敏郎、芥川比呂志、飯田蝶子、笠智衆、田中春男、多々良純、中村伸郎、宮口精二、中北千枝子、有島一郎、左卜全、高堂国典、土屋嘉男、沢村いき雄、小杉義男、上田吉二郎
(104分・35mm・カラー)

☆「柳生武芸帳」シリーズ
「週刊新潮」連載中に評判を呼び、ベストセラーとなった五味康祐の小説の映画化。時は徳川三代将軍家光の頃、幕府の命運を左右し朝廷の安泰をも脅かすという武芸帳をめぐって、柳生一族と肥前の兵法者・山田浮月斎一派とが壮絶な死闘を演じる痛快時代劇。この武芸帳は柳生家、藪大納言、鍋島藩に一巻ずつ所蔵されていたが、その中の一巻が鍋島藩に恨みを持つ一族に渡ったところから、各陣営入り乱れての物語になってゆく。肥前の忍者兄弟に三船・鶴田の人気スターが扮し、彼らをめぐって恋の鞘当てや裏切り、隠密や刺客との駆け引きなどが繰り広げられるサービス満点、盛り沢山の映画である。

①【柳生武芸帳】
(57東宝) (監督)稲垣浩、(原作)五味康祐(脚本)稲垣浩、木村武(撮影)飯村正(美術)北猛夫、植田寛(音楽)伊福部昭
(出演)三船敏郎、鶴田浩二、久我美子、香川京子、岡田茉莉子、中村扇雀、大河内傳次郎、岩井半四郎、小堀明男、東野英治郎、平田昭彦、香川良介、戸上城太郎、上田吉二郎、左卜全、土屋嘉男
(106分・35mm・カラー)

②【柳生武芸帳 双龍秘剱】
(58東宝) (監督)稲垣浩、(原作)五味康祐(脚本)稲垣浩、若尾德平(撮影)中井朝一(美術)北猛夫、植田寛(音楽)伊福部昭
(出演)鶴田浩二、三船敏郎、乙羽信子、久我美子、岡田茉莉子、中村扇雀、大河内傳次郎、松本幸四郎、戸上城太郎、岩井半四郎、東野英治郎、上田吉二郎、小堀明男、左卜全、村上冬樹
(105分・35mm・カラー)

【野盗風の中を走る】
黒澤明の『七人の侍』を思わせる物語設定と演出の映画だが、ここでは悪徳領主から村人を救ったのは11人の野盗であった。東宝の若手俳優と松竹から移籍した染五郎(松本幸四郎)、萬之助(中村吉右衛門)兄弟を起用した青春群像時代劇。
(61東宝) (監督)稲垣浩、(原作)真山美保(脚本)井手雅人、稲垣浩(撮影)山田一夫(美術)植田寛(音楽)石井歓
(出演)夏木陽介、佐藤允、市川染五郎、中村萬之助、松本幸四郎、雪村いづみ、田村奈己、若林映子、笠智衆、中丸忠雄、田島義文、谷晃、多々良純、市川中車、小杉義男、山本廉、大木正司、大塚国夫、天本英世
(111分・35mm・白黒)

【闇の影法師】
幕末の下総国に現れ、勤王派を秘かに助ける白い覆面の武士と、彼を捕らえようとする家老一派との戦いを描く。阪妻の存在感を高めるため、宮川一夫はロー・アングルの撮影に徹したという。本来は77分の作品だが、全体の約30%が失われ、画像も劣化している。
(38日活京都) (監督)稲垣浩、(原作脚本)飯沼成治(撮影)宮川一夫(音楽)西梧郎
(出演)阪東妻三郎、沢村国太郎、市川正二郎、轟夕起子、中野かほる、小松みどり、市川百々之助、藤川三之祐、香川良介、志村喬、林誠之助
(55分・35mm・白黒・不完全)

【狼火は上海に揚る】[不完全]
長州の志士・高杉晋作が上海に現れ、イギリスの支配とそれに反発する太平天国の乱を間近に目撃して、攘夷の志を固くしてゆく。阪東妻三郎と中華電影のスターたちが共演、日中のスタッフが入り交じる稀有かつスケールの大きい合作となった。
(44大映=中華電影) (監督)稲垣浩、(共同監督)岳楓(脚本)八尋不二(撮影)青島順一郎、高橋武則、黄絽芬(美術)角井平吉(音楽)西梧郎、梁楽音
(出演)阪東妻三郎、月形龍之介、石黒達也、梅熹、李麗華、王丹鳳
(65分・35mm・白黒)

【忘れられた子等】
好評の『手をつなぐ子等』の姉妹篇として、稲垣が製作にも乗り出した集団劇。特殊学級の担任となった男性教師(堀)が、子どもたちとの触れ合いの中で成長してゆく。校長を演じた笠智衆は、さらに『嵐』でも父親を演じ、これら「子ども」路線のもう一人の主役となった。
(49稲垣プロ=新東宝) (監督)稲垣浩、(原作)田村一二(脚本)稲垣浩(撮影)安本淳(美術)堀保治(音楽)西梧郎
(出演)堀雄二、笠智衆、泉田行夫、岩田直二、葛木香一、浅野光男、葉山富之輔、松浦築枝、滝沢靜子、木下サヨ子、大洲啓介、大洲章三、佐々木統子
(86分・35mm・白黒)
by sentence2307 | 2005-04-02 18:57 | 稲垣浩 | Comments(2)
小津監督の生誕百年は、数々のイベントで本当に盛り上がりましたよね。

まだ、つい昨日のできごとのような気がします。

しかも、どのイベントも、ただの人物紹介やその作品の上っ面だけをなぞったような回顧で終わることなく、小津美学に対してそれぞれの方法で厳しく肉薄しようとしていた上質なものが多かったところが凄かったなと実感しました。

それもこれもきっと小津監督の巨人振りをひたすら立証していたからかもしれませんね。

さて、2005年の今年、東京国立近代美術館フィルムセンターでは、生誕百年を迎えるという映画監督のうちから、斎藤寅二郎、中川信夫、野村浩将、成瀬巳喜男、豊田四郎、稲垣浩という6人の名匠・巨匠たちを選んで「生誕百年特集」として連続上映するという豪華極まりない垂涎ものの企画が予定されています。

まず先陣を切るのは、稲垣浩監督です。

僕たちは、日本映画の黄金時代を象徴したあの「宮本武蔵」54の米アカデミー賞外国語映画賞とか「無法松の一生」58のヴェネチア映画祭金獅子賞受賞などによって、この東宝の巨匠監督の名前を想起してしまうのですが、しかし、実はこの日本映画界に大きな名誉をもたらした「宮本武蔵」も「無法松の一生」も、稲垣監督が戦前のピーク時にすでに撮ったリメイク作品にすぎないという、これって日本映画界の底知れないパワーを感じさせる物凄い話ですよね。

そして、そのパワーの内実を見極めていくとき、僕たちは、「宮本武蔵」や「無法松の一生」の豪快さのなかに繊細に描きこまれている弱き者たちに向けられた稲垣監督の限りない優しさを見出すかもしれません。

多分そのパワーの源は、鳴滝組・梶原金八の一員だったことや、あるいは「手をつなぐ子等」48や「忘れられた子等」49、「嵐」56、「ゲンと不動明王」59など子どもの心を描いた一連の優しさに満ちた秀作のどれもが、きっと「無法松の一生」の魅力と無関係でないからだと思います。

4月5日(火)- 5月22日(日)にかけて、以下の53作品(配列は五十音順です)を47番組に構成したプログラムで上映されるそうです。

【暴れ豪右衛門】
戦国時代に活躍した加賀の一武将が、侍嫌いから大名にたてつき、可愛い弟の弔い合戦に及ぶさまを西部劇風に描いたスペクタクル巨篇。アメリカ映画『隊長ブーリバ』を翻案したと言われるこの作品で、阪妻の息子である田村亮がデビューした。
(66東宝) (監督)稲垣浩、(脚本)井手雅人、稲垣浩(撮影)山田一夫(美術)植田寛(音楽)石井歓
(出演)三船敏郎、佐藤允、田村亮、加東大介、星由里子、乙羽信子、大空真弓、平田昭彦、黒部進、富田仲次郎、清水元、西村晃、天本英世、小杉義男、堺左千夫、田島義文、上田吉二郎、佐々木孝丸
(100分・35mm・白黒)

【嵐】
心境小説の傑作と評された島崎藤村の同名短篇小説を菊島隆三が脚色して映画化した作品。4人の幼い子供たちを残されて妻に死なれた大学教授が、外国留学から戻って、長い間ばらばらに預けておいた4人の子供を手元に引き取り、大学を辞め、子供のために著述業をしながら男手ひとつで子供たちを育て、7年の後、長男は故郷の家を継ぎ、次男と三男はともに絵の学校に通い、末娘も大人に成長していくという物語で、原作の持つ現実的な生々しさは排除され、妻に先立たれた無骨で誠実な父の半生を4人の子供との成長をからめた交流が淡々と描かれていきます。観察者としての田中絹代の存在感と、雪村いづみの清々しい演技が稲垣の期待に応えているといわれた感動作でした。
(56東宝) (監督)稲垣浩、(原作)島崎藤村(脚本)菊島隆三(撮影)飯村正(美術)北猛夫、植田寛(音楽)深井史郎
(出演)笠智衆、久保明、雪村いづみ、田中絹代、加東大介、東郷晴子、山本廉、大塚國夫、中北千枝子、清水元、山田巳之助、谷晃、松尾文人、稲葉義男、江川宇礼雄、菅大作
(108分・35mm・白黒)

【或る剣豪の生涯】
フランスの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」を映画化したこの作品は、戦前に稲垣が翻案化していたもので、『無法松の一生』で国際的名声を得たため外国物を、という企画から生まれたという。出雲の阿国に三好栄子が扮しているのも稲垣らしい。
(59東宝) (監督脚本)稲垣浩(撮影)山田一夫(美術)伊藤熹朔(音楽)伊福部昭
(出演)三船敏郎、宝田明、司葉子、河津清三郎、藤原釜足、平田昭彦、三好榮子、淡路惠子、田中春男、上田吉二郎、富田仲次郎、堺左千夫、稲葉義男、中北千枝子、田島義文、谷晃、佐田豊
(111分・35mm・カラー)

【一心太助】
千恵蔵演じる御存知魚屋の一心太助は、かの大久保彦左衛門老(大ベテラン山本嘉一)に気に入られるが…。太助は結婚式すっぽかしの騒動を起こしながらも恋女房と結ばれるが、夫婦の描写について稲垣は自身の新婚生活の挿話を取り入れたという。
(30片岡千恵蔵プロ) (監督原作脚本)稲垣浩(撮影)石本秀雄
(出演)片岡千恵蔵、衣笠淳子、山本嘉一、津守精一、島田文郎、渥美秀一郎、香川良介、浅野雪子、中村寿郎、伊藤すゑ、市川小文治、成松和一、瀬川路三郎、林誠之助、中村秀郎
(38分・16mm・白黒・無声・不完全)

【稲妻草紙】
阪妻=絹代という松竹の看板コンビが主演した、1951年暮れ封切りの正月映画。惚れた娘(絹代)が、自分が上意討ちを果たさねばならぬ青年(三国)を愛していると知って苦悩に沈む侍(阪妻)。血気盛んな若者を演じた三国連太郎がなんとも初々しい。
(51松竹京都)(監督)稲垣浩(脚本)鈴木兵吾、稲垣浩(撮影)安本淳(美術)角井平吉(音楽)鈴木靜一
(出演)阪東妻三郎、田中絹代、木暮実千代、三国連太郎、進藤英太郎、上田吉二郎、羅門光三郎、戸上城太郎、永田光男、葛木香一、尾上栄五郎、富本民平、山路義人、谷晃
(98分・35mm・白黒)

【海を渡る祭禮】
港町の祭りで暴れ回る悪漢たちに、剣客と宿の女中たち、祭り商人たちが対抗するという幻の作品。ロシアの映画保存所で発見されたのは全体の4分の1程度ですが、それでも風車や物干台のカットなどに稲垣らが狙った「風」の表現が残されています。
(41日活京都) (監督)稲垣浩、(脚本)三村伸太郎(撮影)石本秀雄(音楽)西梧郎
(出演)市川春代、月宮乙女、戸上城太郎、香川良介、志村喬、上田吉二郎
(24分・35mm・白黒・部分)

【江戸最後の日】
明治元年、鳥羽・伏見の戦に敗れてから官軍に江戸城を明け渡すまでの緊迫した日々を、分裂して動揺する幕府軍の視点で描いた一篇。外国の干渉を避けるため、主戦派を抑えようとした勝海舟を軸にして、剣戟シーンよりも静的な芝居に特徴のある時代劇である。
(41日活京都) (監督)稲垣浩、(原作)吉田絃二郎(脚本)和田勝一、稲垣浩(撮影)石本秀雄(美術)角井平吉(音楽)西梧郎
(出演)阪東妻三郎、尾上菊太郎、原健作、香川良介、志村喬、大澤健司、戸上城太郎、上田吉二郎、木野浩、河部五郎、遠山満、環歌子、柳恵美子、澤村敏子、常盤操子
(97分・35mm・白黒)

【大坂城物語】
関が原の合戦後に大阪へやってきた無法者が見たものは、敵味方入り乱れての陰謀と欲望の渦だった。徳川に寝返ろうとした豪商から鉄砲を奪い、大坂城に届けたもののその結果は…。禄も誉れも捨てて愛する女と田舎へ旅立つ結末が稲垣らしい。
(61東宝) (監督)稲垣浩、(原作)村上元三(脚本)木村武、稲垣浩(撮影)山田一夫(美術)植田寛(音楽)伊福部昭
(出演)三船敏郎、山田五十鈴、香川京子、星由里子、久我美子、夏木陽介、平田昭彦、志村喬、市川団子、田崎潤、丹波哲郎、中丸忠雄、香川良介、藤木悠、河津清三郎、藤田進、岩井半四郎、堺左千夫
(95分・35mm・カラー)

【おかぐら兄弟】
昔追い出された村を訪れた旅芸人兄弟を描き、千恵蔵・ロッパの初顔合わせとなった明朗なドラマ。千恵プロ時代に伊丹万作が書いた脚本に稲垣が手を加えたもので、先に死去した伊丹を回想して本作を千恵蔵は「千恵プロ・トリオ作品と言へないこともない」と懐かしんだ。
(46大映京都) (監督)稲垣浩、(脚本)藤木弓(稲垣浩)(撮影)石本秀雄(美術)中村嘉寿(音楽)西梧郎
(出演)片岡千恵蔵、古川緑波、上田吉二郎、村田宏寿、渡辺篤、原健作、市川春代、嵐寿之助、市川左正、南部章三、仲上小夜子、近藤りん子
(82分・35mm・白黒)

【男達ばやり】
派手な出で立ちで江戸の町を闊歩して男ぶりを競い合い、稲垣も「物凄い当時のモダンボーイ」と表現した旗本奴と町奴。千恵蔵演じる旗本奴の一匹狼・三浦小次郎と、海江田譲二による町奴が、江戸っ子の意気を見せつける。
(31片岡千恵蔵プロ) (監督)稲垣浩、(原作)池田大伍(脚本)稲垣浩(撮影)石本秀雄
(出演)片岡千恵蔵、海江田譲二、実川延一郎、寺島貢、衣笠淳子、市川小文治、瀬川路三郎、成松和一、林誠之助、江崎荘人、大崎史郎
(53分・16mm・白黒・無声・不完全)

【お祭り半次郎】
祭りにやってきた半次郎(長谷川)の商売は、竹刀で人に頭を叩かせる「一文叩き」。港町に集まる芸人たちと腹黒い土地の親分との諍いの中に、長谷川と高峰三枝子の恋がからむストーリーだが、その設定はどこかかつての『海を渡る祭禮』を思わせる。
(53東宝) (監督)稲垣浩、(脚本)藤木弓(稲垣浩)(撮影)安本淳(美術)安倍輝明(音楽)清瀬保二
(出演)長谷川一夫、高峰三枝子、三國連太郎、山田巳之助、北川町子、富田仲次郎、佐々木孝丸、芝田信、上田吉二郎、谷晃、阿部九州男、三好栄子、中北千枝子、沢井三郎、津田光男
(89分・35mm・白黒)

【諧謔三浪士】
「チョンマゲをつけた現代劇」とも呼ばれ、抒情とユーモアのある時代劇に秀でた稲垣浩。本作も千恵プロ得意の明朗なナンセンス時代劇で、魚の絵をおかずにして飯を食うような貧乏三浪人が、幕府の転覆を狙う一味をこらしめる。
(30片岡千恵蔵プロ) (監督)稲垣浩、(原作)田中務(脚本)稲垣浩(撮影)酒井健三
(出演)片岡千恵蔵、尾上桃華、瀬川路三郎、桜井京子、市川小文治、香川良介、松下猛男、実川延一郎
(44分・16mm・白黒・無声・不完全)

【海賊船】
京都のスターたちとの仕事に慣れていた稲垣にとって、三船敏郎との出会いとなった東宝撮影所での初作品。密輸船を襲う海賊船を描いた海洋映画で、三船は「虎」と呼ばれる船長を演じる。「二の字」役を演じる大谷友右衛門は、現在の名女形・中村雀右衛門。
(51東宝) (監督)稲垣浩、(脚本)小國英雄(撮影)鈴木博(美術)安倍輝明(音楽)深井史郎
(出演)三船敏郎、淺茅しのぶ、大谷友右衛門、田崎潤、森繁久彌、上田吉二郎、大泉滉、富田仲次郎、谷晃、福原秀丈、髙原駿雄、大久保正信、松尾文人、英百合子
(114分・35mm・白黒)

【がらくた】
「ピーター・パン」で知られる英国の作家ジェームズ・バリーの「あつぱれクライトン」を、稲垣の盟友・三村伸太郎が翻案したものを脚色・映画化。血気にはやる若者が堺の豪商一族と無人島に漂着し、様々なできごとの末、真実の愛と自由を勝ち取るという稲垣の百本記念映画。なお、同原作によるものにはセシル・B・デミルの『男性と女性』(1919年)他がある。
(64東宝) (監督)稲垣浩、(脚本)三村伸太郎、井手雅人、稲垣浩(撮影)山田一夫(美術)植田寛(音楽)団伊玖磨
(出演)市川染五郎、星由里子、大空真弓、有島一郎、平田昭彦、石山健二郎、中丸忠雄、小川虎之助、中北千枝子、左卜全、田崎潤、富田仲次郎、田中春男、佐田豊、堺左千夫、向井淳一郎、沢村いき雄
(118分・35mm・カラー)

【ゲンと不動明王】
かつて『手をつなぐ子等』『忘れられた子等』の名作を手がけた稲垣が、久方ぶりに子どもの世界を描いた作品。離れ離れになった妹を思い、継母にもなじめず悲しい毎日を送る少年が、お寺の不動明王像に勇気を授かる物語で、三船の怪演が微笑ましい。
(61東宝) (監督)稲垣浩、(原作)宮口しづえ(脚本)井手俊郎、松山善三(撮影)山田一夫(美術)竹中和雄(音楽)団伊玖磨
(出演)笠智衆、三船敏郎、小柳徹、坂部尚子、千秋実、乙羽信子、浜美枝、夏木陽介、飯田蝶子、高橋とよ、東郷晴子、千石規子、小杉義男、左卜全、田武謙三、香川良介、横山運平
(102分・35mm・パートカラー)

【國定忠治 旅と故郷】[玩具フィルム]
(33片岡千恵蔵プロ) (監督)稲垣浩、(出演)片岡千恵蔵、松葉家小花、高津慶子
(1分・35mm・白黒・無声)

【群盗南蛮船】
浪人が海賊と決闘する冒険ドラマで、六代目尾上菊五郎没後、菊五郎劇団との提携で作られた。菊五郎の子息・九朗右衛門が、久我美子とのラブシーンを、「歌舞伎の世界にはない映画のいいところ」と述べたとの逸話もある。
(50新東宝) (監督)稲垣浩、(脚本)三村伸太郎(撮影)安本淳
(出演)尾上梅幸、久我美子、尾上松緑、市川男女蔵、尾上九朗右衛門、花井蘭子、沢村貞子、花岡菊子、一の宮あつ子
(95分・35mm・白黒)

【最後の攘夷党】
稲垣の戦後第1作は、明治の初め、一人の武士がアメリカ人宣教師の温かい心に触れて頑迷な封建主義から目覚めるという、GHQ方針に沿った一本。『出世太閤記』以来久しぶりの嵐寛寿郎主演作品で、英語を話すアラカンを見ることができる。
(45大映京都) (監督)稲垣浩、(原作)菊池寛(脚本)藤木弓(稲垣浩)(撮影)宮川一夫(美術)角井平吉(音楽)西梧郎、深井史郎
(出演)嵐寛寿郎、水野浩、笠智衆、南部章三、原聖四郎、寺島貢、市川春代、光岡龍三郎、相馬千恵子、ロバート・H・ジョンソン、メリー・マックフィールド
(84分・35mm・白黒)

【佐々木小次郎】
1950-51年に製作された同題名3部作の稲垣監督自身によるリメイク。前作では小次郎の波乱万丈の一生が描かれたが、本作では小次郎が「つばめ返し」を編み出し、武蔵と死闘を展開するまでを追っている。若き日の尾上菊五郎の美剣士ぶりが初々しい。
(67東宝) (監督)稲垣浩、(原作)村上元三(脚本)白坂依志夫、松浦健郎、稲垣浩(撮影)斉藤孝雄(美術)植田寛(音楽)崎出伍一
(出演)尾上菊之助、仲代達矢、三橋達也、長門勇、司葉子、星由里子、沢井桂子、大空真弓、三益愛子、中丸忠雄、土屋嘉男、市川中車、平田昭彦、清水将夫、藤田進、石山健二郎、香川良介
(151分・35mm・カラー)

【士魂魔道 大龍巻】
大坂夏の陣で本丸の天守閣は炎上、3人の若武者は若君と次女と共に逃亡を図る。徳川方の追っ手との熾烈な戦いや束の間の恋、御用金を巡る敵味方入り乱れての物語が展開される。人間の愚かさ醜さを吹き飛ばす大竜巻のシーンでは東宝の特撮技術が発揮された。
(64宝塚映画)(監督)稲垣浩、(原作)南條範夫(脚本)木村武、稲垣浩(撮影)山田一夫(美術)植田寛(音楽)石井歓(特技監督)円谷英二
(出演)市川染五郎、夏木陽介、佐藤允、三船敏郎、星由里子、水野久美、草笛光子、久我美子、久保明、平田昭彦、堺左千夫、小杉義男、香川良介、稲葉義男、戸上城太郎
(106分・35mm・カラー)

【出世太閤記】[再公開版]
千恵プロが解散して、日活で仕事を再開した稲垣浩が、嵐寛寿郎に若き日の豊臣秀吉を演じさせた一篇で、宮川の抒情的な撮影も出色。無名時代の藤吉郎が出会う野武士・蜂須賀小六を演じた東明(とうめい)二郎は稲垣の実父である。
(38日活京都) (監督)稲垣浩、(原作脚本)山上伊太郎(撮影)宮川一夫(美術)角井平吉(音楽)西梧郎
(出演)嵐寛壽郎、月形龍之介、尾上菊太郎、河部五郎、市川小文治、原健作、市川春代、小松みどり、清水照子、瀬川路三郎、香川良介、尾上華丈、志村喬、團德麿、市川正二郎、東明二郎、吉田一子
(97分・35mm・白黒)

【白頭巾現わる】
貧しき者の味方として、江戸の庶民から親しまれる清貧の医者が、金持ち医者や町の顔役たちの迫害を跳ね返して活躍する、稲垣初の新東宝作品。この時期、剣戟こそ禁じられたが、傳次郎がその腕っぷしで悪をくじき、弱きを助けるのは昔からの名パターンである。
(49新東宝) (監督)稲垣浩、(脚本)三村伸太郎(撮影)安本淳(美術)進藤誠吾(音楽)伊藤宣二
(出演)大河内傳次郎、藤田進、小杉勇、黒川弥太郎、鳥羽陽之助、野上千鶴子、江川宇礼雄、牧由紀子、宮川玲子、清川荘司、田中春男、横山運平
(84分・35mm・白黒)

【壮士劇場】
自由民権運動盛んなりし時代に活躍し、新派劇のさきがけともなった「壮士劇」を大阪で旗揚げした角藤定憲(すどうさだのり)の一代記。新憲法制定の記念映画として公開され、敗残の角藤のために中江兆民が作詞した「やぶれ障子と私の権利…」の歌が繰り返し使われる。
(47大映京都) (監督)稲垣浩、(脚本)八尋不二(撮影)石本秀雄、宮川一夫(美術)角井平吉(音楽)西梧郎
(出演)阪東妻三郎、入江たか子、月形龍之介、日高澄子、山本礼三郎、尾上菊太郎、香川良介、原聖四郎、荒木忍、寺島貢
(89分・35mm・白黒)

【大菩薩峠 第二篇】[玩具フィルム]
(36日活京都) (監督)稲垣浩、(出演)大河内傳次郎
(1分・35mm・白黒・無声)

【大菩薩峠 第一篇(甲源一刀流の巻)】
日活が社運をかけて製作した2部作の巨篇。師匠・伊藤大輔も撮れなかった本作を引き受けるにあたり、稲垣は盟友・三村の脚本と山中の応援を条件にしたという。第一篇の、ロシアのゴスフィルモフォンドで発見された版を初上映するが、その前に、子ども向けの玩具フィルムとしてのみ残存する第二篇を付する。
(35日活京都) (監督)稲垣浩、(応援監督)山中貞雄、荒井良平(原作)中里介山(脚本)三村伸太郎、武田寅男、稲垣浩(撮影)谷本精史(音楽)西梧郎
(出演)大河内傳次郎、入江たか子、黒川弥太郎、沢田清、岡譲二、山本嘉一、高勢実乗、酒井米子、中田弘二、市川小文治、清川荘司、鳥羽陽之助、深水藤子
(77分・35mm・白黒)

【旅姿鼠小僧】
自分を盗みの世界に誘った直次郎(伊藤)が金を持ち逃げ、次郎吉(鶴田)は彼を追って旅に出る。立ち寄った小料理屋は直次郎の店だったが、板前に乗っ取られた上に直次郎は牢へ入れられてしまう。板前の悪辣な陰謀に腹を立てた次郎吉は、捕り方との大立ち回りの末、彼を仕留める。
(58東宝) (監督脚本)稲垣浩、髙木隆(撮影)中井朝一(美術)植田寛(音楽)深井史郎
(出演)鶴田浩二、草笛光子、八千草薫、伊藤久哉、杉山昌三九、飯田蝶子、三井弘次、戸上城太郎、中村是好、沢村いき雄、立花暎子、北野八代子、佐田豊、林幹
(88分・35mm・白黒)

【旅は青空】
千恵プロのトレードマークとも言える朗らかな浪人三人組の暢気な旅物語だが、現存するフィルムは第1巻のみ。稲垣と伊丹万作が千恵プロ内で「トーキー研究会」を結成して準備していた、彼らの初のトーキー作品。
(32片岡千恵蔵プロ) (監督脚本)稲垣浩(撮影)石本秀雄(美術)平松智恵吉(音楽)松平信博
(出演)片岡千恵蔵、田村邦男、成松和一
(11分・35mm・白黒・部分)

【太夫さんより 女体は哀しく】
劇団新派により上演され、1955年のテアトロン賞を受賞した戯曲「太夫(こったい)さん」の映画化。終戦間もない京都・島原の遊郭を舞台に、そこに生きる人々の哀歓が描かれる。重厚なセットと、本年1月に逝去した岡崎宏三の撮影がこの傑作に貢献した。
(57宝塚映画) (監督)稲垣浩、(原作)北條秀司(脚本)八住利雄(撮影)岡崎宏三(美術)伊藤熹朔、植田寛(音楽)深井史郎
(出演)乙羽信子、淡路惠子、田中絹代、扇千景、伊藤久哉、小沢栄太郎、浪花千栄子、田中春男、平田昭彦、東郷晴子、千石規子、山茶花究
(113分・35mm・カラー)
by sentence2307 | 2005-04-02 18:55 | 稲垣浩 | Comments(18)

巷説・無法松の一生

馴染みの理髪店のオヤジが、古い日本映画の大ファンで、興に乗ると、頭をあたってもらっている間中、懐かしい映画の話をし続けます。

とにかくそのオヤジさんは、若いころから休みの日のたびに映画を見続けきて、また、客のないときには店のソファーに腰掛けてあらゆるたぐいの映画雑誌を読みまくっているので、とにかく僕なんかとは情報の量が桁違いに違いますし、そのおびただしい情報の中から特に印象に残った情報だけを話すので、その話が面白くないわけがないのです。

しかし、映画の話をすることが趣味とはいえ、いろいろな世代の多くの客を相手にするので、そこは商売、客の好みに合わせて新しい知識をどんどん仕入れようと努力しているフシもあり、だいぶ苦労しているようで、たまには、「この話、したっけ」みたいなことも、おこるわけですね。

無理して新しい知識を詰め込んで、忘れないうちに話すことがサービスだと信じているそんなケナゲなオヤジさんに、原点に帰ってもらいたくって、さりげなくオヤジさんが最も好きな「無法松の一生」のきっかけを与えるのが僕のするいつものパターンです。

すると、オヤジさんは水を得た魚のように活き活きと話し始めます。

そして最後に口癖のように言うのです、「ガイジンなんかによお、松五郎の心意気が分かるのかねぇ」と。

「それにさ、園井恵子の奥さん、よかったよぉ。

上品で抑えた感じでさ。

身分の高いイイトコの奥さんて、みんなああだったぜ。

出入りの職人には誰彼区別なく気配りしてくれて、優しい言葉も掛けてくれるしね。

それを自分への好意だと勘違いするようなハネッカエリは、ひとりもいなかったよ。

なにせ身分が違わあな。

いまから考えるとさ、想像もつかないだろうけどよ、「身分」てものは、生易しいシロモノじゃなかったからね。

俺みたいな下賤の者にわざわざお声を掛けていただき、それだけでももったいなくってよ、こちとらにしてみねえな、ただありがとうございますってとこだよね。

だからさ、あの映画の素晴らしいところは、そういう奥さんの慈悲あふれる優しさに触れた無骨な松五郎が、自分の熱い思いを、「恋情」だと最後まで認めていない切ないとこだろ。

認めるのが怖いのさ。

あんなやつでも踏み越えてはいけない「身分の違い」を、あれでしっかりと認識してるんだねえ。

そこなんだよ、あの映画のいいところは。

それもこれも園井恵子の奥さんが、よかったからだな、ゼッタイ。

「はい、おしまい」

ここでちょうど散髪が終わり、「高峰秀子の奥さんだって・・・」と僕が言葉を挟むいとまもなく、オヤジさんは、次の客を手招きしていました。
by sentence2307 | 2004-12-11 23:40 | 稲垣浩 | Comments(0)