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世界のあらゆる映画を偏執的に見まくる韜晦風断腸亭日乗


by sentence2307
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カテゴリ:田坂具隆( 1 )

冷飯とおさんとちゃん

この田坂具隆監督作品のオムニバス映画「冷飯とおさんとちゃん」を見ながら、前後の2作品に比べて「おさん」の部分だけが、いやに突出していることに少し驚きました。

「冷飯」と「ちゃん」は見ているだけでこちらが赤面するくらい、全編ことごとく善意に満ちたヒューマニティ溢れる作品です。

「冷飯」は、武家の四男坊の「冷飯食い」が、分家もならぬ生涯部屋住みという理由で、町で見初めた娘(実は彼女の方も彼に恋焦がれていたことが、あとで分かります)との結婚を一度は諦めるものの、やがてひょんなことから禄をはむこととなり、事態は急変して恋が実るというほのぼのとした物語ですし、「ちゃん」は一本気の職人が時勢に背を向けて金儲けとは程遠いこだわりの仕事を、家族の愛情に支えられて貫徹していくという、これまた赤面ものの感動作でした。

多分、同じテンションのこうした作品が、3本ただ並んでいるだけなら、それなりに感動して「控帳」かなにかに、○でも△でも印を付けて「見ました!」みたいな感じで、あとはすんなり忘れてしまったかもしれません。

しかし、「おさん」には、驚きました。

妻がSEXの絶頂でイッてしまうそのとき、聞いたことのない男の名前を口走り(あとで聞けば、それは父親の名前でした)、男はそれがどうしても気になって妻を抱くのが怖くなり、2年の間ひとり大阪で離れて暮らしているうちに、女は次々に男を変えて、やがて性質のよくないやくざな男にひっかかり、しかし、その男にも例の「男の名前」のうわ言を聞かせて、身に覚えのない(まあ、最初はそうではなかったにしろ、その頃の彼女は「身に覚えのない」とは考えにくかったかもしれません)嫉妬を受けて男に刺し殺されるというお話です。

男から男に渡り歩き、その度によがり声で男の名前を口走ると言うのですから、ご清潔な他の2編に比べると、この「おさん」は、少なくとも「道徳」や「公民」の教科書には載せにくい物語です。

しかし、ここに登場する「おさん」が並の女なら、この物語はきっと成立しなかったかもしれません。

おさんに去られた男たちが、身を持ち崩しながら彼女のことを忘れることが出来ないまま口々に言うのが、おさんという女の性交時における素晴らしい肉体に対する官能的な賛美です。

こんなふうに言葉を連ねると、思わずちらっと、男を食い物にしてますます美しくなるという増村保造作品「刺青」を思ってしまいますが、女性の側が人間的にあれほど意識的でないどころか、まったく逆向きなところが、きっと田坂監督との決定的な違いかもしれません。

あの「五番町夕霧楼」において、娼婦・夕子を抱きに来た客が、好色そうにスケベ心いっぱいにして、夕子の類いまれなるカラダのつくりを手放しで賛美する場面と共通するなにかを強烈に感じました。

(65東映京都)製作・大川博、企画・岡田茂 小川三喜雄 三村敬三、監督・田坂具隆、助監督・鳥居元宏、脚本・鈴木尚也、原作・山本周五郎、撮影・飯村雅彦、音楽・佐藤勝、美術・鈴木孝俊、録音・中山茂二、照明・和多田弘、編集・宮本信太郎、進行主任・浜田剛、スチール・諸角義雄、宣伝プロデューサー・塀和昭吉、製作宣伝・中島実、

【第1話】中村錦之助、木暮実千代、原田甲子郎、岡田千代、中村錦司、小沢昭一、花沢徳衛、入江若葉、唐沢民賢、山乃美七子、千秋実、不二和子、河原崎長一郎、浜村純、藤原釜足、東竜子、宮園純子、前川良三、源八郎、五十嵐義弘、矢奈木邦二郎
【第2話】中村錦之助、新珠三千代、安中滋、佐藤慶、大坂志郎、富永佳代子、赤木春恵、中畑道子、市川有二、畑中伶一、三田佳子、
【第3話】中村錦之助森光子伊藤敏孝岡田由起子藤山直子渡辺美佐子北村和夫三木のり平坂本武都賀静子高橋漣中村時之助塩崎良子
(1965.04.10 15巻 4,862m 177分 カラー シネマスコープ)
by sentence2307 | 2005-04-18 00:21 | 田坂具隆 | Comments(0)